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第3章 back to school 青春の甘い楽園

第49話 福岡爆徒

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    情報と依頼を両方手に入れることが出来、雫はホテルの部屋で、2人が来るのを待ちながら、嬉々として持参したパソコンで報告書を作成する。
「無事に、探し人の関谷由梨っていう娘を見つけられたのね。それと、その娘から依頼を取ることが出来た。上出来やね。」
報告書を仕上げ、パソコンのUSBを抜く。USBを持って、ネットカフェに行き、そこのパソコンでデータを引っ張り出し、プリンターで印刷する。
「よし、OK。」
用意した封筒に報告書を入れ、郵便局へ持っていき、郵送してもらう。ホテルに戻り、所長に1度電話を入れる。
「もしもし、所長ですか?私、雫です。」
「おお、雫か?調査の方はどないや?」
「探し人の関谷由梨さんに、会うことが出来ました。その件について、雅文と玲奈と話をして、依頼人の古賀和昭さんに調査報告書を送りました。」
「順調やな。」
「それと、所長。新たに関谷由梨さんから、ストーカー対策の依頼が来ました。なので、目安として木曜日まで滞在しても、よろしいでしょうか?」
「ああ、構わんよ。ということは、金曜日の朝に帰ってくるんやな。なら、金曜日は3人共、休みにして、土曜日に出勤ということにしよう。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「ああ、引き続き、調査頑張りたまえ。」
所長に報告を済ませ、ここからは由梨の依頼に応じる。しばらくして、2人がホテルに着き、この後の段取りを確認。18:30にホテルを出て、再び由梨の家に向かった。

    19:00に家に到着した。先程とは打って変わって改まった空気になり、少し緊張が走る。ソファーに座り、由梨とその両親と向かい合う。
「改めまして、こんばんは。私は神戸の中村探偵事務所の烏丸雫と申します。」
「同じく、神田雅文です。」
「音無玲奈です。」
ソファーの中央に由梨が座り、左に父親、右に母親が座っている。父親は白髪まじりの短髪で、髭を蓄えた学者のような風貌をしている。母親は黒髪ショートで、学者よりかは教師のような雰囲気がある。
「こんばんは、神戸からはるばる福岡まで来ていただき、ありがとうございます。私は由梨の父の関谷京介と申します。」
「母の関谷紗良と申します。」
依頼内容については、由梨が両親に全て説明してあり、この後はスムーズに進行出来る。この場は、2人の上司である雫が回していく。
「今回、福岡まで来たのは、神戸で探し人の依頼を受けたからです。依頼人は由梨さんの同級生で、福岡に戻ったら、またお付き合いをする、と約束を交わしていたようで、そのことを確認したいということでした。本日、こうして由梨さんに会うことが出来ました。その後、雅文が由梨さんから、ストーカー対策の依頼を受け、ここへ来ました。」
この話を聞いた父親が、ボソッと口を開いた。
「ストーカーのことについては、私も由梨から聞いています。隠し撮りした写真が送られたり、ダークウェブで個人情報がバラまかれているという話を。」
雅文が、由梨に質問する。
「由梨ちゃん、ストーカーについて何か心当たりあらへん?」
「心当たりで言うたら、ストーカーしてる奴の顔は見たことあるけん。確か、福岡大学を退学になった奴やけん。」
「面識があるん?」
「同級生で、福岡大学におった時に色んな女の子に、しつこく粘着してきて、それでウチにも寄ってきたけん。ある時、ストーカーやり過ぎて、警察沙汰になって退学になったけん。」
ストーカーとは、面識があり、同級生だと言うことが分かった。ストーカー対策をして欲しい、と父親が正式に依頼をし、前金+調査料として20万円受け取った。
「どうか、娘を守ってください。」
「分かりました。」
「由梨ちゃん、私がついてるから。」
「雅文君、ありがとう。」

    福岡滞在1日目の夜は、博多の屋台村で、博多ラーメンをいただいた。バリカタと呼ばれる硬い細麺に、濃厚な豚骨スープがよく絡み、絶妙な味わい。
「本場の博多ラーメンは、美味しいわね。」
「濃厚やな、これがバリカタ豚骨やねんな。」
「屋台っていうのが、風情ありますね。」
博多ラーメンをいただき、2人はホテルに戻る。雅文は、東公園で文化祭の演劇のリハーサルに励んだ。1日目はこうして終わった。

