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第1章 探偵事務所の日常

第11話 アマゾネス 雫

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    烏丸 雫は1987年8月29日に、京都府京都市で生まれた。良家の家柄で育ち、父親は文化人類学者で京都大学で教授、母親は日本舞踊の師範を勤めていた。雫には4歳離れた姉がおり、名前は澪(みお)。雫は姉と仲が良く、よく遊んでもらった。小学校に入学し、勉強を始めるようになると、雫は学者の父に勉強を教えてもらい、瞬く間にクラスで優等生となり、学ぶことの楽しさに目覚めた。1995年1月17日に起きた阪神淡路大震災で、京都も被害を受け、和風建築のお屋敷は倒壊してしまった。うなだれる3人に父は静かに、かつ力強く呟いた。
「形あるもの、いつかは壊れる。命あるもの、いつかは死ぬ。この世のものは、森羅万象・諸行無常・盛者必衰。常に移り変わるもの。家は壊れてしもうたが、みんな無事やった。みんな無事やから、また一緒に生活できる。この災害を生き抜いたら、また、みんなが住める家で暮らそう。」
無常観を持ち、達観した父の勇姿に、雫は胸が熱くなった。
(お父さん、カッコええな…。)
その後、前のお屋敷より小さくなったが、和風の家に住むことが出来た。小学校を卒業し、雫が中学生になった頃、姉の澪は高校生になり、書道部に入って書道に青春を捧げていた。2000年、当時のサブカルチャーでは、ある女性アイドルグループが話題になっていた。歌番組やバラエティ番組に引っ張りだこで、TVに出ると、その番組に齧りついて観ていた。
「もう始まるんちゃう?」
「お姉ちゃん、バタバタせんでもええやん。」
「ハハハ、澪はアイドルが好きやねんな。」
その番組が始まると、澪は目を輝かせて観ていた。雫は姉がノリノリになっているのを観て、一緒に観た。すると、そこには当時の女性アイドルグループでは、勢いに乗っていたグループが躍動していた。
「セクシービーム!」
セクシービームの所で、二人で一緒にビームをやった。そのグループの名は「モーニング娘。」。モーニング娘。は1996年頃に元シャ乱Qのつんく♂が、芸能事務所ハロープロジェクトを立ち上げ、アイドルグループを生み出した。それがモーニング娘。である。「モーニングコーヒー」でデビューし、2000年に黄金時代を迎え、「ザ・ピース」「Loveマシーン」「サマーウェディング」などのヒットソングを生み出し、派生ユニットでは「ミニモニ。」や「プッチモニ」も生まれ、こちらもヒットソングを連発。モーニング娘。は当時、社会現象を巻き起こしたアイドルグループであった。
(スゴいな。ウチもあんなアイドルになりたいな…。)
雫の心の中に、何か熱いものが込み上げてきた。自分もこのスターダムに立ちたい、人々に夢や希望を与えるスーパースターになりたい、そういう思いが湧いてきた。

 1年後の2001年、姉の澪は高校3年生になり、将来は教師になるため、京都教育大学を第一志望に掲げて勉強に励んだ。雫は中学2年生で、部活は剣道部に入っていたが、実力で周りに劣り、クラスでも優等生だが目立たない存在だった。雫はアイドルに熱中し、剣道の稽古と勉強以外は日夜アイドルに夢中になり、「オタク」として後ろ指を指されたが、アイドルになるという夢のため、わき目も降らずに研究した。当時、週刊少年ジャンプで連載されていた「ONE PIECE」が日曜日の夜7時半に放送されていて、雫は熱心に観ていた。
(アイドルグループやったら、あんな感じの仲間と一緒に…。)
姉も「ONE PIECE」にハマっていて、一緒に観ては感想を語り合った。個性豊かな仲間と共に戦い、冒険し、成長していく「麦わらの一味」のようなアイドルグループに入りたいとも思っていた。この頃のアニメ主題歌は、Folder5「believe」で疾走感溢れる曲であり、雫はFolder5のことも研究していた。夏休みに入ったある日の回では、リトルガーデンというジャングルの島に行った話が放送された。グランドラインに入った麦わらの一味は、最初の島 ウィスキーピークで秘密犯罪結社 バロックワークスと戦う。その中でアラバスタ王国の王女 ビビを送り届けてくれ、と頼まれる。無事にビビを連れてウィスキーピークを後にし、リトルガーデンに行く。そこで巨人戦士のドリーとブロギーに出会うが、ウィスキーピークから追いかけてきたバロックワークスのMr.5とミス バレンタイン、Mr.3とミス ゴールデンウィークの魔の手が麦わらの一味に迫る。その回では、麦わらの一味とMr.3一派が戦う。
「頑張れー!」
「ウソップ何してんの?」
感情移入して、二人で熱くなる。
「ルフィ、お茶飲んでる場合やないやろ!!」
「どないなるんやろ?」
アニメが終わり、エンディングテーマが流れる。
「あっ、「「推定少女」」や!」
「「「しょうちのすけ」」カッコええよね。」
夏休みが終わり、雫は本気でアイドルになりたいという意志が強くなっていった。ある日、雫に目をつけていたヤンキーに絡まれた。
「アンタさ、アイドルなりたいとか、キモいねんけど。」
「オッサンに媚売って、股開くんやろ?」
だが、雫はそんなことには動じなかった。頭の中で推定少女「しょうちのすけ」が流れ、サビの所に合わせて、啖呵を切った。
「そんなモン関係あらへんわ!!バカはしょうちのすけや!野望に挑む勇気もあらへんヤツにバカにされる筋合い無いわ!今に見とけ!!」
ヤンキーを黙らせた。秋に、父がモーニング娘。の石川でのliveのチケットを入手し、一緒に行くことになった。
「モーニング娘。のliveや!」
「雫、本物のアイドルが観れるで。」

    来る2001年9月、石川県小松市のこまつドームにて、モーニング娘。のliveが行われた。このliveはモーニング娘。9人体制で行われるラストliveである。二人は夜講演に合わせて、新幹線で京都から金沢へ行き、金沢から小松へ行った。
「着いたで。」
会場に入り、しばらくするとliveが始まった。メンバーが登場し、曲を披露。
「ゴマキ、最高ー!!」
「お父さんは、辻ちゃん加護ちゃんがええな。」
liveが進行し、「ザ・ピース」の所で謎のオッサンが紛れ込んだ。オッサンはそのまま次の曲も入り、最後の「恋愛レボリューション21」でマイクを持って叫んだ。
「皆さん、元気ですかー!!!!モーニング娘。改めて、モーニングおっさんです!」
「岡村隆史やんな!?」
「てことは、「「めちゃイケ」」やな。」
岡村隆史はセンターに立ち、「恋愛レボリューション21」でメンバーに混じって溌剌とダンスした。
「うわぁ、スゴい!!ウチもliveでああいう所に立ちたい!」
「雫、ホンマもんのアイドルはええやろ?」
「うん!ウチもアイドルなる!」
本物のアイドルを見て、雫は胸がいっぱいになり、自信がみなぎってきた。高校生になると、立ち振舞いも堂々とし、剣道部では主将を務め、クラスでは委員長として中心を担った。

    アイドルを目指し、ダンスや歌の練習にも励んだ。剣道部の同級生の男子と恋愛し、初体験を済ませた。
「アンタ、ちっこいねんな…。」
「誰が、ポークビッツやねん!」
雫が印象に残っている学校行事は、文化祭である。高2の頃、文化祭で演劇をやることになった。文化祭実行委員が皆の意見を黒板に書いていたが、雫は静かに皆のアイディアを凝視。
(何やろな、当たり障りあらへんな…。そうや!思いきって…。)
「はい!」
雫は挙手して、即興で書いたシナリオを実行委員に提出した。実行委員は担任と一緒にシナリオにざっと目を通す。
「面白そうやな…。」
「雫さん、これは中々ぶっ飛んどるね。」
雫は、その日からシナリオを固めて、脚本を書いた。内容は極道をテーマにしたもので、作品の中に当時「めちゃイケ」で行われていた「単位上等!爆走!数取り団」も採り入れようと考えた。
(ウチも出演したいわ。和服着て、下はサラシとふんどしで、サイコロ振って「ウチが戴いたで!」って決めたろう…。) 
アイディアをまとめて、完成させた脚本を提出し、後に配役を決めて、台本を書いた。タイトルは「闘え!少女」。完成した台本を配り、演技練習にかかる。1ヶ月間みっちりと練習に励み、本番の尺である50分に上手くまとめた。
「これはイケるで。」
「アドリブいっぱいでオモロイな。」 
「後は、ウチやな。」 
皆、手応えを感じていた。

