上 下
36 / 189
第3章 back to school 青春の甘い楽園

第35話 お手並み拝見

しおりを挟む
    実際に現場を見て、探偵の仕事を知ってもらうため、所長は2人も連れていくことにした。事務所の戸締まりを済ませ、皆は車に乗った。運転席に所長、助手席に美夜子、後部座席に美鈴と玲奈が座る。
「では、行こうか。スイートハニー。」
後部座席の2人に向かって、バックミラー越しにウィンクした。
(わぁ、ハードボイルドでダンディ🖤)
(アカン、ハート撃ち抜かれたぁ…。🖤)
美夜子は、2人が胸キュンしたのを感じ取った。
(ときめいたんやね。フフ、2人共可愛いわ。)
車は、三宮の街中を走り、ハーバーランドを抜けて、兵庫区・長田区を快走。所長は2人の緊張をほぐすため、積極的に話しかける。
「2人のことは、何て呼んだらええかな?」
「美鈴でいいです。」
「玲奈でいいです。」
「分かった。美鈴さんは、OLをやっているとおっしゃりましたが、具体的にどういった会社ですか?」
「はい、淀屋橋のIT企業で仕事してます。」
「玲奈さんは、現在、どういったお仕事をされていますか?」
「はい、私は現在、梅田でOLをしながら、GAL探偵学校に通ってます。」
助手席に座っている美夜子は、静かに聞いていた。
(OLね、中々の経歴やね。)
大卒で探偵になった美夜子にとっては、未知の世界である。長田区を抜け、須磨区に入る。JR須磨海浜公園駅前を走ると、海が見えた。
「あっ、海だ。」
「そうそう、神戸には須磨と垂水に海水浴場があるんよ。」
「海、泳ぎたいな~。」
JR須磨駅に着くと、駐車場に車を停めて降りた。

     須磨駅の南側は、須磨海水浴場があり、夏には多くの若者で賑わう。北側は街が広がっている。JR須磨駅付近の小さなラーメン屋の店主が、今回の依頼人だ。この日、店は定休日で営業していないが、店主は休日の時間を割いて、所長達を出迎えた。
「すいません、わざわざお越しいただきまして、さぁどうぞ。」
ラーメン屋によくある黒いTシャツを着て、黒いズボンという格好をした細身の40代の男性が店主である。店のバックヤードに行き、テーブルのある部屋に移動。畳の上にテーブルが置かれており、上は換気扇がついていて、グルグル回っている。一同は靴を脱いで、座布団の上に正座した。
「本日は暑い中、ありがとうございます。粗茶ですが、どうぞ。」
コップに入れた麦茶を差し出す。所長と美夜子は、そっと一口飲んだ。店主と向かい合う形で話を始める。美鈴と玲奈は後ろで見学。
「改めて、本日伺った件についてです。3日前に貴方から、迷惑系YouTuberによる迷惑行為に悩まされており、証拠を見つけるのに協力してほしいとのご依頼がありました。」
(迷惑系YouTuber?)
(おでんツンツンマンとか、へずまりゅうって言うヤツやな。)
「はい、ホンマに困ってます。アイツらを逮捕するために、証拠が欲しかったんです。ところで、探偵さん。あの後ろにいるお二方は?」
「あっ、申し遅れました。この二方は、探偵志願者です。」
所長に促され、2人は店主の前に出た。
「はじめまして、探偵志願者の河村美鈴と申します。」
「同じく、音無玲奈と申します。」
「改めまして、「「拉麺の神様」」店主の松田一輝と申します。」
店主は、玲奈をチラッと見て、谷間を覗き込んだ。
(この玲奈って娘、上玉やな~。オッパイデカいわ~。)
所長と美夜子は、依頼を受けて、3日かけて現場を張り込み、調査をしていた。調査報告書を提出し、店主はそれに目を通した。
「やはり、奴らは決まった時間に出てくる傾向があったんやな…。」 
「奴らがYouTubeの動画を撮影しているところを、こっそりと我々も撮影しておきました。見た感じ、奴らは30~40代ぐらいの中年でした。」
「見ていて、本当に呆れたわ。いい年して恥ずかしくないのかしら?」
「ありがとうございます。証拠は揃いました。既に警察にも言ってあります。後は奴らを捕まえる訳なんやけど、現行犯逮捕の方がええな…。」
「確かに、現行犯なら一般人にも逮捕権はある。その方がええな。ある程度、出現する時間も特定出来た。分かりました、力を貸しましょう。」
一同は作戦を練った。ここからは美鈴と玲奈も、自由に動いていいので、2人だけで作戦を練る。
「いい手があるんやけど…。」
「あー、それで行くんですね。面白そうです。」
(玲奈ちゃん、ええケツしとるなー。)
店主は、ニヤニヤしながら、玲奈を遠目で見ていた。

