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俺と邪神の異世界旅
第3話 森をかける
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俺はパチリと目を開けた、そこには白髪に赤紫の瞳をした瓜二つの顔の子供2人が、俺の顔を覗き混んでいてた。
二人の子供は俺が起きると、びっくりしたのか、トタトタと走っていった。
その走って行った方面に目をやると、深緑の瞳の金髪美女と目が合った。
すると、目が合った美女はこちらに微笑み会釈をして来たため、俺も慌てて会釈を返した。
そんな美女は、レースのあしらわれたカチューシャに、黒に白のメイド服を着ており、ザ・メイド様といった装いで、その太ももには、あの邪神と名乗った羊の面を被った少年の頭を乗せていた。
この光景をみた普段の俺なら、蹴り飛ばしたい衝動に駆られているのだろうが、今の俺には美女の微笑みに癒され、そんな気すら起こらなかった。
メリー「メア様、召喚者様がお目覚めになられましたよ、起きてくださいませ。」
メア「後1分…いや、五分は寝かして…」
そんな美女が、何回かそうして、微笑みかけ優しく起こそうとしていたのだが、少年はそう言いどんどん時間を伸ばしていき、一向に起きようとしなかった。
メリー「仕方ありませんね、ミハエル、ルミエル、執事長をお呼びしてきてください…」
メア「ミハ、ルミ、呼びに行かなくていいよ!、僕、ふざけてただけで、ちゃんと起きてるから!」
ゴロンと横に勢いよく転がりバッと起き、動こうとした二人の子供を制止した。
メリー「メア様、お戯れも私達だけの時なら、いくらなさいましてもよろしいですが、今は召喚者様もおられるのでございますよ、少しは自重して下さいね?」
メア「はいはい~」
メリー「はいは一回です。」
メア「はい…」
メリー「だいたい、メア様、貴方様はいつも…」
その後、女性によるメアへの説教がしばらく続いていた。
近くに居た子供二人はいつもなのか、説教が始まると女性の後ろからササッと離れ、俺の方に寄ってきて、何かを言うと手を引いてきた。
この子供2人が何を言ってるか、俺には分からなかったが、何となく離れようとかそんな感じのこと言ってるのが、状況から分かったので、手を引かれるままについていった。
少し離れた位置にいくと、俺に向かって口をパクパクと動かし何かを言っていたのだが、理解出来ず、何言ってるかが分からないと言うと、彼らは、残念そうにしながら、少し考えると、身振り手振り、ジェスチャーを用いて、俺と話そうと頑張っていたのだが、途中から諦めたのか、普通にジェスチャーゲームをし出して遊びだしていた。
しばらくして、子供達ササーっと逃げる様に光の中へ消えると、背後から声がかかった。
メア「おやおや、随分と僕の召喚者君は、その子達と仲良くなったみたいだね~」
俺は背後から突然そう声がしたため、後ろを振り向いたのだが、声の主が見当たらずキョロキョロしていると、クスクスと何処かから笑う声がした。
メア「上だよ、上、君の頭の上だよ~♪」
そう言われ、俺が頭上を見上げると、そこには羊の面を被った少年メアが空を足場に逆さまに立っており、こちらを見下ろしていた。
その時の羊の面は、逆さまの所為か、陰って不気味さが際立っていたため、俺は驚き声をあげ尻餅をついた。
そんな俺の様子を見て、盛大に吹き出し、腹を抱えて笑っていた、勿論逆さまで。
『笑ってんじゃねー!、こちとらゾワッとしたんだ、その仮面陰ると不気味で怖いんだっつの!』
メア「えー、そんなにかな?、ミハ、ルミ、この仮面怖いと思う?」
問いかけられた、子供2人は顔を見合わせ、少し考えると、コクコクと頷いた。
『ほらみろ、こいつらも怖いってよ』
メア「えー、そっか怖いのか…、なら外そうかな。」
そう言ってメアが、仮面に手を掛け少し外しかけた時、ふと頭に倒れる前に起きた出来事がフラッシュバックし、慌てて仮面を抑えつけ止めさせた。
メア「なんで、とめるのさ?、僕は、怖いっていうから別なのに付け替え様としたのに。」
『…いや、思い出したんだ、俺が倒れる前、おまえの仮面を外したら、気分が悪くなったってな。』
メア「あれ、そういえば、君、よく僕の仮面に触れてるよね?、これ霊体の仮面なのに。」
『霊体の面?…』
メア「うーんとね、君の世界の感覚で簡単に言うならこの仮面自体が幽霊みたいなもんで、本来、人が観ることも、直接触れたり出来ないものさ~」
幽霊と聞いた俺は悪霊を思い浮かび、咄嗟に手を離し、清めねばと塩を探して、ポケットに入ってた、振りかけ、ごま&塩をパッパッと手に振りかけ、ついでにその邪神の仮面にも勢いよくバッと振りかけてやった。
すると、どうやら仮面を擦り抜け顔面にクリティカルヒットしたらしく、地面にドタッと落ち、目が~目が~と暫くのたうち回っていた。
邪神にもお清めの塩(振りかけ)は有効だったようだ。
『楽しそうだな(棒)』
メア「何が楽しそうだなだよ!、邪神といえど神様なんだよ!それに向かってお清めの塩を…いや、この塩なんか旨味成分が、それにこの黒いのは胡麻…、これはご飯にかけていただくあれじゃないか!…」
仮面をずらして目をこすりながら、そこまでいうと固まり、俺の手に持つふりかけの袋をジーッと見ていた。
『なんだよ、黙りこんで、もしかして欲しいのか?』
メア「うん!貰っていい?」
邪神の少年は待ってましたとばかりに可愛らしい子供の声でそう言ってきた。
『あ、ああ、やるけど…』
余りの変わりように押され、かけてやろうかという気も起きず、手渡した。
メア「ありがとう召喚者君♪」
すると、仮面をずらし、にっこりとした表情を俺に向けていた。
俺は仮面を外したことでまた、あの感覚を味わうはめになるのではと、一瞬警戒したが、今度は何も起きなかった。
