聖女様、ご遊学は終ったのです。早くお戻りを!

牡丹

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8.そこにあった物

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エリザベスは、一条奈々美と草木が生い茂ったかつての村のメインストリートを辿っていた。

「私達はこうやって元集落の中に残されている仏像を探しているのよ。村長の家や村の中心となる道沿いに残されている事が多いわ。」

しばらく探索すると一条奈々美が何かを見つけた。
彼女が指差した場所は、道沿いにある石の壁に囲まれた小さなお堂跡だった。

「さあ、草や木をどかして調べるわよ。」

間もなく石で出来た30センチ程の仏像が顔を出した。
一条奈々美が見つけた合図の笛の音を鳴らすと遠くからそれに応える2種類の笛の音が聞こえた。
そして間もなく彼らは笛の音を頼りに合流をした。

「これです。ウィリアム様、どうですか?」

ウィリアムは、仏像を手に取って念入りに見て入いる。

「当たりだ。残りは一体だ。頼むよ。」

そう言うと、仏像の額を指で弾いた。
それを合図に皆が担当エリアの捜索を再開した。
間もなくしてウィリアムが見つけて合図があり皆が集まった。
ウィリアムがまた仏像の額を指で弾いた。

「コレで今日の回収は終了だ。全く何年かかったと思ってるんだい?」

そう言うと柔らかな布で仏像を包み鞄に大事にしまった。

ふとエリザベスはウィリアムの仕草に違和感を覚えた。

(神を祀る仏像なのに額を弾くのは問題よね?普段穏やかなウィリアムさんがする仕草にしては乱暴な?)

「さあ、日が暮れる前に急いで帰宅するぞ。」

直ぐに下山が始まったので尋ねる間はなかった。

事務所に帰ると、ウィリアムは仏像を居間の机に置くと腕組みをして一心に見つめている。かれこれ1時間もそうしている。
彼の椅子の後ろの棚には沢山の仏像が収められているから、まるで机の仏像に皆が注目をしているようだった。

エリザベスは、お茶のお代わりを邪魔しないようにとそっーと置いた時、ウィリアムの手がいきなり拳で机を叩いたのではずみでお茶が溢れて仏像にかかった。

「アチチッ!何すんだよ!」

とっさに「ごめんなさい。。」と謝ったが、声の出処はウィリアムでは無かった。
なんと!仏像だった。
ウィリアムは眉間を押さえてため息をついている。
仏像からまた声が聞こえた。

「おい、早く冷やしてくれ。火傷しただろ?」

「あの、ウィリアムさん、この仏像が話している気がするんだけど?」

「ああ。ハァー、サイルスお前のミスだ。」

そう言うと仏像の額を指で弾いた。

「いてて。
おいそこの女!早く私を冷やせ。」

エリザベスが慌て氷を取りに行くとキッチンにいた一条奈々美も一緒にやって来た。
仏像から声がするのを見た一条奈々美は、手に持っていたタオルを落としてしまった。
その姿にウィリアムの反応は早かった。

「一条、すまない。隠していた事がある。」

一条奈々美は黙って頷いたが仏像から目を離さずにいる。

「紹介するよ、サイルスとバルマだ。二人を探すのを手伝ってくれた一条奈々美さんとエリちゃんだ。」

そう言って再び額を指で弾こうとすると仏像が叫んだ。

「止めて下さいよ!非を認めるから。団長、私が動けないのをいい事に卑怯です。」

サイルスが喚くと一回り小さい仏像のバルマがたしなめた。

「わめくなうるさい。部外者が見ているだろ?」

静かになったのでエリザベスがそっと氷袋をサイルスの仏像に当てた。

「ふん。俺たちの声を聞いて逃げない人間は初めてだ。お前、本当に人間か?」

エリザベスはその言葉にドキリとした。

(私は人間じゃない。異世界から来たのだから。バレた?)

「そうだな。俺たちの会話が聞こえるとバケモノがいると村まで捨てて逃げてしまったものな。」

仏像の二人は会話を続けてもう隠す気もない。

「二人共、まずあんな所から救い出してくれたお嬢さん方に言う事があるだろう?」

「これは失礼をした。私くし地球調査隊隊長サイルス・ガーは貴殿達に感謝を述べる。」

「同じく隊長補佐官バルマ・ジー、感謝を述べる。」

彼らは急にかしこまった口調になった。
仏像は動かないが敬礼をしている姿が目に浮かぶようだ。
今まで黙っていた一条奈々美がやっと口を開いた。

「団長ってウィリアム様の事でしょうか?説明して頂けますよね?」

彼女の顔には有無を言わせない張り付いた笑顔があった。
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