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1.非情な時間切れ。

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この町には街灯が無い。
日が暮れると窓から漏れる灯りと月明かりのみ。だから夕方になると商店は店じまいをする。
吉之助が営む小間物屋もそうだった。
のれんをしまい蝋燭に火をつけ帳簿の計算をしていると婚約者のエリがやって来た。

「エリ!こんな夕暮れ時に訪ねるなんて危ないだろ?急用なら使いを寄越せば俺が訪ねたのに。」

「急用だったの。ごめんなさい。」

そう言ってエリが吉之助の側に来ると灯りでハッキリ見えた表情に驚いた。

「どうしたんだい?何があった?」

明らかに泣いていた顔で、今も泣くのを顔を歪めて必死に我慢している。
吉之助は、立ち上がるとエリを抱き寄せた。

「何故泣いてる?困った事でもあったか?」

エリは吉之助の胸でにじんだ涙を拭くと彼の胸からそっと離れ下を向いた。
服の裾をギッと掴むと意を決して告げた。

「吉さん、今日は、お別れを言いに来たの。故郷から迎えの知らせがあって。ごめんなさい。もう、、逢えないの。」

「えっ?お別れ?迎えって。何言ってるんだい?」

「私が、、私が悪いの。遊学に来なければこんな事にならなかったわ。本当に、、本当にごめんなさい。」

そう言うと目から涙が溢れた。
いつも笑顔のエリが吉之助にこんな顔を見せた事はない。

「泣かないで。エリには身内は誰もいないんじゃ無かったんだな。わかった。俺が故郷の人に説明するよ。来月に俺達は祝言を挙げ、ここで一緒に暮らすとね。逢えなくなるなんて無い。絶対説得してみせるよ。」

再び抱き寄せようとしたが、エリが一歩後ろに下がった。

「添い遂げる時間はあると思っていたから。なのに、、私が甘かった。」

「エリ、大丈夫だから。さあ、泣き止んで。俺に任せて。」

涙を拭うエリの身体を優しく抱きしめ頭を撫ぜた。
エリは頭を振り苦しい顔をして吉之助を見上げた。
今から残酷な事を告げなければならない。

「違うの。私は、、私は違う世界からここに遊学に来たの。それが終わり今から私の世界に直ぐ呼び寄せると知らせが来たの。」

「何を言ってるんだい?異世界だなんて狐に馬鹿されたのかい?」

その時、エリの頭の中に声が響いた。

(これより儀式を初めます。間もなく帰還でございます。)

その声にエリは焦った。
一方的になってもいい。伝えたい事を言おう。

「吉さん。貴方を愛してる。本当よ。けどね、もう、、時間が無いの。添い遂げれなくてごめんなさい。こんな酷い私の事を忘れて、どうか幸せになって。本当に、、ごめんなさい。」

「エリ、これ以上馬鹿な事を言うな!俺も愛してる。ここに居たら良いんだから。俺は離さないぞ。」

その時、エリの体が半透明になった。

「エリ!君の体が、、」

「さよなら、吉さん。」

そして突然消えた。
エリを抱きしめていた身体は宙を掴んだ。

「そんな、、嘘だろ?エリ!エリ!何処だ?エリ!!」

店を飛び出した吉之助は、エリの名前を叫びながら彼女の家に向かいその後、町をさまよい続けた。





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