そんな俺の警戒を他所に、邪神の少年の手には、いつの間にか、笹の葉で巻かれた玄米のおにぎりを手に持っており、俺から貰ったふりかけをかけて、もぐもぐと食べていた。
『そのおにぎりって、どこから出したんだ?』
メア「ん?ここからだけど?」
おにぎりを飲み込み、そういうと、外套の下から若葉マークの付いた小さな布製の袋を取り出した。
『え、それって、俺の記憶が正しければ、ゲームで最初貰えた、初心者用の支給品入った袋だよな…』
メア「そうだよ~」
『なあ、それ俺の分は…』
メア「あるけど、今、君に必要これ?」
『今の俺はレベル1だぞ、必要だ、渡してくれ!』
メア「わかったよ、はい、どうぞ~」
そういい、外套の下から同じ様に出すと、俺に渡してきた。
渡された袋に手を入れ、入ってる物を出して確認した。
ハート型の木の葉(ヒールハーブ)5枚、三つ葉の様な草(キュアハーブ)、紫のラベンダーの様な花(マジックハーブ)5本、水の入った水色の小瓶(聖水)5本、笹包み玄米おにぎり(食料)3つ、長く丈夫な木の枝(ビギナーステッキ)1本、布製の上着(ビギナージャケット)、布製のズボン(ビギナーズボン)、皮の靴(ビギナーシューズ)、皮の手袋(ビギナーグローブ)、フード付きの外套(ビギナーマント)。
うわ、ゲームのままだな、初期の回復アイテムとビギナーセットと、それにこの武器は懐かしい。
最初はこの木の枝を相棒に、皆んなで小さなスライムを空へと打ち上げて倒したんだよな。
その記憶が蘇り、気づけば俺は木の枝でスイングしていた。
メア「クスス、随分楽しそうだね~、魔物を呼び出してあげようか?」
ニヤリと黒い笑顔を浮かべながらそう言ってきた。
『遠慮する、邪神のおまえから悪い予感しかしない…』
メア「残念、了承したら、スライム群れで出してあげようと思ったのにな~♪」
『群れってふざけんな!、おまえは俺を殺す気か!』
メア「クスス、冗談だよ、出す気なんて無かったよ?」
そういい、笑っているが、外套の中でもぞもぞと何かが動いていた。
『じゃあ、そのマントの中何が居るんだ!』
メア「マントの中?、何も居ないよ?」
マントをバサリとめくって見せるが、そこには何も居なかった。
『おかしい、確かに何か動いて…』
メア「気の所為だよ♪、ねぇ、それより、日暮れ前にこの森から出なくて大丈夫?、昼は魔物も大人しいだろうから、僕が居ればまず襲われる心配ないけど、夜だと気性荒目の魔物もいそうだし襲ってくるかもしれないよ?」
『よし、森を出るぞ!』
そんな気性の荒い魔物に襲われたらたまったもんじゃない。
メア「あ、待って、動く前に、そのビギナー装備着ちゃえば?、学ランより目立たないよ?」
『そうだな…、って、おまえの方が目立つし、着るべきだろ?』
メア「えー僕はそんな地味なの死んでも着たくない、それに僕は邪神だよ、目立っても自分で何とか出来るし問題ないのさ、だから、君だけ着替えてね、僕はその間に空から辺りの様子確認してくるからさ~」
そういうと、外套の端を掴み姿勢を低くした瞬間、ビュンと上空に飛び上がっていき、周りに突風を舞い起こしていった。
この時、俺はここが砂地ではなく草原でよかったと思った。
その後、俺はビギナー装備に着替え、出していた荷物をビギナーパックの布袋へ戻していた際に、この袋にリュックやバックも入るんじゃないかと思い、試したが大きさ的に入らず残念な結果に終わった。
『くそ、わんちゃん入るかと思ったがダメだったか…』
そう俺がこぼした時、上空から隕石の様にドーンと地面を揺らす勢いで、邪神の少年が落ちてきた。
『びっくりしたわ、おまえもう少しゆっくりと降りて来れないのかよ!、おまえは隕石か!』
メア「えー、せっかく森を抜けれそうな方向と道見つけたから、報告しようと思って急いで降りてきたのに、怒鳴られちゃった、僕悲しいな~」
そういうと、顔を抑えしくしくと嘘泣きの仕草をした。
『え、道?、道あったのか!、どこにだ!』
メア「うーんとね、ここから真っ直ぐこの方向に進んでいくとあるよ、君が走れば、日が暮れる前には何とか辿り着けると思うよ~」
前をビシッと指差しそういった。
『走って…夕方?、今まだ1時半くらいだぞ、4時間以上俺に走れってことか!?』
メア「大丈夫、大丈夫~、君ならいけるって、僕の加護で疲れにくくなってるし、ビギナーセットの効果でスタミナの小回復が常時発動するんだからさ~」
『それにしたってな、荷物が俺にはあるんだよ!』
メア「望むなら、荷物を僕が影に収納しといてあげるけど、どうする?」
『望むから収納してくれ!』
メア「じゃあ、僕の影の上に収納したいもの置いてね~」
俺はリュックやバックを、影の中に沈めて行った。
そうして、大きな荷物をメアに預けた俺は、小さな布袋だけを腰に下げ、森を走った。
それはもう、ただただ真っ直ぐに走って走り続けた。
メアはというと、俺の後ろを木から木へ、飛び移りながら、忍者の様に追従してきている。
俺は2時間ほど走り続け、流石に疲れて息切れし始めてきたが、メアの方は息切れした様子もなく、俺に大丈夫?と声かけてくる余裕まであった。
そんなメアに負けてられないと、俺は更にスピードを上げ走っていたが、森の小川が流れる場所で、限界が来てそこで休憩する事になった。
メアはというと上流が気になるから行ってくると言うと、止める間もなく、風の様に走り去って行ってしまったため、俺は一人となった。
そこで、俺は走り続けて熱を持った体を冷やすため、服を脱ぎ水浴びをしていた。
俺は小川のそばに該当を敷き座り、上流の方を眺めながら、水浴びを終えても戻って来ない、あの邪神のことを考えていた。
メアは自らを邪神と名乗っているが、それが本当なら邪神は人間に害なす存在であったはず、何故協力しているのか、いや、協力ってほど協力してくれては居ないが、何か理由があるんだろうか?
