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第一部 一章 転移編
体調不良とお兄ちゃん。
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色々ハプニングがあったけど、私は無事に冒険者になれた。奏斗は精霊居るし実力もあるから一発OKだったらしいから羨ましい。何て、恨み言を考えながら歩いていると目眩がした。あれ……?ふらっとする気が……?頭痛もするし…。ふらふらしながら、私は取り敢えず奏斗の所までは移動した。
「奏斗……ただいま……」
「どうしたんですか!?すっごく具合悪そうですよ!」
「ちょっとふらっとするだけ……。取り敢えず宿とか探さないと……」
それだけ言って、私の意識は手放された。
*
梨花さんを椅子に座って待っていた僕、夢月奏斗は彼女がふらふらしながら帰って来るのに気付いた。顔色も悪いし、あからさまに具合が悪そうだ。
「奏斗……ただいま……」
言葉にも覇気が無いしやっぱり不安だ。
「どうしたんですか!?すっごく具合悪そうですよ!」
「ちょっとふらっとするだけ……。取り敢えず宿とか探さないと……」
それだけ言って、彼女は倒れてしまった。幸い、僕の方に倒れて来たので、受け止める事が出来た。華奢な体を抱き留める。確かに彼女が怪我をしなかっただけ幸運だったかも知れないが、こっちとしてはドキドキしてしょうが無い。彼女の寝顔はあどけない可愛さがある。しかも良い匂いがするものだから心臓の鼓動が止まらない。まあ、こうなった原因が分からない以上、診療所に連れて行くしか無い。魔術を使って調べるのも良いが公衆の面前だ。プロに頼んだ方が良いだろう。そうして僕は、彼女を抱えて診療所へ走るのだった__
*
「………お兄ちゃん、く…とお兄ちゃん!算数のテスト100点取った!」
「おお、梨花。凄いなあ!兄ちゃん何てな?算数のテスト、30点とか取ってたんだぞ!頭良いなあ!」
梨花……。私の事なのかな…?こんな人知らないけど…。
考える暇も無く、撫でる感覚があった。大きくて、力強い、男の手だ。私の大事な人。それだけは分かる。名前だけは良く聞こえなかったけど、お兄ちゃんって事は実の兄か従兄弟って事になる。私は兄弟が弟だけだから絶対に無い。確かに従兄弟は居たけど仲は良く無かった。話し方、返答する声の暖かさ。全てを見ても仲は良いと思う。でも、誰だか分からない。こんな仲の良い人、忘れる筈が無いんだけど。
「ねえねえ、どうやったら頭良くなるの?」
「そりゃ勿論勉強しまくるだけだなあ。まあ、俺は勉強しなかったんだけど。」
「お兄ちゃんも勉強しなきゃダメだよー!」
「ははは、梨花は厳しいなあ」
やっぱり……私なの?でも、記憶に無いって事は他人の空似?でも、何で私の夢に……。
色々考えていると、男がこっちに近付いて来て、男の手が私に触れた。すると、急に世界が暗転して、最後に
「梨花、お前はまだ死んじゃダメだ。生きろ」
と、聞こえた気がした。
*
「ん……。頭痛治まった?ふらふらする感覚も無いかも……?」
目覚めた場所は、白が多い病室らしき場所だった。白い天井も眺めてぼーっとする。暫く経って、ドアが開く音がした。ちらっとそっちを見ると、奏斗と看護師さんが立っていて、死人を見る様な目でこっちを見ていた。
「あ……奏斗」
「生き……てる……?」
「梨花さん……です……よね…?」
「え…?どうしたの……」
まだぼーっとするけど前程体調は悪くない。
「確か……もう手遅れの状態まで行っていたと、仰っていた筈……ですよね?」
「え、ええ……。」
「え…私って死ぬ予定だったの……?」
小さく呟く。もしかして、夢の最後の言葉が原因かも……。
「梨花さん、立てますか?」
「うん、多分立てると思う」
足を地面に落として立ち上がる。まだ少しふらっとするみたいだけど問題無いレベルだったので無視。壁際に居る奏斗の方まで歩いて行く。
「うん、歩くのは出来る」
「良かったです!後少し入院すれば退院出来ますよ!」
「良かった……。早く依頼受けて__」
