Strawberry Film

橋本健太

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第15話 Star

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   1997年になり、内定を貰っていた薫は大学卒業と卒業旅行の準備を進めていた。卒業研究は完成し、卒業論文を提出することが出来た。就職先の芸能事務所スターは、大阪にあり、社宅は大阪市にあるため、そこに引っ越すことにした。これで自ずと、独立することになった。
「社宅が完備してあるとはな。まず、住居のことは解決やな。」
このことに、父親は安堵した。薫自身も、卒業前に運転免許を取得し、父親が使っていた旧車を譲り受ける形となった。無事に卒業出来る目処が立ち、後は卒業式までの空白期間を利用して、卒業旅行に行こうと考えた。2月のある日、薫は友子に卒業旅行の話をした。
「卒業旅行、ええやん!一緒に行こ!」
「あぁ、どうせなら海外に行きたいなぁー、って思ってるんやけど…。」
バブル崩壊とアジア通貨危機で、日本とアジアは不景気になっており、その影響もあって、行き先で迷っている。
「私はアジアに行きたい、と思うてるんやけど…。」
「アジアか、ええな!」
卒業旅行の行き先は海外に決定。候補地として、香港・シンガポール・インドから選び、香港に行くことにした。

 3月上旬、2泊3日で香港に行くことになり、当日は朝7時にエアポートリムジンに乗り、関西国際空港に向かう。到着して手続きを済ませ、10時の大阪発香港行きの便で香港へ行った。
「飛んでる~。海外の上空を飛んでる~。」
「薫君、まだ日本の空やで。」
飛行機に揺られること3時間、途中で機内食が振る舞われ、その後は昼寝をした。現地時間13時(日本時間14時)、啓徳空港に到着した。啓徳空港は、九竜半島の九龍城区(ガウロンゼンキョイ)にあり、街中にあることから、当時は世界一危険な空港と言われていた。入国手続きと手荷物受け取りを済ませ、香港の街に出た。
「うわー!!スゴいな!!」
「こんな街中スレスレで飛んでたのね。」
街中に出ると、薫はあることに気づいた。香港映画に精通しているので、香港の街並みはある程度見ている。九竜城砦(ガウロンジゥーサイ)と呼ばれる巨大なスラム街が跡形もなく無くなっていたのである。
「ホンマに無いわ…。公園が出来とる…。」
「九竜城砦は、1993年に無くなったで。」
しばらく歩き、尖沙旦(チムサァチョイ)のキンバリーホテルに着いた。荷物を置き、部屋でくつろいでから、夕方になった頃に街へ出た。九竜半島の大通り ネイザンロードを歩き、地下鉄で繁華街の旺角(モンコック)へ行き、ナイトマーケットの女人街(ノイヤンガイ)をぶらぶら歩く。
「薫、スリ気ぃつけや。」
「友子ちゃんも、しっかり手ぇ繋いでな。」
点心を再現したストラップをいくつか買い、Tシャツなどのブランドは偽物なので買わなかった。海外での初の食事は、香港名物の飲茶。点心に舌鼓を打つ。
「熱っ!汁が出て!!」
「小籠包一口で行ったアカンで。」

   2日目、午前7時。起床した2人はシャワーを浴びてから着替え、香港の大衆食堂 茶餐店(チャーチャンテン)で粥をいただく。腹ごしらえを済ませ、香港の街を散策。香港歴史博物館で、香港の歴史を学び、香港島では、複雑に入り組んだモンスターマンションを撮影した。
「スゴいな…。」
昼食は、香港島で飲茶。点心に慣れた薫は、小籠包を一口でいかず、ちゃんと蓮華にのせて、割ってからスープをすすっていただいた。
「小籠包、美味しいな。」
香港島を廻り、夜は尖沙旦プロムナードから香港島の夜景を観賞した。
「キレイ…。」
「100万ドルの夜景とは、言うたもんやな。」
フェリーで、香港島へ行き、トラムでヴィクトリア・ピークで夜景を一望。ロマンティックな光景をバックに、友子の写真を撮る。
「ええやん、ええやん。」
「薫も撮ってあげる。」
薫も撮影し、余韻覚めやらぬまま、ピークタワーで夜景を見ながら夕食を楽しんだ。最終日は、ホテルをチェックアウトし、フェリーでマカオへ行き、世界遺産の街並みを楽しんだ。16時の香港発大阪行きの飛行機で帰国した。

    1週間後に大学を卒業し、大阪市の社宅へ引っ越した。初めての一人暮らし、大都会の大阪で、薫は色々たじろいだ。社宅は中央区にあり、少し行けば心斎橋や難波がある。4月に入社式があり、晴れて社会人になった。カメラマンとしての基礎を学ぶため、ここでは3ヶ月みっちりと研修を行い、研修後は見習いとして撮影に携わる。グラビアカメラマンを目指す薫は、日々の仕事に懸命に取り組んだ。
(頑張るで!!)
適度に息抜きをし、週刊少年ジャンプを読んだ。
「お、新作やな?あー!!桂正和先生の作品や!!「「I,,s」」(アイズ)?面白そうやな。」
桂正和先生の、リアルな人物画と繊細な心理描写が好きで、電影少女を全巻集めた薫。電影少女は、SFの要素があったが、I,,sはとことんリアルにこだわっている。
「伊織って子、可愛いな。写真みたいな絵がええな。俺もこういうグラビアを撮りたいな。」
薫のカメラマンとしてのキャリアは、始まったばかりである。
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