Pieces of Memory ～記憶の断片の黙示録～

第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第119話 夜の蝶

    世間がクリスマスを控えて、ウキウキムードになっていた頃、関西の繁華街でも、すっかりそのムードになっていた。神戸市では、ルミナリエが開催され、大阪市は、御堂筋がライトアップされた。大阪市の夜の街も、クリスマスムードで盛り上がっていた。
「もうすぐクリスマスやなー。」
「フフ、私達と過ごします？」
大阪の夜の街 北新地にある高級キャバクラ「Sexy Angel」。そこの指名ナンバーワンのキャバ嬢は、今夜も酒宴に興じていた。
「ご指名いただきありがとうございます。北新地のクイーン 飛鳥です🖤」
「飛鳥ちゃん、今日もキレイやね～！」
赤いドレスに身を包み、頭にはティアラを乗せ、黒髪をなびかせた丸い童顔が可愛らしい。彼女の名前は、神山綺羅 25歳。飛鳥は、源氏名である。彼女が、乃木坂46ファンで全国ツアーも観に行った程で、特に斎藤飛鳥が好きだったことから、この源氏名にしたようだ。この日の仕事が終わり、彼女は梅田にあるタワーマンションに帰り、1人風呂に入る。彼女は、右太ももにクモの巣、お尻に蜘蛛のタトゥーがあり、「狙った男は逃さない」「じり貧になるまで食らいつくす」という意味で彫った。
「フフ、あのオッサンも綺羅のええカモやったのになー。あの探偵、ムカつくわー。」
パパ活や横領をさせて、間抜けなオッサン達から金を吸い上げていたが、それを雅文達に暴かれ、金づるを次々と失い、綺羅の怒りの矛先は雅文達に向いた。
「そうや、あの探偵達を必ず痛い目に遭わしたるわ…。」

    その頃、雅文はクラスの皆と過ごす最後の冬を楽しんでいた。
「みんな、受験とかで忙しいねんな。」
「そうですよ。」
「里香ちゃんはどこ行くの？」
「私は、神戸大学に行きます。」
雅文は、神戸大学文学部を出ており、里香が入試に合格して入学したら、彼の後輩になる。
「そうか、頑張ってな。」
「はい。」
昨年の夏に、髑髏城との戦いに敗れ、青春時代の記憶を失ってしまった雅文。そんな彼を案じた所長は、JKビジネスの一件で、縁が出来た里香と由香里の通う高校の校長と交渉した。その結果、校長は快く快諾し、雅文を特別に転校生として、里香と由香里のクラスに転入させてくれた。それから、雅文は探偵業と学校の勉強を両立させて、日々頑張ってきた。そんな彼女達との、別れの日々が徐々に近づいてきた。
(来年には卒業か…。back to school daysはそれなりに楽しかったな…。)
この日は、仕事が休みだったので、放課後に図書室で里香と由香里に勉強を教えた。
「文系の大学は、3科目で勝負となる。国語・英語・社会科。どれが得意や？」
「私は国語は自信あります。」
「由香里は、歴史好きやから自信ある！」
「そうやな。得意科目があったら、それで勝負出来る。出題形式はな…。」
自身の経験を交え、懇切丁寧に受験に向けてのアドバイスをする。夕陽が図書室に射し込み、もうすぐ1日が終わる。この日はここで終了。一同は帰路についた。
「さよなら、雅文さん！」
「じゃあね、里香ちゃん、由香里ちゃん。」
あの2人のために、ギリギリまで何かしてやりたい、雅文はそう感じていた。

    クリスマス5日前、昼下がりの探偵事務所に1人の若い男性が来た。黒いスーツで髪型はオールバック。髭も剃っており、清潔感溢れる身だしなみ。
「お昼頃からすいません。お話よろしいでしょうか？」
この日は、美夜子が休み。陳・雅文は調査に出ており、事務所には所長・雫・玲奈がいて、玲奈が対応した。
「こんにちは。中村探偵事務所の音無玲奈と申します。今回はどういったご用件でしょうか？」
「どうもはじめまして。私はこういう者です。」
彼は懐から名刺を取り出し、玲奈に差し出した。彼の名は、北野喜一郎 42歳。大阪府出身。大阪市北区の北新地でキャバクラを経営しており、Sexy Angel店長。
「キャバクラ経営者なんですか。お兄さん、なんか呂布カルマに似てますね？」
「HEY！YO！俺はキャバクラ経営者♪貴女は探偵♪酒と金で潤うキャバクラ♪探偵は謎でメシを食う♪」
呂布カルマに似てると言われて、即興のラップを披露、とノリの良さを見せた。
「で、ここからが本題なのですが…。」

    改めて、依頼人 北野喜一郎。彼は大阪商業大学卒業後、一般企業でサラリーマンとして勤務。そこで経営のノウハウを学び、その後、独立して北新地にキャバクラの店舗を構えた。高級キャバクラとして、Sexy Angelは大繁盛し、彼も大儲けした。
そんな中、気がかりなことがあった。Sexy Angelで働いているキャバ嬢の飛鳥(本名:神山綺羅)のことである。神山綺羅 25歳。大阪府出身。高卒で夜の世界を渡り歩き、現在に至る。
「ほうほう。」
「飛鳥ちゃんは、ウチの売り上げに貢献してくれてるんですけど、いかんせん素行に少し問題がありまして…。」
彼女は、高校時代に黒い繋がりを持ち、現在も男性客に横領をさせて、金を貢がせている。
「以前も、ウチに来てくれたお客さんが、会社の金を横領して捕まったというニュースがあったので…。あんまり疑いたくはないんですけど、ちょっとあの子のことを調べて欲しいんです。潔白やったら、私の取り越し苦労で済みますし、ホンマにやってたら、私は経営者として彼女に処分を下す。どっちにせよ、まずは素行を調べて内情を明らかにしない限りは分からない。と、いうことで、素行調査という形でお願いします。」
依頼の概要は、素行調査。玲奈は所長に相談し、所長が対応した。
「どうも、こんにちは。中村探偵事務所所長の中村景満です。キャバクラでの捜査ということですね？」
「はい。調査の前金も持ってきてます。」
所長と彼の交渉結果により、玲奈を5日間体験入店として、キャバクラ「Sexy Angel」に行かせることにした。
「キャバクラですか…。どんなんやろ…。」
「大丈夫ですよ。私が色々と教えます。その道のプロやから心配なく。」
こうして、玲奈を体験入店という形で、潜入捜査させる。玲奈は、彼の車の助手席に乗り、そのまま大阪へ向かった。
「君は、何か水商売の経験あるかな？」
「玲奈は、梅田でSM嬢やってました。」
「SM？責める方？責められる方？」
「責める方。玲奈は女王様でした。」
「面白い。気に入ったで。」
「えっ…。」
夕陽が車窓に射し込む。キャバクラでの潜入捜査、頑張れ、玲奈ちゃん。