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第4章 六凶編 VS 百鬼夜行之衆・猛毒獣大陸

第85話 Drug of Inferno

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 三宮センタープラザを舞台にしたGolden Tiger・髑髏城・中村探偵事務所+KANSAI BLACK PANTHERとの三つ巴の、約3時間に及ぶ戦いも、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。戦況としては、KANSAI BLACK PANTHERのリーダー 松本孝一がGolden Tiger組長の鬼塚虎吉を撃破し、Golden Tigerは全滅。大幹部と手下共々、全員逮捕となった。髑髏城も、大幹部は全滅(死亡1・消滅1・逮捕1)、隊長軍(逮捕3・死亡3)と手下は逮捕され、残るは組長 大山田貫爾ただ一人。雅文と美夜子は、タッグバトルの戦法で攻め立てる作戦に出たが…。

センタープラザ西館 2階
神田雅文・桐島美夜子VS大山田貫爾
雅文の作戦通り、副組長の菅沼拓郎を陳青鴻に撃破してもらい、ここからは上手く美夜子と交代を繰り返して、貫爾を攻め続ける。
「まさか、拓郎がヤられるとは…。」
「さて、ここからはラスボスのお前を仕留めるだけや!!」
雅文は巧みな2丁拳銃捌きで、貫爾を狙い撃ちする。
「ぬおっ!!」
貫爾は攻撃を避けながら、近くのお菓子が入っているクレーンゲームを床から引き剥がして、雅文に投げつけた。
「くたばれオラァ!!」
「うわぁ!」
間一髪でかわし、難を逃れた。床に投げつけられたクレーンゲームは大破し、ガラスが割れ、中のお菓子が散乱した。
「ハッハッハッ!メキシコでプロレスもやっとったんや。お前らみたいなガキが、俺の髑髏城潰しよって、どないしてくれるんやゴラァ!!!」
「フンッ…。お前のおかげで、私の記憶のパズルは、あと1つのピースで完成しようや…。それが復元出来たら、お前ももう終わりや…。」
壁にもたれている雅文を、貫爾は壁ドンの体勢で追い詰めた。
「その余裕、いつまで持つんやろうか…。んっ?」
雅文はエアガンの銃口を、貫爾の額に当てた。鋭い目つきで、今にも発砲しそうだ。
「それはお前の方や…。」
毒づいた雅文だが、ここまでのダメージに加え、3時間も戦い続けた疲労がピークに達し、それが一気に来た。
(ハァハァ…。長期戦になると、持たへんな…。腹も減った…。そうや、散乱したお菓子を食べて…。)
考え事をしている最中も、銃口は貫爾に向けたままである。貫爾も攻撃する素振りはなく、ただ、じっと様子を伺うように固まっている。
「どないした?撃てるもんなら撃ってみぃ!」
貫爾に煽られ、雅文はエアガンを発砲したが、弾切れで弾が出なかった。すかさず、もう1つのエアガンを発砲したが、それも弾切れだった。3時間ぶっ通しの戦闘で、エアガンを乱射し、残りの弾数まで頭が回らなかった。
「くっ!弾切れか!!」
貫爾は雅文の首を掴み、そのまま絞めあげる。
「うぅ…。」
「ハッハッハッ!命運尽きたな!友梨亜とかいう小娘を、俺らが狙った時点で諦めるべきやったな!!探偵風情が反社会的勢力に喧嘩売るから、こうなるんや!!」
その背後から、美夜子が木刀で後頭部を叩いた。
「痛ぇ!!!」 
雅文は、その隙に逃げることが出来た。
「ゲホゲホっ!!」
「大丈夫?雅文!」
「ありがとう。何とか記憶のパズルが、後1つのピースで完成しそうなんや。」
「それが出来たら、あんな外道も一撃ね。」
怒りに震えた貫爾が襲って来た。
「テメェ、殺すぞゴラァ!!」
美夜子は、すかさず日本刀に持ち替え、助走をつけて、腹部目掛けて一刀両断で斬りつけた。
「ぐわぁ!!」 
斜めの切り傷から血が噴き出し、大ダメージを与えた。その隙に、雅文は美夜子を連れて、クレーンゲームから散乱したお菓子を拾い集めて、プリクラの中に隠れた。
「ハァハァ…。あのガキ共め!!今に見とけよ…。俺様の秘密兵器で、お前らは終わりや…。」