私の言葉が切れたのはバランスを崩して奏斗の方に倒れてしまったからだ。もう近くまで来ていたから床に倒れる事は無かったけど、奏斗もバランスを崩しちゃったみたいで2人共倒れてしまった。
「いたた……奏斗、大丈夫?」
「えと……大丈夫何ですが……。この体勢はかなり……その…恥ずかしいと言いますか……」
私も改めて状況を見てみる。奏斗は私を受け止めようとしたけど、その奏斗もバランスを崩して私が奏斗に覆い被さる様にして倒れた。つまり……私が奏斗を襲っている様な状況になってる……?顔も近いし、奏斗の顔が真っ赤になってる事も伝わる。距離はおおよそ10cm程。私もその事に気付いて顔が熱くなるのを感じ、心臓の鼓動が一瞬で速くなるのが分かった。
「ご、ごめんね!今すぐ離れるから__」
私は、立ち上がろうと腕に力を込めたけど、力は入らず、逆に全身の力が抜けて行った。
「あ、あれ?体に力が…入ら…ない……」
私はそのまま倒れて、奏斗の首元辺りに顔を埋める体勢になった。顔はもっと熱くなったけど、それと同時に意識も朦朧としてくる。
「梨花さん?梨花さん!り……ん……」
*
梨花さんを取り敢えず別室に移動し、診察室で説明を受けていた僕こと夢月奏斗は衝撃な事実を聞いて固まってしまった。
「……澪乃様はもう手遅れです……。魔力切れが激し過ぎる。何故こんなになるまで気付かなかったのか理解出来ない程です」
「そんな……っ!」
僕は……また、大切な人を失うのか……?家族を失い…村の皆を失い…。僕の人生はまた崩れていく?そんなのは嫌だ。
だけど……。魔力切れの深刻さは僕も良く知ってる。お師匠様はそれで死んだのだから……。だけど、諦めきれない。彼女は僕の様な醜い人間を救ってくれた救世主だ。失ってたまるものか!僕はがたっと椅子から立ち上がり大股で彼女の寝ている別室へと移動する。看護師が慌てて止めようとするけれど、その手を振り払って進む。目の前に見えたドアを静かに、でも勢い良く開いた。
「あ……奏斗」
僕はその天使の様な姿に言葉を失った。起きたばっかりの様で少し眠たそうな薄い紫色の瞳。風に揺れる短い茶髪。病室の白い空間に咲く一輪の花の様だった。
「生き……てる……?」
「梨花さん……です……よね…?」
「え…?どうしたの……」
さっきまで乾き切っていた心が潤っていく感覚。心底ほっとする。涙が流れそうになったが、僕は男。簡単に泣いてはいけない。でも、そうなると看護師の検査が嘘だったと言う事になる。
「確か……もう手遅れの状態まで行っていたと、仰っていた筈……ですよね?」
「え、ええ……」
彼女の言動や仕草などから菅間見ても嘘では無いのだろう。じゃあ何故、彼女__澪乃梨花は生きていた?
「え…私って死ぬ予定だったの……?」
彼女は少し情報に疎いと言うレベルでは無い程の無知だ。明らかに可笑しい。これ位の常識も知らないのが証拠と言える。……今度、問いたださなければ駄目か……。取り敢えず、検査をしないといけない筈だから立てるか尋ねる事にした。
「梨花さん、立てますか?」
「多分立つ事は出来ると思う」
足に力を入れ、少しふらつきながらも立ち上がるその様は、本当に美しく、白鳥の舞の様だった。
「うん、歩くのは出来る」
「良かったです!後少し入院すれば退院出来ますよ!」
「良かった……。早く依頼受けて__」
こっちまで歩いて来ていた彼女であったけど、僕の直ぐ傍まで来た辺りで、バランスを崩し、倒れて来てしまった。先程の様に受け止めようとした所、意外と勢い良く倒れたみたいで僕までバランスを崩して後ろに倒れてしまった。
「いたた……奏斗、大丈夫?」
「えと……大丈夫何ですが……。この体勢はかなり……その…恥ずかしいと言いますか……」
あの時よりも近い距離。彼女の短い髪が微かに顔にかかる。息遣いまで聞こえる距離に彼女が居ると考えると直ぐに僕の顔は熱くなった。至近距離で見てもやっぱり彼女は可愛らしくて、顔を赤らめても可愛らしかった。
「あ…ご、ごめんね!今すぐ離れるから__」
彼女は立ち上がろうとした時に、少し怪訝そうな顔をしてから一度、大きくふらついた。
