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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第127話 LEVEL2 香港

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   12月31日13時 台湾発香港行きの便が出て、一同は台湾から香港へ飛び立った。3時間後、香港国際空港に到着した。荷物を受け取り、エアポートバスで九龍半島へ移動した。九龍半島の大通り ネイザンロードを進むと、ネオン看板が天井スレスレに位置し、繁華街の旺角(モンコック)や油麻地(ヤウマティ)を通り、最南端の尖沙旦(チムサァチョイ)に到着した。時刻は17時30分。日が暮れ、北風が吹く。
「さぁ、ホテルに着いたぞ。」
宿泊地のキンバリーホテルに着き、ロビーでこの後の段取りを説明する。
「今、17時15分だ。この後、荷物を置いたら、再びここに集合。MTR(香港の地下鉄)で旺角(モンコック)に行って、こちらの探偵事務所に訪問。その後、彼らと夕食。今日は大晦日だから、一緒に夜景も観光する。日本では、明日は正月だが、早速特訓を始める。夜更かしし過ぎないようにな。」
一同は荷物を部屋に置き、ロビーに再び集合。ホテルを出て、MTRでネイザンロードから北上し、旺角(モンコック)に着いた。

   旺角は、香港九龍半島の油尖旺区(ヤウチムウォンキョイ)にある繁華街で、人口密度は1㎞2辺りに13万人住んでいるというもの。通菜街(トンチョンガイ)という市場には、金魚専門店が建ち並ぶ金魚ストリートや、夜には女人街(ノイヤンガイ)と呼ばれるナイトマーケットが開かれる。地上に出ると、ローカル感満載の雰囲気が漂う。時刻は18時、日が沈み、北風が吹く。旺角道を進み、雑居ビルの中に入ると、探偵事務所があった。
「ここだ。」
入り口には、獅子の置物が二対で置かれている。風水を意識しているようだ。黒いスーツを着た男性が出迎えた。
「歓迎光臨!你好!」(ようこそ!こんにちは!)
所長直々に出迎えられ、応接間に案内されて、席に着く。雅文達と同じく彼らも4人居る。香港の言語は、広東語で中国における標準語(北京語:普通語(中国語:プートンファ))とは別ものである。また、イギリスの植民地であったため、英語も通じる。彼らは、広東語はもとより、英語に加えて、日本語も堪能である。ここでも、所長自ら中国茶を出してくれた。
「この時期、日本では大晦日で何かとバタバタする日にも関わらず、香港まで来てくださり、ありがとうございます。私は、黄仙(ウォンシン)探偵事務所所長のウォン・クーシェンです。」
黒いスーツに白髪交じりの短髪。顔に刻まれた皺が、重厚感を滲ませる。所長のウォン・クーシェンは1970年生まれで、陳と同級生である。中国生まれの香港育ちで、文化大革命の混乱を避けるために、北京から香港に亡命し、現在に至る。後の3人は20代の男女で、こちらと同じく女の子が2人いる。レディーファーストで、女の子から自己紹介した。正面から向かって左にいる茶髪ロングの子から話した。
「你好、私はアグネス・ワンと申します。」
アグネス・ワンは2000年生まれの26歳。香港とシンガポールのハーフで、美女である。頭脳明晰で秀才である。続いて中央の黒髪ショートの子も自己紹介した。
「你好、私はチェン・マイ・ラムと申します。」
チェン・マイ・ラムは2004年生まれの22歳。事務所最年少で、右腕に青龍のタトゥーがある。かつてのスラム街 九龍城砦(クーロンジウサイ)があった九龍出身で、やんちゃな悪童であった。2019年の香港全土を巻き込んだ反政府デモでは、警官を八卦掌でボコボコにし、「死了罵!」(死ねゴラァ!)と罵倒したため、公務執行妨害で逮捕されたことがある。最後に、額を出した髪型で色黒の男の子が自己紹介した。
「你好、私はリー・ガウホンと申します。」
リー・ガウホンは1998年生まれの28歳。シンガポール人で、カンフーに長けている。最後に、陳とウォンは握手して、再会を喜んだ。

 遡ること、2000年代。陳は、それまで中国で点心師と拳法家として活動していた。20世紀が終わる2000年の12月、彼は新たなチャレンジとして、意を決して、香港へ移住した。香港では、九龍半島の繁華街から少し離れた九龍に住み、旺角にある探偵学校に通い、そこでウォンに出会い、同じ事務所に探偵として採用され、一緒に働いた。
「黒社会(ヘイシャーホエイ)め、かかって来るがいい!」
反社会勢力と交戦し、ブルース・リー並みの強さで撃破したり、海外での調査でアメリカに行ったり、といつも一緒に切磋琢磨して来た。2010年夏、陳は香港での喧騒や格差社会に次第に、心が病んでいくようになり、精神疾患を患い、業務が続けられなくなってきたのである。
「華やかな夜景の裏側で、その日暮らしの生活で貧困に喘ぐ労働者…。一体、私のやっていることは、誰のためになっているんだろうか…。」
ウォンは陳のことを気にかけ、色々と相談に乗ったりした。陳は少しづつ回復し、業務に復帰した。2011年4月を以て、退職し、台湾に移住することにした。その年の春節、お互い、いつか再会することを誓った。2022年にウォンは独立し、個人で探偵事務所を立ち上げた。2023年からメンバーを募集し、現在に至る。
「また会えて嬉しいよ。今夜は一緒にメシを食おう。同志よ!」
「あぁ、またよろしくな、ウォン!」
時刻は19時、ウォンがレンタルしたマイクロバスに乗り、尖沙咀のアイ・スクエア30階にある南海一号(ナムホイヤッホウ)というお店に行った。料理が来るまでの間、明日の特訓の説明がされた。ホテルを出るのは、午前9時。ホテルまで迎えに来てくれ、そこで彼らの手作り弁当が渡される。特訓中、弁当を食べるタイミングは各自で決める。17時頃に終了予定である。その後、海鮮料理に舌鼓を打ち、年内最後のディナーを満喫した。

 食事を済ませた一同は、ウォンの引率の下、香港島へ移動し、ヴィクトリアピークに向かった。ここにある獅子亭展望台(シージーテンチンモントイ)から夜景を観光。
「すごーい!香港が一望出来る~!」
「100万ドルの夜景、とは、よく言ったものね。」
九龍半島と香港島の煌びやかな夜景が一望出来、夜景をバックに写真を撮ったりした。
「夜景も素敵やけど、君のハートにメロリンラブ…。」
「雅文さん、甘々で~す!」
夜景観光を満喫し、21時に解散。明日の打ち合わせを済ませ、部屋に戻って、シャワーを浴びる。その後、明日の準備をしてベッドに入る。
「何が来ようと、楽しみです。」
「頼もしいな、雅文君。」
美夜子と玲奈も、準備を済ませ、ベッドイン。
「フフ、美夜子さん。新年早々、頑張りましょう。」
「そうね。おやすみ。玲奈ちゃん。」
日本では、NHK紅白歌合戦とゆく年くる年があり、正月には、多くの特番が放送される。だが、雅文達は特訓に勤しむのであった。
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