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見上げた月は蔵に入る前と変わらず満月で、雲がないせいか熱の無い温かな銀色の光で辺りに照らしていた。

「見事な満月だな。
少し待ってて。月入れの儀式をするから。」

アオイは膝をつき両手を月に向け広げ、呪文を唱えている。
すると、アオイの回りに沢山の蝶が現れ円を描きだした。
蝶はやがて白く淡く光だしアオイの頭上からアオイの中へ吸い込まれて行った。

なんて綺麗なんだろう。アオイは月の一族と言ってたけど人間じゃないのかな。

「待たせたね。」

見惚れていて声をかけられ、はたと気がついた。

「アオイ!目と髪が真っ白になっている、、」

「うん。月の光を取り入れたからね。
さぁ準備も出来たし、後は翡翠が手に入れば我々は帰れるんだ。
長い時を待ったよ。」

「帰る?何処に?」

「月さ。我が一族は月から地球に特使でやって来たんだ。」

「えっ!地球人じゃなくて月の人なの?」

嘘でしょ?そんなばかな。

「本当さ。お爺様が1000年前、時の権力者の妻が病にかかっていて月の力で治したんだ。
それで我々を称えたいと神殿や祈りの間を作ってくれた。」

アオイは遠い目をして、語り出した。

「しかし月と月の力を我が物にしようと企み、我々は村に拘束されたんだ。
だからお爺さ様が密かに祈りの間に光の道を作り、親友になった村長の息子に翡翠の指輪を持って安全な場所で預かってもらったそうだよ。」

「それが私の御先祖って事?」

「そうなるな。
僕は子供で神官長を継ぐ者として勉強に来ていただけなので見た事がないんだけどね。
それからずっと待っていたんだ。
ユカ!指輪を見せてくれる?」

ユカは蔵の桐箱に入った翡翠の指輪をアオイへ渡した。

「これだけど、あってる?」

アオイが触れると翡翠から温かい熱を感じ取れた。

「ああ。間違えないよ。これだ。
見てて。」

呪文を唱えると指輪が光だし月に向けて光の帯が伸びた。

「一体どうなってるの?魔力なの?」

「これが月の力さ。
私達はユカのお陰で帰る事ができるよ。」

アオイの目には涙が浮かんでいる。

「ユカ、腕輪は光の道を閉じるから返してもらうね。
代わりに感謝の印にこの指輪も受け取って。」

アオイがさっきまで灯りにしていた物だ。

「ユカがしてもただの指輪だけど、月の物だから友好の印だよ。」

指輪に付いている石は白い翡翠の様に見えた。

「これでサヨナラだ。
名残惜しいけど、、満月の日にしか帰れないんだ。だから急がないとね。じゃあね。」

そう言うと蔵の中へ入り呪文を唱えた。
カッ!と光の帯が充満して辺りを明るく照らした。暗闇に立っていたユカは眩しさで目を手で覆う。
フッと光が無くなり見るといつもの蔵だった。

「あれ?夢だったの?」

手の中にはアオイからもらった指輪がある。

「今のは本当だったんだ!
アオイ、元気でね!」

私はしばらく美しい満月を見て今日の不思議な事を思いふけっていた。
やがて一筋の光が月に伸びていき、吸い込まれ消えていった。


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