上 下
5 / 189
第1章 探偵事務所の日常

第4話 海賊系女子

しおりを挟む
    7月下旬になり、梅雨が開けて本格的に暑くなる時期、雅文はある人物のことが気になっていた。それは、今年の夏に開催されるインターハイに出場する選手である。夏の夜は蒸し暑く、雅文は部屋でエアコンをかけて、パソコンで彼女のことについて調べていた。
「この娘、気になるな…。」
パソコンの画面には、黒髪ショートの競泳水着を着た、グラビアアイドル並みにスタイルのいい女の子が映っている。彼女は大阪の北摂エリア(茨木市・高槻市・吹田市・豊中市・摂津市・箕面市etc)の高校に通い、水泳部に所属している。彼女のことが気になっていた雅文は、来月上旬に大阪府で行われる大会で、彼女を一目見ようと大会の日程を調べた。日時は2024年8月4日・会場は東和薬品ラクタブドーム(大阪府門真市)とあった。この日は休日なので、彼は計画を練った。
 
    全国の小中高で夏休みとなり、猛暑日が続いていた頃、探偵事務所は様々な依頼を受けて、捜査に勤しんでいた。
「夏は1年で1番犯罪が増える時期やね。」
美夜子は小型扇風機で涼み、新聞を読みながらアイスココアを飲んでいた。探偵の仕事は外での捜査だけではなく、事務作業もある。雅文と所長はデスクにそれぞれの好物の飲み物(雅文はアイスミルクティー・所長はアイスレモン
ティー)を置いて、慣れた手つきで書類をデータに起こす。
「この間の放火事件、犯人はどうなるんでしょうね?所長。」
「ああ。放火殺人やからな。少なくとも懲役10年は下らないやろうな。」
「懲役10年…。」
「雅文、アメリカでは懲役100年もあるわ。」
「懲役100年!死ぬで。」
そんなやり取りをしながら、午前中の作業を終え、各々持って来た昼食を食べる。所長は手作りの海苔弁当、ご飯におかかをまぶして海苔を乗せ、白身魚のフライ・卵焼き・焼肉・マカロニサラダ・きんぴらごぼうと某弁当チェーン店で見かける定番メニューを忠実なまでに再現した。雅文はシンプルにご飯の上に、焼き肉を乗せた焼き肉弁当、美夜子はおにぎりと卵焼き・唐揚げ・サラダといったオカズを入れた弁当を持参していた。雫は外で捜査をしており、その合間に食べるであろう。
「海行きたいなー。涼みたい。」
「海ね。私は須磨より舞子の方がいいわ。」
「舞子もいいが、新舞子の方がいいよ。」
「所長、新舞子は遠すぎますよ。」
「美夜子、新舞子ってどこや?」
「たつの市。」
「遠いな。」
雑談をしながら昼食にありつく。この日は30代女性から依頼を受けており、浮気調査にあたる。所長と雅文で尾行し、美夜子は女性の夫に接近して話を聞くというもの。食後、3人は捜査に向かう。雫は事務所の鍵を持っているので、しっかりと戸締まりをし、調査に出る。
     
    この日の仕事が終わり、雅文は帰路につく。汗だくになり、家に帰ると、手を洗ってから部屋に戻った。Tシャツとトランクス、半パンを持って、風呂場に行き、シャワーを浴びる。
「ふー…。」
夏の暑さにやられた身体に、冷水をかけて冷やす。もうすぐ8月になる。女子高生スイマーのことが気になり、胸の鼓動が高ぶる。
(会いたいな…。)
ボディーソープを手に取り、身体を洗う。シャンプーで頭を洗い、髭を剃る。お湯で流して、風呂から上がる。身体を拭いて服に着替え、居間に行き、風呂上がりの一杯としてアイスミルクティーを飲んだ。
「くぅー…。夏はコレやな。」
夕食後、雅文は部屋で調べものをしていた。
「大会の会場、門真市か…。遠いな…。」
門真市までは、京阪電車と地下鉄長堀鶴見緑地線京橋駅から直通で行ける。雅文の家の最寄り駅は阪急神戸三宮・阪神三宮・ JR三ノ宮駅である。阪急電車で行くとなると、阪急神戸三宮から阪急梅田へ行き、梅田で地下鉄御堂筋線梅田駅に乗り換え、心斎橋駅へ向かい、長堀鶴見緑地線心斎橋駅から門真南駅を目指すという道順となる。
「まぁまぁ、金かかるんかな…。片道1000円あったら行けるな。」
交通費と雑費を計算し、手帳のメモ欄に記入する。この日の夜は23:00に就寝した。

