上 下
68 / 189
第3章 back to school 青春の甘い楽園

第67話 高校最後の春

しおりを挟む
 雅文が女子校に通うようになった1年が過ぎ、冬の間も探偵業と学業に専念した長い冬が終わり、春を迎えた。桜の花びらが舞い散り、陽気な日々が続く4月に、雅文は新学期を迎え、高校3年生になった。クラス替えでは、由香里と離れたが、里香と再び同じクラスになり、少し嬉しく思った。
「雅文さん、また同じクラスですね。」
「あぁ、また、里香と一緒やな。」
3年生として1学期最初の課題テストを、サクッとクリアし、探偵稼業も精を出した。春は、色々なことが始まる季節。ある日の昼休み、雅文は好物のミルクティーを飲みながら、ふと物思いに耽る。
(沙耶香、どないしてるんやろ…。)
その一方、同じく食後の珈琲を飲んでいる玲奈も同じ事を考えていた。
(穂香ちゃん、また会いたいな…。探偵になったんやろうな…。薫さんも元気なんかなぁ…。)
それぞれが出会った人達が、今、どうしているのか、春はそれが気になる季節でもある。

    昨年8月、雅文と玲奈は沙耶香にとって高校最後の夏の全国大会を観戦しに、愛知まで赴いた。夜のサンシャインサカエの観覧車で、名古屋の夜景を見ながら、沙耶香の話に花を咲かせる。
「ロマンチックな出会い方ですね。流石、雅文さん。」
「まぁ…。何て言うか、一目見た時に私も一目惚れしたんよ。水際に佇む、純情なマーメイド、それに惚れた狩人や…。」
「詩人ですね~。沙耶香ちゃんとキスしたんですか?」
「あぁ…。お互いに生まれたままの姿で、旧約聖書のアダムとイヴのようにね…。」
昨年の夏のある日、雅文は沙耶香と初めてキスをした。シャワーを浴びた後、裸になってベッドでお互いに寝転がり、沙耶香が覆い被さるようにして、甘い口づけを交わした。
「んはぁ…。めっちゃ甘い…。」
「沙耶香の胸、柔らかい…。」
思春期の少女が、大人に変わる。そんな予感がした。
「大胆ですね。」
翌日、沙耶香の勇姿を目の当たりにしたが、あと一歩及ばず、呆然と立ち尽くす彼女の姿に胸を痛めた。大会終了後、時間をとって、沙耶香と話した。
「沙耶香。その悔しさ、忘れへんことやで。」
「はい。応援してくれてありがとうございました。」

     それから、夏休みに引退した沙耶香は、第一志望の大阪体育大学の受験に向けて、猛勉強と自主トレに励んだ。水泳部は夏以外、何をしているのかって?それは、皆さんが気になる疑問であろう。プールに入れるのは夏限定。しかし、プールに入れないからと言って、決して遊んでいるわけではない。水中で出来ないなら、地上に上がってトレーニング。筋トレや走り込みなどをして、基礎体力の維持や、筋力の強化に努めるのである。
「学力もあっての、アスリートやからな。」
勉強に励んだ甲斐があって、沙耶香は見事、受験に合格し、大阪体育大学に入学出来た。スカートスーツに身を包み、桜が舞う春空の下で、沙耶香の大学生活が幕を開けた。
「ここでも、水泳続けて、プロのスイマーになる。」
 
