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第2章 VS JKビジネス

第32話 勇気ある少年少女

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    戦いから一夜明け、2人は朝6時に起床した。最初に起きたのは、雅文の方だった。起き上がって欠伸をし、美夜子を起こす。
「んっ、おはよう…。雅文…。」
「おはよう、美夜子。」 
李羅は既に起床しており、洗面所で歯を磨いていた。長袖のTシャツに、半パンというラフな格好をしている。2人は用を足した後、洗面所へ向かう。
「李羅さん、おはようございます。」
「2人共、おはよう。」
顔を洗って、歯を磨くと徐々にスイッチが入って、頭が冴えてきた。今日は所長が出勤するので、自分達が出勤したら、昨夜の出来事を一言一句漏らさずに全て報告することを、最優先にした。歯を磨いている間、李羅がトーストを焼いてくれていた。更に、リビングに行くと、既にお湯も沸かしてあった。
「ありがとうございます。」
「飲み物は、コーヒー・ココア・ミルクティーがあんねんけど、どれがええ?」
親切に李羅に飲み物の種類を勧められ、雅文はミルクティー、美夜子はココアと、それぞれの好物を選んだ。2人は席につくと、この後のことについて少し話した。
「所長が来る前に、出勤して報告しようか。」
「そうやね、その方がいいわ。」
話していると、李羅が淹れたてのミルクティーとココアを持ってきてくれた。トーストの付け合わせには、バター・蜂蜜・チョコクリームがあった。
「いただきます。」
甘党の雅文は、トーストにたっぷりと蜂蜜を塗って、かじりついた。ミルクティーは程よい甘さで朝にちょうどいい1杯である。
「2人はこれから仕事やね?」
「はい。」
「まずは、所長に昨夜のことを報告します。李羅さんはどうされますか?」
「私は、仕事に行って、リーダーと昨夜のことを整理しておくわ。」
朝食を済ませた後、2人は忘れ物がないかを確認してから、家を出た。 
「李羅さん、ごちそうさまでした。ありがとうございました。」
「ええ。2人共、またどこかで会いましょう。」
「ありがとうございました。」

    家を出て、2人は朝の中之島を歩いた。御堂筋は通勤の車やトラックが忙しなく走り、通勤通学のサラリーマンや学生達がせかせかと歩いていた。JR大阪駅に着き、バス停から阪急梅田駅へ向かう。徐々に人混みが増え、通勤通学ラッシュの時間が近づいてきている。
「ちょっと急がへんかったら、電車の席座られへんかもしれんな。」
「そうやね、急ごうか。」
2人は早歩きして、エスカレーターを駆け上がり、改札に出て、切符を買った。
「よし、特急おる。」
「間に合ったわね。」
時刻は7時40分。阪急電鉄 特急新開地行きが停車していたので、そこに乗った。座席が空いており、座ることが出来た。水筒の中身は、今朝淹れてもらった。2人はお茶を一口飲み、事務所のある神戸三宮に停車するまで眠りについた。事務所の鍵は、美夜子が雫から預かっており、所長はいつも8時30分頃に来る。そこまでには十分間に合う。暫く寝た後、神戸三宮に到着。2人は電車を下り、改札を出て、事務所に向かった。

   まだ所長は来ておらず、美夜子は鍵を開けて事務所に入った。事務所の掃除を始め、いつものように準備を進めていると、所長が出社してきた。所長はいつもスーツ姿で手入れした髭と、ダンディーな風貌をしている。
「おはようございます、所長。」
「ああ、おはよう。」
所長が席に着いた所で、2人は掃除用具を片付け、近くで立って待機。時刻は8時50分、所長が立ち上がり、朝礼が始まる。
「皆さん、おはようございます。」
「おはようございます。」
「昨日の出来事を報告してくれるかな?」
美夜子が挙手して、話し出した。
「はい。昨夜はGolden Fruit一派討伐の依頼を受け、依頼者の由香里さんと親友の里香さん、私と雅文、雫さん、KANSAI BLACK PANTHERの皆さんと共に、大阪市北区梅田に乗り込みました。梅田に拠点を構えていたGolden Bananaと戦った際、彼らはドーピングや覚せい剤を使って凶暴化し、私たちを殺そうとしましたが、雅文が救出して下さりました。その後、Golden Bananaの店主がダイナマイトで私たちを道連れにするつもりでしたが、警官が間一髪で店主を逮捕し、私たちは脱出しました。」
手に汗握る戦いの話を、所長は頷きながら静かに聴いていた。
「ほうほう、Golden Bananaは撃破したんやな。大したもんや。ところで、雫はどうなったんや?」
この質問に、美夜子の表情が曇り、少し俯いたが、そのまま話した。
「そ、それは…。申し上げにくいのですが、雫さんはGolden Bananaの手下の黒服に襲われ、重傷を負ってしまい、病院に運ばれました…。」
「病院に運ばれた…。雫の容体はどうや?」
「雫さんは、意識があり、手術は成功して、命に別状は無いです。」
それを聞いて、所長はほっと胸をなでおろした。
「良かった。そのまま続けて。」
「それから奴らは、里香さんと由香里さんを誘拐して人質にしました。私たちとKANSAI BLACK PANTHERの皆さんと一緒に、Golden Appleの本拠地に乗り込んで戦い、奴らを撃破しました。」
「ほうほう、よくやったな。」
「はい。」
そこに先程まで、黙って聴いていた雅文が口を開いた。
「はい。奴らを撃破できたのは良かったのですが、依頼人の由香里ちゃんが奴らに襲撃され、重傷を負いました…。幸い、命に別状は無いですが、私たちが居ながら、依頼人を危険な目に遭わせてしまい…。」
話を全て聞いた所長は、静かな口調で総括をした。
「2人共、当初の依頼者の依頼である「「JKビジネスからの解放」」を達成したようやな。そこはよくやってくれた。だが、私が所長として君たちに注意しておかねばならないことが2つある。」
称賛の後に、厳しい表情を浮かべ、苦言を呈する。2人も身構えて話を聴く。
「1つ目は、報告や。雫が襲われた時に、まずは私に連絡を一つよこして欲しかったね。まぁ、緊急時でやむを得なかったというのは分かるよ。だが、所長として部下の安否を知りたいから。そこは大事なことやで。2つ目は、依頼人のことや。探偵たるもの、依頼人を危険な目に遭わせたらアカンよ。由香里ちゃんが命あったから、良かったものの死んでしまったら取り返しがつかへんよ。探偵とは、仕事柄、時には反社会的勢力に狙われることもあるやろうし、依頼を達成するためにヤクザに喧嘩を売るということも起こりうる。それでも、大事なのは依頼人の安全や。依頼人を危険な目に遭わせないようにすることが大事や。私からは以上。」
所長の探偵としての心得に、2人は真剣に耳を傾けていた。この日の業務は、午前中は事務作業、午後からは所長が雫と由香里の見舞いに行き、雅文と美夜子は依頼の解決に当たる。

