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第3章 back to school 青春の甘い楽園

第61話 女子旅

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 クリスマスも終わり、年の瀬が近づいてきた頃、依頼も少なくなり、皆は有給休暇を積極的に取っていた。雅文は冬休みの宿題に励んでいた。美夜子は、玲奈を誘って女子旅に行くとこにした。
「年の瀬やね。玲奈ちゃん、この事務所で半年やってみて、どうやった?」
「はい。探偵の仕事は、ホンマに非日常的体験が多くて、毎日が刺激的です。」
「今週の土日に、女子旅せぇへん?」
「えっ?玲奈とですか?」
突然の提案に、玲奈は少し戸惑った。
「ええ。玲奈ちゃんのことを、もっと知りたいなと思ったの。」
(玲奈のことを、もっと知りたい…。美夜子さんと女子旅、楽しそうやな…。)
玲奈は、赤面した。
「ちなみに、行き先はどこですか?」
「城崎よ。」
城崎とは、兵庫県豊岡市にあるエリアで、城崎温泉や城崎マリンワールドがある観光スポット。日本海側なので、冬は雪が降る。
「城崎、いいですね。」
「また詳細は伝えるわ。」
冬の寒さが厳しくなり、城崎は雪が積もっている。
(確か、玲奈ちゃん、車持ってたな…。)
翌日、旅行の詳細を玲奈に伝えた。

    そして、旅行当日。12月最後の土曜日。美夜子は準備を済ませ、阪急電鉄 神戸三宮駅の東改札口付近で待機。キャリーバッグに荷物を詰め、黒いコートを羽織っている。
(寒いわね…。)
神戸から城崎までは車で約3時間。玲奈は運転免許を持っており、かつ自分の車も所有している。この日の神戸市の気温は8℃。城崎は豊岡市にあり、日本海側に位置するため、この時期は大雪。時刻は10:00。しばらくすると、黒い軽自動車が来た。
「おはようございます。」
「おはよう、玲奈ちゃん。」
荷物を後部座席に置き、助手席に座る。
「今、城崎は晴れです。渋滞は避けられてると思います。」
「早めに行った方が行けるわね。じゃあ、よろしくね。玲奈ちゃん。」
「はい。じゃあ、行きますよ。」
10:15、三宮を出発。渋滞を回避して、中国道・山陽道に入り、順調に進む。
「玲奈ちゃん、車持ってたんやね。」
「はい。大阪で仕事していた時は、外回りする時に活用していました。」
「その頃の話、気になるわね。」
「フフ、それは城崎着いたら、たっぷり話しますよ。その時に使っていたものも、持ってきてますから。」
快調に進んでいると、吉川JCTが見えてきた。
「吉川JCT、三木市まで来たわね。」
「城崎やから、舞鶴若狭道やね。」
舞鶴若狭道へ進み、段々と山深くなってくる。
「山に入ってきたわ。」
「舞鶴の方やから、山に入ってますよ。」
外を見ると、雪が降ってきた。
「雪降ってきましたー!!」
「玲奈ちゃん、雪道は気ぃつけや。」
三宮を出発して2時間は経っていた。そろそろサービスエリアに寄って、昼食を取ろうと考えていた。春日JCTを通過し、北近畿豊岡自動車道に入った。しばらく進んでいると、サービスエリアが見えた。
「あれは、道の駅!」
「あそこに寄りましょう。」
左折してサービスエリアに入った。山東サービスエリアは、兵庫県朝来市に位置する。道の駅但馬のまほろばとも呼ばれている。駐車すると、奥からクラシックな車が2台入ってきた。黒いNISSANグロリアと白いフォルクスワーゲンと年季が入っている。
「旧車やな。めっちゃレトロ。」
「きっと、金持ちの殿方が乗ってるんやろうね…。」
2人は車を下りて、サービスエリア内へ向かう。横目でクラシックカーの運転手と同乗者がどんな人なのかを、チラチラと確認する。すると、黒いグロリアからはトレンチコートを羽織ったブラウンスーツに、テンガロンハットを被った男性と、丸いサングラスをした、どこかエキゾチックな風貌の男性が下りてきた。白いフォルクスワーゲンからは、黒いトレーナーに青いジーパンでサングラスをした男性と頭に青いバンダナを巻いた的屋風の男性が出てきた。
「クセ、スゴい…。」
「どんな人なのか気になるわね…。ちょっと、近づいて見ぃひん?」
探偵という職業柄、人のことを詮索してみたくなる。4人の男性達を観察しながら、サービスエリア内に入る。
「あー、腹減ったなー!!」
黒いトレーナーの男性は、開口一番にこう言った。
「但馬の道の駅か、但馬牛は絶対に食うときたいな。」
青いバンダナの男性は、道の駅に着いたので、名物は食べたいと思っている。恐らく4人は友人関係にある。
「ちょっと、みんな。昨夜はみんなのおかげで儲かったよ。そうや、ちょっとゲームせぇへんか?」
ブラウンスーツの男性は、この4人のまとめ役だった。アタッシュケースから、こっそり取り出した札束を懐に入れていた。
「ゲームって?」
「男気じゃんけん。」
「あー!!「「とんねるず」」でやってたあれかー!!」
エキゾチックな風貌の男性は、噛んでいたガムを飲み込み、会話に加わる。
「マッコーイ!!!」
「俺は、石橋貴明だぜ~!」