   プリクラの中に隠れた2人は、自動販売機でジュースを飼い、拾い集めたお菓子を開封していただく。
「ふー…。白ブドウジュースが沁み渡る…。」
「「「コアラのマーチ」」なんて久しぶりだわ。」
3時間も戦い続けた2人にとっては、お菓子の糖分がブドウ糖並みにエネルゲンになっている。ポッキーがあったので、アレをやることにした。
「ポッキーゲームする?」
「いいわね。」
2人でポッキーの両端を咥えて、パクパクと食べ進め、最後は唇がくっついた。
「わっ!」
「イヤンッ…。」
雅文との口づけに、美夜子は思わず赤面した。玲奈との口づけは、女同士なので、大して恥ずかしいとは思わなかったが、異性とのキスでドキッとしたのである。
「乙女やな…。」
「べ、別に照れてなんか無いわ…。」
いい感じになった2人のムードを切り裂くように、何かが割れるような音がした。
「何や?!」
「あ、すっかり忘れとったわ…。」
プリクラから出ると、UFOキャッチャーのガラスが粉砕され、中の景品が床に散らばっていた。更に、太鼓の達人の太鼓がもぎ取られ、レーシングゲームの椅子もへし折られていた。
「破壊の跡やな…。アイツは一体…。」
すると、獣のような雄叫びが聞こえた。
「ウォォォォォォォ!!!!!!!!」
そこには、先程とは少し様子が違う貫爾がいた。身体の色が、少し茶色くなり、目が血走り、筋肉量が増えていた。
「さっきとは、様子が違うわね。一体何したん?」
「ハッハッハッ!今の気分は最高や…。ハァハァ…。俺様のエキサイトドラッグのパワーは、最強や…。ハァハァ…。ヘヘヘ…。」
彼の足元には、粉砕された注射器が散らばっていた。
「成る程ね。ドーピングした訳やね。哀れな男、そんなものに頼るなんて…。」
「うるせぇよ…。ハァハァ…。まずは、お前から死ねぇ!!!」
貫爾は、美夜子目掛けて、太鼓の達人の太鼓をぶん投げた。
「フン、そんなもので殺せるとでも?」
日本刀で軽々と、真っ二つに斬り、そのまま貫爾に向かっていく。
「オラァ!!」
貫爾のパンチが飛んできたが、ひょいとかわし、日本刀で再び斬りつけた。
「ぐわぁ!!」
「スピードは、落ちるようやね…。」
その隙に、雅文は助走をつけて、蹴りを入れたが、首を掴まれた。
「ハッハッハッ!舐めとったらアカンで!」
そのまま、UFOキャッチャーのガラスに突っ込み、投げ飛ばして踏みつける。
「オラァ!!髑髏城潰しよって、調子乗んなや、このクソガキィ!!!!」
(あと少しや。あともう一撃来たら、全部思い出せる…。)
そこに、美夜子が背後から金的を入れる。
「ハゥゥゥ!!!」
雅文は立ち上がり、血を流しながらも、貫爾を挑発する。
「もう一発来いよ…。薬中のクソオヤジ…。」
「あぁ?!なら、望みどおりに行ったらぁ!!」
貫爾は雅文を持ち上げ、そのまま投げ飛ばした。
「雅文!!」
「ハッハッハッ!次はお前や、小娘!!」
圧倒しているように見えるが、貫爾はドーピングの副作用で、スピードが落ち、息も上がっている。
(ドーピングは、薬物のようやね…。副作用で弱ってきてるわ…。)

    その頃、投げ飛ばされた雅文は、脳内で記憶のパズルが完成。失われた青春の記憶が走馬灯のように甦ってきた。高校生の頃に、高校サッカー選手権に出たこと、大学生の頃に、探偵学校に通い、美夜子と出会ったこと、その時に神戸の私立探偵の元で探偵見習いをし、そこで学んだことなどが全て繋がった。
(よし、これや!!)
記憶が甦ってた雅文は、自信に満ちた表情で、堂々と立ち上がった。目の前では、美夜子が貫爾に捕らえられていた。
「うぅ…。すごい力…。」
「ハッハッハッ!小娘が!俺様の正拳を、ハァハァ…。食らえ!!」
雅文は、先程、拝借した拳銃で貫爾を銃撃した。
「ガァァァ!!!!」
美夜子は、何とか逃れた。
「雅文、記憶が戻ったんやね!」
「失われし記憶のパズル、全て元通りに甦ってた。後は、コイツを倒して、ハッピーエンドへ洒落混もうか。」
貫爾は額と肩を撃たれ、腹には2ヶ所の切り傷と深手を負いながらも、今度は謎の錠剤をボリボリ食べ始めた。
「ハァハァ…。俺が負けるはずない!俺が負けるはずない!ハァハァ…。」
白目になり、筋骨隆々で手足は血管が浮き出ていた。
「バケモノやな…。」
「ドーピングしている以上、やがて薬物の過剰摂取で死ぬわ…。消耗させましょう…。」
貫爾は、息も絶え絶えで、この時点でほぼ意識を失っている状態に近い。
「ぬぁぁぁぁ!!!!」
クレーンゲームをもぎ取り、2人を攻撃する。パンチで壁を砕くなど、異常なまでのパワーが引き出されている。
「ハァハァ…。うぅ!ガフッ!!」
吐血し、徐々に発汗して青ざめる。死期を悟ったのか、持参したダイナマイトを身体に巻きつけ、ライターを点火する。
「何をする気?!」
「ハッハッハッ!ハァハァ…。お前ら道連れにしたるわ…。ハァハァ…。」
動揺する美夜子に対し、雅文は冷静に貫爾に近づいた。
「私の記憶のパズルは無事に戻った。後はお前を地獄へ葬ってやったら終わり。」
「ハッハッハッ!あぁ?!やれるものならなぁ!!」
ライターを捨て、向かってきた貫爾の攻撃をかわし、拳法の動きで攻撃する。
「やぁ!!」
目にもとまらぬ早業で、貫爾を攻撃し、床に血しぶきが飛び散る。
「最後や…。」
「べほぉ!!!!」  
顔面に右フックを食らわし、貫爾はノックアウトした。

◯神田雅文・桐島美夜子VS大山田貫爾●

貫爾は立ち上がり、ライターでダイナマイトに火をつけた。
「マズい!逃げるぞ!」
雅文と美夜子は、急いでゲームセンターから避難。大爆発を起こし、ゲームセンターは跡形もなく吹き飛んだ。
「哀れな末路やな…。」
「彼が、そうまでして手に入れたいものって、何やったんやろうね…。」
こうして3時間に及ぶ激闘は幕を閉じた。中村探偵事務所は、5日間の臨時休業となった。翌日の新聞には、大きな見出しでこの1件が報道された。
「Golden Tigerと髑髏城、関西の反社会的勢力、一夜にして陥落!!!」
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