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36.[本編完結]2人の為の決断
しおりを挟むルドヴィカ侯爵邸の家紋入りの立派な門を抜け屋敷の玄関に着くと、初めてここに来た時と同様に執事を筆頭に屋敷中のお世話係が整列をして出迎えてくれている。
「エリコ様、お帰りなさいませ!」
「ご無事で何よりでした。さあさ、お部屋にどうぞ。直ぐにお茶をご用意しますね。」
皆さん帰宅を大層嬉しそうにしているから、心配かけた事を謝るべきだろうか?ううん、私は謝らない。結婚してるのではないんだから何処に行こうと自由だわ。
部屋に侍女長がお茶を運んで来て何事も無かった様にいつもの隙のない所作でにこやかに話かけてくる。
「ご主人様は明日お帰りになるご予定です。結婚式当日には間に合いますからね。良かったですね。」
「私は彼と結婚はしません。」
予想していたのか侍女長は全く動揺をせず笑顔のまま質問を返してきた。
「エリコ様。ご主人様からのお手紙はお読みになられましたか?」
「いいえ。」
「ご主人様は、エリコ様を愛していらっしゃいます。もっと自信をお持ち下さいませ。」
「。。。。」
何を言っても私以外に恋人がいるのを見たんだから。それも腰を抱き合う程の親密さよ。私達以上じゃないの!
侍女長はルドヴィカ侯爵の手紙を差し出すと言葉を続けてくる。
「先ずはお手紙をお読み下さいませ。待ち侘びたお手紙ですよ。それに、、コホン。読んでからお逃げになっても良いのではないでしょうか?」
何よ、その挑発するような言い方。
人から「逃げる」と言われると尻尾を幕いてる様に聞こえてしまうじゃないの。
私は逆らう為に逃げているのに。
逃げても逃げても捕まってしまう。もう逃げられない現実を受け入れるべきなんだろうな。
だからと言ってヨドガーワの町で見た事は許せない。
手紙を受け取ると蝋封を開けてみた。
「エリコ、ヨドガーワの街で元気なお前の姿を見られてとても嬉しかった。任務終了までもう少しだ。帰れば直ぐに結婚式だ。息を吸う間もなく愛してやるから覚悟しておけ。愛している。アルベルト・ルドヴィカ」
何これ?純粋なラブレターじゃないの。
目の前で浮気現場を見られたのよ。
何で言い訳の一言も書いてないの?
馬鹿じゃない?
「ご主人様の奥様が亡くなり7年経ちますが屋敷に女性をお連れしたのはエリコ様が初めてですよ。それだけ特別なのです。」
「嘘言わないでよ。あんなにモテるのに?」
侍女長は微笑みながら首を振っている。うーん、また彼の意外な一面を知ってしまった。だからと言って見てしまった事実は覆らないわ。
翌日は、結婚式式当日の最終確認が行われた。実際の衣装とアクセサリーを身に付け髪型をセットした。鏡に映る姿は自分じゃ無い程に美しくしてくれている。
こんな気持ちで無ければどんだけ嬉しいんだろな。
早くアルベルトに会ってアナタの妻にはならないと宣言して、この茶番を終わらせたい。
朝から沈んだ気持ちでアルベルトの帰りを待っていたけど、どう言う事?夕食も終わり、結婚式は明日なのにまだ帰宅しないなんて!
私の事を軽んじ過ぎでしょ!
