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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第88話 人魚伝説

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    彼がそれを見たのは、高校生の頃の夏休みだった。友人の弘毅と共に宮古島のパイナガマビーチというビーチで海水浴をしていた時のこと。沖縄は亜熱帯地域で、南国の情緒があり、海が綺麗である。古くから、沖縄や奄美、八重山では、人魚伝説があると言われる。砂浜に太陽の光が照り付け、青い海にキラキラと反射する。
「ナイチャー(内地人)も、中々美らかーぎー多いさー。」
「確かに、ちょっと話しかけてみるか?」
当時、高校生の彼らは、一回りも年上のギャルにナンパするも、ORANGERANGEの「上海ハニー」のようには行かなかった。
「早すぎたさー。」
「人魚に会えたら、付き合いたいなー。」
弘毅はシャーマニズムや伝承を信じており、宮古島には、「パーントゥー」という謎の神様が存在する。「3×3EYES サザンアイズ」や「シャーマンキング」を古本屋で読んでハマり、こういうことが現実に起きないかと心待ちにしていた。
「三邪眼とか、タクヒに会いたいなー。」
「あれは、バケモノだよ!」
「人魚と結婚したいなー。中学生同士で結婚してたさー。」
「あれは「「シャーマンキング」」の葉とアンナね!」
夏の砂浜で漫才のようなやり取りをしていた。この時までは、人魚なんてただの作り話だと、浩二と弘毅は2人共、内心そう思っていた。琉球王国時代の島唄の中のワンフレーズや、海人や昔の王族の他愛もない戯言に過ぎない、と鼻で笑っていた。海の家で、昼食として、ソーキそばをいただく。海の家では2人共、Tシャツを着ている。
「ソーキそば美味い~!」
「海見ながらってのがね。」
腹を満たした後は、再び海で遊ぶ。ライフジャケットを着て、ボートを借り、少し深い所へ行く。
「俺、潜るわ。」
「気をつけていけよ。」
浩二がボートで待機し、弘毅が海に潜る。南国の海は透き通っており、魚が泳いでいる。海藻がユラユラと揺れている所に、何やら人影が見える。恐る恐る近づくと、黒髪ショートでムッチリした少女がいた。当初、弘毅は海で死んだ少女の霊かと思っていたが、霊にしては血色が良い。よく見ると、下半身はピンク色で鱗に覆われ、尾ひれが付いていた。
(に、人魚だ~!)
彼女は、弘毅に気づくことなく、魚と戯れ、ニコニコしていた。海から上がった弘毅は、興奮した様子で浩二に話した。
「人魚がいた!本物!」
「いた?見たかったなぁ…。」
日が暮れたので、2人は砂浜に戻り、シャワーを浴びて着替えて、帰路に着く。夕陽が沈む海を眺めていると、人魚が跳ねた。
「人魚、本当にいただろ?」
「可愛い…。」

    その後、自然保護と民俗学的観点から、人魚を見たことは、SNSには公表しないと決め、2人だけの秘密にした。高校卒業後、浩二は追手門学院大学に、弘毅は琉球大学に進学と異なる道を歩んだ。それから6年経ち、今年の1月に弘毅から久々にLINEが来た。人魚を探すという内容で、5月下旬に調査を開始、という連絡が来た。問題はそれからである。調査の様子は、Twitterで確認出来たが、6月6日を最後に、連絡がなくなり、Twitterが更新されなくなった。この調査は、彼が1人で行っているので、捜索はかなり困難である。

    そのことを知った浩二は、彼の消息が気になったと共に、昔見た人魚が果たして本当に実在したのか、ということが気になり、今回の依頼に至った。この摩訶不思議な話を、雅文と美夜子は真摯に傾聴していた。
「人魚か…。」
「確かに、八重山諸島や沖縄には人魚の伝説がありそうね…。」
人魚の話を最後まで静聴してくれたことに感謝し、浩二は、今回の案件を行方調査として、正式に依頼した。
「今回、兵庫から沖縄と遠方の捜査になる訳ですし、沖縄は鉄道が少ない車社会なので、移動費や滞在費も込みで30万以上は用意しております。」
リュックサックから紙袋を取り出し、その中には60万円の札束があった。
「分かりました。お金の計算はこちらでします。少々お待ち下さい。」
美夜子は1度席を立ち、デスクに戻って、捜査の予算を算出する。その間、雅文は調査計画を考える。この日は7月18日。週末である。沖縄に行くとなると、航空券が必要で、当日に購入するのは難しい。まずは今日中に航空券を買わないと、調査を始められない。
「沖縄ですから、明日すぐには行けないですもんね…。」
「はい。こちらも準備が必要となりますので…。調査に関しても…。」
今回の捜査は、関西から離れた南国 沖縄に赴いて行うため、長期間は出来ない。まずはじめに、調査成功・失敗の条件、調査期限を決める。予算の算出を終えた美夜子が戻ってきた。
「調査費として、40万円いただきます。」
「分かりました。」
調査費を受け取り、調査計画を伝えた。

依頼日 2026年7月18日(金)
調査概要 行方調査
調査期間 2026年7月21日(月)~7月24日(木)
成功・失敗の条件・期間までに、失踪した依頼人の友人を見つけ出す。
                                 ・人魚の存在を見つける。

この計画に沿って、調査を行う。翌日、所長にこの事を伝え、調査は雅文・美夜子・玲奈の3人で行くことになった。
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