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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第125話 精神的修行

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 台湾滞在2日目の12月29日、午前6時に一同は起床し、トレーニングが出来るような動きやすい服装に着替え、忠孝公園でラジオ体操をする。日本に比べると暖かいが、朝は肌寒い。体操を終え、ホテルに戻り、朝粥をいただく。台湾を始め、中華文化圏では、朝から屋台が開いており、そこで麺や粥を食べて通学・出勤する文化があり、粥は日本の味気ないものとは違い、具だくさんで油が使われており、腹持ちが良い。朝には打ってつけである。腹を満たし、必要なものを持って、事務所に向かう。
「歓迎光臨!早上好!」(ようこそ!おはようございます!)
李所長が出迎え、広間へ案内し、今日の活動内容を説明する。この2日間は、通常の業務を休業し、事務所総出で特訓してくれる。振る舞ってくれた台湾茶を飲み、一同が一息着いたのを確認してから、話を始めた。
「陳から聞いたが、日本のバラエティー番組には「「逃走中」」というものがあるようだ。これは、制限時間内まで逃走者が、ハンターと呼ばれる黒服から逃げ切れば、賞金が貰えるというものである。私はこのゲームからインスパイアされて、今回の皆さんの特訓を編み出した。」
特訓は29日と30日の2日間にかけて行われる。その内容は、探偵の調査の基本である尾行を、ターゲットに見つからずに行えるかというものだ。これを午前と午後で時間と場所を分けて行う。29日は台北市と新北(シンペイ)市、30日は台南市と小琉球でやる。
「この事務所の探偵は2人の他に後3人いる。彼らは午後からの調査でターゲットとして登場する。そのため、我々が移動する頃には、九份に到着している。午前中は我ら3人がターゲットとして台北市を歩く。」
その後、入念にルールを説明。早速、午前中の特訓を始める。依頼したマイクロバスに乗って移動し、3人ずつ異なるエリアで行い、制限時間は1時間。ターゲットは各エリアの目的地に向かう。ターゲットに気づかれることなく、目的地に到着してタッチしたら成功、しかし、途中で後ろを振り返ったターゲットに「等一下」(ドンイーシャ・日本語:ちょっと待って)と言われたら失敗。途中で見失ってしまった場合は、バスで待機している陳に連絡する。この場合は「降参」という扱いで、失敗となる。バスは台北市内を走り、1か所目の松山区に到着。バスを駐車場に停め、他のメンバーは待機。1回戦は、玲奈vs梅李香となり、梅はゼッケンを着る。

 目的地は、台北市体育場。梅がスタートした30秒後に玲奈が追いかける。松山区には、饒河街勸光夜市(ラオホージエクワングアンイエシー 日本語:じょうかがいかんこうよるいち)という夜市があり、慈祐宮(ツーヨウゴン)という媽祖廟がある。
「夜市あるんや、アカンアカン。見失わんように。」
玲奈は、梅を見失わないようにしながら、気づかれないように後を追う。数回、梅が振り向いたが何とか視界から消え、台北市体育場に到着。
「やるね。」
「玲奈はクリアした。」
2回戦は雅文vs王白龍となり、2か所目の中山区に移動。目的地は、中山足球場。高校時代は、神戸広陵でサッカー部に所属していた雅文。海外サッカーにも精通しており、台湾にプロサッカーリーグがあることは知っていた。
(さて、見失わないように…。)
王を見失わないようにと、意識を集中させていたが、王は何度かダッシュするので、雅文も必死に追いかける。このように、尾行のターゲットは突然ダッシュすることがあるので、見失わないようにすることが大事。追いつくのに夢中になり過ぎた雅文は、王に振り向かれ「等一下」と言われ、ゲームオーバーとなってしまった。
「まだまだ。」
「くっ…。」
3回戦は美夜子vs李章となり、3か所目の大同区に移動。目的地は、国立台湾博物館。美夜子は李に付いていき、振り向かれても視界から消え、粘り強くついていき、博物館前で李を捕まえた。
「やるな。」
「捕まえました。」
時刻は12時。ここで午前の部は終了。結果は雅文達の2勝1敗。13時まで昼休憩となる。外食産業が発達しており、食べ物は日本より安い。バスで移動し、昼食は台北市の東門餃子館(トンメンジャオズグワン)でいただく。
「水餃子、美味しいな。」
「我々、中華圏の人間にとっては主食だからね。」
餃子は、日本では焼き餃子が主流で、おかずやおつまみとしていだたくが、中国では水餃子が主流で、主食としていただく。昼食を済ませ、台北市でゆっくりしながら、午前の部のフィードバックをする。13時になり、李は買ってきたマンゴージュースを飲み干し、ハンドルを握った。
「みんな、行くよ。」
次の目的地 新北市に向かう。

