異世界帰りの僕が100人斬りの勇者だなんてまだ誰にも知られていない ~帰還した元勇者の爛れたラブコメディ~

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特殊な決め台詞

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永瀬ながせ 永遠とわ


 鶴ヶ峰高校に入ってから三ヶ月。
わたしはいつものように、足を引き摺りながら松葉杖で通学していた。


「おっす」

「おはよー、後藤くん。晴れたね~」


 駅を出て、朝イチに顔を合わせるのは後藤恭児くん。強面で、背も高い。身体もがっしりしている。
市立鶴ヶ峰に入ってから知り合ったクラスメイトだ。

 わたしの現状を見て、何かと世話を焼いてくる。まま、鬱陶しい時もあるが、良い弾除けにはなっている。

 わたしの足を見ていつも辛そうにしているが、瞳の奥にある獣欲は見逃さない。今日もお盛んだね。


「鞄、持つか?」

「良いの?ありがと……いつも」


「良いって」

「ふふっ、優しいね」


 自分の容姿が整っているのはわかっている。愛香に引けは取らない。だからいろいろ寄ってくる。あまりにも面倒だからと足を折った。

 今で3回目。

 最初は円卓から抜けるためだったけど、痛ましい女に手を出す男はあまり居ない。大発見だった。これは良い。なので都合3回目に突入している。

 その上メイクも派手にした。地雷系メイクだ。クラスでも浮いている。これで良い。


「今日の帰り、一緒に帰る…?」

「っ、ああ…」


 かと言って、近くには亀工もある。こんな痛ましいのに寄って来るやつがいるなんて思いもしなかった。

 頭おかしいんじゃない。

 亀工三年、田淵。クズが多いと言われる亀工で、アタマを張ってるらしい。


 亀でアタマとかウケる。

 一目でわたしを気に入ったみたいで帰りによく駅で待ち伏せしたりする。わたしが松葉杖なのに構わず寄ってくる。


 まるでアンデッドだ。浄化しないと。


 三週間前の下校途中、駅の近くで不意に袖を引っ張られた。田淵を含めて三人。周りを見渡しても、目を逸らされる。

 溜息をつき、仕方なく松葉杖に仕込んだ千枚通しを使おうとした時、後藤くんが助けてくれた。

 ボロボロになりながらもなんとか田淵達を追い払った。優しそうな笑顔で大丈夫か、なんて言って………

 わたしは思った。


 弾除けにはぴったりだと。





 それからというもの、後藤くんは駅で偶然を装って朝の登校時間を被せてくる。

 お前もか。

 そもそもわたしは頼んでいない。

 田淵との件も、側から見ればメスの取り合いでしかない。その証拠に後藤くんの瞳は私の大きな胸に釘付けだ。

 これだから凡骨ぼんこつは。

 見ていいのは京くんだけ。それなのに何見てんだ。こいつ。


「……わりぃ」

「ううん。男の子だしね。……仕方ないよ」


 仕方なくないけどね。

 いつか刺すからね。

 松葉杖で隠すようにしながら拒否をする。少し恥じらうのも忘れない。少しアイスピックに触れるのも忘れない。

 はー…これが京くんに通じればなぁ。
 千枚通しみたいに、さっくりと。

 獣欲、向けてくれないかなぁ。
 こいつみたいに、じっとりと。

 全然通じないんだから。
 亀のアタマを見習ってほしい。

 まあ高校時代は、良い。
 ママも捨ておけないし。

 それに、わたしは今まで様々なところで格闘技を習ってきている。片足くらいのハンデ、松葉杖さえあればどうとでもなる。アイスピックと千枚通し。どちらもあるのだから。

 柔軟性がわたしの武器。思考も肉体も。

 もうすぐ骨治るし…どうしようかな。粗方学校では関わっちゃいけないヤバいやつを印象付けた……くすっ。

 まずはリハビリして、柔軟性を取り戻して、それから、骨折るか、どうか。

 うーん。

 後藤くんは…なんでもアリなら私に勝てない。……もしかしたら今ならわたし、京くんにも勝てるかもしれない。むふっ。むふっ。

 良い。

 瑠璃ちゃんが言ってた言い方なら、良き。円卓のみんな、元気かな。群れてどーすんだろ。

 ま、いっか。

