上 下
54 / 189
第3章 back to school 青春の甘い楽園

第53話 Show Time

しおりを挟む
    福岡爆徒を撃破し、意気揚々と戻ってきた雅文は、9月下旬の文化祭に向けて精力的に練習に励んだ。
「こういう感じやな。ダンスって、俺が最後にこうビシッと決めるんやな。」
もう既に配役は決まっており、舞台に出るのは36人中20人。雅文は主人公を支える脇役。主人公は由香里。ダンスのパートも本番までみっちりと練習を重ねた。そして、9月下旬、文化祭本番を迎えた。雅文達のクラスは、3番目に劇を披露する。本番直前、暗幕の内側で準備をし、皆で円陣を組む。
「とうとう来ました、本番!ここまでやってきたことを、全て出しましょう!」
委員長の里香が指揮を執り、全員の士気を高めた。

2年C組「JK☆魂」
これは、アイドルという夢に向かって、青春を駆け抜けた女子高生の物語である。学校の近くにある公園で、1人の女子高生がダンスの練習をしていた。
「これで、こうやって、最後はこれで決める。」
主人公の由香里は、アイドルに憧れている娘で、連日ダンスや歌の練習に励んでいた。そこに1人のハットを被った黒スーツの男が、ムーンウォークをしながら現れた。
「えっ、誰?」
男は口を開いた。
「君、アイドル目指してるんやね?やったら、俺も君についてきていいかい?」
突然の告白に、由香里は呆気にとられた。
「アイドル目指してるけど、お兄さん、そんなに芸能界は甘くないで?何か出来るん?」
半信半疑の様子の由香里に、彼は冷静にかつ自信満々な様子で切り返す。
「ええやろう。そこまで言うなら、俺のパフォーマンスを見てくれ。」
指パッチンをすると、ステージが暗転し、彼にスポットライトが当てられる。静寂を破るように、往年の洋楽が流れる。マイケル・ジャクソンの「Smooth Criminal」で、かつての彼を彷彿とさせるキレのあるダンスで、観客を魅了する。サビの所の、45度の角度でピタッと止まる振り付けもビシッと決めた。曲が終わり、皆が拍手を送る。
「カッコいい、お兄さん、名前は?」
「俺か、俺は神田雅文。君は?」
「私は、山本由香里。よろしくね。」
「由香里ちゃん、また会えそうやね?会えてよかった。未来のシンデレラ、アァウ!!」
決めポーズをして、颯爽と去った。由香里は1人、彼に惚れて立ち尽くしていた。
(ハァ~、カッコイイ~。)

 舞台が切り替わり、由香里と他の女子達が来るダンスのアジア大会に向けて、レッスンに励んでいた。
「ハイハイハイハイ、そうそう、その調子!」
リーダー的存在の里香が、全体をまとめる。チーム名は「Blue Girls」。メンバーは7人。

Blue Girls
リーダー 里香
メンバー 由香里
     久美子
     可奈
     桃子
     れいな
     美穂

レッスン中の様子を見守るコーチの詩織。いい雰囲気でダンスレッスンに臨んでいる。アジア大会に出るには、まず国内の選考会をクリアしなければいけない。皆はそこに向けて頑張っていた。しかし、大会前日、美穂が怪我をしてしまい、人数が足りなくなってしまった。
「ごめんなさい、私のせいで…。」
「参ったわね…。代役を探さないと…。」
困惑するコーチに、由香里がある提案をした。
「コーチ、私に提案があります。」
「提案?」
由香里は、この提案をコーチに話した。
「成程ね。頼むわ。」
「はい!」

