天然天使にご用心♡

③

　ルヒエルくんは、誤魔化すかのように可愛らしくエヘっと小首をかしげていた。
　あー、分かった、元々料理なんて出来ないけど、"恋人に朝ごはんを作る"ってのがしてみたかったんだ。

「いただきます」
「えっ、パンと飲み物だけにしといた方が…」
「大丈夫。食パンに乗せちゃえば食べられるよ。せっかく朝から来て作ってくれたんだから」
ガリ…ガリ…目玉焼きがここまで固くなるとは思わなかった。石って食べたらこんなかな。ガリ…苦い…。ガリ…ガリガリ……。

「涼くん死んじゃうよ！もう食べないで」
「そんな、泣かなくて大丈夫だし、死なないから」
ガリ…死にはしないけど、非常に不味いというか、食物を口に入れてるという気にならない。こうなったら、もう飲み込むしかない。大きめに口に突っ込んで、ほぼ牛乳のコーヒーで流しこんだ。
ゲホッ。
「えぇぇぇ、大丈夫？ほんとに大丈夫？」
むせった俺の背中を心配そうにさするルヒエルくん。大丈夫って言いたいのに、むせてて声が出ない。
　ごめんね、ごめんね、まだ謝ってる。

「ほんとにほんとに、学校の前に押しかけて苦しい思いさせてごめんね。僕、目玉焼き練習してから、また来るから。少し、寂しいけど、ちゃんと上手になってから来るから、少しの間お別れだよ」
ルヒエルくんは、俺に大変なものを食べさせてしまったと少し青い顔をして早々に帰ろうと挨拶を始めた。大丈夫だって言ってるのに。
「涼くん、練習してくるから待っててね、えいっ！」
最後に勢いをつけて背伸びして、キスして去っていった。

　初恋の顔の破壊力ってスゴい…。
　唐突にドアップになってキスなんかされると、好きだって錯覚するじゃないか……。