 あっちに逝きそうな顔を引き締め、そんな想像をしながらいつものように登校する。





 昼休憩。

 いつものように退屈な授業をまじめに受けたあとの昼食だ。引き摺る足を食堂に向ける。

 鶴ヶ峰の学生食堂は狭い。生徒全員は入れない。せいぜい学年別くらいがギリギリかな。だからいつも満席だ。
 でも一番奥の角。そこだけポッカリと空いていた。


 鶴ヶ峰の美少女と野獣。


 そう呼ばれるわたしと後藤くんの席だった。

 後藤くんはこの辺りでは割と有名らしく、鶴ヶ峰では敵なし。舎弟には先輩も同輩も多い。だからかいつもわたしを連れ立ってそこに行く。

 後藤くんの友達だろう男子生徒達に囃し立てられながら席に座る。

 正直、放課後だけで良いんだけど、接点を作りたいんだろうな。

 でもその恋、通行止めなんだよね。

 一通だし。今工事中だし。進入禁止だし。

 やっぱり通行止めかな。


 ひーちゃんが言ってた胸キュン? はやっぱりどこにも無かった。最終的には京くんのものになるのだとしても、一応確認だけはしておきたかった。だから別の高校に進学したのだし。

 柔軟でしょ、わたし。

 まー、むだむだむだむだむだだった。

 鶴ヶ峰のマックスが後藤くんだとすると、まー、むだ。


「いつもありがとうね」

「気にしなくていいぜ」


 ぜ、じゃない。ぜ、じゃ。

 はー…、最近調子に乗ってるなあ。

 まあ、仕方ないか。

 ポケットの中の手縫い針をクリクリと触る。レザー用だから先は少し丸い。1番太い麻糸でも縫える太さの針だった。それが六本。


「恭くーん、聞いた? 亀工の話」

「いや、なんだ?」


 キョウクンの単語にピクリと反応する。後藤くんの友達舎弟が三人来て、後藤くんに呼び掛ける。紛らわしい。

 針を触る指の本数が増える。いま三本。


「なんか天養駅の高架でさ、多分ふかしだと思うんだけどさ。全滅だって! こいつがさ」

「…ファミレスの近くのか? 何が?」

「ザラタン達! 全滅だってさ!」


 ザラタン。亀工の不良グループ。半グレとも付き合いのあるという田淵のグループだ。そうそうそういう愛の無いやつらは浄化されるべきだ。


「嘘っしょ」

「はい嘘ー」

「ほんとだって! 昨日さ、昼くらいにファミレスに居たツレがさ、見たんだって!」

「何を?」

「ファミレスに東野達が居てさ、騒いでたの! 店員に絡んだりして。そんで一人の優男がさ、そいつら連れ出して一人でボコったって!」


 亀工の東野。田淵と肩を並べてる武闘派だ。へーなんだ、いい気味じゃん。


「なんでそんなこと知ってんだ、そいつ」

「連れ出した後、店員の女の子のツレがさ、何を思ったかあとを尾けるって聞こえたんだって! その子ら可愛かったから気になって尾けたんだって!」

「ただのストーカーじゃん」

「ちげーって、最期まで聞けよ!」

「それで?」

「その優男がさ…もうじゃんじゃんザラタン呼ぶの。もうこれでもかって言うくらい」

「…って事は…全員負けたのか? その男に」

「そう! 田淵が膝ガクガクさせて、その優男の言うことハイハイ聞いて」


 ふふ。いい気味だ。
 そうそう。神は時として試練を与えるの。田淵とかに。その男子は神の使徒だね。

 …もしかしたら胸キュンするかな?


「あの田淵が~うそだろ~」

「しかも一人でだろ?ないない」

「なあ?」

「いやなんかそれがさ。気の毒になるくらい人格変わってたらしくてさ、田淵がやられた仲間を殴りながら、ずっと呟くんだって…」

「なんて?」

「……嘘は良くないね、って」

「………」


 キュン。──────京くん?

 トクン。──────京くんだよね?

 トゥンク。─────京くんに決まってるよね?


 ふー……


 もぉ~そんな特殊な決め台詞使う人ぉ~京くん以外にいないよぉ~もぉ、バカバカバカぁ~あぁ~かっこいぃよぉぉ~ 

 あ"ぁっ! 針おもっきり手にぶっ刺しちゃった!

 もぅ、京くんのアホォ~! 間接胸キュンしちゃったよぉ~!


 後藤くんは刺す! ひーちゃんもついでに刺す!

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