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第2章 VS JKビジネス

第16話 ある少女の依頼

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   雅文と美夜子が中村探偵事務所に就職し、探偵として勤務を始めてから1年が経った。年末年始の休みに入り、1月5日から2025年度の仕事が始まる。クールで知的な思考派の雅文と、思慮と慈悲深い才女の美夜子は駆け出しだが、頭脳明晰で行動力があり、所長は2人を信頼して、依頼を任せている。社会人2年目となる2人は、更なる飛躍と成長を期して臨む。2025年初出勤のこの日、全員が集まり、朝礼で所長から年始の挨拶。
「皆さん、新年あけましておめでとうございます。」
「あけましておめでとうございます。」
「今年度も、よろしくお願いいたします。雅文と美夜子には、更なる飛躍を期待してるよ。」
「頑張りや。」
「はい。」
この日は、昨年に残っていた依頼を解決しに奔走した。依頼を片付け、探偵事務所に戻った夕暮れ時のこと、一人の少女がそっと訪ねてきた。
「あの、ちょっといいですか?」
「どうされましたか?」
美夜子が、彼女の対応をした。事務所の席に案内し、お茶を出した。席に着いた彼女は紺色のワンピースのような制服姿で、黒髪ショートでウブな雰囲気が漂う。彼女はお茶を一口飲み、落ち着いてから、膝に手を置いた。美夜子は、彼女と向かい合い、最初に自己紹介した。
「こんにちは。私は桐島美夜子。探偵をしております。」
「こんにちは。私は深山里香。神戸山手女子高等学校の1年生です。」
神戸山手女子高等学校は、神戸市中央区にある中高一貫の女子校で、設立されたのは1924年と歴史がある。奥の椅子に座っている所長は、黙って彼女の話を聞こうとしていた。
「どういった、ご用件でしょうか?」
「はい、私の友人のことです…。」

 今回の依頼者の名前は、深山里香(16)。神戸山手女子高等学校1年生で、神戸市中央区のポートアイランドに住んでいる。ハッキリ物言う性格で、クラスでは委員長を務める優等生。彼女の通う高校には、県外からの生徒もいて、人脈は広い。依頼内容は、友人が儲け話に乗せられ、JKビジネスをさせられているのではないか、を調査して欲しいとのことである。事の発端は、遡ること昨年の秋。夏休みが終わり、2学期に入った頃、彼女の友人が儲け話を勧められ、大阪でバイトをしているという話をしてきた。
「ミナミの日本橋ってあるやん?その辺で、バイトやってんねんけど、めっちゃ儲かるねん。」
友人の名前は、山本由香里(16)。大阪府出身で、大阪市中央区の「ミナミ」と呼ばれるエリアに住んでいる。地毛が茶髪の、ショートヘアで少しチャラチャラした所がある。
「由香里、日本橋って、ちょっとガラ悪い所ちゃう?」
「それがな、日本橋のオタロードって所やから、そんなガラ悪くはないで。」
放課後に、彼女から詳しい話を聞くことにした。委員長としては、同級生が場合によっては、反社会的勢力の末端に利用されているかもしれない、と気が気でなかった。教室に2人だけ残り、話を聞く。
「由香里、そのバイトはいつから始めたの?」
「それは…」

