近江一族物語1『融合』

七々虹海

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「智恵…ごめんなさい…。会ったことのなかった孫の晴空、可哀想なことをしたわね…ごめんなさい…」
弱々しいお母さんの声に驚いた。
「晴空が死んでしまったのは、お母さんのせいじゃないでしょ?お線香あげて手を合わせに本土まで来てくれて感謝するわ…。美智も」

「そうじゃないのよ智恵。私が、意気地がなくて、一族の跡をついでしまったから。こんな時代だもの皆に自由に生きてほしいと言えなかったから…。バカげたことを続けているのは分かってはいたのよ」

 ゆっくり話す機会かと思い、リビングに場所を変えて、お茶を淹れる。話したって晴空は戻ってこないのよ?と言いかけたけれど、その言い方は今の母には可哀想かなと思った。可哀想なのは息子を失った私と、若くして死ななきゃならなかった晴空なのに。

 
 お母さんが語ったことは、今までお母さんに抱いていたイメージとは掛け離れたものだった。

 私は強い力を持って産まれてしまった。小さい頃から、善悪の判断がつかない頃から、その力は一族の金儲けの為に使われてきた。それが当然になっていた。けれど、自分で良い悪いを考えるようになってきてからは、自分が視ているものを人に教えるのは、その人にとって、良い事ばかりではないんじゃないかと疑問に思うようになった。
 両親に話したら酷く叱られ、一族の他の者の前では絶対にそんな事言ってはいけないと何時間も叱られた。
 私は、この一族の金儲けの人形なんだといつしか思うようになった。
 それは、大人になり、一族の長になってからもその気持ちは変わらなかった。
 
 娘を二人授かった時、この一族を娘の為にも終わらせたいと思った。けれどまた、私には勇気がなかった。
 娘たちはどんどん成長し、やがて智恵が出ていきたいと思ってるのが分かった。好きな相手と駆け落ちをしそうだ。
 私はありったけの力を娘が身につけられそうなネックレスに込め、娘家族の守りになるように願った。一族がここで纏まって暮らしているのは、悪い霊に狙われる体質をもった者が多く産まれるからだった。その為力をもつ者が、もたない者を守れる為に、浄化作用の強いこの地を、ご先祖様方が見つけ住むようになったと受け継がれている。

 娘の家族が無事で、ここから離れ幸せになるように、霊に脅かされず過ごせるように、私の全ての力を注いだものを何も言わずに智恵に持たせた。長である身で、娘にだけ幸せになってほしい、ここから逃げてほしいとは言えなかったので、崇さんには感謝してるのよ…。

 二人に着いていったはずの貴嶺が戻ってきたのは以外だったけれど、貴嶺が成長するにつれ、この本家を爆発させようと企んでいる事に気づいた。私はそれと共に、この世を去ろうと考えていたわ。
 なのになかなか貴嶺は実行せずに、ある時急に視えてしまったの。
 凪も強い力を持っている、しかも視るだけでなく、壊す事に特化した力を…。

 この子をここに呼べば、この一族諸とも葬ってくれるかもしれない。ほんの数ヶ月か数年ここで暮らしてくれればきっと壊してくれる。私はいつまでも他力本願だったわ。

 凪を奪った事で、晴空がネックレスの守りの範囲から出てしまうのは想定外だった。まんまと悪いものに狙われて死んでしまうなんて……本当に本当に可哀想なことをしたわ…。いくら謝っても足りないわね…。爆発で起きた火災とともに死のうとしたら、美智に死んじゃダメだと、姉さんに話したい事があるんじゃないかと、ここに連れてきてくれたのよ。私1人ではあなたに謝る勇気すらなかった。


 お母さんからの告白は私の頭を混乱させた。母が私を想ってあのネックレスをくれていたなんて。逃げた私を恨んでもなく、それところか幸せになってほしいと願っていたなんて。
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