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第3章 back to school 青春の甘い楽園

第36話 年上の後輩

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     こうして、音無玲奈は来週から中村探偵事務所の探偵として働くこととなった。梅雨になり、ジメジメとした湿気と暑さが日に日に増していた時期であったが、玲奈の心は晴れ模様だった。1週間後、玲奈はグレーのスカートスーツを着て、事務所に出勤した。この日は全員出勤で、朝礼時に改めて自己紹介。
「皆さん、おはようございます。今日から、この事務所に探偵として働くこととなった音無玲奈さんです。」
「はじめまして、新人探偵の音無玲奈です。元秘書で、探偵目指してGAL探偵学校に通っていました。よろしくお願いいたします。」
最初の1週間は、雫と行動を共にし、その後は雅文・美夜子らに付かせる。朝礼後に、用意してくれたデスクに着くと、美夜子が話しかけてきた。
「おはようございます。」
「貴女は、この間の…。」
「紹介が遅れたわ。私は桐島美夜子。名前で呼んでもええよ。音無さん、貴女のことは何て呼んだらええかしら?」
玲奈は少し照れて俯きながら、
「え、私のことは玲奈って呼んで下さい…。」
と呟いた。美夜子は玲奈が緊張しているのを見計らい、打ち解けられるように考えた。名字で呼ぶと堅苦しいので、名前で呼び合うことにした。
「分かったわ。よろしくね、玲奈ちゃん。」
「は、はい!」
(玲奈ちゃん、って言ってくれた~!!美夜子さん、年下やのにクールでカッコいい~!!!)
それから、玲奈は上司の雫の下へ行った。
「貴女が、新人探偵ね。私は烏丸雫。昔アイドルをやっていたわ。よろしくね。」
「はい!よろしくお願いいたします!!」

    この日は、雫と共に依頼を遂行する。依頼人は30代の女性で、婚活パーティーで知り合った男性とその場で意気投合したが、本当に付き合って大丈夫かどうか素行調査をして欲しいというもの。昨夜、依頼を受けてターゲットの情報を集めた。その報告書を提出し、そこからは尾行して本格的に調査するというのが、今日の流れである。
「今回の依頼人は、三宅志穂さん 36歳。神戸市兵庫区に住むOL。ターゲットは、角倉正俊 38歳。彼の素性はある程度、調査してあるわ。」
玲奈は、調査報告書に目を通し、ターゲットの角倉の写真をチェックする。写真は1ヶ月前に神戸市で開かれた婚活パーティーで撮られたもの。大柄で髭面、芸能人で例えると、髭男爵の山田ルイ53世や空気階段 鈴木もぐらに似た風貌。
「見た目は、スゴいオッサンやな。この人、どこに住んでるとかは分かったんですか?」
「神戸市兵庫区で、土木作業員やってるみたい。」
事務作業をし、昼食を食べ終え、依頼人の下へ行く。交通費は、調査費から出る。

