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第1章 探偵事務所の日常

第7話 沙耶香の恐怖体験

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    事件の早期解決に繋がった沙耶香の恐怖体験が語られた。遡ること、事件発生の翌日のこと。沙耶香は高校でいつものように、部活動に励んでいた。夕暮れになり、練習が終わった後も、独りで自主練していた。
(大会も近いから、これからはウチがみんなを引っ張っていくんや…。)
得意のクロールを中心に熱心に練習する。水泳は全身を使うので、陸上のスポーツよりかなり体力を消耗する。
「ふー…。ここまでにしようか…。」
疲れた沙耶香は、水面に浮かんで夕陽を見ていた。プールから上がり、シャワーを浴びていると、水面に何かが浮かんでいるのが見えた。
「何やアレ?」
不審に思った沙耶香は、プールに入って浮遊物の元へと泳いだ。そして、恐る恐る浮遊物を掴んで引き上げると、何とそれは人間の生首だった。
「キャアァァァァァ!!!!!!」
生首は口を開き、しわがれた声で
「見つけてくれて、ありがとうな…。」
と喋った。
「えっ?」
沙耶香は、この生首が危害を加えてこないと確信し、掴んでいる生首と話すという異様な状況の中、冷静に会話した。
「貴方、誰なん?」
「ワシは、河本孝司…。ここの元水泳部顧問やったんや…。」
「そうなんや…。」
「楠木亜梨沙って知っとるか?」
「亜梨沙さん。はい、知ってます。」
「あの娘は、優秀やったわ。ワシが見抜いただけはあった。ワシはな、あの馬鹿げた番組を作ったプロデューサーに殺されたしもうたんや!!」
生首は、怒りと無念に満ちた様子で、声を絞り出した。その目には涙が溢れていた。
「馬鹿げた番組って?」
「「Student ドッキリ!」とか言ういじめバカ番組や…。ここもな、そのドッキリのネタになったんや。テレビに出れたんはええ。せやけど、そのやり方が滅茶苦茶やったんや!!」

   その回が放送されたのは、2018年7月14日だった。当時、水泳部に所属していた楠木亜梨沙をターゲットにドッキリが行われた。そのドッキリで問題となったのは、亜梨沙が練習を終えて、用を足そうとした時のこと。水着を脱いで全裸になり、しゃがんで用を足す。済ませた後に、トイレのドアの下の隙間から爆竹が投げ込まれた。
「何、何!熱!」
爆竹が密室ではじけ、熱と煙で亜梨沙は悶絶する。熱さと痛みで呆然と立ち尽くす亜梨沙。
「何これ?レイプ?」
この様子を見たスタジオのMCと出演者は、彼女を嘲笑した。
「レイプな訳ねぇーだろ!」
「自意識過剰~!」
「レイプちゃうわ!アホンダラ!」
この時の放送を見た時、彼は一瞬怒りが込み上げたが、当の本人はTVで使ってもらって美味しかったと満悦していたので、大目に見ることにした。しかし、番組は味を占めたのか、今度は東京の高校の水泳部で同じことをやった。
ターゲットとなったのは、茶髪で少し派手な感じの女の子。ここでは、更衣室にカメラを仕掛け、彼女が着替えているところを盗撮し、全国放送でオンエアした。トイレで用を足しているところに、爆竹が投げ込まれた。彼女は爆竹が太ももに直撃し、火傷を負った。
「痛い、痛いよ…。」
ドッキリのネタ晴らしでは、下校しようとする彼女をバズーカで襲撃。パイまみれになり、彼女は泣いてしまった。
「ギャハハハハハハ!!」
「えっ?「「悲劇のヒロイン」」ですか?」
「ギャルのくせに、キキララのパンツって…。」
MCと出演者の度を越えたドッキリと嘲笑・その後の好奇な目に晒され、彼女は登校拒否となり、精神疾患を患ってしまった。
「怖い怖い、みんながアタシを笑ってる…。」
彼はTV局に抗議の電話を入れ、番組は打ち切られた。だが、後日、当時のプロデューサーから口止め料として、現金50万が送られ、同封されていた手紙には脅迫めいた内容が書かれていた。
「余計なマネしてくれたな。お前はいつか殺してやる。あの小娘が精神疾患患ったって?知るかよ。あの小娘をネタにいい商売が出来たのによ、オッサン。お前はいつか殺すからな。」

