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10.さらし者

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結婚式から1週間が経ちリリアーナはまだ城にいた。
あの日以来、ジェラルドと会う事は無く、いつ帰してくれるかも聞けない。
相変わらずの軟禁状態だ。

そんな時、謁見の間に来るよう先ぶれがあった。
センリィー女官長はリリアーナの動揺を汲み取り優しく声をかけた。

「さあ、着替えましょう。見劣りはさせません。どうぞ胸をお張り下さい。貴方の笑顔を振りまいて来るのです。下を向いたら負けですよ。」

最大限に着飾って送ってくれた。

*****

「顔をあげよ。近くへ来い。」

謁見の間でリリアーナが顔を上げると王と王妃が揃っていた。
慣例に習った挨拶が終わるとジェラルドが挑発するかのように話した。

「皆の者!紹介しよう。俺の婚約者だったリリアーナ・  パークス だ。イザベル、どう思う?答えよ。」

それを受けてイザベルもネットリした口調で答えた。

「隣国でご苦労をしていたと聞いてます。そのせいでしょうか、ほっそりされてて見事な宝石が重そうですわ。後でその手によく効く軟膏を届けさせましょう。」

そう言われ、リリアーナはサッと手を隠した。荒れた手を見られたのだ。
その仕草に周りの貴族達から視線が注がれヒソヒソ話も聞こえた。

「イザベル良い答えだ。リリアーナは下がれ。」

「王妃様のお心遣いに感謝致します。失礼致します。」

リリアーナは、センリィー女官長の助言どおり2人に向けてニッコリ笑ったがジェラルドとイザベラから下げずんだ視線が返された。振り返り出口へ向かう時も胸を張り目が合う者には微笑み振りまいて退室をした。


内心は、笑顔とは反対に惨めだった。さらし者になった気分だった。
やっとの思いで部屋に戻ると女官長の胸を借りて泣いた。

「ウッ、辛い、辛いわ!」


リリアーナは、この日より王家主催の夜会には必ず出席をさせられた。

国王夫妻は、後にリリアーナを伴い会場入りをして着席をすると国王の側にリリアーナを立たせた。そして挨拶が済んだ者にこう尋ねた。

「俺の元婚約者だ。どう思うか?」

「はい。元婚約者だけあって美しい方です。しかしイザベラ王妃様には及びませんな。」

また別の者はこう答えた。

「陛下を裏切るとは身の程知らずでございます。なぜその様な者を未だに側に置かれているのです?」

「失ったものの大きさを見せつける為だ。イザベラも快く承知してくれている。そうだろうイザベラ。」

「ええ。陛下の御心のままに。お気が済むまで立たせると良いでしょう。」

この様にあからさまに紹介をしてリリアーナや相手の反応を見て楽しんだ。

国を代表する貴族達の国王夫妻への挨拶が終わるとジェラルドはニヤリとしてリリアーナに言った。

「お前も皆と歓談を楽しんでくるといい。下がれ。」

 
広い会場に1人でいると必ず何人かの貴族達がやって来て話の話題にされた。

「陛下を裏切る方はさすがお強い。私の娘なら耐えられず早々に体調不良を理由に退席したでしょう。」

「私くしなら入場したあの場で倒れてますわ。」

「いや、まず体調不良で出席しないでしょうな。さすが肝が座ってらっしゃる。ハハハッ!」

(今は我慢よ。耐えて味方を見つけなければ。早くロイドの元へ帰るため耐えるのよ。)

そのうち貴族達はこの女は損になるか?特になるか?と見極めだした。

「陛下はこのままさらし者にするだけで終わると思うか?」

「どうだろう?城に部屋を賜り暮らしているし元はこの国の貴族の令嬢だ。社交や外交で何処かへ嫁がされる事もあるかもしれんぞ。」

「では軽く関わっていれば役に立つかもしれんな。ちょっと探りをいれるか。」

何度も出席をしていると、いつも微笑みを絶やさず対応するリリアーナを不憫に思う者が出てきた。
リリアーナの男爵時代の友人達だ。
彼女達の自宅へお茶に招いてくれたのだ。

「今日はお招きありがとう。でも貴方達に迷惑はかけられないわ。」 

侯爵家に嫁いでいたアイーシャがリリアーナの手を握った。

「なに言ってるの!我が家は国の中枢を担っているのよ。文句は言わせないわ。それに陛下が貴方を我が家へ招く事を許可をされたのよ。」

伯爵家に嫁いだマリアンも声を揃えた。

「そうよ。ね、リリアーナ元気をだして。私達の友情は変わらないわよ。」

「ありがとう。本当にありがとう。私、、。」

まだこの国に私に優しく声をかけてくれる人がいた。それが嬉しくて堪らず涙が溢れて来た。
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