彼奴は、俺を召喚主ではなく、自身を召喚した召喚者ってだけだから、命令に従う義務はないと言っていたが、望みやお願いなら気が向けば叶えてあげるとか言っていた。
そして、俺が最初呼び出した時に死にたくないと望んだから、それは絶対に叶えると、強調して言っていた、あの感じからして、何か彼奴には制約かルールの様なものがあるじゃないか?
そこで俺は更に彼奴の行動や言動を思い返してみた。
彼奴はサポーターの様なものだとも言っていた。
確かに何か俺にするのに対し、俺の言った事に対し、望むならとか、提案などの様なことをし、それに反応した、俺の様子をみて動いている様に思える。
そんなことを考えながら、なんとなく、上流の方を見ていると、大きな葉っぱの上にちょこんと座るメアがゆっくり流れてきているのが見えた。
何をしてるんだ、彼奴…
俺はそんな葉っぱの上に座るメアを自分の前に来るまで声を掛けず、様子を見てみることにし、ジーっと見ていたが、あまりにも何の反応がなく、メアは俺の前を通り過ぎても、止まらず流されていくため、慌ててその乗る葉を掴み、岸に寄せ止めさせた。
『おまえ、何しに上流に行って来たんだ?、まさか葉っぱに乗って川下りするためとか言わないよな?』
メア「そうだけど?、僕が普通に川下りして遊んじゃダメなの?」
キョトンとした顔をし、首を傾げて俺をみていた。
『いや、ダメではないが…』
俺の中で此奴の行動や考えが分からない、上流が気になるって行った目的は、本当にこの大きな葉っぱで川下りをすることだったのだろうか?
メア「ダメじゃないなら良いよね~、さあ、今度はここから下流まで流れて、お掃除~♪」
そう言って、葉っぱを浮かべ直しまた、そのまま流れて行こうとするメアを手を掴んで止めた。
『待て、下流はおまえ言ってた方向違うだろ、俺はこの森を日暮れまでには抜けたいんだ、てか、おまえが、夜になったら気性荒い魔物に襲われるかもとか言ったからこの森を抜けようとしたんだぞ?、最後まで責任持って付き会えよな!』
メア「僕はあくまでも言っただけで、やれとは言ってないし、行動起こしたのは君だよ、それに今の僕は君の森抜けについてくだけだし、やることないから、つまらないんだよね、だいたい僕ならこんな森を走って抜けるの数秒かからないんだから、暫く遊んでようが先に行った君に追いつくのなんてわけないんだよ、まあ、そんな訳だから、君は先に行っててよ~」
面倒臭そうにそういうと、手でさあ、行って行ってと仕草をしてきた。
確かに此奴は俺に提案してるだけと言われたら、そこまでなんだよな。
それに、此奴が森を数秒かからず抜けられるってのは、本当なんだろう、あのさっきの上流目指して走って行った時は目にも留まらぬ速さだったし、この言い方からして、後から合流する感じか?、そこだけは確認しておくか。
『先に行くとして、確認なんだが、後からおまえはついて来るってことか?』
メア「当たり前でしょ、君は僕の召喚者なんだから、まあ、とにかく僕はこの辺で遊んでからちゃんと君の方へ行くから、君は僕を気にせず、自分のペースで森抜けに専念しててよ~、じゃあ、またね~」
そういうと、葉っぱを水面に浮かべ直し、流れて行った。
もしかして、メアは、俺が見てるのに気づいてたのか、それで気を遣わせない様に離れた?…なんてな、考え過ぎか、彼奴は見た目通りの子供で遊びたかっただけかも知れないしな。
ただ、あの葉っぱにただ乗って流されてるのの、何が遊びなのかは分からないんだよな、どう見ても楽しそうにしてる風でもなかったし、まあいいや、俺の目標は夜までに森を抜けることだ。
そうして、俺は邪神の少年メアと別れ、森を前へ前へと走って行った。
一方、葉っぱの上に乗って流れていたメアは、森に入って行った主人公を確認すると、近くの岸におり、そこに何も無い空間から、でかいイノシシ、クマをそれぞれ1体ずつ出して地面にドスンと置き、メアは、手に影を纏わせ、影で長い鉤爪の手を作り出すと、それを使って首筋を刺し、血を瓶に入れ抜き取ると、今度は眼球をくり抜き別な瓶へ詰めた、それが終わると、毛皮などを慣れた手つきでサクサクと解体し始めた。
そんなメアの解体し終えた毛皮や牙などを、植物達が小川で洗い影へと入れていく。
そんな作業を全て終える頃には、影で出来た真っ黒な長い鉤爪は手は、血で真っ赤に染まっており、メアはそれを小川で洗い流していた。
すると、下流の方から、目に赤い光を灯した痩せて骨が浮き上がった狼がフラフラしながら現れた。
その現れた狼の様子は異常だった。
目の方は、焦点が合っておらず、赤いぼんやりとした光を灯しているし、口の方は、開けっ放しで泡と黒ずんだ涎の様な液体をポトポト垂らしている。その上、その液体の垂れた場所からは黒い煙が上がっており、近くに生えていた草花が萎れてしまう。
メア「猪、熊ときて、最後は狼のバグ種の…アンデット成り掛けね、これは召喚者君、先行かせといて良かったかも、見たら卒倒しそうだし、瘴気は放ってるし、匂いなんて、う、吐きそう…」
嫌そうな顔をしてそう言うと、口を抑えて咳き込んでいた。
そんな咳き込んで吐きそうになっている、メアの背中を植物のツタが、さすっていた。
