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1.王城の中庭での出会い
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ここはアルカディア王国の王城。
ここで女官として働くリリアーナ・オズモンド男爵令嬢は、早朝の中庭での日課を終え館に足を踏み入れる時だった。
「おい、お前、体中に草の実が付いているぞ。」
「えっ!あら、嫌だわ。こんなに!」
「令嬢が草の実だらけとは。いったい何をしていたんだ?」
リリアーナが振り返り見上げると黒いマントに身を包んだ見知らぬ大柄な男が無表情で見下ろしていた。
「ちょと趣味の畑と花の手入れをしていたのです。」
彼女は王城の広大な中庭の隅でひっそりと趣味で花や野菜を育てていた。
今日は雑草抜きもしたので体中に雑草の実だらけになってしまっていたのだ。
「だからと言ってドレスに宝石姿で畑仕事とは。お前、変わっているな。」
変わっていると言われカチンときた。
「あら、馬や鳥を育てるように私は花や野菜を育ているだけよ。どこがおかしいの?」
「そうだな。失言をした。」
そう言い返した男の目元が少し緩んだ。
「俺は騎士団所属のジェラルド・スミスだ。お前の名前は?所属は何処だ?城での仕事は?」
「騎士様でしたか!」
リリアーナはすぐに礼をとり尋問じみた身元調査に合点がいった。
「私はリリアーナ・オズモンド。王女宮の女官で事務の仕事をしている城住まいの者です。」
「成る程な。それにしてもだ。その格好で王女宮へ入るのは不敬だろう。どれ、後ろのを取ってやろう。」
「うっ、、ありがとうございます。」
「ついでだ。入口まで持とう。」
ジェラルドはリリアーナが置いていた大きな花カゴを片手に持った。
「この花もリリアーナ嬢が?」
「ええ。職場の受付用です。ここに飾る事を条件に畑の使用の許可を得ています。」
「趣味と実益という訳か。良い香りがしている。」
「そうでしょ?自信作よ。」
笑顔でグッと拳を握ったリリアーナの指先は泥が乾き白くなっていた。
(何て飾り気の無い。この令嬢、面白い。)
「令嬢で趣味が畑仕事とは初めて聞くが何かきっかけがあるのか?」
「ええ。野菜嫌いの私に乳母は苗から野菜を育てさせて実った物を刈らせて食べさせたの。それからよ。私の趣味が畑仕事になったのは。」
あまりにも楽しそうにリリアーナが話すのでジェラルドは王女宮の彼女の事務所まで送っていた。
「持ってくれてありがとう。これ、お礼よ。」
カゴから一つかみ渡されたのは甘いグミミーの実だった。
ジェラルドは、見るなり迷わずポイっと口に放り込んだ。
「俺の好物だ。偶然だな。」
硬派な無表情がフッと緩みクスリと笑うと片手を振って去って行った。
翌日、早朝。
リリアーナが畑へ行くとジェラルドが待っていた。リリアーナは一瞬、驚いたが彼の手に苗があるのに気がついた。
「おはよう。中に入っても?」
「おはようございます。スミス様。ええ、私の自慢の畑です。どうぞ。」
畑は小さいながら綺麗に管理をされていた。生垣にグミミーの蔓がはわされている。畑には何種類もの花と添木をされた野菜が植えられていた。
「昨日のグミミーは美味かった。我が家の畑のキカの苗だ。これも美味いぞ。」
「まぁ!こんな高価な苗をよろしいんですか?ありがとございます!」
キカは成長が早くて甘い。しかし高級果物で苗も手に入りずらかった。
「実がなったら是非に味見をさせてくれ。頼んだぞ。」
「ええ。いつでも食べにいらして下さい。」
「それと俺の事はジェラルドと呼んでくれ。」
「では、リリアーナとお呼び下さい。」
