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アレフガルド - ウルド大砂漠

混血の冒険者

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 アレフガルド大陸中央北部。ビンカレア草原を北に抜けると、低い峰に囲まれた呪われた砂漠がある。

 ウルド大砂漠。

 元々は緑溢れる森林だったこの土地は、古代の聖女が追放され命を落としたとされる場所だ。

 聖女が亡くなってから暫く経った後、その中心部からじわじわと砂漠に変わっていったとされている。


 この森林を治めていた当時の森林部族の長は、聖女の呪いと考え、彼女の鎮魂のための石造りの墓標を、その当時まだまだ小さかった砂漠の中心に造り、追悼した。

 追放した王は聖女の名を墓標に付けることは絶対に許さなかった。

 追悼後、進行速度は緩やかにはなったものの、木々や水源も枯れだし、砂漠化は止まらなかった。


 長は、鎮魂の祈祷と墓標の建設を死ぬまでの二十年間、行い続けた。かつて聖女に幼い孫を聖なる御技によって救ってもらった恩ゆえだった。

 しかし、ある時から墓所にアンデッドが徘徊しだしたという。

 驚く長は部下に調べさせた。わかったのは墓所の地下がダンジョン化していた事と───埋葬したはずの聖女の遺体も無くなっていたという事だった。

 それから暫くの後、聖女を追放した王が死んだ。変死だった。全身を干からびさせ、とても惨い有様だった。


 皆一様に聖女の呪いだと叫んだ。


 長は呪いを恐れはすれど、死ぬ間際まで弔い続けた。しかし、砂漠化は尚も進み続け、もはやかつて緑溢れる豊かな森があったことなど、誰も信じられないほどの変貌を遂げていた。