 生首から語られた芸能界の闇の話に、沙耶香は耳を疑った。
「ウソやろ?ただの人権侵害やないの!それでオジサンが殺されるんやなんて、そんな馬鹿な話があってエエ訳ないやろ!!」
彼女の正義感を感じたのか、生首は沙耶香に依頼をした。自分の生首が遺棄されている場所を説明し、沙耶香はプールから上がって、シャワーを浴びて制服に着替え、その場所へ行って生首を探した。その結果、生首を発見し、警察に通報。犯人逮捕に至った。

    「学校の怪談」に出てきそうな話に、雅文は真摯に耳を傾けた。
「そうなんや、情報ありがとう。」
「聞いてくれてありがとうございます。」
「また何かあったら、教えてね。」
「ありがとうございます。」
この日のやり取りは、ここで終了した。翌日、沙耶香は正継と雅と一緒に、ひらかたパークのプール ザ・ブーンへ遊びに行った。グラビアアイドル並みにスタイルのいい沙耶香は迷彩柄のビキニを、雅は白ビキニを着ている。両手に花のハーレム状態の正継はテンションが上がっていた。
「いやー、ハーレムやな~。」
「正継くん、クロちゃんみたいやん。」
雅にそう言われると、正継はクロちゃんのマネをして、プールの水を飲んだ。
「ぷはー!いやー、沙耶香と雅が入っているプールの水は美味いな~!」
「正継、キモいで…。」
「キモい言うなや!!」
泳ぎ疲れたのか、休憩エリアで一休み。買ってきたジュースを飲みながら雑談、話題は恋の話 略して「コイバナ」である。
「沙耶香は好きな人おるの?」
「好きな人っていうか、この間ラクタブドームで大会あったやん。そこで知り合った人なんやけど…。」
「誰やソイツ?」
正継が前のめりになる。沙耶香はスマホを取り出し、万博記念公園で出会った時に撮ってもらった写真を見せた。
「この人。」
「わっ、男前やん。」
「何て言う人や?」
「神田雅文っていう、神戸で探偵やってる人。」
「探偵?!カッコええやん。」
「沙耶香ちゃん、ええ人見つけたやん。デートはしたん?」
「デート?!まだしてへんけど…。」
「した方がええで。沙耶香、相手は神戸の探偵なんやろ?やったら神戸でデートはロマンチックやろな。」
デートを勧められ、沙耶香は胸がドキドキして頭が熱くなってきた。
(嘘やろ?デートか、ええな…。雅文さんイケメンやし、神戸か…。南京町とかハーバーランド行きたいわ~…。でも、待って。ウチは17歳で雅文さんは22歳、年上の男の人とデートってことは、まさか最後はラブホで…。あんなことやこんなこと、アカン、嫌や~!それは恥ずかしい~!!!)
沙耶香は妄想して赤面し、クネクネしていた。
「どないしたん?」
「いや、別に…。デートか、行ってみたいな…。」
「沙耶香ちゃん、思いきって行った方がええよ。」
友人に勧められ、デートのイメージを膨らませる。その日の夜、沙耶香は雅文にLINEをした。

2024年8月12日
雅文
沙耶香「こんばんは。」21:04 既読1
雅文「こんばんは。沙耶香ちゃん。」21:08 既読1
沙耶香「8月14日って空いてますか?」21:13 既読1
雅文「んっ?あぁ、空いてるよ。どないしたん?」21:17 既読1
沙耶香「雅文さん、沙耶香は雅文さんとデートしたいです。」21:19 既読1
突然の告白に雅文は驚き、返信まで数分、間を置いた。その間、頭の中でデートプランを立てた。
(デートか。そうや、沙耶香ちゃんを神戸に招待してあげよう。プランでは南京町・ハーバーランド、今は夏やから海に…。海やったら、須磨の方が近いな。)
雅文「ええよ。沙耶香ちゃん、神戸に遊びにおいでよ。僕が神戸を案内するよ。」21:28 既読1
沙耶香「ありがとうございます。海入りたいです。」21:35 既読1
雅文「分かった。海も連れていくから水着も持ってきてね。じゃあ、8月14日の午前9時に阪急神戸三宮駅 西口に集合ね。」21:40 既読1
沙耶香「はい、ありがとうございます。楽しみにしてます!」21:46 既読1

 二人のやり取りが終わった頃、大阪府内某留置所にて殺人容疑で逮捕された岩倉謙二が脱走した。彼は拳銃とナイフを持ち、財布などの手荷物を奪還して、大阪市へ逃亡した。梅田のホテルにチェックインし、シャワーを浴びる。
「ハハハ、大阪を脱出出来ればこっちのモンだ。でも、せっかく関西に来たんだ。神戸に行きたいな。」
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