「主よ、大丈夫でございますか?、お辛いのであれば、あれは我等で処分致しますが?」
さすっている、他のツタ植物とは、別のハエトリ草の様な植物が、二枚貝の様な葉をパクパクさせながらそういった。
メア「いや、仮面付ければ匂いとか諸々大丈夫だから、僕がやるよ、それにアンデット化したバグ種には、僕の血をかけさえすれば…」
仮面をカポリと付け、そう話していると、赤く光る目の痩せた狼は、メアの方へ顔を向けると突進する勢いで走り出してきた。
そんな狼をさっと横に移動し、難なく躱すと、その狼が振り返った瞬間に、《動くな》と強い口調で一言、言い放った。
すると、動こうとしていた、狼の動きがピタリと止まり動かなくなった。
メア「さてと、ちゃっちゃと済まそうかな」
そういうと、手の平にギュッと握りしめるように爪を立て、血をポタポタと動かなくなっている狼へかけた、すると、狼の身体が光りを出し、蛍の様な光りへと変わり消え去ると、コトンという音とともにピンボール位の大きさの、紫の宝石の様な石がその場に落ちた。
メア「よし、これでお掃除は終わり♪、素材も手に入った、この魔石は良い値で売れそうだし、支度金くらいにはなるかな?」
落ちたその石を拾い上げると、色々な角度に翳しながら見てそう言った。
メア「さてと、これで用事は終わったし、召喚者君を追いかけよっかな?」
足を踏み込み走り出そうと構えたが、踏みとどまった。
メア「やっぱ、走るって追いかけるの飽きたし、飛んでいこっと~♪」
そういうと、軽く地面を蹴り上げ、手を広げそのまま空へと飛んで行ったのだった。
用語の説明と設定
バグ種
狂暴化と混沌化した魔物の総称。
狂暴化
なんらかの原因で凶暴化した魔物が瘴気を纏い、理性を失くして、破壊衝動のままに動いてる状態。
狂暴化した魔物は、目に付いたもの全ての生物に襲い掛かってくる、理性はないため、攻撃に対しての回避もせず、深手を負わせてたとしても怯むことなく、真っ直ぐに目にした標的へと襲い掛かってくる性質がある。
また、 倒しすと瘴気は晴れ普通の魔物に戻るが、瘴気を何らかの方法で祓いさえすれば、倒さなくても、普通の元の魔物へと戻すことも可能。
混沌化
狂暴化した魔物が、自身の纏う瘴気に呑まれて自我や自身の存在を見失い、瘴気と一体化して実体を失い始めている状態。
混沌化した魔物は、実体が朧気にあるものもいれば、実体がないものもおり、襲って来ることのない、彷徨うだけの無害そうな存在だが、実際は存在するだけで、動植物の生気や魔力を吸って糧としながら、強い瘴気を辺りにばら撒き、周囲を蝕み不浄の地へと変えるうえに、魔物の狂暴化を促し混沌化を誘発してしまう性質がある為、非常に有害な存在である。
また、実体の無いものに関しては物理攻撃は勿論、魔法の類の攻撃が黒い霞の様な体に取り込まれてしまうため一切通用せず、実質的には倒すのは不可能な存在である。
同様に、実体が有る場合のものでも、物理攻撃が少し通るが、纏う黒い霞の様な瘴気を晴らさないと魔法攻撃は通らない上に、元通りに体が再生されるため、倒すことは極めて難しい存在である。
ちなみに元の魔物に戻す方法はなく、倒せても何も残らない。
共通の見た目の特徴には、炎の様にポーッと光る目と全体がぼんやりとした黒い靄の様な瘴気で包まれた、元が何であったかが分からないほど、朧気な歪な影の様な姿であること。
瘴気
一部の種族を除いた、全ての生物への負の影響を与え、弱らせたり、凶暴になってしまう穢れた空気で、土地に長く漂い続けた場合は、不浄の地となり、動植物の育たない不毛の地へと変化してしまう。
ちなみに、瘴気をメアやルカは故意に吸おうが影響がなく、その配下や眷属達も影響を受けない。
メリエル(メリー)
メアの専属のメイド兼お世話係の金髪深緑の瞳の美女、種族は天使である。
ミハエル(ミハ)&ルミエル(ルミィ)
白髪赤紫の瞳をした、メアに仕えている子供の召使いの双子兄弟、見た目は瓜二つで、右の翼しかないのが兄のミハエルで、左の翼しかないのが弟のルミエルである、種族は両者とも天使である。
二人の子供は俺が起きると、びっくりしたのか、トタトタと走っていった。
その走って行った方面に目をやると、深緑の瞳の金髪美女と目が合った。
すると、目が合った美女はこちらに微笑み会釈をして来たため、俺も慌てて会釈を返した。
そんな美女は、レースのあしらわれたカチューシャに、黒に白のメイド服を着ており、ザ・メイド様といった装いで、その太ももには、あの邪神と名乗った羊の面を被った少年の頭を乗せていた。
この光景をみた普段の俺なら、蹴り飛ばしたい衝動に駆られているのだろうが、今の俺には美女の微笑みに癒され、そんな気すら起こらなかった。
メリー「メア様、召喚者様がお目覚めになられましたよ、起きてくださいませ。」
メア「後1分…いや、五分は寝かして…」
そんな美女が、何回かそうして、微笑みかけ優しく起こそうとしていたのだが、少年はそう言いどんどん時間を伸ばしていき、一向に起きようとしなかった。
メリー「仕方ありませんね、ミハエル、ルミエル、執事長をお呼びしてきてください…」
