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第1章 探偵事務所の日常

第8話 ハイリスクデート

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 8月14日にデートの約束を入れ、二人はそこに向けての準備をしていた。雅文は明日のデートで着ていく服を吟味。青いカッターシャツか黒いカッターシャツ、いずれも半袖である。そこに合わせるのは、黒い半パン。
「このコーデの方がええな。」
午前中は、部屋で扇風機の風に吹かれながら、デートの計画を立てる。神戸市は9区あり、雅文が住んでいるのは中央区。北区・西区は山の方なので無し。東灘区・灘区は逆方面に行かなければならないので無し。エリアでは、中央区を中心に観光する。沙耶香は海に行きたいと言っていたので、中央区から近いのは須磨区にある須磨海水浴場。ここに決定。 
「よし、エリアはこれに決まり。」

「8/14 沙耶香とデート@神戸
観光エリア 中央区 生田神社
                                  北野異人館
                                  南京町
                                  ハーバーランド
                     須磨区 須磨海水浴場  」

エリアを決めた後は、予算を算出する。異人館までのバス代・南京町での食事・須磨海水浴場までの電車賃や現地での費用、それらを全て込みで計算する。雅文の財布には、現在4600円あり、口座には86万の貯金がある。そこから予備費として3000円を卸す。
「これで予算はOK。後は沙耶香ちゃんをもてなすことやね。」
計画を完成させ、雅文は外にお金を卸しに行った。

    その頃、脱走した岩倉謙二容疑者は、朝に兵庫県に到着し、尼崎センタープールで競艇に興じていた。
「よし、来い!そこだ!そこ、よぉし!!」
賭けに勝利し、30万手に入れた。
「フフフ、これで神戸で遊び回れるぞ。」
夏の猛暑の日差しが降り注ぐ。汗をかいた彼は、尼崎センタープール前駅構内でジュースを買って、一休み。 
「フー、腹減ったな。」
阪神三ノ宮行きの切符を買い、電車が来るまでの間、コンビニで買ったおにぎりを頬張る。この時期は、高校野球がやっている影響で電車は混雑していた。
「満員か、まぁいい。甲子園駅でみんな降りるんだろ。」
電車に乗り、三ノ宮へ向かう。その日の夜は、神戸メリケンパークオリエンタルホテルに宿泊。留置所を脱走した犯罪者とは思えないぐらい優雅な夜を過ごし、ホテル内のレストランで神戸牛ステーキに舌鼓を打つ。部屋に戻り、明日の計画を立てる。
(確か、楠木亜梨沙が通っていた高校に、水泳で強化選手に挙がっているヤツがいたな…。倉橋沙耶香という小娘だな…。)
スマホで検索し、写真を入手。
「フフフ、コイツだ。コイツを血祭りにして、俺の奴隷にしてやるぜ…。」 

    翌朝、雅文はシャワーを浴びて、デート用に用意した服に着替える。朝食を食べてから、荷物をリュックに入れて8:30に家を出た。
「いってくる。」
「いってらっしゃい。」 
その1、2時間前に沙耶香はシャワーを浴びてから、勝負下着として黒いブラジャーとパンティを身につけた。上は白いTシャツで、中国四聖獣(玄武・青龍・白虎・朱雀)が中央に描かれている。下は青いショートデニムで太ももを露出。朝食を済ませ、ウェストポーチに財布・スマホ・水筒を入れ、水着を入れたリュックを背負い、7時20分頃に家を出た。南茨木から十三へ行き、十三で阪急神戸線に乗り替える。大阪を出て、兵庫に入る。
「わあ、都会やな。」
武庫川を越え、西宮市に入る。電車の窓からはアクタ西宮と阪急西宮ガーデンズが見える。
「あれがガーデンズなんや。行ってみたいな。」
西宮北口・夙川・岡本を経て、神戸三宮へ到着した。時刻は8:50。
「着いたー!」
改札を出て、待ち合わせ場所の西改札口に向かうと、雅文が待っていた。青いカッターシャツに黒い半パンと爽やかな格好をしている。朝早いためか、飲食店やパチンコ店は営業しておらず、静かな雰囲気が漂う。
「おはよう、沙耶香ちゃん。」
「おはようございます。」
ここで、雅文が神戸の名所を書いたメモを見せる。
「この辺がオススメなんだよ。」
「南京町は行きたい。異人館もええな、生田神社はこの近くなん?」
「ここからすぐやで。」
西改札口から元町方面へ向かうと、生田ロードという大通りに出た。夜になるとキャバクラやガールズバー・ナイトクラブなどが開き、周辺の飲食店はラーメン・中華・焼肉など多種多様で多くの人で賑わう。まだ静けさが残る生田ロードを北上し、生田神社へ向かう。
「神戸は都会やな。」
「そうやで、神戸は港町で歴史の深いとこなんよ。」
そうこうしていると、生田神社の鳥居が見えた。生田神社は廣田神社・長田神社と並ぶ神戸を代表する神社の一つであり、「神戸」の地名の由来にもなったと言われている。境内に入り、二人は手水で手を洗い、口を濯ぐ。夏真っ盛りで、蝉の鳴き声がこだまする。拝殿に向かい、それぞれ10円を賽銭箱に投げ入れ、手を合わせて願い事をする。
(一流の探偵になれますように 一流の探偵になれますように 一流の探偵になれますように)
(大会で優勝しますように 大会で優勝しますように 大会で優勝しますように)
願い事をした後は、のんびりと境内を廻る。
「沙耶香は、何をお願いしたん?」
「ウチは、今度の大会で優勝しますように、って。」
「それはいつやるんかな?」
沙耶香はスマホを取り出し、大会スケジュールを見せた。8月下旬の3日間に行われる。
「そうか、応援してるで。」
「やってやりますよ。」

