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第3章 back to school 青春の甘い楽園

第44話 蘇った青春

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    リハビリに懸命に励んだことで、雅文は短期間で退院することが出来た。7月初めに無事に退院、雅文は仕事に復帰できた。復帰初日、雅文は所長に呼ばれ、デスクで1対1で話をした。
「雅文、退院おめでとう。よう頑張ったな。」
「はい。ご心配お掛けしました。」
所長は、好物のレモンティーを一口飲み、彼の退院祝いとしてミルクティーを渡した。
「退院祝いや。」
「ありがとうございます。」
雅文は早速、ミルクティーの缶を開けて飲んだ。ミルクの濃厚さと紅茶の風味が混じわり、上質な味わいが口一杯に広がった。
「はぁ…。これや、これ…。」
「美味いか?好物のミルクティーは?」
「はい。ありがとうございます。」
一息ついたのを見計らい、所長が本題を切り出す。
「今回の話やけど、雅文の失ってしまった青春の記憶。それを取り戻すために、私は色々と苦心し、交渉を重ねて、何とかして、その機会を確保することができた。」
「と、言いますと?」
「雅文には、高校に通ってもらおう。」
藪から棒の思わぬ一言に、雅文は飲んでいたミルクティーを吹き出しそうになった。青春の記憶を取り戻すために、高校に通う。まさしく、これは「back to school」である。
「この間で、JKビジネスと戦ったやろ?あの時の高校 神戸山手女子高校の校長に、掛け合ったみたんや。そしたら、恩返しということで快く承諾してくれた。」
その後の説明では、給料はいつも通り払われ、平日の午前中だけ学校に通い、課題や試験はしっかり取り組むという条件で、明日から始まるということになった。
「そういうことになった。仕事と学業にしっかり励め。」
「はい、ありがとうございます!」

    探偵としてのいつもの仕事を終え、帰宅した雅文。明日から女子校での「back to school days」が始まるので、雅文は置いてあった高校時代の体操服・水着、学校用のスーツと仕事用の私服の2種類を用意した。夕食時、両親にこの話をした。
「そうか、ええやないか。「「back to school」」とは、ロマンチックやな。」
「もう一回、高校生活送れるやなんて、ええやないの。いっぱい楽しみや。」
賛同してくれたことで、雅文自身もこの「back to school days」が楽しみになった。夕食後、部屋に戻った雅文が、スマホを観るとLINEが来ていた。
「沙耶香、久しぶりやな。」
昨年の夏に出会った倉橋沙耶香からである。どうやら事件をニュースで見て、雅文のことが心配になったのであろう。

2025年7月7日 
沙耶香
沙耶香「雅文さん、こんばんは。この間のニュース見ました。無茶なことしたんですね。」22:00 既読1
雅文「沙耶香、久しぶり。ちょっとね、髑髏城という反社会的勢力に喧嘩売って戦ったんや。」22:00 既読1
沙耶香「この間も、大阪で、JKビジネスやってる反社会的勢力と戦ったっていうニュース見ました。探偵って、危険が付き物なんですね。」 22:01 既読1
雅文「まぁ、探偵は反社会的勢力に狙われることもあるし、時には依頼人のためにソイツらに喧嘩を売ることだってある。今回は負けてしまったが、前回は勝った。」22:01 既読1
沙耶香「JKビジネスから女子高生達を救ったのは、カッコいいです。雅文さん、ナイトやな。」22:01 既読1
雅文「照れるよ。まぁ、今は退院して、訳あって高校に再び通うことになった。」22:02 既読1
沙耶香「「「back to school」」やな。ロマンチック~!雅文さん、高校生活楽しんでください。後、またこれから近畿大会あるので、応援よろしくお願いします!」22:03 既読1
雅文「あぁ、また会おうね。マイハニー。」22:03 既読1

ここでやり取りは終了。雅文は明日からの仕事+学校の掛け持ち生活に向けて、早めに眠りについた。翌朝、雅文はいつものように起床し、シャワーを浴びて髪形をセットする。通学用のスーツに身を包み、朝食にありつく。夏なので、ノーネクタイ半袖のクールビズである。ナップザックに、体育用の水着を入れ、リュックサックには、仕事用の私服と書類を入れた。準備を整え、家に出た。神戸山手女子高等学校は、神戸市営地下鉄県庁前駅近くにあり、雅文が住む北野エリアからは自転車で行ける。夏の心地よい風が吹き、雅文はあの頃を懐かしく思った。
(こんな感じやったんやろうな。高校時代…。何やったっけ?)
暫く自転車を漕ぐと、校舎に着いた。郊外に立派にそびえ立つ建物が、歴史を感じさせる。自転車を停め、校舎へ向かうと、制服姿の女子高校達がゾロゾロと登校してきた。盛夏ということもあり、制服は爽やかな水色のワンピースである。見とれながらも、雅文は事務室に向かい、そこでクラスの担任が来るのを待った。
(一体、どの学年に行くんや?1年生やと、15,6歳の娘らか。そこに入ると、俺は浮くな…。3年生やと、来年には終わってしまう。記憶を取り戻すには、1年は短い。2年は欲しい…。)
暫く待っていると、ガラガラと戸が開き、担任の先生らしき男性が現れた。面長で年は40代ぐらい、物静かな雰囲気がある。彼は雅文の正面に座り、自己紹介をした。
「おはようございます。改めまして、今日から私が君のクラスの担任として、担当する水谷慧(さとし)と申します。何卒宜しくお願い致します。」
物静かなトーンで挨拶をし、深々と頭を下げた。
「改めまして。私は中村探偵事務所の探偵、神田雅文と申します。所長と校長先生から事情は聞きました。こちらこそ何卒宜しくお願い致します。」
「早速だが、君のクラスは2年1組だ。私の担当するクラスだ。」
「はい。ありがとうございます。」
「みんなに名前を憶えてもらうには、インパクトが必要だ。何か考えてるか?」
「はい。それは準備してます。」
「では、8時30分にホームルームがある。そこで教室へ行こう。」
「はい。」

