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恋人宅
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恋人の自宅に行くって何を着るんだろう。考えても分からないし、そもそも外に出る時は目深に被って顔を隠せるパーカー数着しか持ってない。いいや。いつもと同じでいいんだろ。
昨日送ってくれた地図を見たら、偶然にも俺が使う駅から2駅の所だった。夕刻4時頃に出て、普段歩いてる感じで駅に向かう。学校帰りの学生。公園帰りの小さな子供と母親。俺とは交わらない世界の住民。
あちら側とこちら側。同じように産まれてきたはずなのに、どうしてこうも違ってしまうんたろう。なぜこんなに違う。何か罪を背負って産まれてきてしまったんだろうか。
羨ましいという感情は消えた。
ただ、憧れの気持ちはある。
ごちゃごちゃ考えてる間におっさんが住む駅に着いたので降りる。タクシーを使っていいと言われたのでここからは遠慮なくタクシーを使わせて貰おう。
「ここのマンションにお願いします」
スマホ画面を見せて運転手とは最低限の会話。違う世界の人間とはあまり関わらない。
自分で決めたルール。行き先をつげて寝てる振りをする。話しかけられないように。
かちゃ。かちゃ。……
メーターが3回動いた所でマンションに到着した。思ってたより駅から近いのか。これなら次は歩けなくもない。
次?次なんてあるのか?
おっさんのマンションはオートロックだった。部屋番号を押すとすぐ対応してくれた。
「俺」
「いらっしゃい」
エレベーターで7階まで上がっていく。角部屋でおっさんは玄関の前に立っていてくれた。
「駅からタクシーで来た。次は歩いて来られそうだ」
「まだ上がってもないのに、次来てくれる算段があるんですね。嬉しいですよ。上がって下さい」
墓穴を掘ったと気づいたのは靴を脱いでる時。この間の埋め合わせで今日だけお邪魔するつもりって態度でも良かったじゃん。本当に恋人契約なんだか今日だけなんだか分からないし。そもそも契約じゃなく、本当に恋人?分からない。
「悠生くん。どうしました?ソファーに座ってて下さい。お腹空いてるならすぐ出しますけど?」
「腹は、まだそんな減ってない。こないだ言ってた恋人って…」
俺をソファーに座らせながら自分も隣に座りだした。
「文字通り恋人です。なんの裏もありませんよ。私はそのままのあなたが欲しいんです」
「俺が殺し屋じゃなくても?」
「そここだわりますね」
「だって…」
「微妙にコンプレックスですか。あなたが殺し屋じゃなければ出会えなかった。殺し屋じゃなくてもあなたが欲しい。この言葉で伝わります?」
「完全にはまだ信じられないけど、伝わった…と思う」
「上出来。いい回答です。まだ今はそれで十分です。甘やかして徐々に分かってもらいますから」
そう言うとおっさんは俺の髪に軽く音を立ててキスをしてから立ち上がった。
「ワイン飲めます?」
「俺未成年」
「少しくらいは?」
「飲んだことないし」
「たばこは?」
「そんなもん吸ったら背が伸びなくなるだろ」
「ぷっ。あなた想像以上に可愛いですね。じゃぁ煙がそちらに行かないようにするので一服だけさせて下さい」
「バカにされてるみたいだ」
「いいえ。そんな素敵な心がけのままでいて欲しいってだけですよ」
換気扇を回してその下でタバコを吸い始めたおっさん。最近は電子に切り替えた大人が多い中、おっさんは紙タバコだった。180センチはある?高身長でタバコを吸う姿がカッコいい。自分が子供にしか思えなくて、早く成長したいと思った。
『こんな子供が殺し屋』っていうアドバンテージがなくなれば俺は殺しから足を洗う事ができるんだろうか。
昨日送ってくれた地図を見たら、偶然にも俺が使う駅から2駅の所だった。夕刻4時頃に出て、普段歩いてる感じで駅に向かう。学校帰りの学生。公園帰りの小さな子供と母親。俺とは交わらない世界の住民。
あちら側とこちら側。同じように産まれてきたはずなのに、どうしてこうも違ってしまうんたろう。なぜこんなに違う。何か罪を背負って産まれてきてしまったんだろうか。
羨ましいという感情は消えた。
ただ、憧れの気持ちはある。
ごちゃごちゃ考えてる間におっさんが住む駅に着いたので降りる。タクシーを使っていいと言われたのでここからは遠慮なくタクシーを使わせて貰おう。
「ここのマンションにお願いします」
スマホ画面を見せて運転手とは最低限の会話。違う世界の人間とはあまり関わらない。
自分で決めたルール。行き先をつげて寝てる振りをする。話しかけられないように。
かちゃ。かちゃ。……
メーターが3回動いた所でマンションに到着した。思ってたより駅から近いのか。これなら次は歩けなくもない。
次?次なんてあるのか?
おっさんのマンションはオートロックだった。部屋番号を押すとすぐ対応してくれた。
「俺」
「いらっしゃい」
エレベーターで7階まで上がっていく。角部屋でおっさんは玄関の前に立っていてくれた。
「駅からタクシーで来た。次は歩いて来られそうだ」
「まだ上がってもないのに、次来てくれる算段があるんですね。嬉しいですよ。上がって下さい」
墓穴を掘ったと気づいたのは靴を脱いでる時。この間の埋め合わせで今日だけお邪魔するつもりって態度でも良かったじゃん。本当に恋人契約なんだか今日だけなんだか分からないし。そもそも契約じゃなく、本当に恋人?分からない。
「悠生くん。どうしました?ソファーに座ってて下さい。お腹空いてるならすぐ出しますけど?」
「腹は、まだそんな減ってない。こないだ言ってた恋人って…」
俺をソファーに座らせながら自分も隣に座りだした。
「文字通り恋人です。なんの裏もありませんよ。私はそのままのあなたが欲しいんです」
「俺が殺し屋じゃなくても?」
「そここだわりますね」
「だって…」
「微妙にコンプレックスですか。あなたが殺し屋じゃなければ出会えなかった。殺し屋じゃなくてもあなたが欲しい。この言葉で伝わります?」
「完全にはまだ信じられないけど、伝わった…と思う」
「上出来。いい回答です。まだ今はそれで十分です。甘やかして徐々に分かってもらいますから」
そう言うとおっさんは俺の髪に軽く音を立ててキスをしてから立ち上がった。
「ワイン飲めます?」
「俺未成年」
「少しくらいは?」
「飲んだことないし」
「たばこは?」
「そんなもん吸ったら背が伸びなくなるだろ」
「ぷっ。あなた想像以上に可愛いですね。じゃぁ煙がそちらに行かないようにするので一服だけさせて下さい」
「バカにされてるみたいだ」
「いいえ。そんな素敵な心がけのままでいて欲しいってだけですよ」
換気扇を回してその下でタバコを吸い始めたおっさん。最近は電子に切り替えた大人が多い中、おっさんは紙タバコだった。180センチはある?高身長でタバコを吸う姿がカッコいい。自分が子供にしか思えなくて、早く成長したいと思った。
『こんな子供が殺し屋』っていうアドバンテージがなくなれば俺は殺しから足を洗う事ができるんだろうか。
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