「あ、あれ?体に力が…入ら…ない……」
「梨花さん?梨花さん!梨花さん!」
目を力無く閉じ、倒れ込む。今度はドキッとする暇も心の余裕も無く、直ぐに彼女をベットまで移動させた。
「今直ぐに検査して下さい!」
「は、はい!」
看護師はまだ新米の様で、手際は最悪だった。待ち切れなかった僕は魔術を使った検査をする事にした。
「光よ、彼の身の異常を示せ【サーチ】」
すると、頭の中に情報が流れてきた。
・魔力切れの状態で昏睡状態から急に動いたのが原因。睡眠で治る。
この情報で僕の心はすーっと晴れて行く様だった。
「大丈夫でした。寝れば治るそうです」
「分かりました。では起きるまではここで寝かせてあげましょう」
「はい」
僕は近くに居ないと落ち着かないので病室に居る事の了承を貰った。手を握ると温かくて命がある事を指し示している。前髪が顔に掛かっていたのですっと移動させた。静かな病室には僕の息遣いと彼女の寝息しか聞こえない。ずっと触れていられる優越感を感じながら彼女を見守る。
「梨花さん……。貴女が起きるのを楽しみにしてます…」
彼女の手の甲に額を当てながら呟く。当初は心配したが、寝れば治ると言う事を知れたので今は無理に起こさない様に見守るだけだ。……それにしても、魔力切れが近い時は何となく気付く筈なのだが、彼女は気付かなかった。どうしてだろう。普通は気付ける筈だが……。
僕も魔力切れの近くまで陥った事はあるが、その時だって体が危険信号を出している気がしていた。彼女は危険信号に気付かなかっただけなのだろうか。だが、これ位の常識は親や教師に教えて貰う筈だ。……僕と似た境遇と言うのは流石に考えにくいし、隠している事があるのかも知れない。だが、僕は彼女が話してくれる時を待つだけだ。無理矢理聞くのは嫌だからだ。
顔を上げて、もう一度彼女の顔を見つめる。手をぎゅっと握って祈る。彼女の目覚めを。
__そして、この時の僕は気付いていなかった。自分が抱く、゙恋心゛には。
「奏斗……ただいま……」
「どうしたんですか!?すっごく具合悪そうですよ!」
「ちょっとふらっとするだけ……。取り敢えず宿とか探さないと……」
それだけ言って、私の意識は手放された。
*
梨花さんを椅子に座って待っていた僕、夢月奏斗は彼女がふらふらしながら帰って来るのに気付いた。顔色も悪いし、あからさまに具合が悪そうだ。
「奏斗……ただいま……」
言葉にも覇気が無いしやっぱり不安だ。
「どうしたんですか!?すっごく具合悪そうですよ!」
「ちょっとふらっとするだけ……。取り敢えず宿とか探さないと……」
それだけ言って、彼女は倒れてしまった。幸い、僕の方に倒れて来たので、受け止める事が出来た。華奢な体を抱き留める。確かに彼女が怪我をしなかっただけ幸運だったかも知れないが、こっちとしてはドキドキしてしょうが無い。彼女の寝顔はあどけない可愛さがある。しかも良い匂いがするものだから心臓の鼓動が止まらない。まあ、こうなった原因が分からない以上、診療所に連れて行くしか無い。魔術を使って調べるのも良いが公衆の面前だ。プロに頼んだ方が良いだろう。そうして僕は、彼女を抱えて診療所へ走るのだった__
*
「………お兄ちゃん、く…とお兄ちゃん!算数のテスト100点取った!」
「おお、梨花。凄いなあ!兄ちゃん何てな?算数のテスト、30点とか取ってたんだぞ!頭良いなあ!」
梨花……。私の事なのかな…?こんな人知らないけど…。
考える暇も無く、撫でる感覚があった。大きくて、力強い、男の手だ。私の大事な人。それだけは分かる。名前だけは良く聞こえなかったけど、お兄ちゃんって事は実の兄か従兄弟って事になる。私は兄弟が弟だけだから絶対に無い。確かに従兄弟は居たけど仲は良く無かった。話し方、返答する声の暖かさ。全てを見ても仲は良いと思う。でも、誰だか分からない。こんな仲の良い人、忘れる筈が無いんだけど。
「ねえねえ、どうやったら頭良くなるの?」
「そりゃ勿論勉強しまくるだけだなあ。まあ、俺は勉強しなかったんだけど。」
「お兄ちゃんも勉強しなきゃダメだよー!」