    時刻は16:30。奴らは夕方に出現する。しばらく待っていると、黒いスカジャンを着た30~40代くらいの中年男性3人組がバイクに乗り、爆音を鳴らして現れた。JR須磨駅前に駐車し、一同はバイクから降りた。
「さぁて、今日はどんな悪いことしたろうかな~。」
金髪で肩まで伸ばした髭面の大男が、リーダー格のようだ。名は岸田剛輝(40)。元ホストクラブ経営者だったが、2020年の災いで店は潰れて、居酒屋でアルバイトをして生計を繋ぐも、客とのトラブルで傷害事件を起こして逮捕された。現在はYouTubeで収益を得られたことに、味を占めて迷惑系YouTuberとなった。
「兄貴ぃ、もうすぐ夏になりますぜ。そうや、ロケット花火ぶっ放すゆうんはどうやろな~。」
細身の煙草を吹かしている男は、動画編集者の川崎博人(32)。YouTubeの他に、盗撮した動画を編集してAVを作成し、闇ルートで販売している。
「へへへ、まずはここでひと暴れしましょうや。」
腕に竜のタトゥーを入れ、舌にピアスをしている坊主頭の男は、撮影担当の副島貴人(30)。元ヤクザのチンピラ。3人が悪だくみしているところを、所長達はコッソリ観察。美夜子と店主は店内から様子を窺い、奴らが撮影を開始次第、警察に通報する。所長、美鈴、玲奈は警察が来るまで時間を稼ぐ。すると、副島がカメラを持ち、撮影を開始した。
「ハハハハハ、見てるか、クソガキィ!「「ブラック・コング」」の暴走タイムの時間や!俺様は、リーダーの剛輝!」
「俺は博人、よろしくな。今回はJR須磨駅前に来ています。」
下校・退勤ラッシュの時間となり、多くの人が駅から出てくる。出てきたのを見計らい、剛輝はバイクの荷台から改造エアガンを取り出し、狙いを定める。
「ハハハハハ、狙い撃ちや、オラァ!」
「そして俺は、豆腐を投げる~♪」
エアガンと豆腐で攻撃され、通行人は迷惑を被った。そこに、婦警を装った美鈴が現れた。
「こらー!何しとるんよ、そこの君たちー!」
「あぁ、何や…。うおー!可愛い娘やなー!」
「オイ、副島。そのまま撮影続けろ。」
カッターシャツにスカートスーツという格好だが、十分通じた。
「君たち、豆腐が勿体ないやろ!豆腐とバイクて、「「頭文字D」」か!」
「いや、マニアックやなー。」
「って、慣れ合っとる場合か!オイ、邪魔するんやったらなぁ、これでハチの巣に…。」
剛輝がエアガンを向けた時、玲奈がバイクに跨って登場。
「ねぇ、お兄さん。中々ええバイクやなー。ウチにも運転させてぇ。」
「あぁ、何勝手に俺のバイク乗っとるんや!」
バイクから降りて、2人に近づく。
「なぁ、豆腐ぶん投げてさぁ、豆腐屋さん可哀そうやで。」
投げられて潰れた豆腐を拾い、剛輝の元へ早歩きし、
「これは、アンタが食えや!」
顔にぶつけた。これに彼は逆上し、殴りかかった。
「女子に暴力とか、最低やな。」
「うるせぇ!海の藻屑にしてやらぁ!」
そこに所長が現れ、彼の鳩尾に連続パンチを食らわした。悶絶した彼の頭を掴んで、顔を殴った。
「大丈夫か、マドモアゼル。」
「はい。」
(アカン、ハードボイルド過ぎて、胸焦げそう!)
「テメェ、食らえ!握りっ屁!」
博人の攻撃をかわし、回し蹴りで一発KO。副島は一目散にバイクで逃げだした。警察が来て、2人は逮捕された。
「ハハハハハ、俺だけでも逃走成功や。」
「だーれだ!」
バイクに飛び乗った玲奈に背後から目隠しをされ、動揺してハンドル操作が狂った。
「オイ、危ない!」
「さようなら~!」
電柱に激突してKO。彼も逮捕された。その後、店主から褒賞金として30万受け取り、事務所へ戻った。