 同年の8月、彼女が友人と難波で遊んでいた時のこと。道頓堀のグリコの看板前で写真を撮ったり、日本橋のメイド喫茶に行ったりと夏休みの1日を満喫した。友人は兵庫出身で、当初は大阪のコテコテな雰囲気に苦手意識があったが、彼女の案内で、その心配は杞憂に終わり、大阪を楽しむことが出来た。
「由香里ちゃん、大阪は面白いとこやね。」
「せやろ?難波のな、奥の方はもっと面白いで。」
時刻は夕方になり、難波の奥に進んだ。クラブでビキニパーティーがあり、2人はレンタルの白ビキニに着替えて、パーティーを楽しむ。
「なんか「「きつね」」のネタで見たことあるヤツ…。」
「パーティーピーポー、略してパリピや。日が暮れる前には出るから、それまで楽しもう。」
DJがEDMで場を盛り上げ、泡が放たれ、皆ハイテンションではしゃぐ。
「あはは、泡パーティー最高!!!」
「洗濯機の中におるみたいや。」
友人がお手洗いに行くという事で、彼女は独りでパーティーを楽しむ。すると、近くにいたお兄さんに声をかけられた。
「そこのお嬢ちゃん、ええケツしてるなぁ~。」
アロハシャツに半パンという南国風の出で立ちの、サングラスをかけた30代後半の男である。
彼は、彼女の尻を揉み、耳を舐めてきた。
「エエ身体しとるなぁ、お嬢ちゃん…。」
(何なん?馴れ馴れしいわぁ…。キモい…。)
「ちょっと、止めてください…。」
「あぁ、悪いなぁ…。」
そう言うと、彼は彼女から少し離れた。
「紹介遅れたわ。俺は森倉 久光。日本橋でJKリフレやっとる。どうや?お嬢ちゃん。俺の店で働かへんか?」
「そう言われても、私は高校生やし…。」
「大丈夫やで。お金は日給制で、シフトは君の自由やから。」
日給で、上手くいけば1ヶ月で10万円は稼げると言われ、彼女はその話に乗ろうとした。
「ホンマに?」
「あぁ!お嬢ちゃん。夢見したるで!!」
こうして、彼女は彼の言う店で働くことになった。

    店の名は「Golden Peach」。大阪市浪速区日本橋にある。客と個室で2ショットを撮ったり、性行為無しでのお触りをする。料金は時間制で20分 5000円 40分 8000円 60分 10000円。
「お客さんは、ウチのこと可愛い言うてくれて、頭ナデナデしてくれたり、抱っこしてくれたわ。」
(それって、JKビジネス…。犯罪なんじゃ…。)
「大丈夫なの?何かヤバそうなんやけど。」
「今のところは大丈夫やで。」
「ホンマに?もし何かあったら、すぐに言うてな。」
「分かった。」
この日はそれで終了。それでも怪しいと思ったので、捜査してもらおうと思い、相談に至った。

    ここまでの話で、美夜子はいくつかの点で不審に思っていた。クラブという少し如何わしい所で、見知らぬ男にナンパされて、そこから水商売紛いのバイトをするという流れに、並々ならぬ怪しさを感じた。
「貴女達は高校生よね?そんな如何わしい所で働くなんて止めた方がいいわ。」
「ですけど、由香里は今のところは大丈夫って言ってたから…。」
そこに所長が、ホットレモンティーを飲みながら、2人の席に近づいてきた。
「美夜子、ちょっと替わってくれるか?」
「はい。」
美夜子は席を離れ、所長が座る。
「やぁ、こんにちは。私は中村探偵事務所 所長の中村景満です。」
「所長さん…。こんにちは。私は深山里香です。」
「君のことは何と呼んだらいいかな?」
「里香ちゃん、で良いです。」
「分かった。先程までの話は全て聞いていたから、大体は把握した。友人がやっているバイトが、JKビジネスなのではないか、ということを危惧して、ここに来たんやね?」
「はい。」
美夜子が、里香との会話の一部始終をメモしたA6のノートのページを確認し、全体像を掴んだ。
「少々、怪しいニオイがするな…。甘い言葉をかけて、その気にさせて、搾取していく。JKビジネスのやり方やな。」
「やっぱり、そうやったんや…。」
不安で俯く里香に、所長は優しく声をかけた。
「大丈夫や。ありがとう、よく相談してくれたね。時間はかかってしまうが、必ずや解決して、里香ちゃんの友人をJKビジネスから救い出すよ。」
「ありがとうございます。」
この日は、お互いの連絡先を交換して終了。2人は、この一件の裏側に何か恐ろしいものが、蠢いているのではないか、と確信した。
「この一件、反社会的勢力が背景におるかもしれへんな。」
「そんな感じがしました。あの娘を危険な目に遭わせる訳にはいかないわ。」
黄昏時の探偵事務所に、夕陽が射し込む。これが長い戦いの序章になるとは、まだ誰も知らなかった…。
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