「ははは、梨花は厳しいなあ」
やっぱり……私なの?でも、記憶に無いって事は他人の空似?でも、何で私の夢に……。
色々考えていると、男がこっちに近付いて来て、男の手が私に触れた。すると、急に世界が暗転して、最後に
「梨花、お前はまだ死んじゃダメだ。生きろ」
と、聞こえた気がした。
*
「ん……。頭痛治まった?ふらふらする感覚も無いかも……?」
目覚めた場所は、白が多い病室らしき場所だった。白い天井も眺めてぼーっとする。暫く経って、ドアが開く音がした。ちらっとそっちを見ると、奏斗と看護師さんが立っていて、死人を見る様な目でこっちを見ていた。
「あ……奏斗」
「生き……てる……?」
「梨花さん……です……よね…?」
「え…?どうしたの……」
まだぼーっとするけど前程体調は悪くない。
「確か……もう手遅れの状態まで行っていたと、仰っていた筈……ですよね?」
「え、ええ……。」
「え…私って死ぬ予定だったの……?」
小さく呟く。もしかして、夢の最後の言葉が原因かも……。
「梨花さん、立てますか?」
「うん、多分立てると思う」
足を地面に落として立ち上がる。まだ少しふらっとするみたいだけど問題無いレベルだったので無視。壁際に居る奏斗の方まで歩いて行く。
「うん、歩くのは出来る」
「良かったです!後少し入院すれば退院出来ますよ!」
「良かった……。早く依頼受けて__」
私の言葉が切れたのはバランスを崩して奏斗の方に倒れてしまったからだ。もう近くまで来ていたから床に倒れる事は無かったけど、奏斗もバランスを崩しちゃったみたいで2人共倒れてしまった。
「いたた……奏斗、大丈夫?」
「えと……大丈夫何ですが……。この体勢はかなり……その…恥ずかしいと言いますか……」
私も改めて状況を見てみる。奏斗は私を受け止めようとしたけど、その奏斗もバランスを崩して私が奏斗に覆い被さる様にして倒れた。つまり……私が奏斗を襲っている様な状況になってる……?顔も近いし、奏斗の顔が真っ赤になってる事も伝わる。距離はおおよそ10cm程。私もその事に気付いて顔が熱くなるのを感じ、心臓の鼓動が一瞬で速くなるのが分かった。
「ご、ごめんね!今すぐ離れるから__」
私は、立ち上がろうと腕に力を込めたけど、力は入らず、逆に全身の力が抜けて行った。
「あ、あれ?体に力が…入ら…ない……」
私はそのまま倒れて、奏斗の首元辺りに顔を埋める体勢になった。顔はもっと熱くなったけど、それと同時に意識も朦朧としてくる。
「梨花さん?梨花さん!り……ん……」
*
梨花さんを取り敢えず別室に移動し、診察室で説明を受けていた僕こと夢月奏斗は衝撃な事実を聞いて固まってしまった。
「……澪乃様はもう手遅れです……。魔力切れが激し過ぎる。何故こんなになるまで気付かなかったのか理解出来ない程です」
「そんな……っ!」
僕は……また、大切な人を失うのか……?家族を失い…村の皆を失い…。僕の人生はまた崩れていく?そんなのは嫌だ。
だけど……。魔力切れの深刻さは僕も良く知ってる。お師匠様はそれで死んだのだから……。だけど、諦めきれない。彼女は僕の様な醜い人間を救ってくれた救世主だ。失ってたまるものか!僕はがたっと椅子から立ち上がり大股で彼女の寝ている別室へと移動する。看護師が慌てて止めようとするけれど、その手を振り払って進む。目の前に見えたドアを静かに、でも勢い良く開いた。
「あ……奏斗」
僕はその天使の様な姿に言葉を失った。起きたばっかりの様で少し眠たそうな薄い紫色の瞳。風に揺れる短い茶髪。病室の白い空間に咲く一輪の花の様だった。
「生き……てる……?」
「梨花さん……です……よね…?」
「え…?どうしたの……」
さっきまで乾き切っていた心が潤っていく感覚。心底ほっとする。涙が流れそうになったが、僕は男。簡単に泣いてはいけない。でも、そうなると看護師の検査が嘘だったと言う事になる。
「確か……もう手遅れの状態まで行っていたと、仰っていた筈……ですよね?」
「え、ええ……」
彼女の言動や仕草などから菅間見ても嘘では無いのだろう。じゃあ何故、彼女__澪乃梨花は生きていた?
