上 下
4 / 4

4.

しおりを挟む
見上げた月は蔵に入る前と変わらず満月で、雲がないせいか熱の無い温かな銀色の光で辺りに照らしていた。

「見事な満月だな。
少し待ってて。月入れの儀式をするから。」

アオイは膝をつき両手を月に向け広げ、呪文を唱えている。
すると、アオイの回りに沢山の蝶が現れ円を描きだした。
蝶はやがて白く淡く光だしアオイの頭上からアオイの中へ吸い込まれて行った。

なんて綺麗なんだろう。アオイは月の一族と言ってたけど人間じゃないのかな。

「待たせたね。」

見惚れていて声をかけられ、はたと気がついた。

「アオイ!目と髪が真っ白になっている、、」

「うん。月の光を取り入れたからね。
さぁ準備も出来たし、後は翡翠が手に入れば我々は帰れるんだ。
長い時を待ったよ。」

「帰る?何処に?」

「月さ。我が一族は月から地球に特使でやって来たんだ。」

「えっ!地球人じゃなくて月の人なの?」

嘘でしょ?そんなばかな。

「本当さ。お爺様が1000年前、時の権力者の妻が病にかかっていて月の力で治したんだ。
それで我々を称えたいと神殿や祈りの間を作ってくれた。」

アオイは遠い目をして、語り出した。

「しかし月と月の力を我が物にしようと企み、我々は村に拘束されたんだ。
だからお爺さ様が密かに祈りの間に光の道を作り、親友になった村長の息子に翡翠の指輪を持って安全な場所で預かってもらったそうだよ。」

「それが私の御先祖って事?」

「そうなるな。
僕は子供で神官長を継ぐ者として勉強に来ていただけなので見た事がないんだけどね。
それからずっと待っていたんだ。
ユカ!指輪を見せてくれる?」

ユカは蔵の桐箱に入った翡翠の指輪をアオイへ渡した。

「これだけど、あってる?」

アオイが触れると翡翠から温かい熱を感じ取れた。

「ああ。間違えないよ。これだ。
見てて。」

呪文を唱えると指輪が光だし月に向けて光の帯が伸びた。

「一体どうなってるの?魔力なの?」

「これが月の力さ。
私達はユカのお陰で帰る事ができるよ。」

アオイの目には涙が浮かんでいる。

「ユカ、腕輪は光の道を閉じるから返してもらうね。
代わりに感謝の印にこの指輪も受け取って。」

アオイがさっきまで灯りにしていた物だ。

「ユカがしてもただの指輪だけど、月の物だから友好の印だよ。」

指輪に付いている石は白い翡翠の様に見えた。

「これでサヨナラだ。
名残惜しいけど、、満月の日にしか帰れないんだ。だから急がないとね。じゃあね。」

そう言うと蔵の中へ入り呪文を唱えた。
カッ!と光の帯が充満して辺りを明るく照らした。暗闇に立っていたユカは眩しさで目を手で覆う。
フッと光が無くなり見るといつもの蔵だった。

「あれ?夢だったの?」

手の中にはアオイからもらった指輪がある。

「今のは本当だったんだ!
アオイ、元気でね!」

私はしばらく美しい満月を見て今日の不思議な事を思いふけっていた。
やがて一筋の光が月に伸びていき、吸い込まれ消えていった。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢ルーシィメイ、こちらの世界に迷い込む

牡丹
恋愛
魔力持ちの公爵令嬢ルーシィメイが転移魔法の練習中、呪文を唱える途中にトラブルが起こってしまって何処かに転移されてしまった! そこは日本の古い社(やしろ)だった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

さよなら世界、ようこそ世界

乱 江梨
ファンタジー
 その日、世界が終わった。  主人公である少年は、その日起きた突然の世界消失の中、唯一意識を保っている魂だった。  人が、大地が、空が、海が、宇宙が、空間が、すべて消えたその時、少年の存在が全てだった。  そして少年には分かった。世界が全て終わった今、自分が世界を創造する存在、創造主となることを。  そして少年は世界と、その世界を管理する神々を創造し、神々との絆を深めていく。そんな中、少年にはとある目的があった。  それは、何故世界が消滅し、自分が創造主に選ばれたのか?少年はそれを探るため、自分が造った世界へと足を踏み入れるのだが……。  何でも可能にしてしまう最強主人公の、世界創造ストーリーが始まる。  不可能無しの創造主人公、ここに創造!  ※主人公の名前をしばらくの間〝少年〟と表記しますが、途中で名前が付きますのでご安心ください。  毎日14時と19時に一話ずつ、計二話の投稿を予定しております。  本作品は元々小説家になろうで投稿しているものです。