    時刻は8時30分、雅文は担任の先生に連れられ、2年1組の教室に向かっていた。今日から始まる「back to school days」。まず、先生が教室に入り、いいと言うまで廊下で待機。いつものように起立・気を付け・礼・着席を行い、そこから本題に入る。
「皆さん、おはようございます。今日は転校生が来ます。」
「えっ?ウソっ?」
「どんな人なんやろ…。」
少し教室がザワつく。いいと言われて、雅文が教室に入る。「GTO」をイメージしてか、サングラスをかけて登場した。黒板に名前を書き、一同の方を振り向き、自己紹介をした。
「皆さん、改めまして。今日から私が、このクラスの一員となる神田雅文と申します。」
サングラス姿に見合わず、礼儀正しい挨拶に一同の視線は釘付け。
「まさかの男の子?」 
「どんな子?」
雅文はサングラスをゆっくりと外した。
「よろしくお願いいたします。」
「わー!!」
「イケメンやー!!」
女子からの黄色い声援を浴び、雅文はまんざらでもない様子だった。
「君の席だが、そこだ。クラス委員長の深山里香の隣だ。」
そう言われて、雅文は彼女の隣についた。
「あっ、あの時の探偵さん?」 
「あぁ、久しぶりやね。」
「こんな所で会えるやなんて…。」
「何かの運命って、訳やったんやな。」
その後、雅文は他の生徒と同じく授業を受ける。この時期は、1学期期末テストが終わり、そのテスト返しなどが中心である。雅文は、各科目の教員からプリントを受け取り、それを使って学習するというスタイル。この日は4時間目に体育。水泳ということで、更衣室に移動して着替える。皆、雅文と一緒に着替えている。発育期の女子の、豊満な胸や尻を目の当たりにし、雅文は少し赤面した。
「雅文さん、顔赤なってるで。」
そう話しかけたのは、JKビジネスの一件で共に戦った山本由香里である。
「由香里ちゃん、久しぶりやね。」
「ねぇ、また由香里のパンツ見たい?」
タオルの下の足元に目をやると、パサッと薄緑色のパンティが落ちてきた。
「…。」
赤面する雅文を他所に、由香里は拾い上げて見せた。
「可愛いね…。」
「メロンみたいやろ?」
水着に着替え、プールサイドで準備体操。この日は水泳のタイム測定。
(沙耶香もこんな感じで、練習してるんやな…。)
雅文は、高校生以来のプールに、ある種のノスタルジアを感じた。
(この感じ、あったな…。)
タイム測定で、一心不乱に泳いだ。サッカーをやっていた雅文は運動神経抜群。水泳でも実力を発揮した。
「ふー…。」
「雅文さん、スゴい…。」 
この日で1学期における体育の授業は最後となり、残り時間は自由時間となった。1人、プールサイドに座って、空を見る雅文。そこに里香達が話しかけてきた。
「ねぇ、雅文さんも泳ごう。」
「あぁ。」
他の女子達と一緒に泳ぎ、自由時間ということで水中鬼ごっこをした。スクール水着にピチッとフィットした豊満な身体、むっちりとした胸と尻、全てが懐かしい光景であった。
「雅文さん、捕まえたー!」
女子に後ろからハグされ、胸の感触が伝わる。次は雅文が鬼となり、由香里を捕まえた。
「捕まえた。」
「肩タッチって、「「逃走中」」のハンター見たいやな…。」
夏の一時を楽しみ、授業は終わった。昼休みに昼食を済ませ、午後からは探偵の仕事へ向かう。
「雅文、プール入ったの?」
「あぁ、美夜子。女子校のプールって楽しいな。」
「そうやろ?」
雅文はその日から、学校と仕事を両立させた。学校で女子達から英気をもらい、仕事で精を出してフル稼働。その合間に宿題にしっかり取り組み、仕事の疲れを学校で女子達との交流で癒すという好循環が出来た。そういう日々の中で、終業式を迎え、1学期が終わった。
「おはようございます。」
「雅文、夏休みの宿題もらったか?」
「はい。」
「ちゃんと計画的にやることやで。」 
「はい。」
仕事を終えて、帰宅した後は夏休みの宿題に取り組んだ。里香達のグループLINEに入り、色々なやり取りをした。カレンダーに目をやると、沙耶香がこの間言っていた大会が近くなっていた。
(もうすぐやな。近畿大会って言っていたな。会場は京都か。仕事は、この日は休み。よし、行ける。)
モテる男は、何かと忙しい。
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