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4.侯爵夫人になるための努力

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侯爵家での生活が始まり、アル(アルベルト)と同じ3階のフロアに部屋をもらった。

アルは、毎朝、お城へ仕事に出かけ、私は侯爵家の女主人教育を朝から夕方までみっちりと受けている。

家庭教師から先ずは最低限の事を学ぶ。挨拶の仕方にダンスのレッスン、経営学、政治、貴族年鑑。食事やお茶の時間もマナーの時間になっていて気を抜け無い毎日だ。

これで家事もやれと言われたら倒れてしまう。幸いな事に使用人が全てやってくれるのが救いだわね。そんな状況でへたらないのは、毎夜、部屋を訪ねてくるアルベルトが労い慰めてくれるから頑張ろうと思う。

「大丈夫だ。皆んな幼い頃から繰り返し習っているんだ。だからハルナもそのうち出来るから気負わなくていいんだぞ。」

アルベルトはそう言ってくれるけど、9ヶ月後には結果を出さないといけないんだから焦ってしまう。

「さあ、今日も一日頑張ったご褒美の時間だ。ベットに行こう。」

「うん。」

この豪華で使用人も多い侯爵邸で気を許しているのはアルだけ。
ここに来てから2人だけで過ごすのは夜だけしかない。
日本にいた時と唯一変わらない大切な私達だけの時間。だから私も思いっきり甘えたくなる。毎夜、仲良く過ごしているとある日、2人して侯爵の執務室に呼び出された。

「婚姻前の妊娠は貴族として恥ずかしい事なのはわかっているだろ?ベッドを別に出来ないのなら妊娠はしないように気をつけなさい。」

どうやらこの国の貞操観念は日本より固いみたい。将来の義父から念を押されて言われる事の恥ずかしいったら直ぐに部屋を飛び出したい位だった。

反対にアルは全く動じずに父親を平然と見返している。

「心配ありません。では失礼します。」

シラッと言い切り私の手を引くと早々に退席した。廊下を大股で歩くアルの手から怒りが感じられる。

「既に俺達は夫婦だ。それを反対するんだから言わせておけ。」

その言葉の通りアルは変わらず部屋を訪ねて来ている。2人にとって大切な時間だから。


1ヶ月が過ぎた頃、アルが居ない昼間に彼の両親に呼び出された。

「アレには婚約期間を設けると言ったが本心は別だ。貴方の方から身を引いてもらえないだろうか?」

「やってもないうちにおっしゃるのですか?」

「貴族の家は貴族同士で繋がりを持ちお互いの利益を高めて維持されているのだ。そこに愛が伴わない場合もあるが、それが貴族としての生き方なのだ。」

「そんな、、」

同席している侯爵夫人が問いかけた。

「貴方は、我が侯爵家に何をもたらしてくれますか?」

「それは、、」

「愛だけでは侯爵家と領地は維持出来ない。我々の采配で領地にいる何万人もの領民の生活もかかっているんだ。君にその器量があるかね?」

「それは、、、無いです。」

夫人は眉を下げて諭すように語りかけてくる。

「私達は、意地悪で言っているのでは無いのよ。私達は、上に立つ者としての責任があるの。どうか理解して欲しいの。」

「あの、、、考えさせて下さい。」

「良いだろう。君は賢い。良い返事を出してくれるだろう。」

何万人もの人の生活がかかっている。
大企業のトップとして会社を経営するよえなものなんだろうな。それを私に出来るのか?

出来ない。悔しいけど無理だわ。義父様の言葉は正しい。愛を選んで領地民を飢えさす事は出来ない。

理解は出来るけど、私は本当に彼を愛してるの。離れたく無い!

それにこの世界で頼れるのは彼だけ。ここを出てどうやって暮らして行くの?それに私なんかがお金をかせげるの?

考えれば考える程、悲惨な考えが浮かんでくる。頑張って勉強はしているけど、、、勉強すればする程、付け焼き刃で出来るもので無いとわかってしまう。

「ハルナ、どうした?何かあった?」

「ううん、大丈夫!アルこそお仕事お疲れ様。肩でも揉む?」

「ん、じゃあ頼むよ。」

お互いを労う幸せな時間。1日の中で最もホッコリとする大切な時。

「きゃっ!ち、ちょっと!」

「さあ、愛しい人もっと癒してくれ。」

ソファから抱き抱えられベットに降ろされて肌を重ねると昼間の侯爵夫妻の言葉が遠のいていく。
このまま消えてくれたらいいのにな。
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