Pieces of Memory ~記憶の断片の黙示録~

橋本健太

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第3章 back to school 青春の甘い楽園

第46話 探し人

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   夏が終わり、雅文の学校生活は2学期を迎えた。夏休みの宿題を全て提出し、学校生活と探偵業務に精を出した。課題テストの日は、仕事が休みだったので午後からも学校で授業を受けた。昼休みに里香達と夏休みの思い出について話した。窓が開いていたので、昼下がりの風が入ってくる。
「雅文さんは、夏休み何されてたんですか?」
「ああ、夏休みは探偵の仕事してた。それと、ちょっと高校水泳の全国大会観に行った。」
高校水泳という、高校サッカー選手権や高校野球選手権に比べると、マイナーな大会を観に行ったことに、疑問が湧いた由香里は雅文に質問した。
「水泳ね、女子の水着姿見たんですか?」
由香里が少し囃し立てるような口調で聞いてきた。雅文は、お茶を一口飲み、一息ついて答えた。
「ちょっとね。去年の夏に出会った倉橋沙耶香っていう娘を、観に行ってた。」
「倉橋沙耶香って、あのインターハイに出た女子高校スイマーの!?」
「うん。」
「へえ~、雅文さん。意外と肉食系なんですね~。」
由香里に煽られ、雅文は少し赤面する。そこに3人程のグループが教室に入ってきた。1人は茶髪ショートで長身の、少し派手な感じの娘で、その背後に黒髪の女子が取り巻きのようについてきた。少し近寄りがたい、どこか危険な雰囲気が漂う3人。例えると、ベトナム戦争を題材にした漫画「ディエンビエンフー」の「黒い三蓮花」のようである。3人は席に着くと、昼食を食べ始めた。
「暑いねんけど、ホンマに9月?」
胸元をおもむろに開けて、下敷きで扇ぐ茶髪の女子。何かスポーツをやっているのか、所々がっちりしている。彼女の名は、鬼塚萌那(もな)。大阪府出身。小学生の頃からサッカーをしており、INAC神戸レオネッサのユースチームに所属している。
「9月と言っても、まだ夏休みが終わったばかり。まだ暑いで。」
黒髪をポニーテールにしてまとめている彼女は、どこかミステリアスな雰囲気がある。彼女の名は、神宮翔子。兵庫県出身。灘区に住む。小説家を目指しており、性的なことに興味がある。
「おにぎりは~、鮭が王道やんね~。愛美の今日のおにぎりの中身は、何もない~!アハハハハハハ!!」
1人で喋って、1人で吹き出す彼女。名は、姫野愛美。兵庫県出身。西宮北口周辺に住んでおり、よく阪急西宮ガーデンズに行っている。変わった感じのぶりっ子である。個性的な3人のやり取りを雅文達は、遠巻きに眺めていた。

 雅文は、探偵特有の鋭い観察眼と分析力で、彼女達の関係を分析した。この3人の関係は、萌那がリーダー的存在で、翔子が参謀的役割、愛美は末っ子のような感じである。
「あの3人は、どういう感じなん?」
「あ、そっか。雅文さんは7月に来たばかりで知らんかったんや。あの3人は、クセがかなり凄くて、何かと話題になっている。悪い娘達では無いんやけど、強烈なキャラクターかな?」
この3人のことは、名字の頭文字を取って、「鬼神姫」と呼ばれている。食事を済ませた雅文は、自分の席のカバンに弁当箱と水筒を戻した。その時に萌那が、囃し立てるような口調で話しかけてきた。
「探偵さんは、女の子にモテまくりやね~。」
雅文は、静かに答えた。
「別に…。まあ、カッコいいと思う人はおるけどね…。」
「彼女おるん?」
タメ口で話しかける萌那に、落ち着いた口調で話し続けた。
「彼女というか、まあ、おるよ…。倉橋沙耶香という娘でね、8月にインターハイを観に行ったんよ。」
「キスしたん?」
「まあ、お互い裸になってキスはした…。」
「うわー、裸でキス?!ヤッチャってる~!」
お笑いコンビ「コロコロチキチキペッパーズ」のナダルの持ちネタで煽る。雅文は、動じることなく、彼女の目をじっと見つめ、何かを感じ取った。
「鬼塚萌那って言ったね。何かスポーツやってる?」
「ウチ?サッカーやってる。WeリーグのINAC神戸レオネッサのユースやで。」
雅文は、神戸広陵高校でサッカー部に所属していたので、サッカー経験者同士という共通点を得た。
「INAC神戸レオネッサか、あの澤穂希がいた所やね。グレートやな。」
「あんたも探偵でイケメンなんが、グレートやな。」
互いに拳を合わせた。週刊少年マガジンで連載されていた「GTO」の主人公 鬼塚栄吉がよくやっていたシーンである。
「萌那ちゃん、何か悩み事とかある?」
目をじっと見つめられ、萌那は少したじろぐ。と、同時に何かを隠しているかのように狼狽えた。
「べ、別に雅文さんには関係ないで…。」
やり取りはここで終わったが、これには何か続きがありそうだと雅文は確信した。

