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第3章 back to school 青春の甘い楽園

第68話 人形の館

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    桜が咲き、春らしい陽気が続くこの頃、中村探偵事務所は念願の社用車を2台購入出来たことにより、更に捜査エリアを拡大し、遠方からの依頼も来て、東奔西走していた。
「所長、ただいま戻りました。」
「美夜子、おかえり。」
所長は、デスクで調査報告書を作成し、好物のレモンティーを飲んでいた。美夜子は、自分のデスクにつき、調査結果をまとめる。
「姫路まで行きました。姫路城の桜が満開でした。」
「ほうほう、姫路はエエところやからね。」
所長の中村景満は、元刑事というキャリアがあったが、訳あって警察を退職。その3年後に探偵事務所を立ち上げた。そこから地道に頑張り、現在に至る。
「美夜子よ、私がこの事務所を立ち上げて7年になる。最初は、雫と2人きりで始め、今や雅文・美夜子・玲奈が入って、事務所の規模は拡大した。これもみんなのおかげや。」
「そうなんですね。雫さんと始めたんですね。」
そこに雫が会話に入る。
「そうやで。ウチが探偵になりたての頃に、所長が色々教えてくれてん。それで、ウチも1人前の探偵になれたんよ。」 
「そんなことがあったんですね。」
雑談をしながら、和気あいあいと各々の仕事に励んだ。

    ある日のこと、昼下がりに1人の男性が訪ねてきた。彼は、黒髪を後ろ手に結い、面長で茶色いカッターシャツに青いジーパンというラフな格好をしていた。
「こんにちは。」
「こんにちは、こちらへどうぞ。」
玲奈が案内し、彼はソファーについた。この日は美夜子が休みで、雫は調査に出ていた。所長は、調査を見越して準備している。
「こんにちは。中村探偵事務所の音無玲奈と申します。今回はどういったご用件でしょうか?」
男性は、口を開くと、まるで怪談話をするかのようなトーンで静かに語った。

    依頼人の名前は、松村貴弘(たかひろ) 36歳。兵庫県宝塚市出身。エンジニアをしている。32歳で大学時代の恋人と結婚。幸せな生活を送っていた。だが、1年前の今日、その日々は突然終わりを告げた。それは、彼が仕事から帰ってきた時のことである。いつものように帰宅したが、妻の声がしない。部屋の窓は開いたままで、彼はどこか不穏な空気を感じた。
(あれっ?どこおるんや?)
恐る恐る家の2階に上がると、寝室のドアが開いていた。
「瞳(妻)、おるんか?」
寝室に入り、中を見渡すと、妻がベッドに仰向けで寝ていた。服装は黒を基調としたゴスロリファッションで、少女が着るようなものだった。両手を胸の上で合わせて、目は閉じた状態で何か祈りを捧げている様子に見えた。
「瞳、可愛い…。んっ?」
妻の首元を見ると、紐で絞められた痕があり、触ると氷のように冷たかった。
「まさか?!」
この時に、彼は妻が死んでいることに気づいた。警察に通報し、調査してもらったが、紐は現場になく、侵入した痕跡は消されており、自殺か他殺かよく分からないまま、1年が経過した。

    妻が死亡した後の、夏に彼はとある人形作家に妻を再現した等身大の人形を作ってもらい、しばらく一緒に過ごした。今年の3月に、人形をとある館に寄贈した。
「それから、私に館から連絡が来たんです。」
人形に、命日が近づくにつれ、涙を流したり、「痛い、止めて、苦しい…。」と悶えるなどの怪奇現象が起きた。以前から、この館では、他の人形にもそういった怪奇現象が起こっているという。ここまでの非科学的な話を、玲奈は真摯に聞いていた。
「人形の館…。」
その人形の館は、大阪府吹田市の万博記念公園の国立民族学博物館の近くにあり、茶色い建物である。
「話が奇々怪々で分かりにくくなってしまいました。私の依頼はこうです。その人形に起きた怪奇現象が、1年前の死の真相に繋がっているのではないか、それを解き明かして欲しいというものです。」
「なるほど、分かりました。」
玲奈は1度、席を立ち、所長と相談する。事務所には、所長の他に雅文がいて、デスクで書類を整理していた。
「ほうほう、今回の案件は謎が多いな。私も行こう。雅文、調査に行こうか。」
「はい。」
依頼人から前金をもらい、準備を済ませて、事務所の戸締まりをしてから、一同は社用車に乗り込む。所長は依頼人を助手席に乗せた。
「では、行きましょう。」
「はい、お願いします。」
雅文と玲奈は、所長の車についていくという形で同行する。
「じゃあ、行こうか。」
「はい。」

    車を走らせ、阪神高速道路を通り、吹田市に到着。太陽の塔やパナソニックスタジアム吹田が見え、目的地に近づいてきた。万博記念公園の駐車場に停め、国立民族学博物館までは歩いて向かう。
「あっ、太陽の塔や。」
万博記念公園にそびえ立つ太陽の塔。顔は3つある。更に進んで、国立民族学博物館の奥に行くと、茶色い洋館のような建物が見えた。
「ここです。」
建物には、「人形の館」と書いてある。中に入ると、受付の女性が現れた。
「こんにちは。どういったご用件でしょうか?」
「はい。私はこういう者でございます。」
所長は名刺を差し出し、雅文と玲奈のことも話した。
「なるほど、探偵さんですね。ちょうど同じような用件で来られた方が、先にいらしております。少々お待ち下さい。」
5分後、受付の女性に案内され、1階のある一室に入った。そこには、この館の主人と先客の探偵がいた。
「こんにちは。私は神戸から来ました中村探偵事務所 所長の中村景満です。」
「同じく探偵の神田雅文です。」
「音無玲奈です。」
館の主人は、40代半ばの男性で、短い黒髪の落ち着いた雰囲気が出ている。
「どうも、はるばる遠方からご苦労様です。私は当館の館長をしております河村脩と申します。」
「先客がいらしていると伺いましたが…。」
目をやると、ソファーに2人の女性が座っている。その横の席が空いている。
「では、あちらにお掛けください。」
そう言われて、一同は席についた。隣にいた女性は、チラリと横目で所長を見た。
「こんにちは。貴方も探偵のようやね。」
黒髪ショートに、黒いパンツスーツの女性は、所長に話しかけた。彼女の横には、黒髪ロングの半袖ミニスカートのメイド服を着た少女がいた。
「こんにちは。私は神戸から来ました中村探偵事務所 所長の中村景満と申します。」
「ウチは、大阪で探偵をしております西園寺薫と申します。そして、横におるのがウチの娘です。」
メイド服の少女は、照れ臭そうにお辞儀をしてから、自己紹介した。
「こんにちは。探偵見習いの西園寺穂香と申します。」
玲奈を見て、穂香はあっと口を開いた。
「あっ、玲奈さん?!」
「あっ、穂香ちゃん、久しぶりやな!!」
3年ぶりの再開に、思わず声をあげた。
「穂香、玲奈ちゃん。喜ぶのはまだ早いで。今は依頼を解決させるのが先や。」
まだ仕事中ということで、薫がピシャリと窘めた。所長は、薫はただ者ではないと、心のどこかで感じた。
(この薫という探偵、何か能力あるな…。)
(フフフ。玲奈ちゃん、探偵になれたんやな。さて、お手並み拝見させてもらうで。)
(玲奈さん、この案件終わったら、またHなことして遊ぼう。あの時みたいに、激しく抱いてぇ…。)
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