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ダズンローズの花束

壁尻2

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| 東雲 詩乃


 嘉多桔花きた きっか

 天養市の隣、御影市にある、由緒正しき嘉多家の長女。彼女が初めて公に姿を見せたのは高校一年になってから。それまでは兄と妹しか出てなかった。


「…嘉多家が所有する別荘が尼曲原尼曲原にまがはら》にありました。そこには病気の療養のため、初等部の頃居たのですわ。鉢かづき…そう呼ばれても仕方ありません。何せ…その頃の私の顔は包帯まみれでしたから」

「……」


 そう、高校一年生になるまで、彼女はまったく表舞台に現れなかった。出てきた今も、顔中に酷い瘤がまだあり…お化粧か、特殊メイクか、それで隠している、との噂でしたね。

 それと、嘉多家と言えば、出てくるのはいつも兄の嘉多唯人きた ゆいと他の男に興味の紙片しへんすらありませんが、一応情報として仕入れています。

それに、尼曲原市は…京介さんのお父様の出身地ですね。…小学四年の夏休みまでは毎年帰省していて… 有名な子供病院があって…京介さんも…


「…私達恋アポのメンバーは、ある病院で知り合いました。そしてあーくんも。彼も…いつも痛々しい包帯を巻いて…自分は病気なのだと。なのにちっとも暗い顔なんてしなくて…天使のような笑みで皆んなを勇気づけてくれて…型を披露してくれたり…笑わせてくれたり…先生には内緒で強引に連れ出して夜空を見させてくれたり…いつしか皆のヒーローになっていましたわ…でも初等部の五年の夏には来なくなって…だから私達は探したのです。でもどこにも青金なんて名前はなくて…幼い私達は思ったのです。嘘をつかれていたのだと。純心な私達を弄んだのだと。天使ではなく、堕天使だったのだと。それからは復讐の事だけを支えに身体を治しました…いえ、違いますね…その病院には重い症状の子が多く…本当は…もしかしたらあーくんは亡くなってしまったのではと…みんな考えたくなかったのでしょうね…」

「……天使…包帯ですか……ふむふむ」


 確かに小さな頃の京介さんは、まさに京たんと呼ぶに相応しい…天使でした。

 びちょびちょになった私たちは一緒にお風呂で洗いっこをして……あ、あ、駄目です! びちょびちょの雨とお風呂を思い出したら! あああ、バルブが! ノノメダムの水位が! 危険水域にぃ!! おちんちん、おちんちん……


「そうしていつしか身体もよくなり…全員が治ったタイミングで、サイトを立ち上げました。そしてもう一度探す事にしたのです。…あの夏の思い出…左目と右腕に…眼帯と包帯をした私達の……黒髪の堕天使を」


「それ…病気は病気でも違うんじゃ……」


「魔女シャラァァップ! 男の子に、は、いろいろ、あるものなん、で、す。京介さんは、早熟さんな、んです。小学生で既にそこまで…! そこを褒めて、あげま、しょう! それに、眼帯と、包帯は、本物ですよ! 謎は解けました…峠も超えました…尼曲原は京介さんのお父様のご実家があります」


「何かご存知なのですか! 東雲さん…なんだか具合が…大丈夫ですの?」

「今は大丈夫ですよー。…京介さんのお父様の旧姓から…青金と連想出来ます…だから尼曲原に帰省した時だけ青金と名乗っていた…あの頃の京介さんはお母様が恐ろしかったのです。簡単に言えば、現実逃避ですね」


 私も只今絶賛逃避中ですが…ルーリーになっちゃう…ゴールしちゃいます…一位取っちゃいます! 既に一位なのに! あははって誰が一番お尻おっきいね────ん! うわ~ん、京たん早く来て────!


「…そう…でしたか……でも…それならなぜ来なくなったのでしょうか…」

「それは……本人にお尋ねください。それにそ、そ、のキャラチェンジ、は! 絶対、あの頃の魔王と、大魔王のせいです…あいつら性格! マジ終わって!まし、たか、ら!」


 あ、あ、また尿意来た! あああたしも! 女子高生が本当に終わりそ… 給湯室の扉が開く? あ、京たん…来た?

