はぐれ者達の英雄譚

ゆるらりら

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第一部 一章 転移編

不思議な夢と結衣の決意。

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「母さん!起きてよ…!僕達を置いて行かないでよ……っ」
外は雨。血で汚れた室内で、1人の金髪の少年が、倒れている女性の肩を揺すっていた。少年の右手の指先には血がこびり付いており、二の腕辺りには禍々しい黒のインクで何か模様が描かれている。
「お兄ちゃん?どうしたの……?」
かなで……」
奥のドアから、少年同様綺麗な金髪の、奏と呼ばれた少女が怪訝そうな顔をひょっこりと覗かせていた。少年は少女を見ると、目を大きく見開いて、顔を上げた。しかし、また俯いた。
「お母さん、どうしたの?何でずっと寝てるの?」
「奏、お母さんは……遠い所に行ったんだ…。僕達じゃ行けない様な、遠い場所に」
「ここに居るよ?」
「居る様で居ないんだ。母さんは……だから、もう__」



「奏斗ー?かーなーとー?」
何時いつまでたっても起きない私のパートナーの肩を揺する。目にうっすらと涙を浮かべているから心配になった。
…悪夢でも見てるのかな?
「か……なで…」
「…誰だろう?」
まだ出会って直ぐだから、知り合いの事は良く知らないけど、友達かな?名前似てるから妹か姉かも。……そう言えば、奏斗の生まれ故郷は魔物のせいで壊滅して……村人も殺されたんだよね…それで、妹の夢を見ていたのかも。
「起きて!朝だよー!」
「全っ然起きないわね…こいつ。昨日の重労働が祟ったのかしら」
「重労働?」
「貴女を運んでここまで来たのよ。アネシスから」
まじか。そのせいだとしたら申し訳無いな……。まあ、取り敢えず起こそう。朝食に間に合わなくなる……!
「起きてー!かーなーとー!」
「ん……うぅ………りか…さん…?」
「そうだよ。朝食に遅れるから、起こしに来た」
「あ…そうですか。ありがとうございます」
「よし、それじゃあレッツゴー!」
和真さんが先に行って席取りとか、料理を運んでくれているらしいから、待たせないように早く行く。
……そう言えば、奏って誰か聞いてないな。まあ良いか。
「和真ー?待たせたかしら」
「いいえ、とんでも御座いません。……本日の朝食はトーストとハシウロコのグラタンだそうです」
「おお……美味しそうな響き!」
「ですね!良い匂いもしますし、楽しみです!」
私と奏斗が料理の名前を聞いてはしゃいでる中、結衣だけは緊張の面持ちで、胸の前で手を握り締めていた。
「2人共、和真には朝早くに話したのだけれど……話があるの」
「…分かった。心して聞くよ!」
「僕もです。どんな話でも受け入れます!」
「うん、ありがとう……」
それから、ひとまずは食べよう、と言う話になって、結衣の話は朝食を食べながら聞く事となった。
「……それで、話って?」
「……………私、盗賊辞めようと思うの。だけど、私1人じゃあとても無理だから……梨花達に手伝って欲しいの。…元はと言えば私のせいだけど、抗いたいのよ」
暫く悩んだみたいで、時間は掛かったけど、しっかりと思いをぶつけてくれた。
「結衣の意思なら、勿論オッケーだよ!」
「僕もです。協力なら、全然します!」
「あり……がとう…。私も、良い仲間を持ったわ…」
「本当ですね…。お嬢様。出会ったのが梨花様方で良かったです」
和真さんが結衣にハンカチを差し出しながら話し掛ける。
…他の誰かに会っていたら、騎士団とかに引き渡されてたかもしれない。まだ未遂とは言え盗みを働こうとしていたんだから。
「えっと……アジトとかは分かってるの?」
「ええ。雑用時代に居たから覚えているわ」
最初は雑用だったんだ…。確か借金で働かされたって言ってたけど、それじゃあ、返せないんじゃ…。体力を上げるとか言って、ずっと雑用をさせてたのかも知れない。でも、実際に借金を返させる気が無かった可能性も高いし……。こればっかりは当人達に聞かないと分からないけどね。
「じゃ、もう出発する?」
「そうしようかしら。私は戦えないから装備も特に要らないし…。一応で剣術は習ってたけど根本的な体力の問題が大きいし」
「ああ……だから初めて会った時めっちゃ遅かったんだ」
「あれは恥ずかしいわね…」



