Strawberry Film

橋本健太

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第11話 大災害

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    1995年1月、薫は大人になったのである。三ヶ日のご馳走で、試しに日本酒を盃で飲んだが、辛口で喉が焼けた。薫は自分が大人になったことを、少しずつ実感していた。
「幽☆遊☆白書もアニメ終わりか…。」
京都での成人式、懐かしの友人との再会を喜ぶ一同。スーツ姿でビシッと決めた薫は、自分が大人になったのだと感じていた。そこにスーツ姿の博信もいた。
「よう、薫。決まってるやん。」
「博信も、ドレッドヘアーでスーツ、何かマイケルジャクソンみたいやな。」
「ジャクソンはドレッドちゃうで。」
「あ、薫君、おはよう。」
そこに、赤い振袖を着た友子が来た。大人の女になったという感じが漂い、薫は思わず赤面した。
「何か、色っぽいな。」
「薫君もスーツ姿決まってるで。」
「友子ちゃん、俺は~。」
その後は、式典に参列し、かつての同級生らと記念撮影をした。その夜、薫は博信・友子と一緒に、行きつけの居酒屋で鍋をつついた。
「成人したねー!」
「ホンマやね。まだ実感無いねんけどな。」
「まぁ、大人になってものんびり行きたいです。」
「のんびりって、薫はマイペースやな!」
薫は、童顔で子どものようにマイペースな所がある。声は大きくないが、ゆったりした感じで、のんびりしている。サブカルチャーでは漫画が大好きで、週刊少年ジャンプを愛読していた。
「ドラゴンボール、終わりの方やし、ぬ~べ~のHな話はええけど、テケテケとか怪人Aは怖すぎたわ…。」
単行本を全巻集めた幽☆遊☆白書は、アニメが終了し、薫は喪失感があった。
「幽☆遊☆白書のアニメ終わってもうた…。」
「アニメ見てたんかー!」
「見てたで。飛影と蔵馬が好きやったわ。黒竜波カッコよかったわ~。」
話が弾んだ所で、鍋をいただく。脂が溶け出したもつ鍋は、脂身がトロトロして口一杯に旨味が広がる。
「ハフハフっ!熱いわ!!」
「薫、いっぺんに行くからや!」
楽しい時間はあっという間に過ぎ、最後にそれぞれの決意を語った。
「俺は、スポーツカメラマンとしてW杯の試合を撮影する!!」 
「私は、ナショナルジオグラフィックの写真を撮る!!」
「僕は、グラビア専門カメラマンになって、女の子の写真を撮る!!」
その日は解散となった。しかし、1週間後にあんな大災害が起こるとは、まだ誰も知る由は無かった…。

    1995年1月17日、午前5時35分。部屋で寝ていた薫は目を覚まし、トイレに行った。
「うぅ…。寒いな…。」

午前5時40分 薫は頭の中で、今日の段取りを整理。
「授業は1限からやな。」
二度寝するより、起きておこうと思った薫は、本棚から「電影少女」の単行本を取り出して読んだ。

午前5時46分 それは突然起きた
ドン、と下から突き上げられ、その直後に大きな激しい揺れが起き、薫は転倒した。
「うわぁ!何や何や!!!」
布団を被って、揺れから身を守る。色々なものが倒れ、被害が拡大する。揺れが収まった後、薫は布団から出て、1階に下り、両親の無事を確認した。ホッと胸を撫で下ろして、テレビをつけると信じがたい光景が映っていた。
「何やこれは!?」
震源地の淡路島と神戸の街は荒れ果て、至る所で火災が発生し、阪神高速道路が横転して、バスが落下寸前で止まっているなど甚大な被害が明らかになった。この地震は、阪神淡路大震災と呼ばれ、6434人が亡くなり、阪神地区に大きな被害をもたらした。

    数日後、薫達のゼミでボランティアをするという話が出て、準備をしてから被災地へ向かった。炊き出しや物資の提供をし、各々が出来ることを考えて、真摯に取り組んだ。活動の合間、薫は被災地を廻り、倒壊した家屋を見て、言葉を失った。突然壊された日常、愛する者を失い、悲しみにくれる人、全てを奪った震災の脅威、様々な感情が交差し、重苦しくなる。自分は、写真家として、この光景を撮影して写真に残す、それが出来ることなのではないか、と考えた。しかし、今この状況でカメラを向けてもいいのだろうか、という葛藤が生じ、カメラを向けられなかった。それからボランティア活動が終了し、薫達はマイクロバスで京都へ帰る。その車中、薫は写真家として、この光景を写真に撮り、後生に惨禍を伝える、という役目を果たせなかった、ということを悔やんだ。
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