メア「ミハ、ルミ、呼びに行かなくていいよ!、僕、ふざけてただけで、ちゃんと起きてるから!」
ゴロンと横に勢いよく転がりバッと起き、動こうとした二人の子供を制止した。
メリー「メア様、お戯れも私達だけの時なら、いくらなさいましてもよろしいですが、今は召喚者様もおられるのでございますよ、少しは自重して下さいね?」
メア「はいはい~」
メリー「はいは一回です。」
メア「はい…」
メリー「だいたい、メア様、貴方様はいつも…」
その後、女性によるメアへの説教がしばらく続いていた。
近くに居た子供二人はいつもなのか、説教が始まると女性の後ろからササッと離れ、俺の方に寄ってきて、何かを言うと手を引いてきた。
この子供2人が何を言ってるか、俺には分からなかったが、何となく離れようとかそんな感じのこと言ってるのが、状況から分かったので、手を引かれるままについていった。
少し離れた位置にいくと、俺に向かって口をパクパクと動かし何かを言っていたのだが、理解出来ず、何言ってるかが分からないと言うと、彼らは、残念そうにしながら、少し考えると、身振り手振り、ジェスチャーを用いて、俺と話そうと頑張っていたのだが、途中から諦めたのか、普通にジェスチャーゲームをし出して遊びだしていた。
しばらくして、子供達ササーっと逃げる様に光の中へ消えると、背後から声がかかった。
メア「おやおや、随分と僕の召喚者君は、その子達と仲良くなったみたいだね~」
俺は背後から突然そう声がしたため、後ろを振り向いたのだが、声の主が見当たらずキョロキョロしていると、クスクスと何処かから笑う声がした。
メア「上だよ、上、君の頭の上だよ~♪」
そう言われ、俺が頭上を見上げると、そこには羊の面を被った少年メアが空を足場に逆さまに立っており、こちらを見下ろしていた。
その時の羊の面は、逆さまの所為か、陰って不気味さが際立っていたため、俺は驚き声をあげ尻餅をついた。
そんな俺の様子を見て、盛大に吹き出し、腹を抱えて笑っていた、勿論逆さまで。
『笑ってんじゃねー!、こちとらゾワッとしたんだ、その仮面陰ると不気味で怖いんだっつの!』
メア「えー、そんなにかな?、ミハ、ルミ、この仮面怖いと思う?」
問いかけられた、子供2人は顔を見合わせ、少し考えると、コクコクと頷いた。
『ほらみろ、こいつらも怖いってよ』
メア「えー、そっか怖いのか…、なら外そうかな。」
そう言ってメアが、仮面に手を掛け少し外しかけた時、ふと頭に倒れる前に起きた出来事がフラッシュバックし、慌てて仮面を抑えつけ止めさせた。
メア「なんで、とめるのさ?、僕は、怖いっていうから別なのに付け替え様としたのに。」
『…いや、思い出したんだ、俺が倒れる前、おまえの仮面を外したら、気分が悪くなったってな。』
メア「あれ、そういえば、君、よく僕の仮面に触れてるよね?、これ霊体の仮面なのに。」
『霊体の面?…』
メア「うーんとね、君の世界の感覚で簡単に言うならこの仮面自体が幽霊みたいなもんで、本来、人が観ることも、直接触れたり出来ないものさ~」
幽霊と聞いた俺は悪霊を思い浮かび、咄嗟に手を離し、清めねばと塩を探して、ポケットに入ってた、振りかけ、ごま&塩をパッパッと手に振りかけ、ついでにその邪神の仮面にも勢いよくバッと振りかけてやった。
すると、どうやら仮面を擦り抜け顔面にクリティカルヒットしたらしく、地面にドタッと落ち、目が~目が~と暫くのたうち回っていた。
邪神にもお清めの塩(振りかけ)は有効だったようだ。
『楽しそうだな(棒)』
メア「何が楽しそうだなだよ!、邪神といえど神様なんだよ!それに向かってお清めの塩を…いや、この塩なんか旨味成分が、それにこの黒いのは胡麻…、これはご飯にかけていただくあれじゃないか!…」
仮面をずらして目をこすりながら、そこまでいうと固まり、俺の手に持つふりかけの袋をジーッと見ていた。
『なんだよ、黙りこんで、もしかして欲しいのか?』
メア「うん!貰っていい?」
邪神の少年は待ってましたとばかりに可愛らしい子供の声でそう言ってきた。
『あ、ああ、やるけど…』
余りの変わりように押され、かけてやろうかという気も起きず、手渡した。
メア「ありがとう召喚者君♪」
すると、仮面をずらし、にっこりとした表情を俺に向けていた。
俺は仮面を外したことでまた、あの感覚を味わうはめになるのではと、一瞬警戒したが、今度は何も起きなかった。
そんな俺の警戒を他所に、邪神の少年の手には、いつの間にか、笹の葉で巻かれた玄米のおにぎりを手に持っており、俺から貰ったふりかけをかけて、もぐもぐと食べていた。
『そのおにぎりって、どこから出したんだ?』
メア「ん?ここからだけど?」
おにぎりを飲み込み、そういうと、外套の下から若葉マークの付いた小さな布製の袋を取り出した。
『え、それって、俺の記憶が正しければ、ゲームで最初貰えた、初心者用の支給品入った袋だよな…』
メア「そうだよ~」
『なあ、それ俺の分は…』
メア「あるけど、今、君に必要これ?」
『今の俺はレベル1だぞ、必要だ、渡してくれ!』
メア「わかったよ、はい、どうぞ~」