    同じく、大阪は北摂エリアの池田市五月山の屋敷に住む、少し不思議な雰囲気のあるロマンチック少女 西園寺穂香の話に入ろう。玲奈が、彼女に初めて会ったのは、ゴールデンウィークのある日のことであった。ゴスロリ調のワンピースを身に纏い、ツインテールで色白とどこか儚い雰囲気があった。そんなお嬢様の彼女が、SMプレイで玲奈に責められ、喘ぎ声を出して感じた、というギャップに玲奈は惹かれた。その後、連絡先を交換し、玲奈は彼女のお屋敷を訪ね、探偵をしている母親の西園寺薫に出会った。
「こんにちは、音無玲奈と申します。」
「こんにちは。私は探偵をしております西園寺薫と申します。」
彼女の書斎には、推理小説や昆虫標本などが置かれ、彼女は初夏ということもあり、黒いカッターシャツに黒のTバックとガーターベルトというセクシーな出で立ちと相まって、どこかサイケデリックな雰囲気があった。
「長女の穂香が、お世話になったみたいやね。貴女、年頃の女の子を調教しているみたいね。あらあら、穂香にもしてたんや。」
探偵で超能力者という薫に、玲奈は終始圧倒された。それから、玲奈は薫の探偵業を見学し、自分も探偵になりたい、という意志が湧いてきた。屋敷に戻った後、玲奈は薫に懇願した。
「薫さん。玲奈も探偵になりたい、という意志が湧いてきました。玲奈も、貴女の弟子にしてくれませんか?」
お願いを聞いた薫は、玲奈を一瞥し、静かに呟いた。
「今の貴女には、まだ早いで。穂香の足元にも、及ばへん。貴女の経歴も透視したけど、何や、外貨獲得に失敗して大損したみたいやな。」
「それは…。」
痛いところを突かれ、玲奈は俯く。あの時は、中国の恒大(ヘンダー)集団や香港上海銀行の経営問題に疎かったことや、下調べが不十分なまま、アラブ首長国連邦のエミレーツ航空と交渉をし、専務に軽くあしらわれてしまった。注意力不足が響いた。
「まぁ、焦らんでもええよ。探偵になるには、資格や免許は要らんし、なりたい人はなれる。ただ、その前に探偵学校には行った方がええ。後、穂香との付き合いも、じっくりとやってな。貴女のサディズムと穂香のマゾヒズムを満足するまで、堪能させてな…。」
「はい…。」
薫の瞳の奥に、何かが蠢いているのを感じた。帰る時に、次女の恵と三女の詩織に出会った。
「こんにちは。西園寺恵です。」
恵は、芸術家気質のある娘で、当時は中学生で美術部に所属していた。セーラー服に身を包み、黒髪ショートで眼鏡をかけている。
「同じく、西園寺詩織です。」
黒髪ショートで、どこか体育会系の気質がある詩織。ロマンチストな穂香と違って、現実主義なところがある。2人にも、挨拶を交わし、玲奈は屋敷を後にした。