夜になり眠りに付くと寝返りが出きず目が覚めた。
寝ぼけまなこで見ると、、、アルベルトに抱きしめられていた。
「わぁ!な、何でここにいるの?」
「帰ったぞ。待たせたな。」
そう言って顔にキスをしてくる。
「う、うっ、ちょ、ちょと待って。」
いつどうやって入ったんだろ?鍵はかけたのに。回された手を振り解どき抗議した。
「ここは私のベッドよ。」
「まだ早い。寝るぞ。」
私を無視して抱きしめると瞼を閉じてしまった。なんて図々しいの。
「あなた、ヨドガーワに恋人がいるくせに。さあ、出て行って。」
「アレはただの仕事だ。明日の為にじっくりと寝るぞ。」
「何言ってるの?私を無視した日だけじゃ無いわ。熱く腰に手を回しあって耳元でささやくアナタを見たんだから。」
アルベルトは目を開けると肘に頭を乗せると私の頬を撫ぜてきた。
「それで屋敷を出ていたのか?本当にオマエは可愛いな。侯爵夫人の地位と名誉、財産、安全。全てを捨てて嫉妬するとは。」
そんな甘い笑顔で抱き寄せられても騙されないんだから。
「やめてよ。アナタなんて嫌いよ。」
「エリコ、その場の勢いで話すなと教えただろう?心にない事は言うな。」
「心にある事よ!」
「ははは、こんなに嫉妬してるのに?本当に可愛いな。」
「ち・が・う!も~わかったわ。私が出て行くから。だから離してよ!」
ガッチリ固定された手を振り解こうとモゾモゾすると更に力が加えられた。
「おい、刺激をするな。我慢出来なくなるだろ?」
うわぁ~もう本当にこの人は!こんな気持ちのままじゃ応じたくないわよ。
「許してくれ。俺は騎士だ。特殊任務も潜入捜査も仕事だ。エリコが見たのもそうだ。今度、出会っても必ず無視をしろ。命があぶないぞ。」
「えっ?どう言う事なの?」
「その時にエリコの姿を俺の目に映す事は今後もない。エリコと仲間の命の為だ。覚えておいてくれ。」
「、、、わかった。」
そうだった。ここは平和な日本じゃないんだった。油断すれば危険に巻き込まれる。
「私、、、仕事であんな事もするんだったら、もう見ない。見たくなんかない。」
「すまないな。いい子だ。」
そう言って唇を重ねてくる。
「うーん、やっぱり我慢出来ないな。」
「何言ってるの、さっきまで私は怒ってたのよ。それにしっかり寝ろって言ってたでしょ?」
「はは、噛みつく姿も可愛いな。奥方、これから宜しく頼んだぞ。」
ホントに強引!返事を返す間もなく口を塞ぐんだから。
*****
「エリコ、、エリコ、起きてくれ。時間だ。」
「うーん、まだ無理よ。身体が重たいわ。」
「仕方が無いな。」
ヒョイと担がれバスルームへ裸のまま連れて行かれる。
「ちよ、ちゃっと!」
エリコは恥ずかしさで慌てて胸元を隠すが湯船に沈められた。
「さあ、綺麗にしたら俺の為にドレス姿を見せてくれ。先に行ってるぞ。」
軽いキスして足早に出て行くと入れ違いで侍女達が待ってましたとばかりに雪崩れ込んで来た。
「エリコ様!本日は、おめでとうございます!さあ、大急ぎでご用意を始めます!!」
「ありがとう。式は後どれくらいで始まるの?」
「すでに30分以上過ぎています。」
「ええっ~!嘘でしょ!だって、まだだって言ってたのに、、、どれだけマイペースなのよ!」
湯船から慌てて立ち上がると大急ぎで準備が進められた。
その頃、招待客の待機するサロンの外では呆れはてこめかみに手をやるルドヴィカ侯爵の嫡男アーロンがやっと新郎新婦の用意が始まったと報告を受けて大きなため息を吐いていた。
「ハァー、やっとか。父上、本~当に勘弁して下さいよ。」
その後、ルドヴィカ侯爵家ホールで1時間半遅れで結婚式は開始した。
美しく着飾られた花嫁エリコ・カワムラと赤髪をオールバックにして一つにくくり凛々しい顔のアルベルト・ルドヴィカ侯爵が神父の前で夫婦の誓いを立てた。2人の輝く笑顔に参列者一同が祝福を送った。
さてさて、この2人のこの先は、平穏に上手く行くのでしょうか?
それはエリコの忍耐次第ではないでしょうか?
エリコ頑張って!
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