そういい、外套の下から同じ様に出すと、俺に渡してきた。
渡された袋に手を入れ、入ってる物を出して確認した。
ハート型の木の葉(ヒールハーブ)5枚、三つ葉の様な草(キュアハーブ)、紫のラベンダーの様な花(マジックハーブ)5本、水の入った水色の小瓶(聖水)5本、笹包み玄米おにぎり(食料)3つ、長く丈夫な木の枝(ビギナーステッキ)1本、布製の上着(ビギナージャケット)、布製のズボン(ビギナーズボン)、皮の靴(ビギナーシューズ)、皮の手袋(ビギナーグローブ)、フード付きの外套(ビギナーマント)。
うわ、ゲームのままだな、初期の回復アイテムとビギナーセットと、それにこの武器は懐かしい。
最初はこの木の枝を相棒に、皆んなで小さなスライムを空へと打ち上げて倒したんだよな。
その記憶が蘇り、気づけば俺は木の枝でスイングしていた。
メア「クスス、随分楽しそうだね~、魔物を呼び出してあげようか?」
ニヤリと黒い笑顔を浮かべながらそう言ってきた。
『遠慮する、邪神のおまえから悪い予感しかしない…』
メア「残念、了承したら、スライム群れで出してあげようと思ったのにな~♪」
『群れってふざけんな!、おまえは俺を殺す気か!』
メア「クスス、冗談だよ、出す気なんて無かったよ?」
そういい、笑っているが、外套の中でもぞもぞと何かが動いていた。
『じゃあ、そのマントの中何が居るんだ!』
メア「マントの中?、何も居ないよ?」
マントをバサリとめくって見せるが、そこには何も居なかった。
『おかしい、確かに何か動いて…』
メア「気の所為だよ♪、ねぇ、それより、日暮れ前にこの森から出なくて大丈夫?、昼は魔物も大人しいだろうから、僕が居ればまず襲われる心配ないけど、夜だと気性荒目の魔物もいそうだし襲ってくるかもしれないよ?」
『よし、森を出るぞ!』
そんな気性の荒い魔物に襲われたらたまったもんじゃない。
メア「あ、待って、動く前に、そのビギナー装備着ちゃえば?、学ランより目立たないよ?」
『そうだな…、って、おまえの方が目立つし、着るべきだろ?』
メア「えー僕はそんな地味なの死んでも着たくない、それに僕は邪神だよ、目立っても自分で何とか出来るし問題ないのさ、だから、君だけ着替えてね、僕はその間に空から辺りの様子確認してくるからさ~」
そういうと、外套の端を掴み姿勢を低くした瞬間、ビュンと上空に飛び上がっていき、周りに突風を舞い起こしていった。
この時、俺はここが砂地ではなく草原でよかったと思った。
その後、俺はビギナー装備に着替え、出していた荷物をビギナーパックの布袋へ戻していた際に、この袋にリュックやバックも入るんじゃないかと思い、試したが大きさ的に入らず残念な結果に終わった。
『くそ、わんちゃん入るかと思ったがダメだったか…』
そう俺がこぼした時、上空から隕石の様にドーンと地面を揺らす勢いで、邪神の少年が落ちてきた。
『びっくりしたわ、おまえもう少しゆっくりと降りて来れないのかよ!、おまえは隕石か!』
メア「えー、せっかく森を抜けれそうな方向と道見つけたから、報告しようと思って急いで降りてきたのに、怒鳴られちゃった、僕悲しいな~」
そういうと、顔を抑えしくしくと嘘泣きの仕草をした。
『え、道?、道あったのか!、どこにだ!』
メア「うーんとね、ここから真っ直ぐこの方向に進んでいくとあるよ、君が走れば、日が暮れる前には何とか辿り着けると思うよ~」
前をビシッと指差しそういった。
『走って…夕方?、今まだ1時半くらいだぞ、4時間以上俺に走れってことか!?』
メア「大丈夫、大丈夫~、君ならいけるって、僕の加護で疲れにくくなってるし、ビギナーセットの効果でスタミナの小回復が常時発動するんだからさ~」
『それにしたってな、荷物が俺にはあるんだよ!』
メア「望むなら、荷物を僕が影に収納しといてあげるけど、どうする?」
『望むから収納してくれ!』
メア「じゃあ、僕の影の上に収納したいもの置いてね~」
俺はリュックやバックを、影の中に沈めて行った。
そうして、大きな荷物をメアに預けた俺は、小さな布袋だけを腰に下げ、森を走った。
それはもう、ただただ真っ直ぐに走って走り続けた。
メアはというと、俺の後ろを木から木へ、飛び移りながら、忍者の様に追従してきている。
俺は2時間ほど走り続け、流石に疲れて息切れし始めてきたが、メアの方は息切れした様子もなく、俺に大丈夫?と声かけてくる余裕まであった。
そんなメアに負けてられないと、俺は更にスピードを上げ走っていたが、森の小川が流れる場所で、限界が来てそこで休憩する事になった。
メアはというと上流が気になるから行ってくると言うと、止める間もなく、風の様に走り去って行ってしまったため、俺は一人となった。
そこで、俺は走り続けて熱を持った体を冷やすため、服を脱ぎ水浴びをしていた。
俺は小川のそばに該当を敷き座り、上流の方を眺めながら、水浴びを終えても戻って来ない、あの邪神のことを考えていた。
メアは自らを邪神と名乗っているが、それが本当なら邪神は人間に害なす存在であったはず、何故協力しているのか、いや、協力ってほど協力してくれては居ないが、何か理由があるんだろうか?