「え…私って死ぬ予定だったの……?」
彼女は少し情報に疎いと言うレベルでは無い程の無知だ。明らかに可笑しい。これ位の常識も知らないのが証拠と言える。……今度、問いたださなければ駄目か……。取り敢えず、検査をしないといけない筈だから立てるか尋ねる事にした。
「梨花さん、立てますか?」
「多分立つ事は出来ると思う」
足に力を入れ、少しふらつきながらも立ち上がるその様は、本当に美しく、白鳥の舞の様だった。
「うん、歩くのは出来る」
「良かったです!後少し入院すれば退院出来ますよ!」
「良かった……。早く依頼受けて__」
こっちまで歩いて来ていた彼女であったけど、僕の直ぐ傍まで来た辺りで、バランスを崩し、倒れて来てしまった。先程の様に受け止めようとした所、意外と勢い良く倒れたみたいで僕までバランスを崩して後ろに倒れてしまった。
「いたた……奏斗、大丈夫?」
「えと……大丈夫何ですが……。この体勢はかなり……その…恥ずかしいと言いますか……」
あの時よりも近い距離。彼女の短い髪が微かに顔にかかる。息遣いまで聞こえる距離に彼女が居ると考えると直ぐに僕の顔は熱くなった。至近距離で見てもやっぱり彼女は可愛らしくて、顔を赤らめても可愛らしかった。
「あ…ご、ごめんね!今すぐ離れるから__」
彼女は立ち上がろうとした時に、少し怪訝そうな顔をしてから一度、大きくふらついた。
「あ、あれ?体に力が…入ら…ない……」
「梨花さん?梨花さん!梨花さん!」
目を力無く閉じ、倒れ込む。今度はドキッとする暇も心の余裕も無く、直ぐに彼女をベットまで移動させた。
「今直ぐに検査して下さい!」
「は、はい!」
看護師はまだ新米の様で、手際は最悪だった。待ち切れなかった僕は魔術を使った検査をする事にした。
「光よ、彼の身の異常を示せ【サーチ】」
すると、頭の中に情報が流れてきた。
・魔力切れの状態で昏睡状態から急に動いたのが原因。睡眠で治る。
この情報で僕の心はすーっと晴れて行く様だった。
「大丈夫でした。寝れば治るそうです」
「分かりました。では起きるまではここで寝かせてあげましょう」
「はい」
僕は近くに居ないと落ち着かないので病室に居る事の了承を貰った。手を握ると温かくて命がある事を指し示している。前髪が顔に掛かっていたのですっと移動させた。静かな病室には僕の息遣いと彼女の寝息しか聞こえない。ずっと触れていられる優越感を感じながら彼女を見守る。
「梨花さん……。貴女が起きるのを楽しみにしてます…」
彼女の手の甲に額を当てながら呟く。当初は心配したが、寝れば治ると言う事を知れたので今は無理に起こさない様に見守るだけだ。……それにしても、魔力切れが近い時は何となく気付く筈なのだが、彼女は気付かなかった。どうしてだろう。普通は気付ける筈だが……。
僕も魔力切れの近くまで陥った事はあるが、その時だって体が危険信号を出している気がしていた。彼女は危険信号に気付かなかっただけなのだろうか。だが、これ位の常識は親や教師に教えて貰う筈だ。……僕と似た境遇と言うのは流石に考えにくいし、隠している事があるのかも知れない。だが、僕は彼女が話してくれる時を待つだけだ。無理矢理聞くのは嫌だからだ。
顔を上げて、もう一度彼女の顔を見つめる。手をぎゅっと握って祈る。彼女の目覚めを。
__そして、この時の僕は気付いていなかった。自分が抱く、゙恋心゛には。
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