    先に中に入った2人は、お土産屋やフードコートをぐるぐる廻っていた。
「但馬牛、いっぺん食べてみたいですね!」
「ランチだけで1000円は越えてるわ…。とりあえず、席に着く?」
ひとまず、フードコートの場所を取り、自動販売機で美夜子はココアを、玲奈はコーヒーを買って飲む。
「ふー、ココアは落ち着くわ…。」
「ブラックコーヒーは、無糖が美味しいです…。とりあえず、ランチどないします?」
「そうやね。そうや、さっき見かけたあの男性達、気になるわね…。」
「確かに、行きましょう。」
2人は飲み物を飲み干し、4人の男性達を探す。彼らは、レストランに着き、何か話し込んでいる。
「俺は但馬牛ステーキとハンバーグセットにするわ。」
「但馬牛ステーキとハンバーグセットが2人、自分は但馬牛焼き肉丼。」
青いバンダナの男性が、メモを取る。最後にブラウンスーツの男性の注文を聞く。
「私はローストビーフ丼にしようか。」
「はいはい。じゃあ、男気じゃんけんと行きますか。」
そこに、美夜子と玲奈が現れた。
「さっき、クラシックな車で来られた方達ですよね?あの旧車カッコ良かったですよ~!こんなダンディな人達が乗ってたんですね。」
「ん?ダンディ?お目が高いな~、お姉ちゃん。」
「こんにちは、私は音無玲奈と言います。探偵です。」
「同じく、探偵の桐島美夜子と言います。」
ブラウンスーツの男性が口を開いた。
「探偵、ほう。可愛らしいお嬢さん達やな。私は、マジシャンの冴島諒。どうや、お嬢さん。ランチをかけて男気じゃんけんをしないか?ここでは最後に負け残った人が払う。」
「2人の注文も聞いとくね。」
美夜子と玲奈は但馬牛ハンバーグにし、これで6人分総額11150円。
「いくぞ~!せーの、男気じゃんけん、じゃんけんホイ!!」
4人はグーを出し、玲奈と黒いトレーナーの男性はチョキを出した。
「あら、玲奈ちゃん、残ったわね。」
「玲奈、残った~。」
「お嬢ちゃん、俺と勝負や。」
玲奈と黒いトレーナーの男性との一騎打ち。
「いくぞ~!せーの、男気じゃんけん、じゃんけんホイ!!」
玲奈はパーを出し、彼はグーを出した。
「玲奈の勝ちや。」
「マジかー、金あらへんなー。」
困り顔の彼を見て、冴島はハンカチを取り出し、指パッチンをした。
「ホラ、2万円。」
「おー、ありがとう。」