   2人は、昨夜のうちに李羅に洗ってもらった空の弁当箱を流しに出して、乾燥させた。事務作業では、各々が受け持っている案件の証拠などを収集し、データとして起こした。昼休憩後、所長は車で雫と由香里が入院している大阪市内の病院に見舞いに行った。残された2人は担当している依頼の解決に当たった。車を走らせること1時間、所長は大阪に到着、御堂筋から梅田へ出て、病院に着いた。
「ここやな。」
車を駐車場に停め、ロビーで受付を済ませ、入院している階に向かった。3階の共同病室で、2人は入院している。「烏丸 雫」「山本 由香里」と書いてあるのを確認して、看護師に案内されて病室に入った。
「烏丸雫さん、お見舞いに来られた方がいらしてます。」
「はい。」
カーテンを開け、彼は椅子に座って向かい合う。
「所長!」
「雫、大丈夫やったか?」
「はい、傷は何とか…。」
腕に点滴が入れられ、ガウンの下から見える包帯が痛々しい。
「すいません。所長。私が居ながら、依頼人を危険な目に遭わせてしまい…。」
「ああ、もうええよ。済んだことや。雫、命あってよかった。」
「所長…。」
雫を激励し、彼は由香里の元へ行った。カーテンを開けると、由香里はベッドで眠っていた。椅子に座ると、気配を察したのか、ゆっくりと目を覚ました。
「やあ、由香里ちゃん。」
「あ、探偵事務所の所長さん。」
「雅文達から話は聞いたよ。みんなのために戦ったんやな。よくやったよ。」
「はい、ウチだけやなくて雅文さん達が居てくれたから、最後までいけました。」
暫く話していると、彼女の父親がやってきた。
「由香里。」
「あ、お父さん。」
「この方は?」
「探偵事務所の所長さん。」
「初めまして、中村探偵事務所 所長の中村景満です。」
「初めまして、由香里の父の山本昭です。」
彼は由香里と向かい合い、諭すような口調で静かに叱った。
「由香里、心配かけて…。命あったから、良かったものの、こんなしょうもないことで命を無駄にするな…。JKビジネスの件は終わったことやから、もうええ。せやけど、目先の金に釣られて、身体を売るようなことはせんといてくれ…。」
静かだが、力強い口調で叱る父に、由香里は胸が熱くなった。
「お父さん、ごめんなさい…。」
「由香里、辛かったな…。もう大丈夫や。」
父に熱く抱擁され、由香里は涙が止まらなかった。彼女の勇気ある行動が、結果として、多くの女子高生達をJKビジネスから救った。由香里だけでなく、そんな彼女を救おうと、依頼してきた友人の里香、彼女に奴隷根性からの脱却を説き、奮起を促した雅文と美夜子、手を貸してくれたKANSAI BLACK PANTHER、多くの人たちの協力があったから、彼女は生還出来たのである。

 病院を後にし、事務所に帰った所長。雅文と美夜子は依頼を解決し、ひと段落ついていた。Golden Fruit討伐はKANSAI BLACK PANTHERに任せ、依頼人の目的は達成されたということで、この一件から手を引くことにした。事務作業を終えた時、時刻は19:00になっていた。
「そうや、雅文・美夜子。今日は私と一緒に夕食を食べに行かへんか?」
「はい。」
「所長、喜んで。」
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