彼奴は、俺を召喚主ではなく、自身を召喚した召喚者ってだけだから、命令に従う義務はないと言っていたが、望みやお願いなら気が向けば叶えてあげるとか言っていた。
そして、俺が最初呼び出した時に死にたくないと望んだから、それは絶対に叶えると、強調して言っていた、あの感じからして、何か彼奴には制約かルールの様なものがあるじゃないか?
そこで俺は更に彼奴の行動や言動を思い返してみた。
彼奴はサポーターの様なものだとも言っていた。
確かに何か俺にするのに対し、俺の言った事に対し、望むならとか、提案などの様なことをし、それに反応した、俺の様子をみて動いている様に思える。
そんなことを考えながら、なんとなく、上流の方を見ていると、大きな葉っぱの上にちょこんと座るメアがゆっくり流れてきているのが見えた。
何をしてるんだ、彼奴…
俺はそんな葉っぱの上に座るメアを自分の前に来るまで声を掛けず、様子を見てみることにし、ジーっと見ていたが、あまりにも何の反応がなく、メアは俺の前を通り過ぎても、止まらず流されていくため、慌ててその乗る葉を掴み、岸に寄せ止めさせた。
『おまえ、何しに上流に行って来たんだ?、まさか葉っぱに乗って川下りするためとか言わないよな?』
メア「そうだけど?、僕が普通に川下りして遊んじゃダメなの?」
キョトンとした顔をし、首を傾げて俺をみていた。
『いや、ダメではないが…』
俺の中で此奴の行動や考えが分からない、上流が気になるって行った目的は、本当にこの大きな葉っぱで川下りをすることだったのだろうか?
メア「ダメじゃないなら良いよね~、さあ、今度はここから下流まで流れて、お掃除~♪」
そう言って、葉っぱを浮かべ直しまた、そのまま流れて行こうとするメアを手を掴んで止めた。
『待て、下流はおまえ言ってた方向違うだろ、俺はこの森を日暮れまでには抜けたいんだ、てか、おまえが、夜になったら気性荒い魔物に襲われるかもとか言ったからこの森を抜けようとしたんだぞ?、最後まで責任持って付き会えよな!』
メア「僕はあくまでも言っただけで、やれとは言ってないし、行動起こしたのは君だよ、それに今の僕は君の森抜けについてくだけだし、やることないから、つまらないんだよね、だいたい僕ならこんな森を走って抜けるの数秒かからないんだから、暫く遊んでようが先に行った君に追いつくのなんてわけないんだよ、まあ、そんな訳だから、君は先に行っててよ~」
面倒臭そうにそういうと、手でさあ、行って行ってと仕草をしてきた。
確かに此奴は俺に提案してるだけと言われたら、そこまでなんだよな。
それに、此奴が森を数秒かからず抜けられるってのは、本当なんだろう、あのさっきの上流目指して走って行った時は目にも留まらぬ速さだったし、この言い方からして、後から合流する感じか?、そこだけは確認しておくか。
『先に行くとして、確認なんだが、後からおまえはついて来るってことか?』
メア「当たり前でしょ、君は僕の召喚者なんだから、まあ、とにかく僕はこの辺で遊んでからちゃんと君の方へ行くから、君は僕を気にせず、自分のペースで森抜けに専念しててよ~、じゃあ、またね~」
そういうと、葉っぱを水面に浮かべ直し、流れて行った。
もしかして、メアは、俺が見てるのに気づいてたのか、それで気を遣わせない様に離れた?…なんてな、考え過ぎか、彼奴は見た目通りの子供で遊びたかっただけかも知れないしな。
ただ、あの葉っぱにただ乗って流されてるのの、何が遊びなのかは分からないんだよな、どう見ても楽しそうにしてる風でもなかったし、まあいいや、俺の目標は夜までに森を抜けることだ。
そうして、俺は邪神の少年メアと別れ、森を前へ前へと走って行った。
一方、葉っぱの上に乗って流れていたメアは、森に入って行った主人公を確認すると、近くの岸におり、そこに何も無い空間から、でかいイノシシ、クマをそれぞれ1体ずつ出して地面にドスンと置き、メアは、手に影を纏わせ、影で長い鉤爪の手を作り出すと、それを使って首筋を刺し、血を瓶に入れ抜き取ると、今度は眼球をくり抜き別な瓶へ詰めた、それが終わると、毛皮などを慣れた手つきでサクサクと解体し始めた。
そんなメアの解体し終えた毛皮や牙などを、植物達が小川で洗い影へと入れていく。
そんな作業を全て終える頃には、影で出来た真っ黒な長い鉤爪は手は、血で真っ赤に染まっており、メアはそれを小川で洗い流していた。
すると、下流の方から、目に赤い光を灯した痩せて骨が浮き上がった狼がフラフラしながら現れた。
その現れた狼の様子は異常だった。
目の方は、焦点が合っておらず、赤いぼんやりとした光を灯しているし、口の方は、開けっ放しで泡と黒ずんだ涎の様な液体をポトポト垂らしている。その上、その液体の垂れた場所からは黒い煙が上がっており、近くに生えていた草花が萎れてしまう。