 その後、一同は注文した料理にありつく。
「いただきまーす!」
美夜子と玲奈にとっては、男気じゃんけんのおかげでただ飯としてランチをいただけ、彼らにとっては、一回りも若い女子と一緒にランチ出来るというWin-Winな結果となった。
「まさか、こんな可愛い娘達とテーブルを囲めるとはな。」
「ホンマや、昨夜、麻雀で勝って、賞金手に入ってからついてるわ~。」
黒いトレーナーの男性は、上機嫌な様子でステーキを食べる。
「賞金、おじ様は何のお仕事をしてらっしゃるの?」
「俺はな、プロの雀士や。改めて、俺は雀士 所沢昭二。」
「雀士、渋いわね…。」
「おじさん、玲奈にも、一口頂戴。」
「はい、あーん。」
彼は、玲奈にステーキを食べさせる。
「あーん。ん~、美味しい~。」
「ん~!」
なぜか彼は、玲奈に寄り掛かった。楽しい時間はあっという間に過ぎ、一同はサービスエリアを後にする。
「じゃあね。2人共、大物になれそうやな…。また会おうな。」
マジシャンの冴島は、去り際に呟いた。
「2人の旅の無事を祈って。」
2人の頭を優しく撫でた。
「ナデナデしてもらった~。」
「ダンディな殿方…。素敵…。」
そこから、車を走らせること1時間、14:30に城崎に到着した。宿泊先は予約済みで、天望苑という旅館。チェックイン開始を待ち、15:00にチェックイン。部屋はスタンダードな和室で、アットホームな雰囲気があり、女性は岩盤浴無料など、女性向けのサービスが充実している。
「ええ所やね。」
「はい。」
荷物を置いて、この後の計画を立てる。城崎温泉の名物は外湯巡り。7つの外湯がある。
「外湯は行きたいです。」
「7ヶ所あるといっても、外は雪やし、1ヶ所にしましょう。」
現在の時刻は15:20。夕食は19:00。時間はたっぷりある。浴衣に着替えて、散策することにした。旅館で浴衣をレンタルし、各自で着る。
「雫さんから貰ったモンやけど、和服には褌やね。」
「本格的ですね。」
着替えを済ませ、冬の城崎温泉に繰り出す。和風建築の旅館が建ち並び、温泉街としての風情が漂う。かの「小説の神様」と言われた文豪 志賀直哉の「城の崎にて」という小説の舞台にもなっている。
「雪降ってますね。」
「そうやね。タイムスリップしたみたい。」
冬の日本海の寒さは厳しく、冷たい北風が吹く。
「寒い~。」
「和服で暮らして頃は、ホンマに寒かったんやろうね…。」
「美夜子さん、温泉どこにします?」
外湯で目をつけたのは、美人の湯と呼ばれる「御所の湯」。但馬の山をイメージした露天風呂が名物。中に入って、お金を払い、脱衣所へ向かう。
「冬の露天風呂とか楽しみですね。」
「そうやね。」
浴衣を脱いで、褌を外し、一糸まとわぬ姿で温泉に入る。かけ湯をしてから、椅子に座って頭と身体を洗う。先に後輩の玲奈が、美夜子の頭と身体を洗う。
「改めて見ますと、美夜子さん、良い身体してますね。」
「そう、ありがとう。」
玲奈は自分の身体に石鹸を塗り、背後から抱き着いて擦り合わせる。
「気持ちいいですか?」
「そういうのは、福原でしなさい…。」
今度は美夜子が、玲奈の身体を洗う。先程と同じような感じで行なった。
「美夜子さん、玲奈よりオッパイ大きい~。」
「フフ、大きいオッパイは好き?」
「ハイ、大好きです…。」
身体を洗い終え、露天風呂に浸かる。雪と満月が温泉に映える。ゆったりとくつろぐ2人。
「いいわね…。今夜は満月よ…。」
「あ~、気持ちいい…。」
仰向けで浮かぶ玲奈、秘部の毛が湯の中でユラユラと泳いでいる。
「玲奈ちゃん、毛が泳いでいるわ。」
「ちょっ、美夜子さん!アソコ見んといて下さい!」
赤面する玲奈。満月の下、2人の少女の裸体が絵になる。ぷるぷると揺れる乳房、桃のように豊満な尻、そういったものが三位一体となり、20代という年代の大人になっている中で、どこか思春期の少女のような心持ちがまだ残っている、純情と耽美なエロチズムが表れている。玲奈は岩場に座って、グラビアアイドルのようなポーズを取る。
「中々セクシーね。」
「玲奈よりもオッパイ大きい…。立ち姿だけでもセクシーです…。」
外湯を満喫し、風呂から上がった。

    浴衣に着替え、外に出ると、雪が降っていた。柳の枝に雪が降り積もり、街灯に照らされ、これもまた絵になる。
「泉鏡花、志賀直哉といった文豪が、訪れたのも分かるわ。」
「文豪詳しいんですね。」
旅館に戻り、お待ちかねの夕食。城崎名物の蟹づくしで、蟹刺身・蟹鍋・焼き蟹と盛り沢山。
「蟹美味しい~!!」
美夜子は生物が苦手なので、蟹刺身は玲奈に食べてもらった。
「冬のごちそうやね。」
「生は甘くて最高です。」
蟹を満喫し、夜も深まってきた。部屋に戻ると、布団が敷いてあった。2人は寝間着の浴衣に着替え、布団に座る。
「何かドキドキしません?」
「女2人で布団の上…。何、想像してるん?」
後ろには、玲奈が持参した紙袋。何が入っているかは、まだ分からない。玲奈が探偵になる前は、秘書をやっていたと言っていたが、その時のことや自分と出会うまでのエピソードが気になり始めた。
「玲奈ちゃん、探偵になるまでの昔話、聞かせてくれへん?」
突然の告白に、少し戸惑ったが、すぐに落ち着き払って答えた。
「いいですよ。玲奈の昔話、お話しますよ。」
色気と可愛さを兼ね備えた玲奈の、探偵になるまでのエピソードとは…。
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