 げぇぇ─────! 魔王永遠ぁぁぁ!


「誰が終わってるにゃん?」

「ひ! あ、あはは…久しぶり…まお…永遠、さん…」


 魔王永遠があらわれた! あ! 出ちゃいます! いろいろ怖い! にゃんとかまた言い出したこいつが怖い! 眠ったはずの化け猫バージョンじゃないですか! 前も後ろもとにかく怖い!


「東雲さんは…眠らせ姫とお知り合いでしたのね。ご無事な…ようですわね…良かった…あの…」

「京介さんは!」

「裏側だにゃ──ん」


「─は──え?──え! え───! ああああ! ノノメのお尻を見比べないで──!───────!」


 魔王のその一撃で青ざめる私! じっと興味を持って見られているのか、なんだこのデカ尻、誰こいつ、ははっ、なんて見られているのか確認出来ないのが辛い私! しかも今また漏れちゃった私ぃ! しかも、今日は…薄グレーのシンプルおパンツ! もう外は暗いでしょうから目立たない…事…ないかぁ! ダブルで辛い上にあの頃の魔王が目の前に現れ、三重苦に! こいつに泣かされた事は今でも忘れてませんよ! いや今お尻も絶賛泣きそうですけど! なんて…あははは…いや──────!


「え? 見てもらえるなら良いじゃないですか! あ、飛鳥馬あすまです! ゆーこです! 覚えているでしょうか! 隣の小学校との合同避難訓練の時です! 女子グループから弾かれひとりぼっちにされた私を! 優しく手を握って! 一緒に歩いてくれて! あ、くそ! 抜けない! なら! 私はフリフリしてアピールちゃいますよ!
見てくださ───あ、今めくってくれました! やた!」

「…今どきの中等部の子はすごいですわね…ですけど! 私にも言いたいことはあるんです! あーくん! あーくんなんでしょう! よくも私達の前から居なく…居なく…なっ、て…心配…したんですよ…絶対絶対許さないんだから……え? 何かスースーして…ひっ!あん! 痛い! 叩かれた?! …あ、あ、サワサワしないで! ゾワゾワします! あーくん?! やめて! …いや、これは首塚! 首塚なんでしょう! あん!痛い! ぁん!痛い! あなたでしょうこれ!」


 何やら嘉多さんはスパンキングされてるみたいですね! 次は私かしら! でも今はやめて別日で! 決してやぶさかではありませんが! でもそれは別日で! 別日でお願いします───!


「さあ、詩ちん。今日のわたしは優しい優しい子猫だにゃん。永遠にゃんこだにゃん。誰が魔王か言ってみるにゃん」


「え、キモ───あ、ごめんなさいごめんなさい! 揺すらないで! マジ揺すらないで! あ、ぁ、ぁ……ゴールしちゃ、ったぁ…ぁぁぁうわ───ん……京た~ん…永遠が…ああ…また一緒に洗いっこしよう、ね…あは………」

そうして私は、思い出の中に落ちていったのでした。





「…詩ちんブレーカー落ちたにゃん。バカのくせに頭ばっか使うからにゃん」


「…あのクソ口裂け先輩を…泣かして気絶させるなんて…眠らせ女…まじ鬼女…」


「何か言ったかにゃん? …詩ちんを…円卓以外に貶されるのはカミナリ案件にゃん」

「ぅひい! クッソ可愛いくない猫! 来るな! 化け猫! 来ないで! あぐ────っ!……」


「…う!…二人を一瞬で眠らせるだなんて……噂は…本当でしたのね…」

「さ、首謀者。ダーリンの噂を流したのは……ぜってー許さねーし」


「ひいぃぃぃ! 首塚! 首塚ぁ──! ──あん! いったぁ─────い! またお尻! 違いますわ! 助けて! 助けてあーく──ん! あっ………」


「…勝手に…錯乱して…落ちたし……そこまで怖いかな…ショック…。さ、切り替えてもっと可愛くしとこぉっと……にゃんにゃん、こうかな…ニャンニャン。後で絶対にゃんにゃんするにゃ~ん。……今日は子作りにゃ~ん……朝まで寝かさないにゃお~ん」

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