悠生が息をする為の方法

七々虹海

文字の大きさ
上 下
26 / 27

悠生の願い事(前編)

しおりを挟む

 Xmas企画で書いたものです。





 あれはX'mas一週間前の事でした。X'mas一色な世間のムードなどいつもは素通りして通りすぎるはずの家までの帰り道。普段と同じく仕事の後は、車で適当なラジオを聞きながら家で待ってるはずの恋人の事を考えたり仕事の事を考えたり、外の景色は気にならず、気にするのは信号の色と安全運転、のはずだったのに、珍しくツリーが目に入りましてね、近くの駐車場に停めてその店まで戻りました。

 目についたのは真っ白な30センチ程の高さのクリスマスツリー。まだ何も飾ってなく、その白さは私の恋人の悠生と出会った時の事を思い出したんだなと分かりました。

 まだ何にも染まっておらず、殺しのやり方だけを教育され育った少年、悠生。

 悠生を自分の色にしたくて、最初は興味半分で手を出し、結果としてハマってしまったのは私の方なんですけどね。あんなに年下の少年に。自分が少年趣味なのは分かってましたけど、悠生はハーフかクォーターのような、中性的な目鼻立ちの整った美少年でした。なんか、恋人のことを美少年とか言うのは多少気恥ずかしいですね。

 この真っ白なクリスマスツリーを、悠生が好きなように飾ったところを見てみたい。少しニヤけてしまった口元をマフラーをずらして隠しながら、レジにそのツリーを持っていきました。



 玄関を開くと明かりがついていて暖かい空気が待っている。悠生が一緒に住むようになってから、1人暮らしの時とは違って、部屋に明かりがついている、暖かい空気が流れてくるっていうのは大変良いものです。

 人はこの温もりが欲しくて誰か隣にいてほしい相手を選ぶのでしょうか、なんて大分穏やかになった自分の考え方も大きな変化ですね。二人になったことで、私も悠生も変わったようです。
「ただいま」
「お帰り。……それ何?」
もちろん聞いてきたのは買って帰ってきたクリスマスツリーの事。
「何って、クリスマスツリーですよ?知ってますよね」
「知ってるけど…それって飾るの?」
「そうですよ。悠生が飾りつけしてくれませんか?」
「俺が?!いいの?!」
「ええ、もちろん。今は任務もなくて暇だって言ってましたし、悠生が飾ったクリスマスツリーが見てみたいなと思って買ってきてしまいました」
「うわぁ、ありがとう!」
悠生はあたふたと自分が着けていたエプロンを脱いで、ツリーを受け取ってくれました。あぁ、エプロンに作りかけのカレーが少しついたんですね。

 悠生はツリーをテレビの横に置いてみたり少し考えてる様子でした。
「これさ、クリスマスイブまで俺の部屋に置いといていい?」
「?いいですよ?」
「見ちゃダメだかんな?」

 そんないたずらっ子みたいな表情は可愛くてズルいですよ。全く、最近どんどん色んな表情が出てきて、鎖に繋いで家の中に閉じ込めておこうか?というダメな妄想を掻き立てられるくらいに可愛くてなってきましたね。出会った頃の無表情で諦めた感じの投げやりさは全く見受けられません。あの頃は、いつ死んでも別にいいとでも思ってたんでしょうかね。今ではエプロン姿がすっかり似合って…やっぱりあまり人目に触れさせたくないです。



 朝の筋トレを済ましてから昨日博美さんが買ってきてくれたクリスマスツリーをしみじみと見る。俺が飾っていいんだってさ。孤児院の時もツリーくらいはあった。でも年下の奴らが「ゆー、これかじゃりたい」「てっぺんに着けたいから抱っこして!」とか煩かったからな、自分で飾りを楽しむなんてしたとこはなかった。

 ボスに引き取られた屋敷にはそんなもんなかったしな。つくづく俺って普通の子どもが小さい時楽しんでたんだろう事をしてないのかもしれないなって、たまに考えてみたりもする。たまにだけど。こんな風に仕事がない時は自分の時間があって、考える時間があったりするから余計にだ。

 別にこれまでの境遇を嘆いてるわけじゃなくこんなもんだ、こんな星の元に産まれたんだって思ってるし、今はその、人並みに幸せな時間かな…って、こんな事博美さんには言わねーけど!とにかくやった事ないツリーの飾りつけにワクワクしてる自分がいて、悪くねーなって思ってる。それもこれも博美さんと出会ったおかげかと思うと、今での境遇があったから出会えたんだとか考えてて、夢見る少女か俺は!って一人突っ込みしてみたり。そんな自分も、まぁ、悪くはねーかな。

 薄暗くなってきた頃、ようやくツリーの飾りを買いに外に出た。いつも外に出る時のスタイルで、フードのあるコートのフードを被っていく。こうすれば買い物してても店員もそんな無駄には話かけてこないだろうし、金髪も隠せて悪目立ちしない。

 何より殺し屋の顔があちこちで目撃されて覚えられたりでもしたら格好がつかないだろ?そんなに俺の顔見る通行人もいないだろうけど、念のためってやつだ。

 クリスマスムード一色の街はきらびやかだった。このイルミネーションが綺麗に見えるのも、今は大事な誰かがいるおかげだと思う。やめやめ、最近こんな思考になりがちなのがこそばゆい。

 楽しい飾りを見つけるために商品に注目していく。ツリーの色が白だから、基本何でも似合うよな。キラキラした丸い玉ぶら下げるのが定番て感じがする。それからてっぺんには星。シャカシャカした長いマフラーみたいなのも必要だな。グリーンにするか。マスコットは要らないけど、この熊のだけ可愛いから2個買おう。

 思い付くままにかごに入れていったら、いつの間にか沢山になってた。この量があのツリーに着けられるのか?いいや、どうにかつけてやる、とレジに向かったところで見つけてしまった。あっ、これ…、これも買っていこう。

 大量の飾りを買い込んで、外を歩いたら寒かったのであったかいカフェラテを買い、飲みながら帰っていった。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

目の前に色男が!早速ケツを狙ったら蹴られました。イイ……♡

ミクリ21
BL
色男に迫ったら蹴られた話。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...