 ある日のこと、雅文が学校へ行っている間、玲奈が依頼人の対応をしていた。
「こんにちは。私は中村探偵事務所の音無玲奈と申します。お名前とご用件をお願い致します。」
「はい。古賀和昭(かずあき)と申します。用件は人探しですたい。」
依頼人は古賀和昭 24歳 自営業。黒いTシャツにジーパンというラフな格好をしている。
「行方調査ということですね。お探しの方は、どういった人ですか?」
「はい、写真があるたい。これやけん。」
彼は、リュックサックからアルバムを取り出した。どうやら高校の卒業アルバムである。高校の所在地は福岡とあり、彼が所々、九州方言で話している理由が分かった。アルバムを開き、探し人が映っているページをめくって指差す。
「この娘ですたい。」
「関谷由梨、という娘ですか?」
黒髪ロングのおっとりした感じの、品のあるお嬢様といった所の娘である。ここまでの話で、玲奈が分かったことは、この依頼人は福岡出身で、福岡から兵庫へ移り住んだ。そして、かつての同級生だった関谷由梨という娘を探している、ということである。では、なぜ彼は福岡から兵庫へ移り住み、今になって旧友を探しているのだろう。
 
    話はこうだ。依頼人の古賀和昭は福岡県福岡市出身。高校生の頃に、関谷由梨に出会い、恋愛関係を持った。彼の実家は、ラーメン屋で福岡市有数のラーメン激戦区である博多に店を構えている。彼は高校卒業後、調理師専門学校に進学。その後、神戸の一貫僂に就職。中華料理の勉強をし、日々仕事に励んでいた。ある日のこと、父が経営しているラーメン屋の売り上げが伸び、今度は中洲に2号店を構えるという連絡が来た。父は彼にそこで働いてほしいと、持ちかけ、彼も神戸で学んだことを活かしたいと思い、福岡に帰ることにした。
「その時に、彼女とした約束を思い出したと。」
「約束?」
高校3年生の冬、福岡市の繁華街 中洲にて。塾帰りの2人は、ウォーターフロントで夜景を見ながら佇んでいた。
「もうすぐ卒業やけんね。」
「あぁ。俺は由梨ちゃんに会えて良かったけん。」
「ふふ、そう言ってくれるやなんて嬉か。和昭君は、卒業後はどうすると?」
「俺は、調理師専門学校に行って、料理人になるんよ。」
「料理人?それは良かね。いつか私にも、作って欲しか。」
「必ずね。由梨ちゃんはどうすると?」
「私は大学に行って、学者になると。」
「学者?それは良か。じゃあ、お互いに頑張るけん!」
お互いに進路を語り、最後はある約束をした。
「和昭君、約束やけん。」
「約束?」
「高校卒業して、大人になって、また会えたら付き合うこと。」
「あぁ。約束すると。」
手袋を外すと、手に直接北風が当たる。かじかみそうな指を組んで、指切りをした。

    ロマンチックな話に玲奈も少しときめいた。
「中々、胸キュンなエピソードですね。」
「私は来月を目処に、一貫僂を退社して、福岡に帰るけん。やけん、その前に戻ってくることを、由梨ちゃんに伝えたい。」
「なるほど、分かりました。」
その後、調査料や調査期間の話をして終わった。雅文が出勤し、玲奈はこの話をした。
「福岡に行くことになりそうやな。関谷由梨?」
(どこかで聞いたことあるな…。誰やったっけ?)
この後の旅が、彼の記憶の断片を繋げることになろうとは、まだ知る由がなかった…。
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