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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第93話 魔の手

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 「亜細亜冒険紀」 第4巻 亜細亜動乱期
    時代は19世紀に入り、ヨーロッパではイギリスで産業革命が起こり、「世界の工場」と呼ばれるまで経済的・軍事的に発展し、列強の一員になった。イギリスは、18世紀末に、清王朝に使いを送っていた。当時のイギリス国王からの書物を持ち、マカートニーという者がやってきた。彼は、当時のグローバルスタンダードである「対等な立場での自由貿易」を清王朝に要求した。しかし、当時の乾隆帝は、東アジアは中国が盟主であり、貿易をするなら、朝貢・冊封し、中華世界の一員になれ、と言い、対等な立場での自由貿易を断った。このことに対し、イギリスのマカートニーは、時代遅れの驕り高ぶった奴だと思ったに違いない。事実、清王朝は乾隆帝の死後、衰退の一路を辿るのであった…。

    世界の工場となったイギリスは、アジアに目を向け、手始めにインドを植民地にし、そのインドを経由して、清と三角貿易を行った。この貿易が進行するにつれ、イギリスは紅茶でティータイムの風習が生まれ、綿製品が売れて大儲け。インドは安い綿製品が流入して、産業と経済が荒廃。清は銀が流出し、アヘンが密輸されたことにより、アヘン中毒者が急増して社会問題となった。人魚達も、清王朝の異変に気づいた。
「何、あの船?」
人魚姫に依頼され、調査に出た半魚人 ルーと人魚 マイは清王朝南部の広州に上陸。船から下りてきた商人達の後をつけ、広州の街中に入る。すると、何やら怪しげな建物を発見。そこに、清王朝の役人が数人、視察しに来ていた。
「あれは、清のお偉いさん?」
「あの髭のオジサン、誰だ?」
彼は、清の欽差大臣 林則徐(1785~1850)である。清の皇帝 道光帝が、国内でのアヘン中毒者急増を問題視し、彼を広州に派遣したのだ。
「アヘンは没収だ!!」 
「Why?oh my god!!」
イギリス人の商人から、次々とアヘンを没収していく。全て終わった後に、2人は謎の建物の中に入る。そこには、長いパイプを吹かす中国人達の姿があった。アヘン中毒になり、目は虚ろで、立てないのか寝そべっている。人魚姫 サヤが18歳の時に謁見した乾隆帝がいた頃の、華やかな中華世界の盟主であった清は、アヘンで内部から腐り始めていたのだ。この様子を見て、人魚のマイは絶望して泣いた。 
「何よこれ…。サヤ様が見た中華世界は、どこへ行ったの?アヘン中毒者の腐った社会なんて嫌よ!!!」

    人魚姫に報告し、半魚人と人魚の有志を募り、決死隊を結成して清王朝を援護する形を採った。1840年に、清王朝VSイギリスのアヘン戦争が勃発。一同は海戦で援護に廻るも、立ちはだかったのはイギリス海軍だった。
「えっ…。」
産業革命で発展し、蒸気機関を産み出したイギリスの軍艦は、清王朝の木で出来たジャンク船を次々と海に沈め、力の差を見せつけた。
「何だ?あの黒い塊は!?」
半魚人と人魚達も砲撃され、イギリス軍の兵士に、バケモノ呼ばわりされ、その場で殺され、誘拐されて植民地に売り飛ばされた。1842年に南京条約が締結され、香港が植民地になった。その後も、清王朝はアロー戦争で敗れ、国内では洪秀全率いる太平天国が現れ、内憂外患に苦しんだ。同時期、日本では黒船来航により、鎖国を終わらせた。1867年に大政奉還により、260年余り続いた江戸幕府と700年以上の武士の時代は終わりを告げ、急ピッチで近代化が推し進められた。