   福岡滞在2日目、3人はホテルの喫茶店で朝食をいただき、それから、彼女の通っている福岡大学に向かった。昨日と同じように、受付を通り、来客として入る。大学の就職キャリア支援課に行き、由梨が通っていた頃の学生について話を聞く。
「お忙しいところすいません。我は神戸の中村探偵事務所から来ました烏丸雫と申します。」
「同じく、神田雅文です。」
「音無玲奈です。」
3人は奥に案内され、席に着いた。しばらくすると、スーツ姿の年配の男性が来た。
「お待たせしました。神戸からはるばる福岡までお越しいただきありがとうございます。私は就職キャリア支援課の、青野と申します。今回はどういった案件でしょうか?」
「はい、当校の大学院に通っている関谷由梨さんから、福岡大学に在籍していた頃の同級生にストーカーをされており、ストーカー対策という形で依頼をいただきました。由梨さんは、その同級生と面識はあり、名前も聞き出しました。」
「ストーカー、何かあったけんね。福岡大学でストーカーして退学になったのがおった。名前を言ってくれたら、思い出せると。」
「名前は、福崎裕哉(ひろや)と言います。」
「あ、ああ!思い出したけん!」
彼は思い出したかのように、あれこれと情報を話してくれた。福崎裕哉は、福岡大学人文学部文学科に在籍していた学生で、茶髪にキザなセリフとチャラチャラした雰囲気があった。彼は、ストーカー気質があり、一度、気になった娘がいると、その娘に執拗に付きまとい、情報を盗み出して、それをネタにゆすって下に付かせていた。ある時、女子高生に対する度を越えたストーカーと暴力で逮捕され、退学となった。逮捕はされたが、不起訴処分となり、前科は付かずに釈放となり、現在は夜の街で仕事をしているとのこと。情報を得ることが出来、3人は満足した。
「情報ありがとうございます。お忙しいところありがとうございました。」
「いえいえ、それと探偵さん方。風の噂で、彼は反社会的勢力とのつながりがあると聞いたけん。充分気を付けると。」
3人は福岡大学を後にし、彼が働いている繁華街で聞き込み調査をすることにした。JR博多駅に戻り、ここからは福岡市の繁華街エリアである博多・中州・天神で、それぞれ調査を行う。
「この3エリアが、福岡市の繁華街よ。ここに絞り込んでいくわ。」
「誰がどこに行くか、決めましょう。」
ジャンケンの結果、雫は天神、雅文は博多、玲奈は中州に行くことが決まった。時刻は12:30。ターゲットの福崎裕哉に勘付かれないように、調査する。昼食は各々でいただく。

 JR博多駅周辺で調査を行う雅文。夜の店を中心に聞き込んでいく。しばらく歩くと、ある店に目が留まった。
「あっ、ここは…。」
以前、神戸三宮で見つけたLoft101というバニーガールがいるガールズバーで、九州では唯一、福岡にある。店に入り、聞き込んでみた。
「すいません。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」
「誰と?見慣れん顔やけんね。」
「私は、神戸の中村探偵事務所で探偵をしております、神田雅文と申します。この辺りで、福崎祐哉という男が勤務していると聞いたのですが、何かご存知でしょうか?」
「福崎…。あぁ、アイツか!アイツ何ばしよっと?」
「ご存知でしょうか?」
「知ってますとも。立ち話もなんやけん。今は間が空いとるから、中に入ってください。」
店長らしき若い男性に、案内されて店内に入った。その頃、天神エリアを廻っていた雫は、夜の店が建ち並んでいそうな、親不孝通りと呼ばれる大通りで聞き込んでいた。
「親不孝通りといっても、あまり如何わしい感じやないな。」
聞き込み続けて、腹が減ったのか、福岡名物の一口餃子をいただいた。中洲エリアを廻っていた玲奈は、ガールズバーなどで情報収集をしていた。
「この福崎祐哉という方を、ご存知でしょうか?」
「あぁ、コイツ知ってる!」
「この辺じゃ、有名なストーカーやけん。」
福崎裕哉は、中洲でも名が通っており、ホストとして博多で店を持ってから、羽振りが良くなり、度々、ガールズバーなどに来ていた。女の子に変なことをし、出禁になることもしばしばあった。
「とんでもない男ね…。キモい…。」