 新北市には、九份という小さな町がある。古い街並みが残っており、宮崎駿監督の代表作「千と千尋の神隠し」のモデルになったとも言われている。九份に到着し、午後の部について説明される。ここでは、李達のメンバーを入れ替えて臨む。
「午後の部のメンバーを紹介しよう。」
王と梅は、ここで交代し、翌日の準備にかかる。後半のメンバーとして、3人の男女が、雅文達の前に現れた。左から各自の自己紹介に入る。
「アンニョンハセヨ~!私は、韓国から来ました、イ・グァンと言います!」
金髪で長身の明るい感じの女性は、イ・グァン 2000年生まれの26歳。韓国 ソウル出身。K POP好きである。
「こんにちは、私は与那原謙介と言います。よろしくさ~!」
アフロヘアーの陽気な男性は、与那原謙介 30歳。1997年生まれ。沖縄出身。琉球王朝を研究していた。
「こんにちは。私は陳美蘭(中国語:チェン・メイラン 日本語:ちん・びらん)と申します。」
肩まで伸ばした黒髪の落ち着いた雰囲気の女性は、陳美蘭。1992年生まれの34歳。南部の高雄出身。ここからの内容は、制限時間 1時間で1対1で、かくれんぼ形式で行う。抽選の結果 こうなった。

グァンVS美夜子
謙介VS雅文
陳VS玲奈

九吩は坂道が多く、店も並んでいる。隠れているのを探すのは、至難の技。

1回戦 グァンVS美夜子
隠れたグァンを探す美夜子。階段を上り、店の周辺を探す。
「ノスタルジックでいいわね。」
階段の裏側などを探したが、相手もプロの探偵。探すのは困難を極めた。
「くっ、見つからへん…。」
そのまま1時間経過し、ゲームオーバーとなった。

2回戦 謙介VS雅文
同じ日本人対決となり、雅文は勘を活かして、捜査を進める。
「あぁ…。八角のニオイがする…。」
美味そうな食べ物のニオイに惑わされず、粘り強く探す。各自、事前にヒントはもらっている。ヒントを元に探し出し、見事謙介を見つけた。
「見つけた!」
「参ったさ~!」

3回戦 陳VS玲奈
ヒントを元に、玲奈は捜査を進め、粘り強く探す。
「あれやな。「「千と千尋の神隠し」」みたいな所やん。」
この世界観は、宮崎駿の代表作「「千と千尋の神隠し」」(2001年)のモデルにもなっている。玲奈は、千と千尋の神隠しを観たことがあるので、独りで「細かすぎて伝わらないモノマネ」を始めた。
「あ、あ、あ、あ…。」
黒い身体に白い顔のキャラクター カオナシのモノマネ。カオナシは飲み込んだ人間の声を借りて喋る。
「オイ、千を出せ、千はどこだ、千を出せ!」
湯屋の親分 湯婆婆(ゆばーば)のモノマネ。
「まだ、それを言うのかい!」
「ここで働かせ下さい!」
「だ~ま~れ~!!!!」
モノマネが面白すぎたのか、隠れていた陳は吹き出した。
「最高~!!」
「見つけたー!!」

これで雅文達の2勝1敗。満足気な雅文と玲奈とは、対照的に美夜子は不満気だった。
「私だけ見つけられなかったわ…。」
「美夜子さん、機嫌直して下さいよ。」
翌日は、南部の台南市と離島の小琉球で「逃走中」ごっこをする。今夜は、飲茶ディナー。
「小籠包美味しいな。」
「明日、「「逃走中」」するんやね。賞金出るのかしら?」
逃走中ごっこというが、台湾の広さはまぁまぁである。果たして…。
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