23 / 59
癒しの泉
しおりを挟む
寝ていたくても、1人になっていたくても朝はやってきて、僕の足は大勢で食事をする場所に向かう。昨日の夜の営業という言葉、ここは遊郭のような場所という言葉。
この、一見和やかに食事をしている人達みんな、夜そんな役割を、そんな仕事をして朝何もなかったかのようにここで朝食を食べているのか。中には明らかに小さい子どもが間に座っている夫婦もいる。
「いただきます」
誰に言うでもなく、用意してある食事を只の燃料扱いで口に入れては咀嚼して飲み込む作業を繰り返す。この人たちは昼間何をしているんだろう。ここには子供が通う学校はあるのだろうか。仕事は…夜のあの仕事?では、昼間は寝ているのだろうか…。
「ごちそうさまでした」
食べるだけ食べてそそくさと部屋を出た。
友達と呼べる友達がいなかった僕には、まだここで誰かに話しかけるのは無理だった。貴嶺さんの姿は見えたけど、今日は話したくもなかったし、挨拶もしたくなかった。
孤独だったけれど、長めの髪が視界を隠して僕の気持ちも隠してくれる。
そうだ、もう中学校に行かなくていいなら、このまま髪を伸ばしてみてもいいんだ。
部屋に戻り、タオルだけ持って泉に向かった。
昨日と同じように一周りし、浅い場所を見つける。山の中の泉の水は冷たいだろうと思ったが、入る事で昨日の事が清められる気がしたから、冷たかろうが入るつもりでいた。
自然の中で何も身に付けないのは初めてだけど、水着はないし、誰も来ないだろうという気がした。
足の爪先からそぉっと入る。冷たいはずなのに心地好い。むしろ温い?ゆっくり腰まで浸かり、肩まで浸かり、何となく気分が良くなってきたから、あまり泳げないけど少しだけ泳いでみた。
ここで人魚みたいに泳げたら様になるんだろうなぁ。お尻は特に傷はなかったけど、変な違和感はあった。その違和感もすぅーっと消えていく。泉が受け入れてくれるって言ってたのはこういう事だったんだろうか。
(クスクス)
(下手くそだけど楽しそうに泳いでるね)
(ねぇ、名前聞いてみようよ)
(そうだね、一緒に遊びたいよね、話したいよね)
誰かの声がする。目に見えないけど薄ボンヤリと光ってるナニカが二体。
(新しく力を持った子だよね?)
(貴嶺が連れてきた子だよね。お名前教えて)
小さな子どものような声に警戒心を忘れる。
「凪」
(凪かぁ。よろしくね)
(貴嶺の事嫌わないであげて)
(何も知らないままだと凪が傷つくから)
(先に知っておいた方がいいことだから)
「貴嶺さんに訊いたの?」
(ううん。僕たち貴嶺と仲良しだから、この近くに貴嶺が居れば大概貴嶺の事分かるんだよぉ)
(貴嶺も…凪より少し大きいだけの時に嫌な思いしたんだ…)
(自分と同じ思いさせたくないんだと思う)
(貴嶺は、お尻から沢山の血を流して泣きながらここに来たんだ)
(僕たちが言ったって貴嶺に言わないでね)
(でも貴嶺の事嫌わないであげて)
貴嶺さんは僕より少し年上な時に急にお客さんの相手をする事になった?そうなったら僕も痛くて嫌な思いをするから昨日の事をしたの?
(多分今凪が考えてる通りだと思うよ)
「僕の考えが分かるの?」
(何となくね。僕たち長くここにいるから。一族を見てきたから。凪も双子なんだよね。今までの双子の子達と同じような色をしてる)
(綺麗な色だよ。凪も良い子。ねぇ、僕たちと友達になってよ)
この、一見和やかに食事をしている人達みんな、夜そんな役割を、そんな仕事をして朝何もなかったかのようにここで朝食を食べているのか。中には明らかに小さい子どもが間に座っている夫婦もいる。
「いただきます」
誰に言うでもなく、用意してある食事を只の燃料扱いで口に入れては咀嚼して飲み込む作業を繰り返す。この人たちは昼間何をしているんだろう。ここには子供が通う学校はあるのだろうか。仕事は…夜のあの仕事?では、昼間は寝ているのだろうか…。
「ごちそうさまでした」
食べるだけ食べてそそくさと部屋を出た。
友達と呼べる友達がいなかった僕には、まだここで誰かに話しかけるのは無理だった。貴嶺さんの姿は見えたけど、今日は話したくもなかったし、挨拶もしたくなかった。
孤独だったけれど、長めの髪が視界を隠して僕の気持ちも隠してくれる。
そうだ、もう中学校に行かなくていいなら、このまま髪を伸ばしてみてもいいんだ。
部屋に戻り、タオルだけ持って泉に向かった。
昨日と同じように一周りし、浅い場所を見つける。山の中の泉の水は冷たいだろうと思ったが、入る事で昨日の事が清められる気がしたから、冷たかろうが入るつもりでいた。
自然の中で何も身に付けないのは初めてだけど、水着はないし、誰も来ないだろうという気がした。
足の爪先からそぉっと入る。冷たいはずなのに心地好い。むしろ温い?ゆっくり腰まで浸かり、肩まで浸かり、何となく気分が良くなってきたから、あまり泳げないけど少しだけ泳いでみた。
ここで人魚みたいに泳げたら様になるんだろうなぁ。お尻は特に傷はなかったけど、変な違和感はあった。その違和感もすぅーっと消えていく。泉が受け入れてくれるって言ってたのはこういう事だったんだろうか。
(クスクス)
(下手くそだけど楽しそうに泳いでるね)
(ねぇ、名前聞いてみようよ)
(そうだね、一緒に遊びたいよね、話したいよね)
誰かの声がする。目に見えないけど薄ボンヤリと光ってるナニカが二体。
(新しく力を持った子だよね?)
(貴嶺が連れてきた子だよね。お名前教えて)
小さな子どものような声に警戒心を忘れる。
「凪」
(凪かぁ。よろしくね)
(貴嶺の事嫌わないであげて)
(何も知らないままだと凪が傷つくから)
(先に知っておいた方がいいことだから)
「貴嶺さんに訊いたの?」
(ううん。僕たち貴嶺と仲良しだから、この近くに貴嶺が居れば大概貴嶺の事分かるんだよぉ)
(貴嶺も…凪より少し大きいだけの時に嫌な思いしたんだ…)
(自分と同じ思いさせたくないんだと思う)
(貴嶺は、お尻から沢山の血を流して泣きながらここに来たんだ)
(僕たちが言ったって貴嶺に言わないでね)
(でも貴嶺の事嫌わないであげて)
貴嶺さんは僕より少し年上な時に急にお客さんの相手をする事になった?そうなったら僕も痛くて嫌な思いをするから昨日の事をしたの?
(多分今凪が考えてる通りだと思うよ)
「僕の考えが分かるの?」
(何となくね。僕たち長くここにいるから。一族を見てきたから。凪も双子なんだよね。今までの双子の子達と同じような色をしてる)
(綺麗な色だよ。凪も良い子。ねぇ、僕たちと友達になってよ)
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる