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幕間 ダズンローズの裏側
TKG
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| 綾野 言葉
恋のアポストルの緊急告知に導かれるまま、この燻んだ灰色の廃工場の前までお友達四人と来ました。
そこには順番待ちの女子高生たちが屯していて、どうやらマスクメガネの貸し出しがあり、装着すれば入場できるようでした。
「言葉、大丈夫? 怖いの?」
「ううん、違うの。大丈夫」
鎌田モノづくり工場跡地群、とでも言えばいいのでしょうか。
ここ一帯はかつては栄華を誇り、この国の成長とともに発展してきた場所でした。
「なんか、ゾワ~とするね~」
少し日が暮れるだけで物陰に連れ込まれそうな雰囲気が漂い、不安な気分にさせられる、この鎌田一帯の工場群。
「わかる。連れ込まれそう」
不況の煽りを受け、さらには自由競争というキラキラネームをした、ただの価格競争に巻き込まれ、安い海外製品と負け勝負をさせられ続け、疲弊し、遂に潰れた、ものづくり工場たち。
まさにグローバリズムの被害者たちと言えるでしょう。
「墓碑みたいね…」
「怖い事言わないでよ! 言葉!」
私達四人は初等部の頃からのお友達。
そして、根っからの赤城信奉者。
麻理様が恋をしているかも知れないと流れてきた日。赤城派である私達は即座に恋アポに適当に書き込み、参加を決めました。
他の書き込みによると、どうもその男は相当に酷いようで、強姦や脅迫、暴力に恐喝などなど…そんな事が書かれていました。
流石に今の時代そんな事を続けていれば、すぐに見つかるし、捕まります。だからそんな事はあまり信じていません。
それに、あの麻理様が惚れ込むのだからよっぽどの男に違いありません。
もしくは……恋アポ通りなのか。
その時は許しません。
それを確認したくて来たのです。
「よし、行きましょう」
どんな男か見極めないといけないわ。
◆
「は、は、は、は、は、は───」
今で何段目…かしら…また積んだ…どこにそんな力が…
指定された番号の席に座り、この痛ましいショーを見ていました。
お友達の席は散らされました。私語厳禁だったから当然なのでしょう。
初手から体格の違いすぎる勝負…どう考えてもこの鎌田の廃工場群のように擦り潰されてしまう。
などと、そんな浅はかなことを考えていました。
リングにスルスルと駆け上がった彼は、技術でもって屈強な男達に対抗し、これ以上はもうやめないか? と言わんばかりに痛ましい報復を行う。
なんの感情もなく、ただひたすらに、挫く。
ああ、正しい。これは正しい戦争です。
仕掛けられたからやる。
やられる前に、やる。
ただやるのではなく、諦めさせるよう、折って、結んで、高らかに積む。
ああ、懺悔の墓碑とでも言えばいいでしょうか…
なんて容赦のない……素敵…
それはまるでナマ麻理様のように…氷のような無表情で試合に臨み、決して派手さは無くも、相手を一瞬のうちに袖にする凛とした所作で…ああ。んんッ…
初等部の頃から麻理様の稽古はつぶさに観察していました。もちろん道場にも…その過酷な練習風景を…訓練の様子を…
そうしないと、決して到達出来ない赤城一刀流の高み…
会場の他の皆さんは多分…この戦いの表に出ている残虐にも映る行為に…騙されているでしょう。
だけど私達、赤城派は違う。
あの研ぎ澄まされた刀になる研鑽の過程を知っているのです。
叩いて曲げて叩いて曲げて。そうして出来上がる赤城の一刀、赤城麻理。その鍛錬…作刀工程を。んんッ。
それに対して…彼は…言うなれば剣。
歪な鉄塊を、何度も何度も叩いて叩いて左右対称になるように、整え誂え出来上がる技巧の象徴、自然界には決して無い人の技、シンメトリーの両刃剣。
それは正しく有ろうとする彼の矜持の体現…その裏側には死に物狂いの研鑽が…ああ…見える、見える、見える…ああ…格が…違いますぅ…ん、あんんッ。
こんな人が強姦なんて、恐喝なんて、脅迫なんて、するわけないでしょう。
そして彼は眩く光り、言いました。
弱きものを守ると。
ああ! 強烈に私の心に突き刺さりますぅ!
ならば! ならば暴力は、誰かを守るために行使した当然の帰結……ああ、断罪の刃…
ああ、まさに理想…の…理想の英雄…ですぅ。
あ、んんッ、あ、あ、んッ。
私は太腿をキツくキツく何度も締め、プチ自慰に、果てるまで勤しみました。
◆
「赤城麻理FC会長、綾野言葉さんですよね?」
「え、ええ…綾野です。なんだか…不思議なことになりましたね…あなたは……」
「天養純心高校2年、瀬尾ルミネです。今、王子様が助けに向かったのですが…今から恐らく暴漢達への罰が執行されると思います」
「…王子様…とはまた随分と…可愛らしい…。それと…罰ですか?」
「姫を助けに行くのはいつだって王子様ですよ。ああそれと罰は…あー、多分先程よりもっと酷いかと…」
「本当ですか! 手伝ってもよろしいですか!」
「え、ええ…それはもう…それで…今からここ恋アポは和光様が取り仕切る手筈となりまして。もしここからのショーに興味があれば会場の設置をお手伝いしていただきたく…」
「あの和光さんが…いらして…」
「ああ学内の和光派閥は気にしないでくださいとのことです。所詮は学内だけ…和光様は先程の藤堂様の幼馴染でして。それはもう心配で心配でこちらにいらしていただけなのです。それに、和光派閥は実は名前だけでして…今日の朝ごはんTKG…卵かけご飯だー、こんなのあるんだー、食べたことなーい。みたいな感じのもっとポワポワしたものですよ」
「…そう、なんですね。それにしても、幼馴染ですか…さぞ心配でしたでしょう…恋アポの書き込みは…本当に…酷かったですしね…ああ、英雄…いえ…その…お、王子様には後でお会いできるでしょうか?」
「こちらには戻られると思いますよ。ですが、助けられた姫が解放するかどうか…邪魔は無粋ですしね…私だって助けられて捨て置かれたら嫌ですし…」
「…それは…そう、ですね…」
「ああ、ちなみにあくまでも派閥勧誘ではありませんが、和光派閥を通して円卓に入れば…違うTKGがあるかもです」
「円卓…?ファンクラブのようなものですか? …と…違うTKG…?…先程の…食べたことはありませんが…卵かけご飯…ではなく…?」
「…藤堂京介様をゲットするぜ。なんて…ぅえへへ。どちらもいつかは食べてみたーい、なーんて。いひっ。興味が有れば、和光様がご説明くださいます。ささ、まずは会場を整えましょう」
TK…Gですか…不思議な響きですね。
良い…これは良いものです。
お友達も───誘いましょう。
恋のアポストルの緊急告知に導かれるまま、この燻んだ灰色の廃工場の前までお友達四人と来ました。
そこには順番待ちの女子高生たちが屯していて、どうやらマスクメガネの貸し出しがあり、装着すれば入場できるようでした。
「言葉、大丈夫? 怖いの?」
「ううん、違うの。大丈夫」
鎌田モノづくり工場跡地群、とでも言えばいいのでしょうか。
ここ一帯はかつては栄華を誇り、この国の成長とともに発展してきた場所でした。
「なんか、ゾワ~とするね~」
少し日が暮れるだけで物陰に連れ込まれそうな雰囲気が漂い、不安な気分にさせられる、この鎌田一帯の工場群。
「わかる。連れ込まれそう」
不況の煽りを受け、さらには自由競争というキラキラネームをした、ただの価格競争に巻き込まれ、安い海外製品と負け勝負をさせられ続け、疲弊し、遂に潰れた、ものづくり工場たち。
まさにグローバリズムの被害者たちと言えるでしょう。
「墓碑みたいね…」
「怖い事言わないでよ! 言葉!」
私達四人は初等部の頃からのお友達。
そして、根っからの赤城信奉者。
麻理様が恋をしているかも知れないと流れてきた日。赤城派である私達は即座に恋アポに適当に書き込み、参加を決めました。
他の書き込みによると、どうもその男は相当に酷いようで、強姦や脅迫、暴力に恐喝などなど…そんな事が書かれていました。
流石に今の時代そんな事を続けていれば、すぐに見つかるし、捕まります。だからそんな事はあまり信じていません。
それに、あの麻理様が惚れ込むのだからよっぽどの男に違いありません。
もしくは……恋アポ通りなのか。
その時は許しません。
それを確認したくて来たのです。
「よし、行きましょう」
どんな男か見極めないといけないわ。
◆
「は、は、は、は、は、は───」
今で何段目…かしら…また積んだ…どこにそんな力が…
指定された番号の席に座り、この痛ましいショーを見ていました。
お友達の席は散らされました。私語厳禁だったから当然なのでしょう。
初手から体格の違いすぎる勝負…どう考えてもこの鎌田の廃工場群のように擦り潰されてしまう。
などと、そんな浅はかなことを考えていました。
リングにスルスルと駆け上がった彼は、技術でもって屈強な男達に対抗し、これ以上はもうやめないか? と言わんばかりに痛ましい報復を行う。
なんの感情もなく、ただひたすらに、挫く。
ああ、正しい。これは正しい戦争です。
仕掛けられたからやる。
やられる前に、やる。
ただやるのではなく、諦めさせるよう、折って、結んで、高らかに積む。
ああ、懺悔の墓碑とでも言えばいいでしょうか…
なんて容赦のない……素敵…
それはまるでナマ麻理様のように…氷のような無表情で試合に臨み、決して派手さは無くも、相手を一瞬のうちに袖にする凛とした所作で…ああ。んんッ…
初等部の頃から麻理様の稽古はつぶさに観察していました。もちろん道場にも…その過酷な練習風景を…訓練の様子を…
そうしないと、決して到達出来ない赤城一刀流の高み…
会場の他の皆さんは多分…この戦いの表に出ている残虐にも映る行為に…騙されているでしょう。
だけど私達、赤城派は違う。
あの研ぎ澄まされた刀になる研鑽の過程を知っているのです。
叩いて曲げて叩いて曲げて。そうして出来上がる赤城の一刀、赤城麻理。その鍛錬…作刀工程を。んんッ。
それに対して…彼は…言うなれば剣。
歪な鉄塊を、何度も何度も叩いて叩いて左右対称になるように、整え誂え出来上がる技巧の象徴、自然界には決して無い人の技、シンメトリーの両刃剣。
それは正しく有ろうとする彼の矜持の体現…その裏側には死に物狂いの研鑽が…ああ…見える、見える、見える…ああ…格が…違いますぅ…ん、あんんッ。
こんな人が強姦なんて、恐喝なんて、脅迫なんて、するわけないでしょう。
そして彼は眩く光り、言いました。
弱きものを守ると。
ああ! 強烈に私の心に突き刺さりますぅ!
ならば! ならば暴力は、誰かを守るために行使した当然の帰結……ああ、断罪の刃…
ああ、まさに理想…の…理想の英雄…ですぅ。
あ、んんッ、あ、あ、んッ。
私は太腿をキツくキツく何度も締め、プチ自慰に、果てるまで勤しみました。
◆
「赤城麻理FC会長、綾野言葉さんですよね?」
「え、ええ…綾野です。なんだか…不思議なことになりましたね…あなたは……」
「天養純心高校2年、瀬尾ルミネです。今、王子様が助けに向かったのですが…今から恐らく暴漢達への罰が執行されると思います」
「…王子様…とはまた随分と…可愛らしい…。それと…罰ですか?」
「姫を助けに行くのはいつだって王子様ですよ。ああそれと罰は…あー、多分先程よりもっと酷いかと…」
「本当ですか! 手伝ってもよろしいですか!」
「え、ええ…それはもう…それで…今からここ恋アポは和光様が取り仕切る手筈となりまして。もしここからのショーに興味があれば会場の設置をお手伝いしていただきたく…」
「あの和光さんが…いらして…」
「ああ学内の和光派閥は気にしないでくださいとのことです。所詮は学内だけ…和光様は先程の藤堂様の幼馴染でして。それはもう心配で心配でこちらにいらしていただけなのです。それに、和光派閥は実は名前だけでして…今日の朝ごはんTKG…卵かけご飯だー、こんなのあるんだー、食べたことなーい。みたいな感じのもっとポワポワしたものですよ」
「…そう、なんですね。それにしても、幼馴染ですか…さぞ心配でしたでしょう…恋アポの書き込みは…本当に…酷かったですしね…ああ、英雄…いえ…その…お、王子様には後でお会いできるでしょうか?」
「こちらには戻られると思いますよ。ですが、助けられた姫が解放するかどうか…邪魔は無粋ですしね…私だって助けられて捨て置かれたら嫌ですし…」
「…それは…そう、ですね…」
「ああ、ちなみにあくまでも派閥勧誘ではありませんが、和光派閥を通して円卓に入れば…違うTKGがあるかもです」
「円卓…?ファンクラブのようなものですか? …と…違うTKG…?…先程の…食べたことはありませんが…卵かけご飯…ではなく…?」
「…藤堂京介様をゲットするぜ。なんて…ぅえへへ。どちらもいつかは食べてみたーい、なーんて。いひっ。興味が有れば、和光様がご説明くださいます。ささ、まずは会場を整えましょう」
TK…Gですか…不思議な響きですね。
良い…これは良いものです。
お友達も───誘いましょう。
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