こうしてジェラルドはリリアーナの畑にくるようになり時には花の苗をプレゼントをして2人の仲は急激に近くなった。
そして、そよ風が心地よい晴天の日、ジェラルドはリリアーナへ一赤い薔薇の花束を差し出して耳を赤くして愛の告白をした。
「私と交際をしてもらえないだろうか?」
「はい。宜しくお願いします。」
ジェラルドは照れた顔を見られまいと片手で顔を隠しながらもリリアーナの手を握った。
「ありがとう。それと、、ごめん。一つ訂正したいのだが、俺の名前はジェラルド・コンスタントだ。騙してすまない。」
「えっ!公爵家の方でしたか!失礼をしました。」
リリアーナは慌てて深々と礼を取った。
「俺は王の親戚だが王家を継ぐ可能性は低いしただの騎士だ。今まで通りでいてくれ。だから、、リリーと呼んでも?」
「でも我が家は男爵なのよ。公爵様がお許しにならないわ。」
「父上も母上もご存知だ。俺が軍事ばかりだから、心を許した女性がいると言ったら直ぐに結婚をしろと喜んでいたぞ。」
結婚と聞いてリリアーナは真っ赤になった。
「俺をもっと見てから決めて欲しい。ま、俺程の男はそんなにいないからな。」
そう言ってジェラルドがニヤリとした。
いつもの冗談じみた言い方にリリアーナも調子が戻った。
「まぁ!凄い自信ね。どうしようかな~」
2人から笑いが漏れるとジェラルドはリリアーナの髪に触れた。
「リリー、ジェドと呼んで。」
「ジ、、ジェド。」
リリアーナは愛称で呼びかけると赤くなり照れて下を向いてしまった。
そんな可愛い顔をジェラルドは逃さなかった。
「キスしても?」
リリアーナが恥ずかしそうに軽く頷くとジェラルドはそっと唇を重ねた。
その後、半年を待たずに2人は婚約をした。
「俺はリリーだけだから。絶対に離さない。」
力がこめられた手をリリアーナも握り返した。
「うん。私も。」
幸せに満ちて結婚式が待ち遠しい2人だった。
ここで女官として働くリリアーナ・オズモンド男爵令嬢は、早朝の中庭での日課を終え館に足を踏み入れる時だった。
「おい、お前、体中に草の実が付いているぞ。」
「えっ!あら、嫌だわ。こんなに!」
「令嬢が草の実だらけとは。いったい何をしていたんだ?」
リリアーナが振り返り見上げると黒いマントに身を包んだ見知らぬ大柄な男が無表情で見下ろしていた。
「ちょと趣味の畑と花の手入れをしていたのです。」
彼女は王城の広大な中庭の隅でひっそりと趣味で花や野菜を育てていた。
今日は雑草抜きもしたので体中に雑草の実だらけになってしまっていたのだ。
「だからと言ってドレスに宝石姿で畑仕事とは。お前、変わっているな。」
変わっていると言われカチンときた。
「あら、馬や鳥を育てるように私は花や野菜を育ているだけよ。どこがおかしいの?」
「そうだな。失言をした。」
そう言い返した男の目元が少し緩んだ。
「俺は騎士団所属のジェラルド・スミスだ。お前の名前は?所属は何処だ?城での仕事は?」
「騎士様でしたか!」
リリアーナはすぐに礼をとり尋問じみた身元調査に合点がいった。
「私はリリアーナ・オズモンド。王女宮の女官で事務の仕事をしている城住まいの者です。」
「成る程な。それにしてもだ。その格好で王女宮へ入るのは不敬だろう。どれ、後ろのを取ってやろう。」
「うっ、、ありがとうございます。」
「ついでだ。入口まで持とう。」
ジェラルドはリリアーナが置いていた大きな花カゴを片手に持った。
「この花もリリアーナ嬢が?」
「ええ。職場の受付用です。ここに飾る事を条件に畑の使用の許可を得ています。」
「趣味と実益という訳か。良い香りがしている。」
「そうでしょ?自信作よ。」