    生田神社からトアロードを北上し、北野異人館へ向かう。日差しが強くなり、汗がダラダラと流れる。
「暑い~。」
「この辺は坂道多いからね。」
二人は水筒のお茶を飲みながら、北野までの坂道を上る。坂道を登ると、そこには100年前に建設された洋館が建ち並び、レトロな雰囲気と異国情緒が溢れる。
「わぁ、ヨーロッパみたいや。」
「この辺は、昔、神戸に移り住んだ外国人達が建てた洋館が集まってるからね。」
北野では、約16館が一般公開されており、そのうち風見鶏の館・うろこの家 うろこ美術館・萌黄の館の3館は国指定重要文化財に登録されている。二人は、当時の情景やそこに生きていた人の風情を思い浮かべながら、異人館街を散歩していた。萌黄の館は淡い緑色で、20世紀初頭に建てられたものである。
「雅文さん、このベンチのオジサン誰?」
「悪い、俺も分からん。」
二人はベンチに座り、オジサンの銅像と一緒に写真を撮る。続いて風見鶏の館へ、この館はドイツの建築様式とアールヌーボー調の室内装飾が調和した優美なところである。
「雅文さん、そこの前立ってや。」
雅文は、入り口の壁に佇み、「考える人」のようなポーズをとる。上手く撮ってもらい、その写真はまるで明治・大正期の推理小説に出てきそうな金持ちの探偵のようであった。二人は一休みにと、「スターバックスコーヒー 北野異人館店」へ行った。洋館を利用し、館内はアンティークの調度品を配しており、他のスターバックスとは一線を画す特別な空間である。部屋は6つあり、二人は2階のゲストルームという二人掛けのテーブル席の部屋へ移動、共にキャラメルマキアートを注文し、ゆったりといただく。
「美味しい。この洋館っていうのが雰囲気あって素敵。」
「そうか。この異人館街は、当時の人たちの生活や歴史に思いをはせると、より一層楽しめるよ。」
「何か、そう言われると、ウチ、お嬢様になった気分や…。」
「いや、沙耶香。お嬢様やなくて貴婦人のようやね。」
「いやや…。貴婦人やなんて…。」
思わぬ一言に、沙耶香は赤面した。神戸という町の中で、エレガントな異国情緒を味わい、彼の紳士的な雰囲気に沙耶香は心を奪われた。洋館を後にし、二人はシティーループで南京町へ向かう。

 バスに揺られること20分、時刻は11:30を差していた。元町商店街(南京町前)で下車すると、むわっと熱気が漂う。神戸の魅力は、異国情緒を味わえるという点がある。北野異人館街はヨーロッパの雰囲気漂うレトロなエリアで、南京町はアジアの熱気溢れる横浜・長崎と並ぶ日本三大チャイナタウンである。二人の目の前には、南京町東の入り口 長安門がそびえ立つ。信号を渡って、長安門の前で写真を撮る。門をくぐると、小さな町に約100店舗集結し、出店からは美味しそうな匂いが漂う。
「コカ・コーラの自販機の上にパンダおる!」
「おるよ。中国をイメージした場所やから。」
南京町は出店が多く、食べ歩きしながら楽しむことができる。昼食はここでの食べ歩きとなる。お金はそれぞれ払う。西に進み、南京町広場に到着。「南京町」と書かれた看板のある、広場のシンボル「あづまや」と前には「小財神」というお金の神様の像が立っている。
「あの人形何?」
「あれは、お金の神様。写真撮る?」
沙耶香は、人形の間にしゃがんで写真を撮ってもらった。近くのお店に目をやると、行列が短くなっているのを見計らい、
「沙耶香、南京町に来たらオススメの所や。」
「んっ?「「老祥記」」?」
南京町の老舗 「老祥記」へ向かう。行列は短くなっていたので5分で中に入れた。ここは彼の奢りで、豚まん(1個90円)を4つ買った。「あづまや」のベンチが空いていたので、そこに座っていただく。出来立ての豚まんは薄皮で、かじるとジューシーな肉汁が溢れ出す。
「ん~、美味しい~!」
「南京町に来たら、これは食うておかな。」
それから、近くの「小籠湯包」に行き、小籠包をいただく。店内での立ち食いとなる。出来立ての小籠包から湯気が漂う。雅文は小籠包をレンゲに乗せ、箸で少し開いてから肉汁を吸う。何も知らない沙耶香は一口で食べてしまい、肉汁が口に広がった。
「熱っつ…。」
「小籠包は肉汁を吸ってからね。」
他にも、神戸牛ラーメン・ブタちゃんまん・その他もう一杯ラーメンをいただき、腹を満たした。
「お腹いっぱい。ごちそうさま。」
「ホンマに安値で、美味いモン食えるからええな。」
食後のお茶を飲みながら、長安門を出て、南京町を後にした。JR元町駅へと向かう道中、その背後に怪しい影が…。
「フフフ、見つけたぞ。倉橋沙耶香。せいぜい楽しんでいろ、殺されるとも知らずにな。」
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