【完結】婚活に疲れた救急医まだ見ぬ未来の嫁ちゃんを求めて異世界へ行く

川原源明
ファンタジー
 伊東誠明(いとうまさあき)35歳  都内の大学病院で救命救急センターで医師として働いていた。仕事は順風満帆だが、プライベートを満たすために始めた婚活も運命の女性を見つけることが出来ないまま5年の月日が流れた。  そんな時、久しぶりに命の恩人であり、医師としての師匠でもある秋津先生を見かけ「良い人を紹介してください」と伝えたが、良い答えは貰えなかった。  自分が居る救命救急センターの看護主任をしている萩原さんに相談してみてはと言われ、職場に戻った誠明はすぐに萩原さんに相談すると、仕事後によく当たるという占いに行くことになった。  終業後、萩原さんと共に占いの館を目指していると、萩原さんから不思議な事を聞いた。「何か深い悩みを抱えてない限りたどり着けないとい」という、不安な気持ちになりつつも、占いの館にたどり着いた。  占い師の老婆から、運命の相手は日本に居ないと告げられ、国際結婚!?とワクワクするような答えが返ってきた。色々旅支度をしたうえで、3日後再度占いの館に来るように指示された。  誠明は、どんな辺境の地に行っても困らないように、キャンプ道具などの道具から、食材、手術道具、薬等買える物をすべてそろえてた。  3日後占いの館を訪れると。占い師の老婆から思わぬことを言われた。国際結婚ではなく、異世界結婚だと判明し、行かなければ生涯独身が約束されると聞いて、迷わず行くという選択肢を取った。  異世界転移から始まる運命の嫁ちゃん探し、誠明は無事理想の嫁ちゃんを迎えることが出来るのか!?  異世界で、医師として活動しながら婚活する物語! 全90話+幕間予定 90話まで作成済み。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

天使の国のシャイニー

悠月かな(ゆづきかな)
ファンタジー
天使の国で生まれたシャイニーは翼と髪が虹色に輝く、不思議な力を持った天使。 しかし、臆病で寂しがり屋の男の子です。 名付け親のハーニーと離れるのが寂しくて、泣き続けるシャイニーを元気付けた、自信家だけど優しいフレーム。 性格は正反対ですが、2人はお互いを支え合う親友となります。 天使達の学びは、楽しく不思議な学び。 自分達の部屋やパーティー会場を作ったり、かくれんぼや、教師ラフィの百科事典から様々なものが飛び出してきたり… 楽しい学びに2人は、ワクワクしながら立派な天使に成長できるよう頑張ります。 しかし、フレームに不穏な影が忍び寄ります。 時折、聞こえる不気味な声… そして、少しずつ変化する自分の心…フレームは戸惑います。 一方、シャイニーは不思議な力が開花していきます。 そして、比例するように徐々に逞しくなっていきます。 ある日、シャイニーは学びのかくれんぼの最中、不思議な扉に吸い込まれてしまいます。 扉の奥では、女の子が泣いていました。 声をかけてもシャイニーの声は聞こえません。 困り果てたシャイニーは、気付けば不思議な扉のあった通路に戻っていました。 シャイニーは、その女の子の事が頭から離れなくなりました。 そんな時、天使達が修業の旅に行く事になります。 5つの惑星から好きな惑星を選び、人間を守る修業の旅です。 シャイニーは、かくれんぼの最中に出会った女の子に会う為に地球を選びます。 シャイニーやフレームは無事に修業を終える事ができるのか… 天使長サビィや教師のラフィ、名付け親のハーニーは、特別な力を持つ2人の成長を心配しながらも温かく見守り応援しています。 シャイニーが成長するに従い、フレームと微妙に掛け違いが生じていきます。 シャイニーが、時には悩み苦しみ挫折をしながらも、立派な天使を目指す成長物語です。 シャイニーの成長を見守って頂けると嬉しいです。 小説家になろうさんとエブリスタさん、NOVEL DAYSさんでも投稿しています。

少し残念なお嬢様の異世界英雄譚

雛山
ファンタジー
性格以外はほぼ完璧な少し残念なお嬢様が、事故で亡くなったけど。 美少女魔王様に召喚されてしまいましたとさ。 お嬢様を呼んだ魔王様は、お嬢様に自分の国を助けてとお願いします。 美少女大好きサブカル大好きの残念お嬢様は根拠も無しに安請け合い。 そんなお嬢様が異世界でモンスター相手にステゴロ無双しつつ、変な仲間たちと魔王様のお国を再建するために冒険者になってみたり特産物を作ったりと頑張るお話です。 ©雛山 2019/3/4

処理中です...