異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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ほのぼの

期末テスト

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| 藤堂 京介


「はい、そこまで」

 先生のその一言で、一学期の期末テストの全日程が終わった。そこかしこで、力を抜くクラスメイト達がいる。ため息なんかも聞こえる。皆思い思いに戦ったのだろう。

 アレフガルドから帰って来て、小テストなんかはあったが、初めての大きなテストだった。


 僕は…まあ、悪くないと思う。

 いろいろな勉強方法を試した結果、僕はテストをダンジョンのラスボスに置き換える事にした。

 各教科一つ一つを個別のダンジョンとし、出題範囲のページ数を階層に置き換え、各階層ごとに突破する事にした。

 具体的には、全て覚えないと次の階層にはいけない、階層主はその階層のページ丸々音読した魔法でしか倒せず、間違えたらまた一階層からやり直しと設定した。

 なぜそんな馬鹿なことを。

 そう思われても無理はない。


 ではなぜ僕はそうしたのか。

 答えはノートにあった。

 授業の要点を抑えるのがノートだとは思う。

 要点。つまり攻略本だ。ラスボスへの最短の道だ。

 その五年前に書かれた攻略本と教科書ダンジョンを結びつけるのが面倒になってしまったのだ。


 諦めたとも言う。


 筆跡もまとめたビジュアルも、もう今の感覚とは違うから他人のノート感が半端なかった。15歳当時のノートがなんか気恥ずかしかったとも言う。

 それに、アレフガルドではカリグラフィーが一般的で、真鍮みたいな素材のぶっとい万年筆形状だったから、細いシャーペンの力加減がわからない。手がなんかムズムズする。芯はパキパキ折る。これじゃあ殴り書けない。

 枷をかけてやっとこさ、だった。

 つまり、書くのが面倒だった。

 だから唱えて覚える事にした。

 呪文だ。

 それは得意だ。


 テストはだいたいは暗記ものだ。なら覚えてしまえば点は取れる。知らなければ取れない。

 それに、20歳の自分から15歳当時の出題範囲を見た時、あ、いける。そう思ってしまったのもあった。

 そして悪辣なダンジョンより容易いのがわかった。即死級の罠に比べたらなんでも簡単に思えた。

 そう、この教科書ダンジョンでは死なないんだ。すごいだろ?

 すごい馬鹿だろ、僕。

 でもそう思い込むことにし、攻略に臨んだ。


 その結果、今なら出題範囲なら先生できるほど丸暗記した。こんな事もわからないのか! ムーブも出来る。生徒指導室に来なさい! 後で個別指導だ! 一人で来なさい。いいね? などもだ。