メア「猪、熊ときて、最後は狼のバグ種の…アンデット成り掛けね、これは召喚者君、先行かせといて良かったかも、見たら卒倒しそうだし、瘴気は放ってるし、匂いなんて、う、吐きそう…」
嫌そうな顔をしてそう言うと、口を抑えて咳き込んでいた。
そんな咳き込んで吐きそうになっている、メアの背中を植物のツタが、さすっていた。
「主よ、大丈夫でございますか?、お辛いのであれば、あれは我等で処分致しますが?」
さすっている、他のツタ植物とは、別のハエトリ草の様な植物が、二枚貝の様な葉をパクパクさせながらそういった。
メア「いや、仮面付ければ匂いとか諸々大丈夫だから、僕がやるよ、それにアンデット化したバグ種には、僕の血をかけさえすれば…」
仮面をカポリと付け、そう話していると、赤く光る目の痩せた狼は、メアの方へ顔を向けると突進する勢いで走り出してきた。
そんな狼をさっと横に移動し、難なく躱すと、その狼が振り返った瞬間に、《動くな》と強い口調で一言、言い放った。
すると、動こうとしていた、狼の動きがピタリと止まり動かなくなった。
メア「さてと、ちゃっちゃと済まそうかな」
そういうと、手の平にギュッと握りしめるように爪を立て、血をポタポタと動かなくなっている狼へかけた、すると、狼の身体が光りを出し、蛍の様な光りへと変わり消え去ると、コトンという音とともにピンボール位の大きさの、紫の宝石の様な石がその場に落ちた。
メア「よし、これでお掃除は終わり♪、素材も手に入った、この魔石は良い値で売れそうだし、支度金くらいにはなるかな?」
落ちたその石を拾い上げると、色々な角度に翳しながら見てそう言った。
メア「さてと、これで用事は終わったし、召喚者君を追いかけよっかな?」
足を踏み込み走り出そうと構えたが、踏みとどまった。
メア「やっぱ、走るって追いかけるの飽きたし、飛んでいこっと~♪」
そういうと、軽く地面を蹴り上げ、手を広げそのまま空へと飛んで行ったのだった。
用語の説明と設定
バグ種
狂暴化と混沌化した魔物の総称。
狂暴化
なんらかの原因で凶暴化した魔物が瘴気を纏い、理性を失くして、破壊衝動のままに動いてる状態。
狂暴化した魔物は、目に付いたもの全ての生物に襲い掛かってくる、理性はないため、攻撃に対しての回避もせず、深手を負わせてたとしても怯むことなく、真っ直ぐに目にした標的へと襲い掛かってくる性質がある。
また、 倒しすと瘴気は晴れ普通の魔物に戻るが、瘴気を何らかの方法で祓いさえすれば、倒さなくても、普通の元の魔物へと戻すことも可能。
混沌化
狂暴化した魔物が、自身の纏う瘴気に呑まれて自我や自身の存在を見失い、瘴気と一体化して実体を失い始めている状態。
混沌化した魔物は、実体が朧気にあるものもいれば、実体がないものもおり、襲って来ることのない、彷徨うだけの無害そうな存在だが、実際は存在するだけで、動植物の生気や魔力を吸って糧としながら、強い瘴気を辺りにばら撒き、周囲を蝕み不浄の地へと変えるうえに、魔物の狂暴化を促し混沌化を誘発してしまう性質がある為、非常に有害な存在である。
また、実体の無いものに関しては物理攻撃は勿論、魔法の類の攻撃が黒い霞の様な体に取り込まれてしまうため一切通用せず、実質的には倒すのは不可能な存在である。
同様に、実体が有る場合のものでも、物理攻撃が少し通るが、纏う黒い霞の様な瘴気を晴らさないと魔法攻撃は通らない上に、元通りに体が再生されるため、倒すことは極めて難しい存在である。
ちなみに元の魔物に戻す方法はなく、倒せても何も残らない。
共通の見た目の特徴には、炎の様にポーッと光る目と全体がぼんやりとした黒い靄の様な瘴気で包まれた、元が何であったかが分からないほど、朧気な歪な影の様な姿であること。
瘴気
一部の種族を除いた、全ての生物への負の影響を与え、弱らせたり、凶暴になってしまう穢れた空気で、土地に長く漂い続けた場合は、不浄の地となり、動植物の育たない不毛の地へと変化してしまう。
ちなみに、瘴気をメアやルカは故意に吸おうが影響がなく、その配下や眷属達も影響を受けない。
メリエル(メリー)
メアの専属のメイド兼お世話係の金髪深緑の瞳の美女、種族は天使である。
ミハエル(ミハ)&ルミエル(ルミィ)
白髪赤紫の瞳をした、メアに仕えている子供の召使いの双子兄弟、見た目は瓜二つで、右の翼しかないのが兄のミハエルで、左の翼しかないのが弟のルミエルである、種族は両者とも天使である。
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