近江一族物語1『融合』

七々虹海

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癒しの泉

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 寝ていたくても、1人になっていたくても朝はやってきて、僕の足は大勢で食事をする場所に向かう。昨日の夜の営業という言葉、ここは遊郭のような場所という言葉。

 この、一見和やかに食事をしている人達みんな、夜そんな役割を、そんな仕事をして朝何もなかったかのようにここで朝食を食べているのか。中には明らかに小さい子どもが間に座っている夫婦もいる。
「いただきます」 

 誰に言うでもなく、用意してある食事を只の燃料扱いで口に入れては咀嚼して飲み込む作業を繰り返す。この人たちは昼間何をしているんだろう。ここには子供が通う学校はあるのだろうか。仕事は…夜のあの仕事?では、昼間は寝ているのだろうか…。
「ごちそうさまでした」
食べるだけ食べてそそくさと部屋を出た。


 友達と呼べる友達がいなかった僕には、まだここで誰かに話しかけるのは無理だった。貴嶺さんの姿は見えたけど、今日は話したくもなかったし、挨拶もしたくなかった。
 孤独だったけれど、長めの髪が視界を隠して僕の気持ちも隠してくれる。
 そうだ、もう中学校に行かなくていいなら、このまま髪を伸ばしてみてもいいんだ。


 部屋に戻り、タオルだけ持って泉に向かった。
 昨日と同じように一周りし、浅い場所を見つける。山の中の泉の水は冷たいだろうと思ったが、入る事で昨日の事が清められる気がしたから、冷たかろうが入るつもりでいた。
 自然の中で何も身に付けないのは初めてだけど、水着はないし、誰も来ないだろうという気がした。

 足の爪先からそぉっと入る。冷たいはずなのに心地好い。むしろ温い?ゆっくり腰まで浸かり、肩まで浸かり、何となく気分が良くなってきたから、あまり泳げないけど少しだけ泳いでみた。
 ここで人魚みたいに泳げたら様になるんだろうなぁ。お尻は特に傷はなかったけど、変な違和感はあった。その違和感もすぅーっと消えていく。泉が受け入れてくれるって言ってたのはこういう事だったんだろうか。


(クスクス)
(下手くそだけど楽しそうに泳いでるね)
(ねぇ、名前聞いてみようよ)
(そうだね、一緒に遊びたいよね、話したいよね)

 誰かの声がする。目に見えないけど薄ボンヤリと光ってるナニカが二体。

(新しく力を持った子だよね?)
(貴嶺が連れてきた子だよね。お名前教えて)
小さな子どものような声に警戒心を忘れる。

「凪」
(凪かぁ。よろしくね)
(貴嶺の事嫌わないであげて)
(何も知らないままだと凪が傷つくから)
(先に知っておいた方がいいことだから)

「貴嶺さんに訊いたの?」
(ううん。僕たち貴嶺と仲良しだから、この近くに貴嶺が居れば大概貴嶺の事分かるんだよぉ)
(貴嶺も…凪より少し大きいだけの時に嫌な思いしたんだ…)
(自分と同じ思いさせたくないんだと思う)
(貴嶺は、お尻から沢山の血を流して泣きながらここに来たんだ)
(僕たちが言ったって貴嶺に言わないでね)
(でも貴嶺の事嫌わないであげて)


 貴嶺さんは僕より少し年上な時に急にお客さんの相手をする事になった?そうなったら僕も痛くて嫌な思いをするから昨日の事をしたの?
(多分今凪が考えてる通りだと思うよ)

「僕の考えが分かるの?」
(何となくね。僕たち長くここにいるから。一族を見てきたから。凪も双子なんだよね。今までの双子の子達と同じような色をしてる)
(綺麗な色だよ。凪も良い子。ねぇ、僕たちと友達になってよ)


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