 おもひでのアルバム、教師オプションを思い出す。

 今ならもっと良い演技が出来るだろう。


 それを……勉強会でしたかった。

 聖、瑠璃ちゃん、ノノメちゃん、純…はいっか。彼女達の連携にはびっくりだった。

 まだ勉強方法を模索していたときだったのに…

 くそ、煽ってきやがって。

 またお願いします。


 しかし……彼女達は…最初は確かに失神させていたのに、急速に対応してきていた。

 確かに二度目はなるだけ魔法は使わないようにしていた。にしても、どーなっているんだろうか。こちらの弱いところをまるで共有でもしているかのように全員が知っていた。

 15歳の僕の身体はまだ真っ新なはず。開発なんてされていないはずなのに…

 僕が召喚前に思っていた女性像と違い過ぎる。そんな経験もなかったけど…いくら位階が同じとはいえ、元世界の女性は……あんなにすごいものなのだろうか。

 僕の数少ない特技が、封じられようとしている。そうなったら、あと暴力しか特技ないんですけど…


 僕の元世界幼馴染JK達がマジエロ過ぎて異世界すぎ…

 いや、そうじゃなくて。

 ラノベ感とかじゃなくて。


 そう、やっと寝れるんだ。

 僕はダンジョン攻略では当たり前だった三徹に突入していた。

 正確には少し仮眠を入れている。その少しの仮眠と暗記を組み合わせると、記憶力は増す。それを利用するためだ。それは異世界で経験していた。

 ただ、位階1のせいか、徹夜ダメージが半端ない。そして今、テストも終わり、一気に押し寄せてきた気がする。

 でも、まあ、いい。

 僕はやり遂げた。

 だからやっと寝れるんだ。


 この人の命とかどうでもよくなるような眠気………これは落ちるように寝ると……絶対気持ち良いはず。

 いや、まだ我慢だ。我慢。

 この後すごい事になるはずだ。

 フカフカベッドですんごい事に。

 宿屋に入ってワンフレーズの音がしたと思ったら、え、もう朝? 嘘でしょ? 娼館は? パフパフは? くらいすごいはず。

 だから我慢だ。

 我慢するのだ勇者よ。

 この硬い机に、この眠気は勿体ない。





 帰り支度をし、立ち上がったところに愛香がやって来た。


「京ちゃーん、やっと終わったね~。帰りにどっか寄ろーよ。ミーとマーヤが誘ってくれたんだ~朋ちゃんもいるよ」


 安藤美月、ミーと、田代真綾、マーヤ。二人とも髪色を明るく染め、可愛いさと馴れ馴れしさを兼ね備えた美人二人だ。

 この二人に愛香と朋花、葛川達を入れてのクラスの陽気で華やかなグループだった。

 その葛川達、獣四匹はテストも受けていない。

 エリカとの話で、夏休み中に全て片付けて、二学期までに学校追放と決まった。

 葛川家もだろう。

 おかしら一味もか。

 本当に長いクエストだった。

 やっと獣を放逐できる。


 安藤さんと田代さんとは、あまり直接的な関わりは無かったけど、愛香の親友に今後なるかも知れないし、付き合うか。

 眠いけど、手のツボとか太腿とかブッ刺せばなんとかなるだろう。

 だいたいそれで起きてたし。

「いいよ、行こう」





 電車に乗って連れ立ってきたのは比良町駅。天養駅の二つ隣の駅だ。

 駅前には様々な飲食店があり、他校の生徒たちもテスト終わりなのか、チラホラ居る。

 僕の太腿は軽く腫れているだろう。

 何せ、電車の揺れがあんなに強烈だとは思わなかった。眠気に襲われ、咄嗟にグリっと抓ったのだ。

 何とかのゆらぎ、だったか…強敵だった。

 恐るべき現代文明。

 恐るべき昏睡の魔法だった。

 違うか。眠いだけか。

 車内はこの時間だからか結構空いていたけど、僕は立っていた。なぜならこれは絶対に座ってはいけないと気づいたのだ。

 これは……罠だ。

 一度座ろうものなら、そのまま寝過ごし、なんだったら他県まで行って終点で折り返し、また通り過ぎ、降りたい駅にいつまで経っても降りられないような気がした。今なら三都どころか四都くらい行けそうだった。

 だけど、僕は耐えた。





 比良町駅すぐにある大手カラオケ店に来た。ここでテストの打ち上げしようと、安藤さんと田代さんの案だった。


「カラオケか…」

「どしたの京ピ? 苦手?」


 朋花にそう聞かれたが、苦手というか、懸念というか…

 いや、それ以前に。


「うーん、あんまり来た覚えが無いんだよね。歌もあんまり知らないし…」

「こないだ鼻歌してたわよ? タコにした時…だけど……」


 あの時か…というか、不意に出てくる鼻歌ってだいたい向こうのだしな…古くから伝わる民謡だっけ。

 する事がなかったとも言う。

 けど、焚き火を囲んでの生演奏は良かったな。夜空は満天の星が煌めき、眺めながら…こう、ウトウトと…

 ノーノー、そうじゃなくて。


「そ~だよね。まー京ちゃんは、座ってるだけでも良いよ? 駄目かな?」

「駄目じゃないよ」


 愛香に制服のシャツを可愛く掴まれたら断れないよ。

 しかし、カラオケか……。

 これは……試練だ。

 カラオケ店のソファはなんか固かった気がする。パーンと張ったイメージだ……ここで絶対に寝てはいけない。

 そうだ。

 僕にはすんごいのが待っているんだ。

 すごいフカフカベッドが、ふかふかしながら待っているんだ。

 …大分おかしな感じになってきたな。ふかふかしながらってどんな感じなんだ。

 いや、いいんだ。

 それでいいんだ。

 僕はそこでふかふか寝るんだ。寝ながらふかふかしたいんだ。絶対ふかふかになるんだ。

 あとはどんなだっけ……室内は…薄暗かった…つまりデバフ付きか…厄介だな…どうしたら…

 いや、待てよ…それは思い過ごしかもしれない。

 そうだ、そうだよ。

 だいたい、ドンドンシャンシャンした大音量では逆に寝れまい。寧ろそんな中で寝るとかどんな神経してるんだって話だ。

 しかも周りには可愛い女の子が四人もいる。

 勇者として紳士に振る舞ってきた僕が女の子を放ったらかしにしてグースカ寝るなどと。

 ふっ、ありえない。


 これは……勝ったな。

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