悠生が息をする為の方法

七々虹海

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決行

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 ここ2日、ターゲットがとある廃墟に同じ時間になると向かっている。尾行を頼んでおいた『I』から連絡がはいった。

 自分で尾行してなかったのかって?別に恋人が出来たからといって腑抜けてたわけではない。俺がわざわざ出向くほどでなく、尾行が得意な奴に頼んだ方が利口だと思ったからだ。

 別に、おっさんの料理が意外と旨かったなとか思い出してはニヤケけてたわけじゃないからな。

 話を戻そう。ターゲット…Nとでも言っておこうか。いつもの事ながら何をしたのかはボスから聞いてない。廃墟に毎日出向いてるってことから察するに、何らかの取り引き場所の下見ってとこだろうか。
 あぁいう手合いは下見に時間をかける事が多い。慎重なんだ。2日続いてるって話だから、今日も行く可能性が高い。

 決行は今日の夕刻にする。いつもの折り畳み式のナイフをポケットに用意して早めに家を出た。

 初めて殺しをした日は、ボスが最高に誉めてくれた。愛情は感じず、ただ道具が、手駒がいい働きをしたって程度だろうなって思った。ボスにパパとしての愛情はもうなかったから平気だった。

「好きなだけ食え」とボスの自宅でご馳走を振る舞われた時に気づいた。肉の味がしない。食えるには食える。が、食うとさっき刺した人間の肉の感触を思い出した。ズブズブと肉にナイフが突き刺さっていく感触。
 何度も、何度も、訓練したはず練習したはずなのに、生身の人間を刺すのは別だった。

 何口目か分からない肉を噛んで急に込み上げた。ボスの前で吐いてたまるか。その気持ちだけで、だだっ広い廊下を走り、トイレで吐いた。吐いてきたのは見抜かれていたと思う。
 戻ってからは肉は食わず、スープを飲んだ。少ししょっぱく感じた程度だった。

 辞めたい。告げられなかった。そんな事言える立場ではないのは分かっていたから。お前にいくらかけたと思ってるんだ。と事実を突きつけられるのが怖かった。今の立ち位置じゃなくなったら、何をやらされるのか分からない。
 身体を売る。そんなのも嫌だ。境遇を恨むよりも、自分の心を殺して、人を殺す道を選んだ。

 いつまで?

 分からない……。

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