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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第92話 亜細亜冒険紀

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    人魚が遺したアジアでの冒険譚を元に、「亜細亜冒険紀」について、東風平教授が語る。亜細亜冒険紀は人魚が記したとされる紀行文で、人魚が保管しているものと、複製・複写されたものとが現存し、歴史的資料となっている。そのうちの資料を入手し、琉球大学で管理している。
「私が持っているものは、現存している資料を、私が複製したものであり、オリジナルのものを再現している。」
人魚の紀行文は、全部で5巻あり、全ての複製品を入手してある。
「人魚の冒険譚か…。」
「気になるわね…。」
「楽しみです。」
前のめりになり、興味津々な様子の3人に、教授は微笑む。
「フフ、若者の好奇心はいつ見ても最高さ。ここからの話は、少し複雑怪奇な点もあるが、歴史的価値のあるものだ。さぁ、人魚の冒険譚の世界へ、めんそーれ。」 

 「亜細亜冒険紀」第1巻 明・琉球・戦国
「時は、室町。大和の国には、京の都に足利氏という将軍がおりました…。」
西暦で言うと、15世紀の頃、日本では室町時代の頃で、足利氏が将軍をしていた。その頃、琉球では1429年に尚巴氏が三山統一を果たし、琉球王国が成立した。
「わぁ、赤いお城がある。」
人魚のララは、琉球に足を運び、首里城の存在と琉球王朝の繁栄を書物に記し、人魚や半魚人達に情報を共有していた。

    日本では、1467年に応仁の乱が勃発。都の京都が荒廃し、下剋上の風潮が広まり、各地で血で血を洗う覇権争いが繰り広げられた。人魚のララには、半魚人の恋人  ユーがいた。ユーは身体が緑色で顔は人間だが、鱗があり、蹼が付いている。当時の人魚姫からは、日本は戦国時代で戦が起きているから、行くのは止めた方がいい、と言われていたが、2人は制止を振り切り、行ってしまったのである。16世紀になり、織田信長・豊臣秀吉の台頭で、様相は変わり、1590年に豊臣秀吉が天下統一を果たした。2人は、豊臣秀吉に謁見することが出来た。
「天下統一とは、スゴいですね。」
「左様、今度は明(当時の中国王朝)も服属させてやろう、と思うておる。」
そのためには、属国の朝鮮に攻め込むというのである。不安に思う2人を尻目に、豊臣秀吉は朝鮮出兵を開始。しかし、李舜臣の反撃に遭い、敢えなく失敗。豊臣家は衰退。1600年の関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康が江戸幕府を開き、豊臣家は窮地に立たされた。
「どうなるのかな…。秀吉様は死んでしまったし…。」
2人は豊臣家と運命を共にし、大坂の陣で滅び行く豊臣家と共に息絶えた…。

「亜細亜冒険紀」第2巻 清・琉球
「亜細亜冒険紀」第3巻 中華世界
ここからは、17世紀の話となる。日本では、江戸幕府が安定期に入り、中国では、清王朝が成立していた。戦国時代のような戦乱が終わり、人魚達は琉球王国や清に立ち寄っていた。
「あの赤いお城が、首里城なのね。」
「スゴい…。」
清王朝と国交を結んだ琉球王国を通じて、清にも足を運んだ。人魚達は、清王朝の風習を目の当たりにし、興味や違和感を抱いた。清の街中で、頭部の一部を残して、周りの髪を剃り、残った髪を編んで垂らす、という奇抜な髪型の人を多く見かけた。
「あの髪型は何?」
「あれは、弁髪というヤツで、日本人のチョンマゲみたいなモノだ。」
清王朝(1643~1911)は、中国最後の王朝で、北部の女真人と呼ばれる満州民族が立てた。太祖は奴児哈赤(ヌルハチ)、首都を北京に置き、紫禁城に住まいを設けた。中国を支配する上で、大多数の漢民族を服属させるため、辮髪令を出し、「髪を留めんとすれば頭を留めず、頭を留めんとすれば髪を留めず」と威圧的に出たが、辮髪にした者には、元通りの生活を保障するなど、飴と鞭を駆使して、満州民族が支配者であることを認めさせた。
「そうなんだ…。」
辮髪に関しては、日本のチョンマゲのようなものだとして、すんなり理解した。しかし、当時の日本は行わなかったが、中国王朝独特の、人魚達も恐怖を覚えた風習があった。