    その後、欧米列強によるアジアの植民地化が進行し、清王朝を盟主とした中華世界は徐々に崩れていった。1880年代に、朝鮮で壬午軍乱・甲申事変が起き、朝鮮を近代化させて、清と共に連携して欧米列強に対抗しようと考えていた日本と、朝貢・冊封体制に基づく中華世界を維持しようとした清が対立。人魚姫もどちらに着くべきか、葛藤し始めた。
「清王朝は、落日の一路を辿っており、運命を共にすれば、我々も滅ぶ。日本は近代化に成功し、列強に近づいている。まだ、現時点(1890年)では、答えは出せないが、もし、日本と清が戦争をしたら、勝者に着くことにする。」
1894年に日清戦争が勃発。清王朝の北洋艦隊と八旗軍と、近代化された日本軍が激突。旅順の戦い・黄海海戦・豊島沖海戦などで、日本が勝利を収め、日清戦争は日本の圧勝。1895年の下関条約により、日本は清から2億両の賠償金を獲得し、台湾を植民地にした。眠れる獅子と恐れられた清は、弱体化を露呈し、欧米列強に分割された。
「あぁ…。かつての姫様達が見た華やかな中華世界はどこへ行ってしまったの?アヘンに毒され、時代遅れの体制、李鴻章も西大后も光緒帝も何の策も出せないまま…。ただの老大国。東亜病夫(dong ya bian hu)よ…。」
人魚姫は、清に失望し、日本に着くことにした。

「亜細亜冒険紀」第5巻 亜細亜大戦争・亜細亜一周録
    この巻は、20世紀の話で、近代と現代で構成は異なっている。近代の章では1945年までで、第二次世界大戦の話で終了し、現代の章では戦後から1980年代までである。

    20世紀になり、人魚姫は列強の一員となった日本に着き、皆の意識は中国から日本に向いた。清王朝は、内部崩壊し、1911年に辛亥革命で消滅。その後、建国された中華民国も、総統の袁世凱は清の軍閥で、国内には清の残党の軍閥が割拠し、国家とは言い難い状態だった。人魚姫も中国には失望した様子で、視察した人魚と半魚人の話を聞いて、ため息をついていた。
「袁世凱?軍閥の男か…。最後の宣統帝は3歳?何やってるのかしら…。清が滅んだ後、宦官と共に紫禁城に居るのね…。」
華やかな中華世界が滅び、軍閥割拠で荒れた中国に幻滅した様子である。

    その後、列強の一員となった日本は、朝鮮を植民地にし、大日本帝国と呼ばれた。1914年に第一次世界対戦が勃発。この戦争は、ヨーロッパが主戦場になったため、アジアにいる人魚達に影響はなかった。1920年に国際連盟が発足し、日本は常任理事国となり、世界の五大国(イギリス・フランス・イタリア・アメリカ・日本)にまで登り詰めた。半魚人と人魚達は、よく日本に遊びに行き、近代化された先進国の文明を謳歌した。
「すごいな、コレ…。」
大阪には、新世界のランドマーク 通天閣があり、これはフランスのエッフェル塔をモデルにしたものである。当時、存在していた遊園地 ルナパークで、当時の人魚姫も夢中になって遊んだ。
「ウフフ、優雅ね。」
モダンガールスタイルで、ボブヘアーにミニスカートと洒落た格好をし、他の半魚人や人魚達にも見せた。文明開化した日本に遊びに行き、中には親交を深めた者もいた。
「このすき焼きというの美味しい~!」
「これが文明開化の味さ。」