 その年の夏、玲奈と穂香は親密な関係になり、プライベートでの交流が増えた。秘書をしていた玲奈は、大企業との取引や、重役との接待などをし、大人の世界を見てきた。その傍ら、金魚的楽園の地下にある「金魚鉢」で、年頃の女の子を、M奴隷として調教した。穂香とも、玲奈の自宅でSMプレイを楽しんだ。
「あぁ、玲奈さん。とうとう私は裸で責められるんですね…。」
「ええ、フフフ。裸で吊るされてる穂香ちゃん。可愛いわ。」
海老ぞりで緊縛されて、吊るされている。そこに、玲奈が火を点けた蠟燭の溶けた蝋を、穂香の尻や背中に垂らす。
「あぁ!熱ぅ!んはぁ!」
「フフフ、穂香ちゃん、いいお尻ね。」
ボンテージレオタードに身を包んだ玲奈、豊満な胸と尻が強調され、ボディラインも露わになる。
「あぁ、穂香ちゃんのお尻、可愛いわぁ…。」
「あぁ!そんなお尻ばっかり蝋垂らさんといて、んあぁ!」
他にも、玲奈は自分が調教したM奴隷を自宅に呼んで、穂香にS嬢の手ほどきをして、やらせることもあった。
「ほら、取っておいで。ドMのワンちゃん。」
M奴隷の娘は、穂香と同年代で、黒髪ロングの大人しそうな娘。首輪をつけられ、全裸で四つん這いで玩具を取りに行く。もちろん、口で咥える。
「よくできました。ワンちゃん。」
「穂香ちゃん、ペットプレイ上手いやん。」
そんな甘い日々は、夏の終わりと同時に終わりを告げた。穂香の夏休み最後の夜、玲奈は屋敷を訪ね、薫と対面した。夏ということもあり、書斎の彼女は、黒いブラジャーに黒いパンティーとガーターベルトという格好で、コーラフロートを飲んでいる。
「玲奈ちゃん、穂香が世話になっているわ。フフフ、いっぱいHなことして遊んだんやね。」
「はい、玲奈も楽しかったです。」
「穂香は夏休みも終わるし、ここからは大学に向けての受験勉強の時期になる。玲奈ちゃんは、穂香とウチとの付き合いで、探偵になりたいという意志が湧いたんやな?そしたら、そのチャンスはモノにせなアカンで。」
「はい。玲奈も探偵学校に行くことは考えてます。運転免許も持ってるし、その辺は準備してます。」
玲奈の話を聞いた薫は、コーラフロートのアイスクリームをパクパク食べていた。
「そこまでの準備があるんやったら、今しかないで。穂香もこれからのことがあるわけやし、いつまでも玲奈ちゃんも遊んでられへんよ。」
「はい…。」
少し語気が強くなり、玲奈は少したじろぐ。
「あと1つだけ、超能力者に逆らったら、どないなるかは分かるやんねぇ?」
不気味な微笑みに、玲奈は一瞬、背筋が凍った。かつてのジャンプの「幽☆遊☆白書」の戸愚呂兄弟や「鬼滅の刃」の鬼舞辻無惨を彷彿とさせる恐ろしさと禍々しさを感じた。
(あ、ヤバい…。逆らったら、神通力やサイコキネシスで粉砕されるわ…。)

    それから、玲奈は探偵学校に通い、昨年の初夏に中村探偵事務所に入所することが出来た。休憩時間の終わり頃に、所長が見せたいものがあると、雅文・美夜子・玲奈を外に誘導した。駐車場が拡大され、そこに見慣れない青と茶色の軽自動車が2台駐車されていた。
「所長、これは?」
「雅文、美夜子。2年も待たせたな。遂に、社用車を増やすことが出来た。玲奈ちゃんも駐車場狭かったから、大阪から車乗り入れられへんかったやろ。」
駐車場は、事務所の裏側に位置し、そこには所長の車と、新しい社用車が2台の計3台。あと3ヶ所空いており、これで車での通勤も可能となる。雫は京都から来て、有料の駐車場に停めると、駐車料がかかるということで、あまり車での通勤をしていなかった。探偵になるには、資格は特にないが、運転免許は必要となる。雅文と美夜子は大学卒業時に免許を取得し、美夜子は自分の車を持っているが、事務所に駐車スペースが1つしかなかったので、車で通勤はしていなかった。雅文は免許はあるが、自分の車を持っておらず、たまに父の車を借りて運転しているぐらいである。
「ありがとうございます。もう乗っていいんですか?」
「ああ。車検通したし、書類や救命道具も積んである。免許証忘れたらアカンで。」
「ありがとうございます。」
その日の午後、早速、雅文と美夜子は調査で、垂水区に向かうため、茶色い社用車に乗った。行きは美夜子が運転する。
「フフ、雅文と一緒に車に乗れるなんてね。」
「あぁ…。帰りは私が運転するから、マドモアゼル。」
「雅文も、自分の車買いなさいよ。」
「あぁ…。誕生日には買うよ…。」
社用車で仕事に行く雅文と美夜子。気持ちを新たに新年度が幕を開けた。
「ドリンクホルダーも付いてるわ。」
「ホンマや。」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

20BIRTHDAYーLimit

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

包丁一本 1(この家に生まれて)

青春 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1

ダイアリー・ストーリー

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

王太子妃殿下の離宮改造計画 こぼれ話

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:422

真夏の夜に降りよる雪

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

問題の時間

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

【完結】君を守るのが俺の使命・・・2度は繰り返さない。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:2,388

処理中です...