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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第108話 サディスティックライヴin大阪

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   8月下旬、阪急電鉄 神戸線へ向かう途中の路線 大阪梅田駅~十三駅、京都線 南方駅、地下鉄御堂筋線 西中島南方駅に、なにわ淀川花火大会当日は混雑するという案内が表示された。辺りは、花火大会の準備が進み、出店なども設営されていた。蜜壺姫のライブ会場は、淀川大橋の高架下に設営され、葉月と瑠奈はリハーサルに励んだ。
「ふー…。」
「暑いな。」
当日は、軽装の浴衣でライブを行う。半袖で下は太ももが見えるようになっており、動きやすい。会場の定員は事前にチケットを購入した50人で、雅文と玲奈は客を装い、最前列の席でライブを見守る。

   なにわ淀川花火大会まで、あと2日となった木曜日、雅文と玲奈は依頼を遂行しつつ、当日の作戦を考えていた。事務所に戻った後、夕方になるまで、入念に作戦を練った。
「もし、ストーカーが殺し屋に依頼してたら、奴らは出店に潜んでいる可能性が高いな…。」
「そうですね。そうなったら、奴らを敢えて誘き寄せます?」
「そうやな。出店から引っ張り出して、一般客達と隔離して、河川敷でやり合う方がええな。」
最終確認を済ませ、当日を迎える。

   その頃、ストーカーは依頼した殺し屋の元を訪ねて、大阪市北区の東梅田のホテルに来ていた。一通りの少ない怪しげな雰囲気の路地裏に、ひっそりと佇んでいる。部屋に入ると、怪しい男女が4人いた。
「どうもどうも。」
ストーカーの男は、ペコペコと頭を下げて、席に着く。当日の作戦を考え、入念に打ち合わせた。
「当日は、手下達を出店のスタッフに紛れ込ませよう。ライブが終わって、しばらく経って油断した所を一斉に仕留めるわ。」
細身で、丸縁のサングラスをかけたエスニックな雰囲気の男が、タバコをふかしながら呟いた。他にも怪しげな雰囲気の男女がいた。彼の横に座っている茶髪の右腕に蜘蛛のタトゥーが入った女性が、ある写真を取り出し、テーブルに置いた。
「ひょっとしたら、コイツらも当日おるかもしれへんで。」
その写真は、雅文・美夜子・玲奈の3人が映っていた。沖縄での戦いの際、手下が3人の写真を撮り、情報共有していたのである。
「コイツらか…。我ら猛毒獣大陸の邪魔をした探偵って言うのは…。まぁ、コイツらが出てきた所で、人海戦術で行く俺達には敵わへんやろ…。」
「探偵か、あの2人が依頼した可能性も有り得るな…。ソイツらが邪魔して来たら、俺の手でぶっ殺してやるわ!!」
「当日が楽しみやね…。」

 そして、迎えた当日。この日、探偵事務所では、雫が休みで、所長・美夜子・陳は午前9時から出勤し、各々の業務に当たっていた。8月も終わりが近づき、蝉の声も段々減ってきた朝。朝礼を済ませた後、美夜子は昨夜の調査の続きで、六甲アイランドへ赴き、所長と陳は依頼が無かったので、調査結果の整理で事務作業に当たる。
「所長、私はあの3人は本当によく頑張っていると思います。」
「雅文・美夜子・玲奈のことかい?」
「はい。それぞれの個性があり、上手く三位一体となって調和している。だが、私はもっと鍛えれば、更に強くなると思います。」
職場での関係上、陳は年上だが、部下に当たる。50代の陳は、中国で点心師として広州で活動し、香港で探偵になり、黒社会の秘密を暴き、台湾で事務所と喫茶店を立ち上げて活動するなど経験豊富である。中国武術にも長けており、日常的に太極拳などで鍛えている。そんな陳に、所長は尊敬の目を向け、自分も何かを学ぼうという気持ちになる。何か提案があるのだな、と踏み、質問を続ける。
「何か、考えがあるのか?」
「はい。冬頃に約12日間程の期間で、強化合宿を組ませたいと思っています。もちろん、国内ではなく海外です。そこで、心技体を鍛えようと思っています。」
所長は、陳の提案に真摯に耳を傾け、メモを取る。
「ほうほう、分かった。上の者と相談しよう。」

 一方その頃、雅文と玲奈は早い昼食を済ませ、12時に出勤した。依頼が来たということで、所長と陳は事務所を後にした。なにわ淀川花火大会は19時に始まるので、調査が終われば、依頼人とその後のことについて打ち合わせた後は、現地解散となる。玲奈の家は中之島にあるため、近場の梅田で解散する方が効率的である。雅文は社用車で玲奈と大阪まで行き、調査が終了次第、事務所に戻り、所長に戻ってきた時刻を報告して上がり、という段取りである。
「18時にライブが始まるから、2時間前には着いときたいな。」
「はい。出店もありますから、そこに殺し屋が潜んでいる可能性もありますよね?」
「そうやな。そこに手下がおるんやったら、我々が囮になって引き寄せて撃破し、大阪府警に逮捕してもらう形で、敵の頭数を減らせば有利になる訳やな…。」
戦闘になるのを見越し、2人は武器を持参していた。雅文は沖縄での戦いで破壊されたエアガンを修復し、更に殺傷能力を高めた。玲奈はSMで使っていた鞭を持参した。
「玲奈ちゃん、鞭使えるんや。」
「はい、これで調教してきましたから。」
14時30分頃に、美夜子が戻ってきた。
「あら、2人共、これから調査?」
「あぁ、ひょっとしたら殺し屋が出てくるかもしれへんから…。」
「殺し屋、あぁ、猛毒獣大陸ね。沖縄でエージェントを倒したから、抹殺リストに加えられた可能性もあるわね…。十分、気をつけるのよ。雅文、玲奈ちゃん。」
「あぁ。」
「はい。」
15時、満を持して2人は大阪へ向かった。