 その夜、由香里は公園で独り黄昏る雅文を見つけた。
「こんばんは。」
「あっ、君はいつかの…。」
「あの、頼みがあるんですけど…。」
「どないしたんかな?」
心理描写として、2人にスポットライトが当てられる。
「明日、ダンスのアジア大会の国内予選があるんやけど、1人怪我してもうて…。せやから、無茶言うてもうて、あれやけど、雅文さんに出てもらってええ?」
無茶なお願いだったが、雅文は二つ返事で頷き、
「あぁ、ええよ。俺も昔はダンサーを目指してたんや。せやけど、怪我が断念してもうた…。それでも、俺はダンサーの夢を追いかけて、怪我が治ってからは密かに練習を続けてた。今回、まさかこんな感じでチャンスが舞い込んで来るとは思わんかった。黄金の馬車が今、俺の目の前におる。そこに飛び乗らせてくれへんか?」
夢を追う少女と夢敗れたが、再び夢を追いかけようとする青年が意気投合した。
「って、ことはOKてことですか!!」
「あぁ、俺も夢見させてくれ。」

    翌日、雅文も加わり、アジア大会の予選に挑んだ。曲は欅坂46「不協和音」。ピアノの伴奏から、徐々にアップテンポとなり、センターの里香が拳を前に出す。欅坂46を象徴する1曲で、2017と2019年度のNHK紅白歌合戦が披露された。魔力が強すぎて、センターの平手友梨奈や志田愛佳、鈴本美愉がステージで卒倒した魔曲でもある。黒いドレスに身を包んだメンバーに交じり、1人黒スーツの雅文もキレのあるダンスを見せる。Aメロのサビの手前で、里香が、
「僕は、嫌だ」
と決めた。大サビの出前で、皆が倒れ込む。調和とバラバラを表している。ここでは、雅文がクールに、
「僕は、嫌だ」
と決めた。センターの里香が欅坂46の平手友梨奈を彷彿とさせる。由香里と雅文のコントラストが、欅坂46のかつての「ザ・クール」(志田愛佳・渡邊理佐)を思わせる。このダンスでアジア大会の出場権を獲得した。アジア大会の会場は、韓国。アジア大会は、日本・韓国・香港の3チームで争われる。

韓国
Red Assassin
リーダー 萌那
メンバー 美優
                 沙耶
                 香織
                                                 
香港
Dragon Lady
リーダー 翔子
メンバー 愛美
                 菜々美
                 弥生
                 穂香
                 真理
                 ゆりあ

審査員 美優紀
             彩香
             葉子

K-Popの本場 韓国に乗り込んだ雅文達。会場を下見していると、韓国チームのコーチ兼プロデューサーの小太りな女性が現れた。サングラスをかけ、いかにもプロデューサーという出で立ち。
「アニョハセヨ、皆様。ワタクシハ「「Red Assassin」」プロデューサーのJK パクパクと言イマス。」
メンバー達は、K-Popアイドルをイメージした露出の高いセクシーな服装をしている。その中でリーダー的存在の娘は、ヘソを出し、かなりセクシー。
「私は、萌那。よろしく。」
「萌那?久しぶり!」
「由香里、貴女もここまで来たのね。だけど、勝つのはワタシ。」
強気な彼女は、そう言って立ち去った。一方、香港チームのコーチは、黒いカンフースーツに身を包んで登場。 
「ネイホウ!我是 桃李李。蹴散らしてクレル!」
審査員達が紹介され、順番が決まる。

No.1 香港 Dragon Lady
テーマ曲 ジャッキー・チェン「英雄故事」
リーダーの翔子は、黒いカンフースーツに身を包み、センターに立つ。その横で、ミニスカポリスに扮した愛美。力強くアップテンポな伴奏が始まり、他のメンバーはアクションシーンを再現する。翔子は広東語の歌詞を完コピで熱唱し、愛美らはジャッキー・チェンの名作「ポリスストーリー 香港国際警察」のアクションシーンを披露。飛び蹴りに失敗し、腰を強打した愛美だったが、腰を押さえながらもやりきった。

No.2 韓国 Red Assassin
テーマ曲 BLACKPINK「boombayah」
K-Popアイドル BLACKPINKの大ヒット曲。セクシーな振り付けで、会場を魅了する。個人のパートでは、美優・沙耶はセクシーで少し官能的なダンスで皆をメロメロにし、萌那・香織のダイナミックなダンスで熱狂を生む。ライブさながらの熱狂で会場を魅了した。