 その後、この地を放棄し部族を率いて逃げたのはかつて聖女によって救われた、長の孫だった。


 今では周りを囲む低い峰まで砂漠は広がり、古代聖女の名からウルド大砂漠と呼ばれている。

 かつて断罪され、追放された、忌まわしき魔王召喚の罪を背負った古代の聖女、ウルドの墓標。


 それが、オジエ・ダノワ大墳墓だった。





| キヌナーセリー


 私の母は極寒の地の出身だった。

 母が15の時、魔族に犯された。この地にあるとされる聖人ロエベの遺物、その鍵を母が持っていたらしい。鍵の在処を吐かせたあと、母を余興で犯した。

 母は魅了にかかっていた。解けた時にはもう手遅れだった。悪魔憑きと蔑まれ、追放されながらも私を産んだ。色白な母と違い、浅黒い肌に生まれた私だが、母は愛してくれた。

 私の母は私の出自から迫害されることを恐れ、村々を転々と渡りながら砂漠を目指した。


 砂漠の民は総じて色黒だ。ぐるぐると巻いた布帽子が二本の角を隠せることと、肌が浅黒いことから紛れ込めること。

 砂漠の町ナリアに着いたのはわたしが三歳の時だった。


 十歳のとき、母が亡くなった。心労で疲れていたのか、灼熱の砂漠が合わなかったのか、わからない。まだ年若い母の死だった。

 それからは一人で生きてきた。一人で生きるためにソロ冒険者になった。

 幸い、魔族の血が入っているからか位階の高い冒険者にも引けは取らなかった。

 なぜなら魔族の一番の怖さとは、単体での高い戦闘能力だったからだ。

 いつ正体がバレるともわからない恐怖からか、自然と危険なダンジョン探索者になっていった。

 そんな私にも好きな男が出来た。私と冒険者のパーティをたまに組んでいる男だ。彼と一緒に居たかったから角の秘密は言えなかった。

 ある噂を聞いた。かの有名な大墳墓には人の姿を変える魔法のような杖があると。

 私は決心した。


 アンデッドが徘徊する大墳墓、オジエ・ダノワ。

 ダノワ王国の変死した王の名だとも、古代聖女の恋人の名だとも呼ばれるダンジョン。


 私はそこに希望を見出した。





 姿がバレるかもしれないからとソロで潜るつもりだったが、好いた男が同行を申し出てくれた。

 断りたいが、彼のパーティには女の子ばかり。二人で一緒に居れる機会など滅多になかった。

 複雑な気持ちで了承した。


 ダンジョンに潜って一週間経った時だった。簡易な結界を張った天幕で、身体の疼きから目が覚めた。


 天幕の中は白砂香に満たされていた。

 ウルド大砂漠原産の発情の香根で、市場ではまず目にすることのない、燃やすと甘い香りのする香だ。

 過去クエストでたまたま目にした時に軽く嗅いだことがあったのだ。

 身体の自由が効きにくい。だけど、女の部分は匂い立つほどに主張していた。

 好きになった彼はあまりに素っ気ない私に対し実力行使に来た。ぼんやりとした会話でわかったのはずっと私の身体を狙っていたらしい。

 こんな結ばれ方など望んでいなかった。


 一枚ずつ剥がされていき、ついに頭の布が剥がされ、正体がバレた。

 その瞬間、愛した男は私を殺そうとしてきた。

 人族の敵、魔族の血が半分も入っているなら、仕方ないか。

 彼に殺されるならいいか。

 そう諦めていた時だった。

 突如現れた魔族に、私は魅了の魔法をかけられ、逆に彼を殺してしまった。

 魅了をかけてきた魔族は父と名乗った。なんでも魔力の質でわかるそうだ。

 魔族、タスクミリアン。


 私の父であり、母の怨敵でもあった。





 最下層に用がある父に同行することになった。父はいろいろと教えてくれた。

 角を見せなくしたり、翼を出したり。

 私は笑いながら実践した。

 また、最下層にいるボス、反魂の王は古代聖女ウルドの恋人、オジエ-ダノワであり、聖女を追放した父であるダノワ王を殺し、この迷宮を作り上げたと言っていた。

 人族同士の争いを止める為、過去にあったとされるミルカンデ大神殿にて100人の適性巫女を生贄にし、魔王様を召喚した聖女。オジエは心優しい彼女が追放されたと聞き、必死の想いで追いかけ、変わり果てた姿の彼女を見て発狂し、秘宝に縋り、反魂の王となったのだという。

 そして、最下層に着いた時、反魂の王オジエと戦っているであろう勇者。

 お前は隙を作る囮になり死んでこいと言った。

 私は笑いながら頷いた。





 秘宝を扱うオジエは強く、勇者も苦戦していた。その時、私を従えた父が、勇者に私をけしかけた。

 勇者に相手をさせている隙を狙い、そのオジエの持つ秘宝を手にし、用は済んだと告げて、去っていった。

 秘宝を奪われたオジエは弱体化し、勇者様によって倒された。





 勇者様は魅了と白砂香によって発情していた私を子猫のように抱いてくださった。

 緊急措置とはいえ、申し訳なかった。

 すっごい未知の体験だった。

 何故か勇者様はアートリリィ様をジト目で見ていた。勇者様の話ではアートリリィ様が何か鎮める方法を知っていたらしい。でも魅了の解除しか使わなかった。

 そして……すっごく良かったのに、勇者様にすっごく謝られてしまった。

 そんな様子を見て、我に返った私は、自分には魔族の血が流れている、さっきの魔族は母の尊厳を穢し、そうして生まれたのが私だ。

 魅了にかかっていたとはいえ、先程パーティメンバーを殺してしまった。人族の英雄、魔を滅する勇者様を私の身体で穢してしまった。混血の私は殺されても仕方がない。

 私は正直に打ち明けた。

 死に怯え震える私に、頭を撫で、小さな角をコリコリしながら戯けた仕草で勇者様はこうおっしゃった。

 可愛いかったから、ま、いっか。と。


 深刻な様子の私を、私の心を気遣ってくださったのだった。

 男に抱かれたことなどなかった。可愛いなんて言ってもらったことなどなかった。今まで一人で生きてきた。子猫になんてなったことなどなかった。

 私は勇者様に生きる希望を見出した。


 だから砂漠の滞在中はずっと追いかけた。

 嫌いだった魔族固有の魔法もバンバン使い追いかけた。

 アートリリィ様の助言に従って追いかけた。

 子種を何度もいただいた。


 そうして───────届いた。





「ねー。キヌママーしゅごぃー?」

「また、砂にお絵描き? すっごく似てるわ。私の旦那様に」


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