    そして、8月4日を迎えた。大会は14:00に行われる。彼は7時に起床し、歯を磨いてからシャワーを浴びる。風呂から出て、身体を拭き、トランクスを履く。黒いTシャツを着て、下は黒い半パンを履いた。鏡を見ながら、髪型をセットする。両親は仕事に行き、テーブルにはサンドイッチがラップした状態で置かれていた。雅文は冷蔵庫から出したミルクティーをコップに入れ、サンドイッチにかじりつく。美夜子とLINEをやっており、彼女はこの日、5歳年下の妹と明石の大蔵海岸に海水浴に行く予定である。

2024年8月4日
美夜子
雅文「大蔵海岸か、中々ええとこやね。」8:34 既読1
美夜子「ええ。亜夜子は須磨は嫌やって言うの。不良っぽい雰囲気が嫌なようなの。」8:36 既読1
雅文「行ってらっしゃい。明石はええとこやからね。明石焼き美味いからオススメね。」8:37
既読1
美夜子「チェックしておくわ。ごきげんよう。」8:38 既読1

朝食を済ませ、皿を流しに入れる。電車の時間を確認し、小1時間ゆっくりする。暫くして10時30分になり、青いカッターシャツを着て、家を出て鍵をかける。北野から阪急神戸三宮駅に向かい、梅田行きの切符を買う。梅田方面のホームに上がると、むわっとした熱気が漂い、汗が滲み出る。Tシャツに汗が付着し、ベタベタした感触が一層暑さを感じさせる。
「暑いな…。」
持ってきた水筒のお茶を飲み、電車を待つ。すると、紫色の電車が来た。特急大阪梅田行き、停車駅は岡本・夙川・西宮北口・十三・梅田とある。電車に乗ると、彼は席に座り、汗を拭う。岡本を過ぎると、芦屋と西宮に入る。高級住宅街が建ち並ぶ芦屋と閑静な街並みの西宮と、のどかな風景が広がる。少し仮眠をとり、しばらくすると、電車は終点の大阪梅田に到着した。梅田から御堂筋線梅田駅に乗り換え、心斎橋へと向かう。心斎橋から長堀鶴見緑地線に乗り換え、門真南駅へ行った。乗り換えが続いたが、無事に到着した。
「さてと、行こうか。」

   時刻は12:30。腹が減ったので近くの三井アウトレットパーク大阪鶴見に行き、軽食をとる。食事を済ませ、東和薬品ラクタブドームへ入る。ハイレベルな戦いが繰り広げられ、雅文は手に汗握った。
「すごいな。あの娘はぼちぼちか。」
大阪府の北摂エリアの高校が登場し、そこにお目当ての娘がいた。
「あの娘や。」
黒髪ショートで、グラビアアイドル並みに胸が大きく、豊満な尻をしている。飛び込み台に立ち、その時を待つ。スタートの合図と共に、彼女はプールに飛び込み泳ぎ出す。
「おお…。やるな…。」
彼女の活躍もあり、そのチームは1位に輝いた。彼は、彼女と話してみたいと思い、間を置いて、この後のことを考える。15時半になり、大会は終了し、各校の水泳部は帰路に着いた。彼も会場を後にし、彼女を待つ。
「おるんかな。あっ。」
そこに黒髪ショートの体操服を着た女子高生が出てきた。さっき見た娘である。彼は探偵という職業柄、尾行には慣れている。さりげなく彼女の後をつけ、駅に向かう。彼女が行ったのは、大阪モノレール門真市駅。彼女は財布を取り出し、切符を買う。彼は、彼女の切符を買う動作と行先を瞬時に確認し、万博記念公園駅の切符を買った。大阪モノレール万博記念公園行きのモノレールが到着。万博記念公園には、太陽の塔・国立民族学博物館・エキスポシティがあり、Jリーグ ガンバ大阪のホームスタジアムであるパナソニック吹田スタジアムと1993年から2015年まで使用していた万博記念競技場がある。モノレールには、ガンバ大阪のカラーである青と黒、チームエンブレム、マスコットキャラクターのガンバボーイがラッピングされている。彼女と一緒に乗車、気づかれないように吊革に掴まって立つ。彼女は体操服姿で、白いシャツの胸元に名字が書かれてあり、「倉橋」というのは確認できた。下は濃い青のハーフパンツで、黒いハイソックスを履いている。首にタオルを巻き、膝に乗せたリュックからスポーツ飲料を取り出し、一口飲んだ。一息ついていると、モノレールは万博記念公園駅に到着。
彼女が降りたので、彼も一緒に降りる。

