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29.初めての夜会
しおりを挟む着慣れないロングドレスにつまずかないように細心の注意をして会場に入場すると、直ぐにナオちゃんの座る上座に通された。
王の隣にナオちゃん、その側には宰相が控えている。
ナオちゃんは私の顔を見ると椅子から立ち上がり駆け寄った。
「エリコさん!嬉しい来てくれたのね。ありがとう。ナオね、約束通り頑張っているの。まだまだかかるけど楽しみにしていてね。」
私の手を握って純粋に話かけてくれるけど、ウィリアム王子とシュミット宰相の視線は相変わらず痛い。
特に王子は下げずんだ目で私を見ている。2人からは、「余計な事を言うな」と無言の圧も凄い。
「お招きありがとう。身体に気をつけて頑張ってね。」
ニッコリと笑い短い励ましの言葉を述べると直ぐにビッフェ近くの席に案内されてしまった。
聖女らしくなったナオちゃんとの再会は思ったより短かった。望まれた聖女様と招かざる者。
これからは益々、気軽に会えなくなるのだろうね。一緒に召喚されただけの仲と思っていたけど、いざ遠い存在になると寂しいな。
パーティーは立食だけど、私は指定席をもらい専用の給仕も付いていた。
知り合いもいないし誰も話しかけてもこない。さあ、遠慮なく食べるわよ!
パーティーも中盤が過ぎた頃、会場の入口でざわめきが起こった。御婦人方の黄色い歓声が上がり群がっている。
また誰か有名な人が来場したみたい。
人波を引き連れて一団が動いている。
まぁ、誰が来ようと私には関係ない。
給仕にデザートと飲み物のお代わりを頼むと、大好きなアップルタルトだった。誰も観ていないから手掴みで頬張ろうとした時、先程の群衆がやって来て声をかけられた。
「失礼。黒髪のレディ。パーティを楽しんでおられますか?」
声をかけられたので条件反射で振り返ったけどヤバイ。何故に口に運ぶタイミングなの?それもレディにあるまじき手掴みよ!
そっとパイを皿に戻すと何でもないフリをしてニッコリと答えた。
「ええ。貴方も?」
見上げると黒を貴重とした夜会服にエメラルドとダイヤモンドのブローチを付けて流行りの帽子を被った背の高い男だった。驚いた!俳優バリのイケメンじゃない!
「ええ。今宵は特に。隣に座っても?」
キャー嫌と彼を取り囲む令嬢方からの黄色い声が聞こえてくる。
女の敵は女。怖い怖い。絶対に関わりたく無い。
「いいえ。どうぞ皆さんと楽しんで下さい。素敵なレディ達がお待ちですよ。」
ニコリと微笑んで背中を向けた。
なのに俳優男は、食い下がる。
「今宵は美しい黒髪の貴方と楽しみたい。どうか許可を。」
黒髪が珍しくて興味を持ったんだろう。
そんな奴は絶対にお断りよ。
「連れがいるので。席を立っているだけです。」
「ほう。では、その方のお名前を伺ってても?」
一体、何なのよ~!しつこい!なんで諦めてくれないの?
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