悠生が息をする為の方法

七々虹海

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そして半年後

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 ふんふんふん♪
 いい青空だ。自然に鼻歌まで出てくる。故郷でたまに聴いた事のあったお気に入りのバンドの歌。

 今でもこの曲は流行ってるらしく、こっちのテレビやラジオで流れてたりする。何かでタイアップしてまた注目されたんだったかな。


 右手の薬指には少しきつくなったシルバーリング。一緒に買いに行った時の事を思い出す。

「もっと高いの買わせて下さい。ペアでつけるんですから。私に安物つけさせる気ですか」

「俺がつけるんだからそんな高いの嫌だ。不相応って言葉あるだろ。そこは年下に合わせろよ」

「私にだって立場ってものが!」

「そんなギラギラしたゴツくていかにも高そうなのなら絶対に絶対につけない!」

 買いに行った時、お互い主張して譲らなくって散々言い争ってたから、年配の店員さんが困った顔してたっけ。懐かしい。

 手を上に翳すと、シルバーの石も何もついてない、模様だけのリングが太陽で光ってみえる。十分じゃん。

 おっさん、なかなか会いにこないから、俺少しだけ背が伸びて170㎝になったんだぞ。指輪もいつも石鹸を使わないと取れなくなったんだ。腕だって指だって、前より太くなっただろ。早く実物見たいだろ。

 こっちに来てからの毎日は忙しく。俺には覚える事だらけ。組織の仕組みなんかよりもまずは語学からだったから、同世代の日本語も出来る中国人と色んな事を話した。恋人のこともな。

 人と関わる事が多くなって、接する事が楽しくなってきた。

 半年前、日本にいた頃の自分はガチガチに殻に閉じこもってた。自分を守ってたんだと思う。

 今は、自分の生まれが可哀想だとは思わなくなったし、親の事を知りたいなんて事も考えなくなった。
 
 毎日、海を越えた土地からでも俺を必要としてくれる誰かさんがいるせいかもしれない。同世代の奴と仲良くなったって話したら、浮気はいけない事ですって散々長文のメールが来て笑った。こんなにも自分を必要としてくれる誰かがいるってのは良いもんだ。

 もうじきだな。飛行機の到着時間は。あの長身のメガネをかけた一見優しげな人を見つけたら、走っていって飛び付いてやろう。
 一言目はもちろん

「ペアリング新調してくれ」だな。



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