No.3 日本 Blue Girls
テーマ曲 モーニング娘。「恋愛レボリューション21」
モーニング娘。全盛期のヒット曲。「めちゃ×2イケてる!!」の岡女で披露された。今度は、雅文は岡村隆史のポジションで登場、里香と由香里は、安倍なつみとゴマキのポジション。そもそも、女子校で女子達に交じってダンスするということ自体が、非日常的体験。雅文はアドレナリン全開で気持ちよくなり、ラップパートでは、岡村隆史のようにセンターに立って踊った。大サビの手前の所は、里香と由香里が歌った。
「この星は、美しい」
「2人出会った地球」
そこに雅文も現れ、2人を交互に見つめる。ラストパートでは、爽快感すら漂う雅文は最後までやりきり、センターで岡村隆史がやったコマネチも再現した。

最終結果で2位となり、優勝を逃した。ラストシーンで、雅文が里香と由香里に別れを告げる。
「会えて良かった。俺もアジアで夢見れた。ありがとう。」
「雅文さん、またアジアで会いましょう。」
ここで終了。演劇は3位に輝いた。

    この経験で雅文は自信をつけ、探偵の仕事もサクサクとはかどった。体育祭でも、皆のエースとして、健闘した。
「学年種目の、大縄跳びや。皆行くで!」
「大丈夫やから、俺がついてる。」
「由香里もおるからね。」
雅文・里香・由香里で決めポーズ。
「ぱーてぃーちゃんのヤツやん…。」
大縄跳びでは、結束して跳び、学年種目を制した。リレーでは、1位と大きく差をつけられ厳しい状況となった。
「頑張れー!!」
「里香ちゃん、繋いで!!」
ハンデのため、雅文は他の生徒と5m距離を開けている。何とか雅文に繋いだ。
「頼んだで!!」
「任せろ、シンデレラ。」
(あぁ~!カッコいい~!!)
里香をはじめ、他の生徒もメロメロになった。かつて神戸広陵でインターハイに出場したことのある雅文は、女子校でも遺憾なく発揮。20mも付けられた1位との差を瞬く間に詰めた。
(見えた!1位!)
1位を射程範囲に捕らえた雅文だったが、相手は陸上部のエース。しかも、長距離の選手。サッカー経験者の雅文だが、瞬発力では上回られた。結果は2位だったが、皆に拍手で迎えられた。最終結果は学年1位。学年優勝を果たした。後日、雅文が所長から、あるDVDと段ボール箱を受け取った。
「えー、皆様にお見せしたいものがございます。」
皆の視線を集めて、DVDを再生する。そこには、茶色いスーツに身を包んだダンディーな紳士が映っていた。
「皆様、こんにちは。私は中村探偵事務所 所長の中村景満と申します。いつも雅文がお世話になっております。雅文から話を聞きました。皆様、体育祭の学年優勝おめでとうございます。」
所長の話に、一同は真摯に耳を傾ける。
「私からのささやかなプレゼントだ。みんな、これからも勉学に励んでくれたまえ。See you my angel。」
DVD終了後に、雅文が段ボールを取り出し、中を開けた。
「所長からの餞別。レモンティーです。甘酸っぱい青春と女子校という女の子だけの甘い楽園、その中の甘美な思い出の味になるやろう。召し上がれ、スイートハニー。」
皆はレモンティーを受け取り、乾杯していただく。
「あっ、これは他のクラスにはナイショやで。」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

20BIRTHDAYーLimit

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

包丁一本 1(この家に生まれて)

青春 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1

ダイアリー・ストーリー

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

王太子妃殿下の離宮改造計画 こぼれ話

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:422

真夏の夜に降りよる雪

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

問題の時間

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

【完結】君を守るのが俺の使命・・・2度は繰り返さない。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:631pt お気に入り:2,388

処理中です...