    その頃、Loft101で情報を得た雅文は、店長から話を聞いていた。福崎裕哉は、博多にホストクラブを持ち、経営者として生活している。福岡大学退学後に、博多のガールズバーでアルバイトをして、経営ノウハウを学び、その店の店主のコネで、自分の店を持った。だが、彼は女癖が悪く、他の店で、堂々とセクハラ行為をし、出禁になっていた。
「この店にも、来てたんですか?」
「はい。アイツはバニーガールの尻を触りまくったり、堂々と胸を揉んだりとセクハラ行為を度々行っていました。そのせいで、女の子が辞めてしまい、私はアイツをブラックリストに登録しました。それ以来、アイツは来なくなりましたが、あの去り際の捨て台詞が今も引っ掛かるけん。」
「何と言ったんですか?」
「「お前ら、俺のバックには、福岡爆徒がおるけん。捻り潰されろ」とね。」
福岡爆徒というワードに引っ掛かった雅文は、更に質問を続けた。
「福岡爆徒って?」
「あぁ、この辺を縄張りとする暴走族やけん。7人と少数だが、かなり恐ろしいと評判やけん。」
福岡爆徒というワードを、手帳に書き留めた。情報を得られた雅文は、雫と玲奈にスマホで報告した。15:30にホテルに戻り、その後の段取りを確認。
「ストーカーの情報は得られたわね。玲奈ちゃん、今日の進捗を所長に報告、それと由梨ちゃんのガードを頼むわ。」
「分かりました。」
「雅文は、ウチと一緒に博多の夜の店で、情報収集。」
「分かりました。」

    その夜、2人は博多に行き、玲奈はホテルで留守番。玲奈は、所長にここまでの進捗を、電話で報告した。
「もしもし、こんばんは。所長。玲奈です。」
「お、玲奈ちゃん。こんばんは。どうや、ここまで?」
「昨夜、引き受けた依頼ですが、ストーカーの正体をある程度は掴めました。」
「ほうほう。」
「なので、私は依頼人の下に行きます。」
「分かった。気をつけたまえ。」
「はい。」
そのまま、次は由梨に電話をかける。
「もしもし、こんばんは。探偵の玲奈です。」
「あっ、玲奈さん。こんばんは。」
「実はね、貴女のことをストーカーしていた男を、特定したの。」
「えっ、そうなんですか?」
「ええ、福岡大学で過去の卒業生について教えてもらったの。そしたら、福崎裕哉という男が浮上した。」
「福崎、アイツやけん…。気持ち悪い…。」
由梨は今夜、バイトがある。バイトの時間を聞き出し、張り込みという形で見守ることにした。
「ありがとうございます。」
「もう少ししたら、向かうから。」

 夜の博多は、屋台村が営業開始し、仕事帰りのサラリーマンなどで賑わい、昼とは全く別の様相であった。ナイトクラブ・ガールズバーなどが建ち並ぶ路地裏に行き、周辺で張り込む。
「大都会やな。同じ九州でも、ウチは沖縄がええわ。」
「沖縄、一度は行きたい…。」
その後、夕食がてらに近くの安い居酒屋に行き、カウンター席で聞き込み。福岡では、焼き鳥以外のものも串焼きでいただく。調査中なので、ドリンクはウーロン茶。
「ねえ、ご主人。この辺りのお店の人達がここに来ることがありますか?」
「あ、ああ。ここはそういうお店の人らに贔屓してもらっとるけん。よう来てます。」
「その中で、福崎裕哉という男が来なかったですか?」
写真を見ると、店主はすぐにピンときた。
「ああ、この方。よく来てると。ただ、得体の知れない雰囲気と言うか、チャラチャラして、危ない感じがあると。」
「店名はご存じですか?」
「確か、「「Love Gate」」とかいうホストクラブの店主をしとる。ナルシストで気持ち悪い男やけん。」
「分かりました。ありがとうございます。」
情報と食事をいただいた2人は、そのホストクラブに向かった。店の裏側を覗くと、店主の福崎裕哉が何やら黒服の男と話をしていた。雫は盗聴器を置き、会話を盗聴する。
「今日の昼間、この辺りをウロウロしていた探偵がおったと。」
「探偵?まさか、由梨のヤツ、俺がストーカーしてることに勘付いたと?」
福崎は茶髪で細身、右手に髑髏の指輪をし、黒いスーツに身を包んでいる。もう一人は、スキンヘッドの小柄な男で、この店の雑用をしている。福崎からは「豆大福」と呼ばれている。
「そうやと思います。確か、神戸から来たとか…。はるばる福岡に乗り込んで来た訳やから、只者じゃなか。」
怯える雑用を尻目に、福崎は高笑いした。
「ハッハッハッ!豆大福、何ば言いよっとね!探偵なんかな、俺のバックの福岡爆徒に潰してもらえば良か。それにしても、由梨のヤツめ。探偵に依頼するとは…。必ず、捕まえて俺のものにするけん。断ったら、地獄へ送ると。」
「地獄って?」
「決まっとるけん。犬鳴山の旧犬鳴トンネルに送って、そこで犯して生け贄にすると。ハッハッハッ!」
夜の闇に、高笑いが響いた。
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