異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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幕間 ダズンローズの裏側

TKG

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綾野あやの 言葉ことのは


 恋のアポストルの緊急告知に導かれるまま、この燻んだ灰色の廃工場の前までお友達四人と来ました。

 そこには順番待ちの女子高生たちが屯していて、どうやらマスクメガネの貸し出しがあり、装着すれば入場できるようでした。


「言葉、大丈夫? 怖いの?」

「ううん、違うの。大丈夫」


 鎌田モノづくり工場跡地群、とでも言えばいいのでしょうか。

 ここ一帯はかつては栄華を誇り、この国の成長とともに発展してきた場所でした。


「なんか、ゾワ~とするね~」


 少し日が暮れるだけで物陰に連れ込まれそうな雰囲気が漂い、不安な気分にさせられる、この鎌田一帯の工場群。


「わかる。連れ込まれそう」


 不況の煽りを受け、さらには自由競争というキラキラネームをした、ただの価格競争に巻き込まれ、安い海外製品と負け勝負をさせられ続け、疲弊し、遂に潰れた、ものづくり工場たち。

 まさにグローバリズムの被害者たちと言えるでしょう。


「墓碑みたいね…」

「怖い事言わないでよ! 言葉!」


 私達四人は初等部の頃からのお友達。

 そして、根っからの赤城信奉者。

 麻理様が恋をしているかも知れないと流れてきた日。赤城派である私達は即座に恋アポに適当に書き込み、参加を決めました。

 他の書き込みによると、どうもその男は相当に酷いようで、強姦や脅迫、暴力に恐喝などなど…そんな事が書かれていました。

 流石に今の時代そんな事を続けていれば、すぐに見つかるし、捕まります。だからそんな事はあまり信じていません。

 それに、あの麻理様が惚れ込むのだからよっぽどの男に違いありません。

 もしくは……恋アポ通りなのか。

 その時は許しません。

 それを確認したくて来たのです。


「よし、行きましょう」


 どんな男か見極めないといけないわ。





「は、は、は、は、は、は───」


 今で何段目…かしら…また積んだ…どこにそんな力が…

 指定された番号の席に座り、この痛ましいショーを見ていました。

 お友達の席は散らされました。私語厳禁だったから当然なのでしょう。

 初手から体格の違いすぎる勝負…どう考えてもこの鎌田の廃工場群のように擦り潰されてしまう。

 などと、そんな浅はかなことを考えていました。

 リングにスルスルと駆け上がった彼は、技術でもって屈強な男達に対抗し、これ以上はもうやめないか? と言わんばかりに痛ましい報復を行う。

 なんの感情もなく、ただひたすらに、挫く。

 ああ、正しい。これは正しい戦争です。

 仕掛けられたからやる。

 やられる前に、やる。

 ただやるのではなく、諦めさせるよう、折って、結んで、高らかに積む。

 ああ、懺悔の墓碑とでも言えばいいでしょうか…

 なんて容赦のない……素敵…

 それはまるでナマ麻理様のように…氷のような無表情で試合に臨み、決して派手さは無くも、相手を一瞬のうちに袖にする凛とした所作で…ああ。んんッ…

 初等部の頃から麻理様の稽古はつぶさに観察していました。もちろん道場にも…その過酷な練習風景を…訓練の様子を…

 そうしないと、決して到達出来ない赤城一刀流の高み…


 会場の他の皆さんは多分…この戦いの表に出ている残虐にも映る行為に…騙されているでしょう。

 だけど私達、赤城派は違う。

 あの研ぎ澄まされた刀になる研鑽の過程を知っているのです。

 叩いて曲げて叩いて曲げて。そうして出来上がる赤城の一刀、赤城麻理。その鍛錬…作刀工程を。んんッ。


 それに対して…彼は…言うなれば剣。

 歪な鉄塊を、何度も何度も叩いて叩いて左右対称になるように、整え誂え出来上がる技巧の象徴、自然界には決して無い人の技、シンメトリーの両刃剣。

 それは正しく有ろうとする彼の矜持の体現…その裏側には死に物狂いの研鑽が…ああ…見える、見える、見える…ああ…格が…違いますぅ…ん、あんんッ。

 こんな人が強姦なんて、恐喝なんて、脅迫なんて、するわけないでしょう。

 そして彼は眩く光り、言いました。

 弱きものを守ると。

 ああ! 強烈に私の心に突き刺さりますぅ! 

 ならば! ならば暴力は、誰かを守るために行使した当然の帰結……ああ、断罪の刃…

 ああ、まさに理想…の…理想の英雄…ですぅ。

 あ、んんッ、あ、あ、んッ。

 私は太腿をキツくキツく何度も締め、プチ自慰に、果てるまでいそしみました。





「赤城麻理FC会長、綾野言葉さんですよね?」

「え、ええ…綾野です。なんだか…不思議なことになりましたね…あなたは……」


「天養純心高校2年、瀬尾ルミネです。今、王子様が助けに向かったのですが…今から恐らく暴漢達への罰が執行されると思います」

「…王子様…とはまた随分と…可愛らしい…。それと…罰ですか?」


「姫を助けに行くのはいつだって王子様ですよ。ああそれと罰は…あー、多分先程よりもっと酷いかと…」

「本当ですか! 手伝ってもよろしいですか!」


「え、ええ…それはもう…それで…今からここ恋アポは和光様が取り仕切る手筈となりまして。もしここからのショーに興味があれば会場の設置をお手伝いしていただきたく…」

「あの和光さんが…いらして…」


「ああ学内の和光派閥は気にしないでくださいとのことです。所詮は学内だけ…和光様は先程の藤堂様の幼馴染でして。それはもう心配で心配でこちらにいらしていただけなのです。それに、和光派閥は実は名前だけでして…今日の朝ごはんTKG…卵かけご飯だー、こんなのあるんだー、食べたことなーい。みたいな感じのもっとポワポワしたものですよ」

「…そう、なんですね。それにしても、幼馴染ですか…さぞ心配でしたでしょう…恋アポの書き込みは…本当に…酷かったですしね…ああ、英雄…いえ…その…お、王子様には後でお会いできるでしょうか?」


「こちらには戻られると思いますよ。ですが、助けられた姫が解放するかどうか…邪魔は無粋ですしね…私だって助けられて捨て置かれたら嫌ですし…」

「…それは…そう、ですね…」


「ああ、ちなみにあくまでも派閥勧誘ではありませんが、和光派閥を通して円卓に入れば…違うTKGがあるかもです」

「円卓…?ファンクラブのようなものですか? …と…違うTKG…?…先程の…食べたことはありませんが…卵かけご飯…ではなく…?」


「…介様をットするぜ。なんて…ぅえへへ。どちらもいつかは食べてみたーい、なーんて。いひっ。興味が有れば、和光様がご説明くださいます。ささ、まずは会場を整えましょう」


 TK…Gですか…不思議な響きですね。

 良い…これは良いものです。

 お友達も───誘いましょう。

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