    改札を出ると、手前にはエキスポシティと観覧車が見える。左には、太陽の塔と万博記念公園がある。後をそっとつけていると、彼女は一瞬立ち止まった。チラリとファミリーマートの横にある道頓堀くくるを見たが、そのまま歩き出した。彼はさりげなく彼女の前に近づき、話しかけた。
「やぁ、こんにちは。」
彼女はたじろいだが、すぐに返事した。
「こんにちは…。」
(誰?せやけど、イケメンやな…。)
「さっき観てたで。ラクタブドームでの君が泳いでいるところ。ホンマにスゴかったよ。」
「ありがとうございます。」
(ウチのこと観てくれてたんや。この人イケメンやな…。)
水泳の後で腹が減っていたのか、彼女の腹の虫が鳴いた。
「お腹空いてるんやね?立ち話もなんやし、エキスポシティで何か食べながら…。」
彼女は、彼に甘えて懇願した。
「お兄さん…。ウチお腹空いた…。」
エキスポシティに行き、TULLY'S COFFEEで軽食。雅文はチャイミルクティー、彼女はミルクとハニーウォルナッツドーナツを注文。総額960円となり、雅文が全額支払った。
「いただきます。」
腹が減っていた彼女は、ドーナツにかじりつき、バクバクと食べた。雅文はゆったりと、チャイミルクティーを飲んでいる。ドーナツを食べ終え、ミルクを飲んで一息ついたのを見計らって、雅文が口を開いた。
「改めて。私は神田雅文。神戸で探偵をしています。」
両手で丁寧に、名刺を渡した。
「中村探偵事務所 神田雅文。探偵さんなんやお兄さん。カッコいい…。」
「恐縮です。改めて、君の名前は?」
「ウチ?ウチは倉橋沙耶香って言います。」
「そうか。私のことは雅文と呼んでええよ。君のことは何て呼んだらええ?」
「ウチは、沙耶香、って呼んでくれたらええよ…。」
彼女は、赤面した。
「沙耶香ちゃん、私は探偵やから、何かあったら連絡お願い。」
「沙耶香ちゃん、やなんて…。ええよ…。LINE交換しようや…。」
LINEを交換し、お互い連絡が取り合えるようにした。外に出ると、夏の夕方の風情が漂い、夕陽が差していた。
「沙耶香ちゃん、家はこの近くかな?」
「うん。もうこの近くやで。」
「そうか。君に会えてよかったよ。またね。」
「じゃあね、雅文さん。」
そう言って、二人は夕方の万博記念公園を後にした。夕陽に映える太陽の塔は、まるでこの後起こりうる出来事を見つめているかのように、佇んでいた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

20BIRTHDAYーLimit

SF / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

包丁一本 1(この家に生まれて)

青春 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:1

ダイアリー・ストーリー

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

王太子妃殿下の離宮改造計画 こぼれ話

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:422

真夏の夜に降りよる雪

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:0

問題の時間

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

【完結】君を守るのが俺の使命・・・2度は繰り返さない。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:653pt お気に入り:2,387

処理中です...