「「「地獄変」」、「「羅生門」」、「「蜘蛛の糸」」とスゴい作品をいっぱい書いてますね。芥川先生、惚れちゃいます。」
「私もね、人魚に会えるとは思わなかったね。」 

大正から昭和初期のモダンな日本の文化を謳歌し、楽しい日々が続いた。

    しかし、1930年代に入ると、日本が建国した満州国を巡って、中国と対立し、国際連盟から脱退したことにより、孤立を深め、国内では軍部による独裁の傾向が強まった。
「何か、キナ臭い…。」
日本は、ファシズムを掲げたムッソリーニ率いるイタリアとヒトラー率いるドイツと、日独伊三国同盟を結んだ。1937年に日中戦争が勃発、1939年に第二次世界大戦が起き、イタリア・ドイツ・日本の枢軸国VSアメリカ・イギリス・ソ連・フランス・中国の連合国という構図で繰り広げられた。この時の人魚姫は、サヤカという名で若干19歳で姫になり、軍事や国際情勢に精通していた。
「大日本帝国の理想は、アジアを植民地から解放すること。この戦争に勝てば、日本を盟主にしたアジアの新秩序、大東亜共栄圏が出来る。その理想郷の実現へ向けて、皆戦おう!!」
1941年に、日本軍がハワイの真珠湾を攻撃し、アジア・太平洋戦争が勃発。アジアを植民地から解放するという大義名分を掲げ、日本軍に着き、イギリス・フランスの植民地に攻め込んだ。

マレーシア・シンガポール
イギリス領マレー半島に上陸。マレー沖海戦・シンガポールの戦いの傍ら、イギリスから来たDEATH CIRCUSの支部を潰した。
「倒れろ!!イギリス帝国主義者!!」
「Oh!No!!」
マレーシア・シンガポールを陥落させ、勝利を知った人魚姫 サヤカは、山下の真似をした。
「YesかNoか、どっちだー!!、ですって。マレーシアにはハリマオがいるわ。谷豊様は素敵ね。」

香港
イギリス領香港に上陸。ここでもDEATH CIRCUSの支部を蹴散らし、香港を陥落させた。
「小籠包美味しい~。」
「これで、イギリスの植民地は押さえた。」

しかし、この快進撃は1942年のミッドウェー海戦で敗北したことによって終わり、以降は連合国の反撃に遭い、日中戦争も泥沼化した。

ガダルカナル島
アメリカ軍に敗北。食糧も着き、逃げ出そうとした半魚人と人魚達は捕らえられ、処刑された。負傷して、島から出られなくなった人魚達は餓死した。
「サヤカ様…。アメリカ軍は酷いです…。」

南方戦線は次々と連敗を喫し、サイパン島・テニアン島・レイテ島で玉砕し、インドのインパールでは、餓死した兵士の死体が転がり、白骨街道と言われた。日中戦争の戦線に乗り込んだ者も、中国軍に捕らえられ、満州近くの731部隊の施設に送られた。そこでは、人体実験が行われ、マラリア・チフスなどの病気を使った細菌兵器が作られていた。送られた半魚人と人魚達は非道な人体実験の餌食となり、病気で死んでいった。
「ハァハァ…。見てないで、助けて…。」
「熱い…。苦しいよ…。ハァハァ…。」
息も絶え絶えの人魚は、手術台に乗せられ、メスを持った執刀医に見下ろされた。
「何、嫌!!止めて!!」 
血が吹き出し、鮮血滴る内臓が引きずり出された。
「あ、あ…。」

人魚姫 サヤカは枢軸国のイタリアとドイツが降伏し、日本の敗色が濃くなったことを悟り、戦争で亡くなった半魚人と人魚達の墓を作って弔い、1人海底で泣いた。
「うぅ…。アジアの新秩序、木っ端微塵に砕かれた…。私のお友達、みんな死んじゃった…。痛かったでしょ?辛かったでしょ?私のお友達は、もう戻ってこないんだ…。うぅ…。あぁ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
後悔と懺悔で、深海の果てで声を上げて泣いた。サヤカは、半魚人と人魚達の慰霊碑を建てて、皆を供養した。
「もう、戦争なんてこりごりよ…。」
1945年に第二次世界大戦が終戦。アジアの植民地は独立し、平和が訪れる筈だった…。


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