結衣の情報で、転送魔術陣から入った方が早いとの事だから王都の中心部に向かう。
「そう言えば、何で私が発動させた時に細かい所まで行けたんだろう…」
「ああ、あれですか…。まだ判明してないんですよね」
「どういう事?」
「1回、転生魔術陣を使ったんだけど、その時に詳しい場所に転移出来たんだけど…それが謎でね…」
「多分それ、過度に魔力マナを注ぎ過ぎたせいじゃないかしら」
……………………ん?確かにその頃の私は魔力マナの扱いが慣れて無かったし、有り得ないほど下手だったけど……。まさか、魔力マナ切れの原因ってそれ!?ショックだな……。
「それなら、今試してみてはどうですか?」
「確かにそうね!奏斗、ナイスアイデアよ!」
「ん…分かったよ……」
もう近い所まで来ていたから、私が先行して進む。取り敢えず皆を待って、発動させる準備を整える。
「転送魔術陣起動!目的地……」
……聞くの忘れてた。
あたふたと戸惑っていると、結衣が耳打ちしてくれた。
「ルアルスよ、梨花。先に聞いておきなさいよね…」
「ご、ごめん…。ありがとう。…目的地・ルアルス!」
魔力マナが吸い取られて行く感じがする。多分、出力みたいなのをこの世界の人達は調整してるんだと思う。魔力マナ切れになっちゃうからね。蓋をして…これ以上流れて行かないようにイメージをする。
今回は前の様に特例モードが発令する事も無く、上手く転移出来た。
「よし、着いたわよ!」
雰囲気からして村の様だ。ハイレンナ村に行った時はオカマに吃驚びっくりしたせいで見れなかったけど、村とかにある転送魔術陣は小さめで、ドア位のサイズだった。
「それで、盗賊のアジトは…」
「こちらです。お嬢様から道は伺っておりますので、道案内をさせて頂きますね」
「はい、よろしくお願いします!」
和真さんの道案内でアジトへ向かう。少し歩くと大きな屋敷が見えた。所々に蜘蛛の巣やら苔が張り付いてるから、きっと廃墟なのだろう。
うっわ…雰囲気あるな……。何か幽霊とか出ても違和感無いかも。
「よし、入るよ!」
「ええ!……アイツらに痛い目見せてやるんだから!…梨花達が!」
「間違ってはいませんけど…何だか複雑です」
奏斗が苦笑いしてるけど、そんなのお構い無しに結衣はずんずん進んで行く。…と言っても、常に護衛みたいな感じで和真さんが引っ付いてるけど。
私達も急いで後を追いかけて、4人同時にドアを開ける。
「せーのっ!」
……正直、有り得ない程重かった…。身体強化魔法を使っても足りない位。これから盗賊と戦うって言うのにもうへとへとになっていた。
「ふう……疲れた…」
「ちょっと待ってて下さい、今回復魔術を掛けるので__」
「クックック、新しいカモが来たぜぇ…!」
「女が居るじゃねえか!…こいつもたまには役に立つんだなあ!」
こいつって……結衣の事?…酷い。騙されて盗賊になって……こいつらの反応を見るにきっと酷い扱いだったんだろう。
「私達は……あんた達を壊滅させに来たのよ!私にしてきた所業の数々…後悔させてあげるんだから!」
「へっ、そんな軽口、これを見ても言えるか?」
その言葉と同時に奥から総勢30人程の盗賊が現れた。
疲労困憊してる状態でこれは厳しいかも…。
そんな事を思いながら、舐められない様にわざと挑発的な態度を取る。どうせ逃げられないなら、あっちが怒り狂って来た方が相手し易いし…。
「たった30人位?私達相手にそれは少ないんじゃないの?」
「そうかよ!お前ら__行け!」
全員がこっちに向かって走ってくる。私達はたったの4人。しかも、非戦闘員を後ろに付けてる事を考えると……状況は絶望的。私と和真さんだけで2人を守りきれる気がしない。奏斗の回復が有っても追い付かなさそう。
……でも、2人を見捨てる事何て出来る筈が無い。私の…大切なパーティーメンバー何だから!
「私だって……負ける訳には行かないっ!」
向かって来た1人目に剣を刺して、そのまま下に落とす。血飛沫、剣を通して伝わって来た肉の感触。骨が砕ける音。断末魔の叫び。全てがこれを現実だと物語っている。正直、かなり気持ち悪い。だけど、結衣や、和真さん。そして、奏斗を守る為に。剣を抜く最中には、杖を使って魔法を撃つ。でも、最初に見た人数の倍以上は数が居て、幾ら切っても意味が無い。体力も限界へと近付いて来た。敵を倒すのにもムラが出て来て、何人かが奏斗達の元に近付く。すかさず魔法で対応して切り伏せに行く。もう……限界かも…。
「あっ……!」
盗賊の剣が二の腕をかする。少しよろめいたのを好機と思ったのか、盗賊達がわらわらと寄ってくる。
「梨花様っ!もう…使うしかありませんね…。【タイムコントロール】!」



「ぐ……ッ」
魔術……らしき物を和真が使って、私達以外の時間が止まったと思ったら、和真が膝を付いて倒れたからびっくりした。梨花達はあまりの出来事に呆然と立ち尽くしているみたい。
まあ、無理も無いわね。
私、結衣は執事の和真の元に駆け寄る。
「和真!?大丈夫!?」
「大丈夫でございます…お嬢様」
口ではそう言っているものの、その額には汗をかいていて大丈夫には見えない。
「大丈夫そうに見えないわよ!奏斗、今直ぐ治療を__」
「これは神が下された制約ですから…。魔術では治せませんし、時間で治ります」
「そう……説明して貰うわ。魔術…の様だけど、詠唱が無かったわ。どういう事なの?」
「それは…。……いえ、今が…潮時なのかもしれないですね」
和真は一瞬、眉を寄せて笑って立ち上がろうとした。だけど、まだ体に力が入らないのか、よろけて、また膝を付いた。
「申し訳ございません、お嬢様。立ち膝になって貰っても宜しいですか?」
「ええ……別に大丈夫よ」
すっと立ち膝になると、手を取られて、指を絡める、所謂いわゆる恋人繋ぎにされた。私はあたふたしていたけれど、和真の表情は真剣その物で、私も小さく息を飲んだ。
「我は、ミトロジーア・クロノス。我が主である諷乃結衣と永遠とわの契約を交わさん」
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