笑顔でグッと拳を握ったリリアーナの指先は泥が乾き白くなっていた。
(何て飾り気の無い。この令嬢、面白い。)
「令嬢で趣味が畑仕事とは初めて聞くが何かきっかけがあるのか?」
「ええ。野菜嫌いの私に乳母は苗から野菜を育てさせて実った物を刈らせて食べさせたの。それからよ。私の趣味が畑仕事になったのは。」
あまりにも楽しそうにリリアーナが話すのでジェラルドは王女宮の彼女の事務所まで送っていた。
「持ってくれてありがとう。これ、お礼よ。」
カゴから一つかみ渡されたのは甘いグミミーの実だった。
ジェラルドは、見るなり迷わずポイっと口に放り込んだ。
「俺の好物だ。偶然だな。」
硬派な無表情がフッと緩みクスリと笑うと片手を振って去って行った。
翌日、早朝。
リリアーナが畑へ行くとジェラルドが待っていた。リリアーナは一瞬、驚いたが彼の手に苗があるのに気がついた。
「おはよう。中に入っても?」
「おはようございます。スミス様。ええ、私の自慢の畑です。どうぞ。」
畑は小さいながら綺麗に管理をされていた。生垣にグミミーの蔓がはわされている。畑には何種類もの花と添木をされた野菜が植えられていた。
「昨日のグミミーは美味かった。我が家の畑のキカの苗だ。これも美味いぞ。」
「まぁ!こんな高価な苗をよろしいんですか?ありがとございます!」
キカは成長が早くて甘い。しかし高級果物で苗も手に入りずらかった。
「実がなったら是非に味見をさせてくれ。頼んだぞ。」
「ええ。いつでも食べにいらして下さい。」
「それと俺の事はジェラルドと呼んでくれ。」
「では、リリアーナとお呼び下さい。」
こうしてジェラルドはリリアーナの畑にくるようになり時には花の苗をプレゼントをして2人の仲は急激に近くなった。
そして、そよ風が心地よい晴天の日、ジェラルドはリリアーナへ一赤い薔薇の花束を差し出して耳を赤くして愛の告白をした。
「私と交際をしてもらえないだろうか?」
「はい。宜しくお願いします。」
ジェラルドは照れた顔を見られまいと片手で顔を隠しながらもリリアーナの手を握った。
「ありがとう。それと、、ごめん。一つ訂正したいのだが、俺の名前はジェラルド・コンスタントだ。騙してすまない。」
「えっ!公爵家の方でしたか!失礼をしました。」
リリアーナは慌てて深々と礼を取った。
「俺は王の親戚だが王家を継ぐ可能性は低いしただの騎士だ。今まで通りでいてくれ。だから、、リリーと呼んでも?」
「でも我が家は男爵なのよ。公爵様がお許しにならないわ。」
「父上も母上もご存知だ。俺が軍事ばかりだから、心を許した女性がいると言ったら直ぐに結婚をしろと喜んでいたぞ。」
結婚と聞いてリリアーナは真っ赤になった。
「俺をもっと見てから決めて欲しい。ま、俺程の男はそんなにいないからな。」
そう言ってジェラルドがニヤリとした。
いつもの冗談じみた言い方にリリアーナも調子が戻った。
「まぁ!凄い自信ね。どうしようかな~」
2人から笑いが漏れるとジェラルドはリリアーナの髪に触れた。
「リリー、ジェドと呼んで。」
「ジ、、ジェド。」
リリアーナは愛称で呼びかけると赤くなり照れて下を向いてしまった。
そんな可愛い顔をジェラルドは逃さなかった。
「キスしても?」
リリアーナが恥ずかしそうに軽く頷くとジェラルドはそっと唇を重ねた。
その後、半年を待たずに2人は婚約をした。
「俺はリリーだけだから。絶対に離さない。」
力がこめられた手をリリアーナも握り返した。
「うん。私も。」
幸せに満ちて結婚式が待ち遠しい2人だった。
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