    梅雨時のジメジメとした空気が漂い、蒸し暑い中、JR三ノ宮駅からJR兵庫駅へ向かう。
「神戸も蒸し暑いんですね~。」
「神戸はまだ涼しい方やで。ウチの住んでる京都は盆地やから、夏は猛暑や。」
「京都は暑いんですね、大阪はビル一杯で蒸し暑いですよ。」
「大阪は、ウチはあんまり行かへんな。ゴチャゴチャしてるんが好かんわ。」
雑談をしている間に、電車はJR兵庫駅に着いた。改札を出ると、閑静な住宅街が広がる。兵庫区は、かつて遊郭があった福原には、大人の俗世界が広がり、和田岬は歴史的情緒があり、他にはヴィッセル神戸の本拠地 ノエビアスタジアム神戸がある、のどかな街。依頼人が勤務している会社に付き、小部屋で話をする。
「本日はお忙しい中、お越し頂きありがとうございます。」
「お忙しい所、ありがとうございます。」
「雫さん、その方は?」
「今日から、私の事務所に入りました新人探偵の音無玲奈です。」
「はじめまして、新人探偵の音無玲奈です。よろしくお願いいたします。」
早速、本題に入る。彼女は婚活パーティーで出会った彼のことが気になった。
「あの人、髭面で、空気階段の鈴木もぐらに似ていて…。結構見た目は可愛いなって、思ったんですけど、でも、素行が気になったので調査を依頼しました。」
「そうなんですね。」
玲奈は、熱心にメモを取る。雫は調査報告書を提出し、依頼人はそれをしっかりと見る。
「土木作業員、逞しいガテン系な人やったんですね。」
依頼人は、黒髪ショートの落ち着いた雰囲気の大人の女性である。
「ここまでで彼の素性は、ある程度分かりました。後は彼の素行調査に参ります。出来れば、翌日には報告書を作成して提出します。」
「ありがとうございます。」
会社を後にし、ターゲットの仕事が終わるまで職場周辺を張り込む。暑さと湿気が堪える。
「暑い…。」
「玲奈ちゃん、探偵の仕事は張り込みもあって、体力勝負なのよ。」
「そうなんですね…。」
夕方17:00になり、ターゲットが帰路に着く。クリーム色の作業着の上を脱ぎ、ランニングにズボンという格好で大きなリュックを背負って、JR和田岬駅からJR兵庫駅に行き、階段を下りて出てきた。
「あっ、あの人やね。」
「わっ、ガテン系…。西成に居そうやね。」
バレないようにターゲットの後をつける。向かった先は、JR兵庫駅前のパチンコ店。2人も中に入る。
「パチ屋は、うるさいから、あんまり入りたないねん。」
「同じです。」
ターゲットは、パチンコで「CR 大海物語」をやっていた。
「よし、来い!来い!」
だが、数は揃わず、今日は惨敗に終わった。
「クソッ!何も得られんかった!」
憤慨して、店を後にした。そっと後をつけると、彼の家に着いた。ボロボロのアパートで彼の部屋の前には、罵詈雑言が書かれた張り紙が貼られていた。
「借金返せ!」
「踏み倒しマン」
「ダンゴムシを食うな!!」
張り紙を見て、ターゲットは激昂した。
「クソッ!ダンゴムシは焼いとるわ!」
彼の部屋の前に乱雑に積まれた新聞をチェックすると、競馬・競艇・競輪などのギャンブル情報ばかり。
「ギャンブラーやねんな。よし、ここまで分かった。」
「ギャンブラーで、借金踏み倒すて、もぐらやん…。」
すると、ギャンブルに負けて、やけ酒している声が聞こえた。
「借金はな、踏み倒○△×♨️🍴勝ちじゃあ!!」

    翌日、再び彼女の下を訪れ、調査報告書を提出。ターゲットはギャンブラーの側面もあり、それが原因で借金が溜まってしまっている模様であった。
「そうなんですね。私も初めて会った時に、少し彼の様子が心配でした。私は今まで、男性とお付き合いをしたことがなく、一念発起で婚活パーティーに参加しましたので、恐らく彼も何とか小遣いはたいて行ったのではないか、と思ってます。」
「そうなんですね。では、今日、直接会って話をしますか?」
「はい。」
仕事終わりの夕方に、3人は彼の下を訪れた。
「お久しぶりです。」
「あ、貴女は?!」
彼は少し動揺したが、落ち着きを取り戻し、改まった様子で3人を居間に案内した。全員が席に着いたところで、自己紹介。
「どうも、皆さん。こんにちは。私は和田岬で土木作業員しております角倉正俊と申します。」
「初めまして、私は中村探偵事務所で探偵をしております烏丸雫と申します。」
「同じく、音無玲奈です。」
「あのー、何で探偵さんがここに?」
「この方から、貴方の素行調査をして欲しいとの依頼がありました。」
彼の経緯を知ると、彼は仕事では順風満帆だったが、女の子との出会いがなく、婚期も逃していた。婚活パーティーに参加するも、上手くいかず、自棄になってギャンブルにのめり込み、100万も借金をしてしまった。仕事と婚活パーティーに集中し、借金を踏み倒した結果、張り紙を貼られるようになった。
「でも、張り紙貼られるのは、まだマシな方ですよ。」
「そうなんですよね、怖い人達が来たら、一貫の終わりですよね。」 
ここからは、2人で話し合ってもらう。
「正俊さん、貴方も私と同じく、出会いが欲しくて婚活パーティーに行ったわけですよね?」
「はい、それで私も志穂さんのことを好きになりました。」
「私は、貴方のことが好きになりました。ですから、ギャンブルは止めて、借金を返済して、お付き合いしてください。」
彼は、ここで変わらなければ、せっかく出会った彼女を逃し、更にギャンブルにのめり込んで、借金取りに追われて破綻してしまう、ということを恐れた。
(彼女は、こんな俺を好きって言ってくれたんや。変わるんや、ここで変わるんや!!)
「はい!!ギャンブル止める!!借金を返済する!!」
「分かりました。私も貴方の下に付きます。お付き合いしてください。」
「はい!!!!!」
こうして一件落着。依頼人から報酬を貰い、2人は帰路に着いた。この一件で自信をつけた玲奈は、メキメキと腕を上げていった。
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