 時刻は夕暮れ、事務所の窓に夕陽が射し、一同を照らす。最終選考ということで、美鈴と玲奈は緊張の面持ちで立っていた。所長は2人を見つめて、静かに呟いた。
「君達の活躍もあって、依頼を達成できた。ありがとう。だが、これも選考の1つや。最終的に選ばれるんは1人や。悪く思わんでくれ。私が相応しいと思った方に赤いバラを渡そう。」
そう言って所長は、後ろ手にバラを持ち、2人の前を行ったり来たりして、慎重に吟味している。
(あぁ…。私に来て…。探偵として頑張りますから。)
(このハードボイルドな所長さんの、部下に、いや、愛人にしてぇ🖤)
3分程経過し、所長は玲奈の前に立ち止まった。そして、赤いバラを渡した。
「採用者は、君だ。私の下で探偵として頑張ってくれたまえ。」
玲奈は、探偵になれた喜びとハードボイルドな所長にバラを渡されたことで、胸がいっぱいになり、赤面した。
(やった~!探偵になれた!所長さん、ハードボイルドやぁ…。アカン、熱くて火照りそうや…。)
「はい、ありがとうございます!」
バラを受け取り、礼を言った。落選して気を落とす美鈴に、所長は優しく声をかけた。
「美鈴さん、君もよく頑張ってくれた。今回のこの経験を糧に、探偵を目指して頑張ってくれたまえ。君が探偵になったら、その時にまた会おうか。」
所長は、美鈴の頭を優しく撫でた。
(ありがとうございます!所長さん、ええ人やぁ…。なでなでしてくれたぁ🖤)
餞別として、所長の大好物のレモンティーをお裾分けしてもらい、2人は事務所を後にした。
「所長さん、ええ人やったなぁ。玲奈さん、探偵として頑張ってね。」
「うん、ありがとう。美鈴さんも探偵目指して頑張ってね。」
「ありがとう。」
阪急電鉄 神戸三宮駅のホームで電車を待つ間、レモンティーで乾杯。
「所長さん、ハードボイルドでカッコよかったぁ…。なでなでしてくれたし、キュンとした。」
「あんなハードボイルドな所長さんやったら、玲奈のことも愛人にしてくれるやろな…。」
探偵目指して頑張る2人の女性、ハードボイルドな所長に恋心が湧いた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

追放された薔薇は深く愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:426pt お気に入り:7,359

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:50,090pt お気に入り:4,799

私を追い出すのはいいですけど、この家の薬作ったの全部私ですよ?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,804pt お気に入り:13,110

厨二魔導士の無双が止まらないようです

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:5,750

増井出張写真館~あなたの幸せ、切り撮ります~

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

伊藤洋介さん?岩倉淳

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

いずれ最強の錬金術師?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,346pt お気に入り:35,422

世界の終わりに、想うこと

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:4

外骨格と踊る

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:0

処理中です...