悠生が息をする為の方法

七々虹海

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 憧れてた賑やかな繁華街を抜けて、住宅地を抜け、自然が沢山な地域に入った。着いた場所は大きな屋敷。落ちついた茶系のレンガ調の、家というより屋敷。
 ここが大山さんの家かな。金持ちなのに子供に恵まれなかったのか。金持ちでも可哀想な人っているんだな。俺なんかでいいのかな。

 飲食店からは離れた郊外にあって、庭も広くて、こんな庭で走ったり、まだ触った事のない憧れの犬に触れる日が来るのかも。ぶわっと鳥肌がたった。人間よりも触ってみたかった、犬。あぁ、でも期待し過ぎちゃダメだ。何が待ってるかなんてまだ分からない。
あそこよりはマシになる、その程度に考えなくては。
 屋敷に入って、君の部屋だよと連れていかれた所で、ここで生活する上での決まり事を言い渡された。

『部屋はもちろん好きに使っていい。風呂もトイレもあるのだから言われた時以外は部屋で過ごす事。不自由はしないように約束するから君もそれを守る事』
 金持ちは変わってるのかなと思った。そこまで狭い部屋から出るなと言われたわけではないから、施設よりずっとましな所へ来られた、静かな1人の時間が出来る。

 夜は温かい食事を大山さんと食べた。奥さん、俺にとっての母親となる人はどこなのだろう。聞いて良いのか分からないから、黙って紹介されるのを待った方が良いのだろうと思った。そのうち会わせられるんだろう。温かい食事に温かい寝床。これだけでも十分だ。

 翌日から、先生と呼ばれる人がきて、人を殺すための技術を教え込まれることとなった。
「悠生はのみ込みがいいな」小さなガキの面倒を見る以外での誉められるという経験が初めての事で、くすぐったくも、これが嬉しいって感情かと思った。
 当時は、パパと呼んでいいとボスが言うので、素直にパパと呼んでいた。
 パパは、帰ってこない日も多々あったが、忙しい合間をぬって、数日に一度は一緒に夕食を食べてくれる。 
「大山さんはあんまり顔に出さない人だけど、悠生を可愛がってくれてるようだね」
 殺人をおしえてくれている先生が内緒のここだけの話だけどねって前置きして、そう教えてくれた。あんまり顔に出す人じゃないからね。悠生もだけど。

 あぁ、パパは俺と似た者同士なのかな。似確かに忙しくても数日に1回は夕飯を一緒に食べてくれる。似た者親子でわかりあえる時が来るのかもしれない。そう思ったら、そんなに感情を出さないパパだけど、好きだなと思えた。施設で嘘の笑顔の大人よりずっとずっとマシな大人だ。

「先生から聞いたぞ、勉強の方順調らしいな」って夕食時に誉めてくれるときもあった。誉めながら頭を撫でてくれる。これが愛情ってものなのかと理解した。

 ならば俺が愛情を返す方法は、毎日教えられる殺人術にどんどん磨きをかける事だと思った。銃の使い方、体術、外国に行くかもしれないからと英語も必須だった。部屋にいる間の空き時間も筋トレに励んだ。
 元々細身な身体がムキムキになることはなかったけれど、余分な脂肪はなく、つくところにはしっかり筋肉がついた。

 拷問にあった時の為の練習もあった。なんでその練習も必要なのか分からなかった。殺人は、こんな大きな屋敷に住む、どこかの大物なパパを守らなきゃならない時が来るんでしょ?その為なんでしょ?そう先生に聞いたら、拷問の授業はすぐになくなった。

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