    時は17世紀後半、清王朝は康熙帝の時代で、明の残党 三蕃を撃破し、国境を成立させていた。この恐怖の風習を目の当たりにしたのは、半魚人のフィ、人魚のアリサとリナの、当時、少年少女だった3人。それは、人魚姫が琉球王国を通じて、清に朝貢・冊封していた頃、3人は人魚姫に付いて行き、紫禁城に入ると、ある部屋に辿り着いた。そこでは、1人の男性が台の上に寝そべり、3人の男が何かを説明していた。
「何してるの?」
「ちょっと、あのオジサン、刃物持ってる…。」
説明が終わり、1人のオジサンが刃物で勢い良く、彼の秘部を切り落とした。
「はぁ?!」
「えぇぇぇぇ!!!!!」
3人は急いで、その場を後にした。
「ねぇ、あれ、大丈夫?!」
「男の子の大事な所切ってた!!」
これは、中国王朝の役人の1つで、宦官(かんがん)と呼ばれる皇帝に遣える去勢された男性である。もう1つ、衝撃を受けたのは、道を歩く女性の足を見ると、不自然に萎縮している。これは、壥足(てんそく)と呼ばれる風習で、女性の足の成長を無理矢理止めるものである。
「男の子の大事な所を切り落としたり、女の子の足を無理矢理小さくしたりと、時折、清王朝は我々に理解しがたいことをしていた。」

その頃、瑠華も夜の宮古島の岩場で、この本を読んでいた。
「何で、男の子のオチンチンを切るの?痛いし、血が吹き出て死んじゃうよ…。」

    その後、18世紀になり、日本は江戸幕府が飢饉や改革などの動乱を経験し、徐々に市民生活にも余裕が出始め、文学・浄瑠璃・学問などの文化が発展してきた。清王朝は、雍正帝が軍機処という政府の機関を立ち上げ、文字の獄という思想弾圧を行った。清王朝に反発する学者 曾静と論戦を繰り広げ、これを屈服させ、中華思想の矛盾を克服した。雍正帝の後の、乾隆帝の頃には、十全武功という遠征で、周辺諸国を朝貢国に加え、清王朝の中華世界は更に拡大した。人魚達も琉球王国の繁栄や、華やかな中華世界に憧れを抱き、当時の人魚姫 サヤ(18)も乾隆帝に謁見したいと思っていた。

    ある日、サヤは乾隆帝に謁見することとなり、当時の琉球王国の国王や側近に会い、様々な説明を受けた。皇帝に謁見したら、三跪九叩頭と呼ばれる礼をすること、皇帝から貢ぎ物を受け取るなどがあった。
(私も、人魚姫である以上、自分自身で謁見したいわ。)
その後、乾隆帝に謁見し、三跪九叩頭の令をした。サヤは宦官に異様な雰囲気を感じた。 
(あれが宦官ね。オチンチンを切り落とされた男と言っていいのか、よく分からないものね…。気持ち悪いわ…。)
乾隆帝に認められ、戴冠の儀でサヤの緑色の髪の毛の上に冠が乗せられた。
「ふふ、私も人魚姫として中華皇帝に認められたのね…。」
(それにしても、宦官は気持ち悪いわ…。プライドないのかしら?)
満漢全席と呼ばれる豪勢な宴が行われ、北京ダック・東坡肉(トンポーロー)・燕の巣・フカヒレスープなどが振る舞われた。
「美味しそう…。」
見たことない料理に舌鼓を打ち、乾隆帝と話が弾む。
「満・漢・蒙・チベット・ムスリム・それらをまとめて「「皇清の中夏」」である。」
「荘厳ですね。中華皇帝様々ですよ。」
「お主も、我が清王朝の中華世界の一員だ。」
「フフ、ありがとうございます。中華世界の一員、名誉ですよ。」
(寄るな、宦官。小便臭い…。)

「いいなぁ…。人魚姫様…。瑠華も中華皇帝様に認められたいなぁ…。」
だが、このアジアのパラダイス 中華世界は、19世紀に帝国主義を掲げた欧米列強に壊されてしまうのであった…。
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