 阪神高速を通り、大阪へ向かう。16時、大阪市内に到着。十三と梅田に跨る淀川の周辺には、それぞれのサイドに出店や観覧席が設営され、夏祭りの独特の熱気が既に漂っていた。蜜壺姫のライブ会場は、梅田サイドにあり、ステージの手前には客席がある。ライブ会場に到着した2人は、なにわ淀川花火大会の運営並びに警備員、周辺を見回る大阪府警に事情を説明し、緊密な連携を取ることにした。
「こんにちは。」
「こんにちは、雅文さん、玲奈さん。」
「殺し屋が、出て来ぉへんのが1番ええけどな。」
「私に作戦がある。」
そう言って雅文は、葉月と瑠奈に耳打ちをした。打ち合わせを済ませ、18時になり、ライブを迎えた。

    花火大会前にも関わらず、ライブに来た50人の客の熱気で会場は、ムンムンになっていた。雅文と玲奈は、最前列の席で見守る。ライブが始まり、葉月と瑠奈が浴衣をモチーフにした衣装で登場。

オープニング「蜜壺パーティー」
溢れんばかりの 蜜滴る
甘い甘い蜜壺 そこに欲しい🖤
もっともっと 激しく抱いて🖤

オープニングから3曲連続披露した。

「地獄旅行」ヘビメタ
針の山 血の池 餓鬼がいっぱい
鬼もいるよ 獄卒 アイツらイジワル

「クリーム ぽむぽむ」アイドル系
甘い楽園 女の子だけの楽園
私もそこに 連れていって欲しい

「天国へ連れていって」ポップス
天国へ連れていって 何も苦しみのない世界
今までのことは 許してあげる
「私と一緒に、成仏しよ。」

ライブが盛り上がり、葉月と瑠奈もテンションが上がる。雅文と玲奈は監視していたが、何も異変は起きなかった。
(ライブは無事に終わったな…。)
ライブが終わり、ステージはすぐに撤去された。葉月と瑠奈は、私服に着替えて、出店を廻る。雅文と玲奈も出店を廻る。
「射的あるやん。」
「さぁさぁ、どうぞ。」
店主は一瞬、下を向いて写真を確認した。その素振りを雅文は見逃さなかった。金を払い、銃で的を狙う。
「雅文さん、やるぅ~!」
「やるね、兄ちゃん!」
店主の男が、懐から何かを取り出そうとしたのを見て、雅文はエアガンで狙撃した。
「痛ぇ!これ店主撃つゲームちゃうで!!」
「写真を確認していたな?もし、お前らが殺し屋だとしたら、誰かが俺達の写真を撮り、抹殺リストに追加して、情報共有していたとしたら、納得やな。」
そこに、もう1人の女性が襲って来たが、玲奈は鞭で返り討ちにし、この2人を連携していた警官に逮捕してもらった。
「こんな所に潜んでいるとは。気をつけて下さいね。」
警官に引き渡し、先に進むと、騒ぎに便乗して、残りの手下6人が現れ、雅文と玲奈を取り囲んだ。祭りの雑踏に加え、花火が上がったため、皆は花火に釘付けである。
「ほうほう…。そう来たか…。」
「囲まれたで、雅文さん。あれ、葉月と瑠奈は?」
「フッフッフッ、お前らが雅文と玲奈やな?沖縄では、よくも我々のエージェントを潰してくれたなぁ?」
「そうやで。ここに来る思うたからな…。」
「悪いが、雑魚に構ってる暇はあらへんのや。そこをどいてくれ。」
手下達は、武器を取り出し、襲いかかろうとした。その時、1人の黒いカッターシャツに黒いスカートの女性が現れた。
「あらあら、祭りに乗じた輩やな…。そんな危ないモン持ち出したらアカンで…。」
「んっ?あっ!」
「薫さん!!」
大阪で出会った超能力探偵 西園寺薫である。手下達は、薫に任せ、雅文と玲奈はエージェントを追う。手下達のコードネーム一覧はこれだ。

猛毒獣大陸 丁クラス
手下6人
ハネカクシ・テングタケ
ツチハンミョウ・アカタケ
ドクガ・アシズタケ

先程、2人が撃破した手下は、マツケムシ・カキシメジというコードネームで、いずれも不快な害虫と毒キノコである。手下は薫を取り囲んで息巻く。
「オイオイ、引っ込んどけ、ババァ!」
「リンチされに来たん?」
薫は、挑発に静かな怒りを覚え、目が赤く光り、背後に黒いオーラが漂う。
「アンタら、口の利き方には気ぃつけや…。超能力者を怒らせるモンやないで。」

 その頃、出店を楽しみ、花火を見ていた葉月と瑠奈の元にエージェントが現れた。
「お前らやな?蜜壺姫は。フン、俺の毒針で一撃やな…。」
「フフ、まだ殺したらアカンで…。じわじわいたぶるんやで…。」
丸縁サングラスのエスニック風な男と、右腕に蜘蛛のタトゥーが入った茶髪の女。エージェントのゴンズイ・イヌサフランである。ゴンズイは夏の浅瀬に棲息する有毒生物で、神経毒がある。イヌサフランは、食用のサフランと間違えやすい毒草である。
「マズい…。コイツらがエージェントや。」
「殺し屋やろ…。太刀打ち出来ひん。」
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