初恋奇譚

七々虹海

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清一くんの手記

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 夕暮れ時が一番幸せな時間なのです。正一しょういちくんと二人で帰る時間。うっすらと宵闇が迫ってくるこの時間。夕焼けが正一くんの顔を映しだすのも綺麗だし、夜の闇が僕ら二人同じ学帽を被ったもの同士だということを隠してくれるのも幸せなんです。

 僕と正一くんは運よく裕福な家庭に産まれる事ができました。高等学校で出会い、どちらから求めてしまったのでしょう。二人とも谷崎家、竹久家各々の長男だというのに。

 将来親が決めた家柄の良いお嬢さんを迎え世継ぎを作らなきゃならぬ身同士、今だけの関係なのは話しあわずとも分かってはいるのです。

 初恋。各々厳格な家で育った者同士。これが初恋のようでした。ならば僕は生涯この初恋を抱えたまま他の恋はいらないのです。
 遅すぎた初恋が身を狂わせているのかもしれません。


 僕は夜な夜な正一くんの夢をみます。
 夢だけならばまだ救いがあったでしょう。夜な夜な正一くんとそうなった時の事を考えて欲を吐き出してしまうのです。
 ある時は正一くんの菊の門に自分のモノを捩じ込む姿を想像しては達し。
 またある時は自分の方に正一くんのモノを入れてもらって喜ぶ姿を考えてしまうのです。両方出来たらどんなにか素晴らしい気持ちになれるでしょう。


 僕のこのいけない妄想は、そういった春画を父の書斎で見てしまった時から始まりました。その時には既に正一くんといわゆる恋人という関係になっていました。違ったのは、僕が性的知識に乏しかったという点。

 男同士ではキスと触りあいまでしか出来ないと思い込んでいたのです。春画には色んな体位で男根を肛門に咥えこむ男の姿が描かれておりました。
 そう、男同士の目合ひを描いた春画です。見ているうちにそれは全て正一くんの姿に変わり相手は自分の姿に変わりました。と、勝手に自分のモノが怒張していったのです。
 
 父の書斎では困りものでしたので、自室に駆け戻り自慰をしました。もちろん頭の中はさっき見た春画のように色んな体位で乱れる正一くんの姿だらけです。あの鈴の音のような可愛らしい声も上ずって意味をなさない言葉を発しています。
 アァ、これが現実ならば。

 しかしなぜ父の書斎にそのような書物があったのでしょうか。父もそういった性癖、或いはそういったお相手がいたのでしょうか。
 父も自分と同じくこの家の長男という身分で産まれ、子を残さねばならない身だったので不自由な事があったのでしょう。

 聞いてみたいという思いもあります。そんな勇気は出ませんので、想像の中で父子の会話を楽しもうと思います。想像の中の父は、今の僕の状態のうってつけの相談相手となってくれることでしょう。学友達も皆多かれ少なかれ抱えてる気持ちなのでしょうか。

 僕だけがこんな浅ましい気持ちを抱いてるのだとしたらこれから先、どう生きてゆけば良いのでしょう……。




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