    迎えた文化祭当日、雫のクラスはトリを飾ることとなった。
「ウチらが天下獲るで!」
「おぅ!!!!!」
舞台に出るのは、18人(男子9人 女子9人)。昼食を済ませ、いよいよ開演。
「2-4 「「闘え!少女」」開演です。」
ブザーと共に幕が上がり、劇が始まった。冒頭ではセーラー服の女子高生が、街中を歩いているところから始まった。
「何かええ男おらんかなー?」
その娘の名前は山本翠(みどり)。身長が低く、見た目から小学生に間違えられることがある。しばらく歩くと、路地裏についた。そこに如何にも不良という感じの男女が現れた。男の方は青い通学帽にボタンを開けたブレザーと古風なヤンキーという出で立ちで、女の方は虎の刺繍のスカジャンに黒いミニスカートという出で立ち。
「お嬢ちゃん、金持ってへんかなー?」
「ウフフ。子どもは家帰って、ママのオッパイでも吸ってなさいよ。」
ヤンキーに絡まれ、戦く翠ちゃん。だが、強気になって立ち向かう。
「やるの!来なさい!私はスーパーヒロイン 翠ちゃん!やぁ!!!」
舞台が暗転し、ボコボコにやられるBGMが流れ、明るくなると、翠ちゃんは横たわっていた。
「じゃあな、お嬢ちゃん。」
「ウフフ、オムツした方がええんちゃう?」
ヤンキーが立ち去り、翠ちゃんは独りで泣いていた。
「うぇぇぇぇぇん…。何でウチは弱いん?スーパーヒロインやのに…。」
そこにハットを被った独りの男が現れた。
「お嬢ちゃん、力が欲しいか?」
「おじさん、誰?」
「俺は、三浦雅紀。お嬢ちゃんに力を授けよう。」
「力?」
「あぁ、特訓しようか。」
その日から、二人の特訓が始まった。特訓をしてから1か月後、翠は友人の久美と愛華と共に、公園で遊んでいるといつかのヤンキーがいた。
「あ、この間のお嬢ちゃん。」
「お友達と一緒なんや~」
翠は二人の前に立ち、ヤンキーに応戦する。二人の攻撃をかわし、カンフーの一撃をお見舞いした。
「ウチは、スーパーヒロイン翠ちゃんやで!」
「翠ちゃん、スゴイ!」

 その頃、敗れたヤンキー2人は苛ついていた。
「何や、あのガキィ!」
「ホンマに腹立つわ~!」
空き缶を蹴り飛ばすと、極道のお兄さんに直撃した。
「痛いな~、何やワレ!」
「あ、何やオッサン、やるん?」
「ええやないか。空き地に来い!お前らの仲間も連れてな!」
極道VSヤンキーの戦いが幕を開ける…。空き地には、自転車を6台円陣のように並べてスタンバイ済み。極道サイドには、雫が和服姿でサイコロ博打をしていた。
「ヤンキーがウチらに…。ええ度胸やな。」
そこにヤンキー達が乗り込んできた。
「オイ、極道なんかぶっ飛ばしたるわ!」
「ホンマや、いったるで~。」

極道サイド
雫・菜々子・美沙希 弘樹・章太郎・洋一

ヤンキーサイド
志穂・和香・真紀子 達夫・魁人・勉
喧嘩を売ったヤンキーは真紀子と達夫である。配置は極道・ヤンキーの順で、それぞれ二人乗りする。「めちゃイケ」で行われていた「数取団」と同じ形式で2本勝負という形で戦う。
「ヤンキー、売られた喧嘩は買うで、ヨロシク!」
「極道なんか倒すで、ヨロシク!」
雫からスタート。
「せーの、ブンブンブブブン!」

1本目
雫・弘毅「柴犬」→志穂・達夫「1匹、柴犬」→菜々子・章太郎「2匹、豆大福」→和香・魁人「3個、豆柴」→美沙希・洋一「4匹、赤いきつね」→真紀子・勉「どん兵衛!」
「ちょっと待って!」
一同から審議が入る。赤いきつねは、マルちゃんの商品名でうどんなので、単位は「〇杯」と数える。どん兵衛とマルちゃんは別物。
「これはブンブンアウトで、ございますね~」
アウトとなり、BGMが流れ、関取が出てくる。
「いや、白ブリーフて、AV男優やんけ!」
真紀子が挑むも、関取に投げ飛ばされた。恐れをなした勉は逃げ出そうとしたが、関取にシバかれた。その様子は、極楽とんぼの山本圭一のようだった。
「もー、何で俺まで…。」
「アンタ、何逃げとんねん!」

2本目
ミスした人から再開。坊主でサングラスをかけている勉は、啖呵を切る。
「ほんなら、ブッこませてもらいますわ。よろしく!!」
「せーの、ブンブンブブブン!!!」
「ゴリラカレー!!」
「?!」
謎のお題に、前にいた真紀子は吹き出した。
「何言うたん?」
「ゴリラカレーや、金沢にあるやろ?」
雫は冷静にツッコんだ。
「それ、ゴーゴーカレーや。」
「カレーゴリラ?」
「ブルーハワイみたいに言うなや。」
「これはブンブンアウトで、ございますね~。」
アウトとなり、関取が現れた。
「もう勘弁してよー!!」
挑んだ真紀子だったが、投げ飛ばされ、ジャイアントスイングされた。
「痛ぃ…。」
勉は呆気なく投げ飛ばされた。
「ウチらの勝ちや。」
雫はサイコロを投げて、静かにキメた。

    この戦いを見ていた翠は、熱いものが込み上げてきた。
「姉さん!私とタイマンしてくれませんか!」
「ん?あら、可愛いお嬢ちゃんやね~。」
頭を撫でると、翠は頬を膨らませた。
「小学生やない、高校生や!」
「ウチとタイマン、ええやないの。これに着替えてきぃ。」
渡されたのは、赤いふんどしとサラシ。ここで舞台が暗転し、次のシーンでは雫と翠がサラシにふんどしという格好で見つめ合っていた。
「見れば見るほど、アンタのカラダ、小学生やな?」 
「小学生やない!オッパイある!」
「アンタ、キキララのパンツ履いてるんやな?」
「キキララのぱんちゅ好きなの!」
勝負はふんどしを脱がした方が勝ちというルール。両者見合ってから、掴みかかる。
「うりゃ!」
「おお、やるやん…。持ち上げられるんかいな?」
ふんどしを掴むも、持ち上げられない。
「ええか、こうやるんやで!」
雫は翠のふんどしを掴んで持ち上げた。ふんどしが尻に食い込み、男子が興奮する。
「食い込む!お尻食い込む!」
そのまま投げ飛ばし、ふんどしを取った。赤面する翠にタオルを渡し、股間を隠した。
「やっぱり強いです。雫さん、私も弟子にしてください!」
雫は腕を組んで、静かに呟いた。
「アカン。アンタは正義の味方として強くなるんや。ウチらのような極道はな、半端な気持ちじゃアカンのや。アンタのような真っ直ぐな女の子は、正義のスーパーヒロインがお似合いや。アンタは正義の味方になりや。」
「はい、ありがとうございます!」
ラストシーンでは、翠が友達と一緒に下校している所を、雫が見守るという場面で終わった。雫は監督・脚本・出演を務め、最優秀女優賞と最優秀賞を獲得した。
「何かウチ、ジャッキー・チェンやん…。」
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